DREAM40【親友の為に】
その後私達は全員で協力してメラクリオンを倒す事に成功した。それに計らい町に充満していたナイトメアが全て撤退し、鈴神さんのライブラによるサーチによれば被害は最小限に抑えられたと言う。
「……やるじゃないか……それが、お前の力か?」
メラクリオンが地面に倒れ、身体が少しずつ透けてきている。ドゥーハ同様間もなく消えてしまうのだろう、こんなことを後二回も繰り返さなければならないとなると胸の奥が苦しくなった。
「……何故、ドリームイーターを呼ばなかったの?」
彼に対するたった1つの気掛かりがこれだった。メラクリオンはオリンポスコロシアムを破壊し、この世界を消滅させようとしてそれを阻んだ私とは戦ったがその時彼はドゥーハが使っていたドリームイーターを決して呼ばなかった。
「貴方達エージェントは、ドリームイーターも共有してるはずよ?もし呼び出していたら私達を倒せたかもしれない……」
「……フッ……また犠牲者が出るくらいなら、俺だけで良い」
今思い返せばドゥーハの時には二体ものドリームイーター、そしてドゥーハの合計三人の犠牲があった。今回の作戦で私達が阻止しに来る事をわかっていたのだろう、メラクリオンはせめてエージェントの後続達の為にメンバー共有のドリームイーターは使わず自分だけを犠牲に差し出したのだ。
「そう……」
私はすでに下半身が消えているメラクリオンを見下ろした。今にも消えそうだと言うのにその顔はとても幸せそうで、仲間達の為に尽くしたから悔いは無いと語っているかのようだった。
「さぁ……止めをさせ」
「……ううん、止めなんかささないよ。せめて、見届けさせて」
本当はわかっている。メラクリオンやドゥーハを初めとしたエージェント達に罪は無いと、だがベネトナシュに突き動かされ私達を本気で消しに来る彼らと戦うと決断した以上仕方の無い事だった。だが本当はこんな形で戦いたく無かった、そう言っているかのようにみんなが頷く。特に鈴神さんやアディアと言った女性陣は涙を流しており、それが止んだ時にはメラクリオンは消滅していた。
「……これで、良かったんだよな?」
「……あぁ、後味悪いがな」
罪も無い人を消す事は本当は正しい事では無いからこそ戸惑う。先程のメラクリオンの悔いの無い笑顔を最後に目に焼き付けたダーク君が必死に涙を堪えながらディアに聞くと、ディアは冷静に答えた。相変わらず冷静過ぎるように見えるが本当は彼も悲しんでおり、その証拠に少し震えていた。
「……とりあえず、一旦戻ろう。次の世界への準備もあるし」
アディアの提案で一旦レイディアントガーデンに戻ってからアディア以外のメンバーは現実世界に帰還する事にした。ちなみにアディアによれば鈴神さんはダークエンドの事件の後アースの北の森に落ち、気を失ってそのまま意識だけが夢の世界へ来てしまったのだと言う。それを聞いた私はまず北の森で鈴神さんを探す事にした。
「鈴神さん、何処?」
「あ、クロナさん!」
茂みの中から鈴神さんが現れ、夢の世界の時――もといダークエンドの事件の時と変わらないその姿を見せた。だがあのときとは違い今鈴神さんは味方、しかも戦闘において不足しがちなバックアップ担当であるためかなり心強い
「無事だったんだね」
「はい、お陰さまで」
「そう言えば……鈴神さんってこれからどうするの?」
「どうするって……皆さんと共に戦いに……」
「違う違う住む場所よ!心当たりはあるの?」
鈴神さんはダークエンドの事件の時こそディズニーキャッスルを拠点としていたが今は暗黒竜などと言う束縛もなく自由の身だが住む場所が無い。仮に別の世界にあったとしても今は夢の世界が大変である為出来るだけ連絡の取れる距離でなければならない為少なくともこの世界――アース内でなければならない
「実家が現実のレイディアントガーデンにありますが……」
「それじゃどうやって連絡取るのよ!良いわ、私の家に泊まって」
「本当ですか!?感謝します!」
鈴神さんを家に案内した後、念のためダーク君のいるディアス家を訪れた。ここは元々レイ君達の家なのだが、フィオ君やダーク君は両親を失って以来ここに居候している。二人がここに住む事を説得してくれた辺りレイ君はやっぱり優しい人だなと実感した
「クロナか……」
「あれ?ダーク君一人?」
見るとヒナタさんやヒトミちゃん、それにフィオ君らしき姿はなく、当然だが行方不明の彼もいない。今ここにいるのはダーク君と私二人だけのようだ。
「あぁ、まあな。それよりクロナ、聞いてほしい事がある!」
突然ダーク君が真剣な表情でこちらの目を見てきた。何時もみんなのムードメーカーであり纏め役のダーク君がここまで異彩な雰囲気を放つと言うのは大変珍しく、確実に何か大切な事だ
「俺さ……夢の世界での戦いから……降りようと思う」
「っ!?」
「俺……思ったんだ。フィオはあんな感じに何も罪もねぇやつを次々と消すのが怖くなって、前線から抜けちまったって。あの戦いが……今日の戦いが教えてくれた
「……」
「別に“怖い”って訳じゃない。ただ、フィオの気持ちがわかっちまったから……あいつが心配になって。その……親友だしな」
ダーク君は何処か気まずそうだ。無理もない、以前フィオ君はダーク君の言う通り罪も無いエージェント達を消す事に恐怖感を覚え逃げ出した。その気持ちは私達にもわかる、だが放っておけば夢の世界はいずれ七星座に滅ぼされ、全ての世界の人類が夢を見れなくなってしまうだろう。なにせ、あそこは全ての夢が集まって出来た場所なのだから
「勝手なのはわかってる。けど、俺は……親友としてあいつを支えたい。それが今の俺に出来る事だから……」
どうやらダーク君は自分なりの答えを見つけ出したようだ。ならば止める理由は無いと悟り、頷いた。
「わかった。フィオ君をお願い」
「おう!」
フィオ君の事をダーク君に託し、一度やってみたかった事――拳を交わした。これは通常男同士がやることだろうが、想いを託す為なら性別なんて関係ないと私は思う。ディアス家から出ようとしたとき、彼に声を掛けられた。
「クロナ!!」
振り向くとそこには笑顔のダーク君がいた。
「今なら言える!俺、昔からお前の事好きだった!!ダチとしても、仲間としても、一人の女性としても!!だから、レイを……相棒をぜってぇ見つけてこいっ!!」
「……うんっ!」
ダーク君の熱い想いの籠った言葉を胸に私は再び走り出す