DREAM36【ライブラ・Y】
ディアが鈴神の手首を縛っていたロープをほどいた。いや、斬ったと言った方が良いだろうか。彼は細かい事や地味な事は避ける傾向にあるため、このような荒っぽい方法を取ることになった。
「さぁ、さっさと証明してくれ」
『するんだろ?』と問い掛けるようにディアが肩の力を落とした。どうやら半信半疑のようだ。しかしいくら肩の力を落としているとは言え、何時でもキーブレードを出せるようにしてあるようだ。
「はい……!」
鈴神は右手をかざし、力を集中した。すると足元に黄色い魔方陣のようなものが現れ、彼女の瞳が金色に変化した。
「……見えた!」
「どうした!?」
非常事態だと感知したのか、ディアがキーブレードを出して鈴神の元へ駆け寄る。鈴神は何時にも増して冷静な表情で告げた。
「遠方に敵3754体。その内の七割は炎属性が弱点の敵のようです。ディアさん、炎魔法は使えますか?」
「あ、あぁ」
突然意味深な言葉を羅列され、戸惑うディアはとっさに頷いた。いくら闇の力を封印しているとは言え、全ての力が使えない訳ではなく基本的な魔法は一通り覚えている。
「三秒前敵が四体倒され、残り3750体となりました」
「お前、そんなことわかるのか?」
「はい、私こう見えてもライブラリアーなので」
ライブラリアーとはライブラの魔法を使いこなす者の通称で、一瞬にしてどのような距離の敵でも感知し、的確な情報を掴み取る。言わばバックアップ向きの能力を持つ者だ。
「でもお前、戦えたんじゃ?」
「あのときはダークエンドに力を与えられていましたから」
ディアはすぐに納得出来た。確かにそう考えれば女性であるはずの鈴神がキーブレード使い三人を相手に余裕でいれたのも納得が行く。ダークエンドに力を与えられていたからこそ人間離れした強さが出せていたが、本当の鈴神の実力は前線で戦うよりも後衛でバックアップした方が有効な能力だった。
「私は貴方達を手助けします。これで文句はありませんね?」
瞳の色が元の茶色に戻り、鈴神はディアにそう言った。ディアは不本意ながらも目を閉じ頷いた。
「行くぞ」
ディアと鈴神の二人はオリンポスコロシアムの出入り口から地上の町へと続く階段の上を走った。だがこの階段は先程アディアとダーク、そしてディアも一度辿っている。果たして間に合うか、それだけが気掛かりだ。
「はぁぁああ!!」
その頃私達は協力して襲い来るナイトメア達を少しずつ倒していた。だがその数は一向に減る気配が無く、寧ろ数が増えているかのような錯覚までしてきた。
「ちっ!やべぇぞこれ!」
「みんな、バテてきてる!」
アディアの言う通り、三人とも体力をかなり消耗してしまい、ナイトメアの相手をするので精一杯だ。だから例えナイトメアに攻撃を当てたとしても多少のダメージしか与えられず、序盤のように一瞬では倒せない。
「もう……駄目なの?」
三人が諦めかけた時、何処からか炎の玉が飛んできてナイトメア数匹に命中し、それらは一瞬にして消滅した。その炎弾を放ったのはいつの間にかここに来ていたディアだった。その後ろには鈴神もいる。
「大丈夫か?」
「ディア!それに鈴神!」
「それより、さっきのは!?」
「ただのファイアですよ」
再び瞳の色を金色に輝かせ、ライブラの力を発揮させる体勢に入った鈴神は自分達を取り囲むナイトメア達をその金色の瞳に写した。
「先程の情報通りです。七割ほど炎属性魔法に弱いようですね」
「と言う事だ。みんな、もう少しの辛抱だ!ファイア系の魔法を放ちまくれ!!」
「「うん!」」
ダーク君のみ魔法が使えない為、私とアディア、そしてディアが炎属性魔法でナイトメア達を総攻撃した。鈴神のライブラにより調べられた情報は本当のようで、敵のほとんどが炎属性が弱点のものばかりだった。
「炎属性が弱点でない敵は全て雷属性が弱点です!」
「OK!雷よ!」
鈴神のバックアップを頼りに目の前にいる敵に雷魔法であるサンダーを放つ。雷がヒットしたナイトメアは鈴神の情報通りに倒れ、消滅した。その後も鈴神のバックアップにより、あっという間に町を覆っていたナイトメアの集団は倒されていった。