DREAM46【聖獣】
アディアの形成したゲートで降り立ったのは妙に静かな暗い港だった。近くで海賊を見かけた事やこの世界の物騒さも染まってここが“ポートロイヤル”だとすぐにわかった
私達が降り立ったのはあまり人気の無い港であり、ここならもし海賊に出くわしてもすぐに逃げる事が出来るし人目に着く事も無いので安心して彼女の話を聞く事が出来る
「ここで良いかな」
アディアはこの港の状況を一通り確認すると、近くにあった木箱に座り込み聖獣についての解説を始めた
「では、まず聖獣の基本について説明するよ。そもそも聖獣とは心と決意の力……自身の想いを召喚獣として現出させる事」
「なるほど……」
「可能性は実は誰にでもある。でも聖獣を呼び出す為にはある試練を乗り越えなければならない」
「……試練?」
聖獣を呼び出す条件としてアディアの口から語られた“試練”と言う言葉に鈴神さんは食いつき、アディアは元々答えるつもりだったのか冷静に対応した
「人によって内容は異なるけど、基本的にはその人にとっての運命を左右する選択だね。まあ分かりづらいかもしれないけど、試練と言うのはどうやら自分自身では乗り越えるまでわからないらしい」
「……つまり、運命を乗り越えなければ使えないって事?」
その質問にアディアは深く頷いた。恐らく今のアディアの解説からすると、聖獣とはその人に課せられたわからない課題をクリアする事で初めて得られる物。例えばすでに聖獣を得ているレイ君を例にすると、彼は消えた私を探す為に危険を省みず己の恐怖と戦い続ける決意を固める事で得た、つまりそう言う事だろう
「後、聖獣の維持には心の強さも必要になってくる。まあキーブレードを使える君達ならそこは問題ないけど、後はどんな試練が待っているかだね」
「心の強さ……」
どうやら聖獣の維持には相応の心の強さが必要らしい。一応アディア曰くキーブレードを使えるほどの人物ならそこは問題ないそうだが、一体私達にどんな試練が課せられているのだろうか。そもそも聖獣の説明をこれだけ聞いてもまだ理解出来ていない自分がいる
「このように誰にでも可能性がある聖獣だけど、先程も言った通り試練を乗り越えなければ使えない。だから試練を乗り越えられなかった七星座はあるものを作り始めた」
「あるもの?」
「人工的な存在……所謂“偽聖獣”さ。性能は本物には劣るけど、その強さはやはり本物だ。君達の戦ったメッグレスの聖獣も偽聖獣だろうね」
「ベネトナシュに渡された可能性は?」
「有力だろうね」
今までの話で全て納得した。確かに七星座のメンバーはいずれも聖獣を扱うのには適していなかった。その為三人目までは誰一人として使って来なかったのだが、メッグレスが初めて使用してきた。しかし偽聖獣、人工的な存在であるのとメッグレスの心の力が及ばない為か聖獣のコントロールで精一杯で本体は一切動けていなかった
「アンセムさんはこれからの戦いで聖獣は必須になると言っていた。だから僕も頑張って自分の試練を模索してるんだけど、中々見つからなくてね……」
「……試練なんて探す物じゃないだろう」
アディアが1つ溜め息を突くと突然ディアが口を開きそう言った
「そんな漠然とした物を探し続けるより、今を生きた方が気が楽だ。それに、一番手っ取り早いのは“生きる事から逃げない”事だろう?」
ディアの言葉に仲間達は強く頷き、それぞれが自分の聖獣を呼び出せるように今を生きる事を決意した。早速アディアが一旦体勢を立て直す為にレイディアントガーデンへのゲートを開こうとしたとき、私は何を思い立ったのかこう言った
「あの、ちょっと待って!」
「どうしたのクロナ?」
「あの、急にこんな事言って我が儘だと思うんだけど……私、夢の世界のアースへ行きたい」
「……わかった」
私のその言葉の中にあるものを察したのか、アディアはそれだけ言うと黙ってアース行きのゲートを形成し始めた