DREAM55【氷花の巫女】
「ローグ、頼みがあるの」
「どうしたんだ?クロナ」
「私を……元の姿に戻して欲しい」
もう決めていた事だった。元々この姿は夢の世界で活動するに当たって得た物だが、これからみんなと本当の意味でレイ君を探すのであれば本当の自分で挑んだ方が良いと思いローグにそう頼んだのだ。それを理解したのかローグは軽く頷き、右手から放った光で私を包み込んだ
「あっ……」
その光に包まれていくにつれて今の身体が消滅していっているのを感じる。だがそれは夢の世界で死ぬことではなく、また違う姿へと生まれ変わる事
やがて光が消えた時にそこに立っていたのは先程の姿の私ではなかった。いや、元に戻ったと言うべきか。何から何まで現実世界の私と同様の姿をした私がそこにいたのだ
「凄い……!」
「まるで現実世界のクロナさんみたいです!」
その様子を間近で見ていたフィオ君と鈴神さんは驚き、ディアとアディアは黙って頷いていた。そして隣で見守っていたプロメッサは口パクで『それが本来の貴女なんだね』と言っている事が読み取れた
「これで良いのか?」
「うん……ありがとう」
久しぶりに触れる長い髪、袖の分離した巫女風の服、そしてその左手には現実世界での私のキーブレード――シャインセイバー。私は久しぶりにそれを試して見たくなって飛び上がり、空中から何もない所を斬るようにしてキーブレードを振るった
「はっ!」
後ろ髪が風に揺られるのを感じる。久しぶりに自分の本当の姿で振るう自分の力は心なしか何時もより強くなっている気がした。何故かはわからないが恐らくみんなと共にレイ君を見つけると決意した為、迷いが完全に消えたからこそそれがキーブレードにも表れていると思われる
「フッ……」
「クロナちゃん……凄い!」
「とうとう吹っ切れたか?」
先程の迷いを断ち切ったキーブレードを見て私を称えてくれるフィオ君の隣でディアがそんな質問をしてくるが私はあえて口ではなく行動でそれに答える事にした
「みんな、特訓よ!ベネトナシュは相当強い、だからこそ強くなろう!みんなでね!」
「クロナ……うん!」
そうして言葉のキャッチボールすら出来ていないQ&Aを他所にアディアを初めとしたメンバーが賛同し、各自各々の能力を出来る限り伸ばせるように特訓を開始した。フィオ君はまだ聖獣についてはわからない事が多いのでプロメッサと共に、ディアはどういう訳か鈴神さんと、そして私はアディアとそれぞれ特訓していた
「クロナ、来い!」
「行くよ!はぁーーっ!」
アディアは超がつくほど高速で守りの魔法リフレガを三重に張り、何時でも攻撃が来ても良いように待ち構えるが私は氷の力と花の力を同時に放出し、それらを一斉に放った
「なっ!?」
それは圧倒的な凍てつく突風を起こし、様々な種類の花の形をした氷がその風に乗ってアディアに向かって飛んでいった。通常ならこのままではリフレガに弾かれて終わるのがオチだろう、しかしリフレガによる三重のバリアは全て凍てつく突風により凍り付いてしまい、バリアとしての機能を無くしていた。守備としては非力になってしまったリフレガを割り、氷のクラスターと化した氷花がアディアを襲った
「うわぁっ!」
大量の氷花のクラスターによる攻撃を受け、アディアは吹っ飛ばされた挙げ句倒れてしまった。立ち上がっても尚その表情は驚きを隠せないでいる。そもそも三重に張ったリフレガは破れないと考えるのが普通だろう、しかしこの技は相手のバリアさえ凍らせて氷花のクラスターで敵を切り裂く為それらは全く無意味と化してしまう
「これが私の……“ファンタジーブルーム”だよ!」
新たな技ファンタジーブルームを覚え、それに感激するアディアと共に更なる特訓に打ち込んだ。一方ディアは以前から抱いていた鈴神さんに対する得体の知れない感情と戦いながら特訓をしていた
「……はっ!せやっ!」
予め鈴神さんが用意しておいたダミー人形達を順番に斬りつけ、一体ずつ薙ぎ倒していく。しかしその表情は何処か焦っており、ダミー人形目掛けて攻撃しているはずなのに最終的には何故か視線は鈴神さんの方向を向いていた
「(何故だ!あんな闇の存在の事がどうしてこんなにも気になる……?)」
「ディアさん……大丈夫ですか?」
「気安く呼ぶな!」
鈴神さんに気を取られた為にディアは初めて攻撃を外してしまい、あまりにも大振りだった為に転んでしまった。その際に右手に小さな傷を負い、それを見た鈴神さんがディアに駆け寄りその手を取った
「大丈夫ですか!?」
「ぐっ……触れるな」
「良いから大人しくしててください!手当てしますから!」
その一言でディアはあれほど酷く拒絶していた鈴神さんの前だと言うのにそれが嘘のように大人しくなってしまった。しかしその間に鈴神さんが回復魔法ケアルガを掛け、その後ディアの右手に軽く包帯を巻いた。
「よし……これでもう大丈夫ですよ」
「あ、あぁ……」
鈴神さんの真っ直ぐな瞳を見てディアは感じていた。今まで疑っていた彼女にはすでに悪意などなく、すでに自分達の味方となっている事をやっと理解出来たのだ。
「れ、例は言わんぞ……」
そう言って特訓に戻ったディアの顔は何処か赤くなっており、負傷した右手は使わずに左手のみでキーブレードを扱いながらもチラチラと鈴神さんの事を見ては心の中で愚痴らしくない愚痴を吐いていた
「(何故だ……嫌いなはずなのに、嫌いじゃないような……?)」
ディアはその日、その感情と悪戦苦闘する事となった