DREAM53【本当の気持ち】
私は常に笑顔でしかも強いプロメッサを見て途端に悔しくなった。ベネトナシュやもう一人の自分の言う通り私はレイ君を探す事しか頭に無いほど自分勝手で、仲間の事などマトモに考えられていないと言うのに大した実力も無い。元々は自分よりも下だったフィオ君さえ聖獣を覚醒させ、悔しくなって逃げ出してしまった。
「……っ!」
人気の無い河原で一人膝を抱えて泣いていた。何故こんなにも自分は無力なのだろう、仲間の事もちゃんと考えられないのに彼を探すなど漠然とした行為をするなんて無謀だったのか。そう考えていると背後から足音が聞こえた
「……プロメッサ……」
彼女は黙って私の隣まで歩き、その場に腰をかけた。その瞬間に爽やかなそよ風が一度吹き、二人の前髪が揺れたときプロメッサが言った
「……ねぇ、どうしたの?」
いつの間にか先程までの口癖が消えており、私はその闇の無い円らな瞳を見つめた
「……私、まだ弱いんだよね……」
「んー、そうかなー?」
「そうだよ……」
「考ーえすぎだって!」
励ましてくれているのだろうが今のその陽気な言葉は私の堪忍袋の尾を切り落とした。
「分かったような事言わないでっ!!」
いつの間にか涙が溢れてきて、無意識の内にそう叫んでいた。そして彼と再会した時から抱えていた物がどういう訳か次々と口から溢れ出てくる
「十年前、私はアンチネスに浚われてレイ君と離された。あのときは必死に拒絶したけど敵わなかった……成す術なく捕まってさ……なんとか至急される食事を遣り繰りしたりして十年生き永らえてたらやっと彼は来てくれた!
嬉しかった……人生の運を全て使い果たしたとも思ったよ……でもね、一緒にいる事で分かった事がある。それはレイ君が強くなったと言う事。
それは私を守る為の力だってわかってる……でも私はそれに嫉妬し、憧れ、何時のまにかレイ君との距離を測るようになってた……
彼が強くなるほど遠くなるような気がして怖かった……そしてダークエンド事件で彼は闇の力を手に入れ、本当に私の事を見なくなった!強くなりたかった……そうすれば十年間の空白を埋められると思った!何時までも……一緒にいられると思ったっ」
溢れる涙は止まらず、次第に私の顔を覆い尽くした。あぁ、もしこの場に彼がいたら君の心が泣いているとでも言ってくれるんだろうな。でも今ここに君はいない、それが現実なのだから
「でも彼は突然消えてしまった……まだこの想いを伝えきれていないのにっ……“I love you”を言えてないのにっ!!どうしてなの……?どうして運命は私達ばかりを引き離すの!?こんなの……理不尽過ぎるよ……!」
「……」
あぁ、情けない私の泣き顔を見て彼女は呆れているんだろうな。だけど私の口が言うことを聞かずどんどん自身の抱える物を暴露していった
「だからキルアントさんからレイ君の手掛かりが夢の世界にあるかもしれないって言われた時は気がどうかしてた!物凄く性格悪いかもしれないけど他の事なんてどうでも良かった!認めたくないけど……私は本当自分勝手だね。もしこの旅でレイ君を見つけられたら彼に“強くなった”事を証明して、全てスッキリした上で告白が出来るから頑張って来たのに……ベネトナシュに負けて貴女との実力差を感じて……もうどうしようも無いよね、私って……」
「そんなこと無いよ」
顔を上げるとそこには笑顔のプロメッサがいた。先程のような楽しそうな笑顔ではなく、それは優しさに満ち溢れた救済の表情であり私を本気で心配してくれている事がそれだけで伝わった
「そっか……大変だったね……」
「っ!また分かったような事を!!」
彼女のその言葉に腹を立て、ついカッとなってたキーブレードをプロメッサに振るっていたがそれは片手で受け止められてしまった
「わからないよ、でもわかりたいよ」
その瞬間、キーブレードを弾かれ私は彼女に抱き寄せられた。身長は彼女の方が低いが、その右手は私の頭を撫でておりその温もりが直接伝わって来る
「……大丈夫。大丈夫だから……貴女の強み何?貴女の強みはそのレイって人の存在でしょ?なに、自分勝手?それでも良いじゃない。大体人間なんてそう言うものだよ。でも、それは悪い事じゃないよ?だからこそ支え合って行けるんだから」
「……」
「それに貴女は少し仲間を信用しなさすぎね。自分一人で抱え込む人に限って回りが見えてないんだから。第一彼らは、貴女のその自分勝手を理解した上で着いてきてくれたんでしょ?
「っ!」
「だったら……頼らなきゃ。みんなレイに会いたいのは同じなんでしょ?中には頼まれた人もいるだろうけど、本心では会いたいと願ってる……
そんな仲間達の想いに答える為にも、貴女は強くなればいい。でも一人で強くなろうとしないで、みんなで……頑張って行こう……?」
プロメッサの裏表の無い優しい言葉の1つ1つに励まされ、私の悩みなどちっぽけな物だとようやく気付けた。彼の隣にいるのに必要なのは強さなんかじゃない、私の“本当の気持ち”だ
「……うん、うん……っ!」
「大丈夫?」
「ごめん……少し……泣かせて」
その日私はまるで幼い子供のように酷く泣き叫んだ。プロメッサの腕に抱かれ、今までの苦悩を全て吐き出すように一生懸命に叫び、今までの自分ともう一人、“これからの自分”が生まれた