DREAM61【奇襲】
ディアの抱えていた物は想像以上だった。普通ならそんな事他人事で軽く思うかもしれないが、少なくとも私は大切な人への気持ちをハッキリさせたいし伝えたいと言う気持ちがあり何となく似ている感情である為その重みが分かる。それにディアは光を目指すが故に過去の自分を初めとした闇の存在を嫌う。かつて敵として私達の前に立ち塞がった鈴神さんは彼にとっては闇の存在、なのにそんな相手に無意識の内に恋心を抱いていた。だからこそ迷い、苦しむのだ。そう言う意味ではディアの悩みは自分との戦いなのかもしれない
じゃあ私は何だろう。私はレイ君の隣に、彼と対等な存在で傍に居続けるのが願いなのにいつの間にか彼のその強さに距離を感じてしまっている。果たして今の自分は対等の存在であるほどの実力があるか、そんな資格が私にはあるのか、常に悩んでばかり。また会えたと思っても再び離れ離れとなり、そんな運命に抗って彼を見つけ出す程の力が自分にはあるのか、まだ何もかもわからないのだ。
もちろんプロメッサに悩みを打ち明けることで幾分楽にはなった、しかし完全に解決したわけではない。まるで答えを見つけられていないが、だからこそ今回の旅はレイ君を見つける為だけでなくその答えを探すための旅なんだと思う
「あっ!」
私達は闇の世界を進んでいる間にいつの間にかある海岸にたどり着いていた。しかし鈴神さんの表情はホッとした様子なのでこの海岸で正解だと言う事だろうが、ここは明らかに行き止まりであり、海を照らすこの闇の世界に存在するとは思えないほど白い月の光が何処か不気味である。その海をただ一人見つめている青い髪の女性の姿がそこにあった
「君がマスターアクア?」
今も背を向けている女性にアディアが丁寧に話し掛け、彼女はこちらの方に振り向くと動揺しながらも冷静な表情で私達を見た
「貴方達は?」
「アクアさん、はじめまして。私はクロナ・アクアスと申します。そして彼らは、私の仲間達」
まず怪しまれないように笑顔で軽く自己紹介をすると、自分達が彼女と同じ力を持っている事を知らせる為にキーブレードを出した
「それは!」
「メンバーの大半が、これを使えるわ。どう?アクアさん?」
「うん……どうやら怪しいやつらじゃ無いみたいね」
何とかアクアさんの信頼を得ると彼女は私達に何故自分がこの世界にいるのかを話してくれた。その内容によればアクアさんはキーブレード戦争の際に行方不明となったテラ――レイ君の師匠に当たる人物――を捜し、見つけた時にはキーブレードマスターの一人であるゼアノートに身体を乗っ取られており、彼を助けるために必死に戦ったが戦いの最中ゼアノートが突如開いた闇の世界に繋がる入り口に落ちたがアクアさんはそれを庇い自らこの世界に落ちた。テラを助けるために、自らが犠牲となったが今テラの身体や魂は何処にあるかさえわからないのだ
「ゼアノート……聞いてはいたけどそんな事まで……?」
「フィオ、珍しく怖い顔だねー?」
「う、うるさいなぁ!」
フィオ君とプロメッサが小さな理由で口喧嘩を始めたが、それは端からしてみれば微笑ましい物だった。まるで兄弟の日常を見ているような、それこそフィオ君が言っていた姉との思い出がそのまま再現されているような感覚である
「とりあえず、早くこの世界から出ましょう。ルートはすでに把握してあります!」
鈴神さんのナビゲートの元、私達はアクアさんを連れて闇の世界を進んでいく。行く手を阻むドリームイーターはやはりいたがその度に蹴散らし、アクアさんも自身の物ではないが自分の師であるマスターエラクゥスの物だと言うキーブレード“マスターキーパー”を使い道を切り開いていく。敵と戦いながら走っている事約数十分後、やっとの思いで敵が全くいない広間にたどり着いた。ここならアディアのゲートも安心して出現させる事が出来る
「じゃあ、ゲートを作るよ」
「では私は敵の位置を把握して安全を確かめます」
アディアがレイディアントガーデンへのゲートを作り出そうと、鈴神さんが再びライブラを使おうとそれぞれ構えた時、何処からか矢のように素早い炎の弾丸が二つほど飛来し、その内の一つがアディアに、もう片方が鈴神さんへと降り注いだ
「っ!?」
「危ないっ!!」
鈴神さんに弾丸が当たる寸前、間一髪ディアが彼女を押し倒す形で庇った。二人とも倒れてはいるがどうやら無事のようで、ディアが彼女と共に倒れたが為に仕方がないとは言えるがディアが鈴神さんの上に倒れている
「ふっ!」
異変に気がついたのかアディアもまた自力で避けた。その際にゲートは完成を間近にして大破してしまったが、無事に誰も怪我をする事がなかった
「大丈夫か、鈴神?」
「……は、はい……」
状況が状況なだけに仕方ないがやはり自分の身体の上に男性が倒れているとなると恥ずかしいのか、常に冷静な鈴神さんの顔が赤くなっている。まるで頭だけでお茶が沸けそうなほど音を立てており、今にも火傷状態になりそうだ
「チッ、避けやがったか」
声がした方角には七星座の一人でありアースで私達に宣戦布告をしてきたアリオスの姿があった
「困るんだよなァ、勝手にキーブレードマスターを連れてかれちゃ」
「アリオス……こんな時に!」
レイディアントガーデンに戻ろうと現を抜かしていた隙にアリオスからの襲撃を受け、怪我こそしなかった物の一気に体勢を崩されてしまった。このままでは彼を倒さない限りこの世界から出る事は出来ない。アクアさんを置いていけば見逃してもらえるだろうが、そうは行かない。長い間この世界に閉じ込められたアクアさんもまた私と同じように大切な友達を捜しにいきたいと思っているはず、だからこそ出してあげたいのだ
「鈴神……お前は下がってろ」
「え?」
「今ので相当体勢を崩されたはずだ。すぐにライブラを使うのは無理だろう」
今のでの彼からは考えられない鈴神さんへの態度を見せたディアはスッと立ち上がり、倒れている鈴神さんを抱き上げるとすぐに走り出した
「ちょっ!!……えぇっ!?」
「静かにしてろ!今安全な所まで運んでやる!」
もはや顔が赤い所か気が動転してしまっている鈴神さんを軽々と持ち上げ、ディアは戦いの影響が及ばないであろう場所に彼女を優しく降ろすと、鈴神さんに微笑み掛けてから言った
「そこで待ってろ、勝ちに行くから」
その表情は普段鈴神さんに向けないだけでなく彼が誰にも見せない輝いた物だった。全ての感情の中でもっとも喜びを感じる物、それが笑顔である。先程ディアは答えは何となく掴めていると言っていたがこの表情と何か関係あるのだろうか
「よし、みんな!さっさと倒すぞ!」
「ディア……うん!」
今回は鈴神さんは休ませ、バックアップ無しの五人に加えてアクアさんも含めた合計六人でアリオスを倒す事になり、全員がそれぞれの武器を構えた。だがその中でアリオスだけが何故か自らの武器を出さない
「……?」
「フッ、何でって思うか?消させてもらうぜ……キーブレードマスター!!」
アリオスの号令で大広間の中心に飛び降りたのは赤い瞳をした巨大なカメレオンのような謎の生物だった。どうやらドリームイーターでは無いらしく、ハートレスなのかも定かではないが少なくともアクアさんはこの怪物に見覚えがあった