DREAM50【フィオ覚醒】
その後私達は一旦レイディアントガーデンに戻り、ディアと鈴神さんは現実世界に戻り休む事にした。私はアディアとここに残り、たった今彼女による治療を受けている所だ
「よし、ひとまず応急処置は完了かな」
「うん、ありがとうアディア」
これ以上みんなに迷惑は掛けたくないと思い、ここは出来るだけ自然に明るく振る舞った。だがそれでもバレていたのかアディアは気を使いゆっくりと頷いた
「ごめんね、医学に詳しく無いから応急処置くらいしか出来なくて……」
「良いよそんなの、今日はゆっくり休むから」
「そ、そう?じゃ……お大事に」
そう言ってアディアは速やかに去り、私は彼女に支給してもらった部屋のベッドで眠りに着いた
その頃、現実世界ではフィオ君の元にある人物が来ていた。彼の守りたい人でありもっとも仲の良い少女、紫音だった
「フィオさん、入りますよ」
彼の部屋をノックせず無断で開けて入るとそこには未だあのときの恐怖に怯えるフィオ君とそれを支えるダーク君の姿があった
「よっ、紫音!態々お見舞いにでも来てあげたのか?」
「そんなことじゃありませんよダークさん」
ダーク君の相変わらずの陽気さに紫音は苦笑いしながらもその表情は何かを悲しんだように歪んでおり、次にフィオ君を見た時にはそれを押さえきれず言った
「フィオさん……何時までこうしてるつもりですか?」
「……」
「あれから暫く立ちますけど、貴方は一向に動こうとしないですよね?」
「……それは、エージェント達の事で……」
やはりフィオ君はまだあの事を気にしていた。一人目のエージェント、ドゥーハを倒した時にはすでに彼の心を罪悪感が侵食しており、フィオ君は耐えきれなくなって前線から逃げ出した。それっきりフィオ君は戦いに参加していない為今の状況を理解出来ず一人だけ時が止まっているようだった
「フィオさん……こっちを向いてください」
紫音が何処か普段と違う声で言うとフィオ君は“何故”と言う表情で彼女の方を向くがすぐに反らした。いや、反らされたと言うべきか。紫音が乾いた音と共にフィオ君の頬を殴ったからだ
「ふざけないでよ!!」
紫音は一生懸命に涙を流し、フィオ君を壁に叩きつけ逃げないようにしてから言った
「ふざけないでよ……私の好きな君はそんなのじゃないよ……?」
「お、おい紫音……!」
ダーク君が紫音を落ち着かせようと話に横槍を入れるがそれは彼女の耳には入らなかった
「ねぇフィオさん……君は私に何て言ってくれた?」
「……!」
その時にはフィオを押さえつけていた腕が彼を抱き締めていた
「貴方は……こう言ってくれたんだよ……」
フィオ君を抱いて、泣いているのだ
「“君を守る盾になる”って……あれ凄く嬉しかったんだよ?かっこよかったよ?とっても憧れたよ……なのにその君が、憧れの君が今じゃこんな状態である事に、私は耐えきれないっ!!」
「……紫音」
「紫音……お前……」
「エージェントを消滅させちゃったのならその人達の想いも一緒に連れていけば良いじゃない!そして君の手でその命を救ってあげるの!そして夢の世界が救われたら……その人達も私も嬉しい」
初めてみる敬語ではない紫音、それは一生懸命に泣き、一生懸命にフィオに自分の想いを訴えるものだった。二人は抱き合い、それをダーク君が涙を流しながら見守っていた
「……私、待ってるから」
やっと泣き終えた紫音は涙声を消せていないながらも言葉を出した
「貴方が夢の世界を救うその時まで、待ってるから。ミカでも紫音でもなく、本当の私を受け入れてくれた貴方が大好きだから……」
「……わかったよ。絶対に救ってくる……!」
そう言ってフィオ君はより紫音を抱く力を強めた。その瞳は決意に満ち溢れており、文字通りもう一度戦う覚悟を秘めていた
そしてその時、フィオ君の心の中の何かが弾けた。キーブレードではない新たな力、つまりアディアの言っていた聖獣がフィオ君を選んだのだ
その姿はフィオ君の脳内にイメージ図となって浮かび、その姿は彼にのみ確認された。その姿は無数の手に銃を持っており、白い仮面を着けた出で立ちでありその姿はまさに“シュラ”と呼ぶに相応しいものだった
「……さーて、俺もそろそろ動き出すかな」
そしてダーク君もまた、己の闘志を燃やしていた