DREAM70【5年前の悲劇】
『 は……元々病気だったの』
『病気だって!?』
『えぇ…… は1年前、正体不明の病気に侵されている事が発覚したの。その病気のせいで、 の寿命は後一年にも満たない状態になってしまった……!』
『そんな……!』
『せめて死ぬ前に思い出を作ろうと、今まで出来た事の無かった親友を見つけ出した。それが……貴方だったのよ』
『 は貴方の事になるともう夢中で話していた。そう、 は貴方の事が好きだったのよ』
『だから死ぬ寸前まで好きな人の傍にいて、生きた証を作りたかったんじゃないかしら?』
もう何度目かわからないその幻影のような夢をプロメッサは再び見ていた。何故こんな物が見えるのかはわからない、だが今ので初めて最初の少女以外の声が聞こえた
「……やっと聞こえた」
そう呟くとプロメッサはこのレイディアントガーデンの城の中にある一室の扉を見つめ、その先にいる人物の事を心配していた
「プロメッサ、どうしたの?」
浮かない表情をしている所を偶々通りかかって見てしまったアディアは当然心配になり、らしくない顔色の彼女に声をかけた
「な、何でもないよー?アディアこそどったの?」
「やっぱり、クロナの事が心配?」
「うん……実を言うとそう」
「無理もない……突然あんな物を無意識に現出させては、意識を失ってもおかしくはない。今はルプクスが治療に当たってるけど、どうやら命に別状は無いらしいね」
自分達のリーダーの無事を知らされるとプロメッサは胸を撫で下ろした。何時もは自由奔放に見える彼女でも仲間の心配はするし、何より記憶を失っていてもやはり一人の人間なのだ
「それじゃあ、僕はそろそろ行くよ。じゃあね」
そう言ってアディアは笑顔を見せながら何処かへ去っていった。この頃時折見る謎の幻覚、そして声。それらの疑問がプロメッサを少しずつ焦らせていた
一方その頃、自室に戻ったアディアは通信機を使って情報屋であり自身の仲間であるクロと話をしていた
『そう、離脱していた二人が……しかも聖獣使いとなって戻ってきたのね?』
「あぁ、大したものだよ。やっぱり人の絆は素晴らしいね」
『私達もうかうかしてられないわね』
まるで普通の友達同士のように楽しいガールズトークをし終えると、モニター越しにクロが声のトーンを変えて話を切り替えた。女にしては妙に低いこのトーンは真剣な話をする時の物だ
『さて、アディア。実はとても重要な情報を掴んだの』
「重要な情報……?」
『えぇ。前に言っていたレイ・ディアスの事も分かったし、さらに重要な事も分かったの』
「それは一体……!?」
『アディア、お願いがあるの。みんなを連れて“ユナイテッドサテライト”へ来て。今ここで話すよりみんなを集めてから直接、話したいの』
確かに重要な情報を二つも報せるのならメンバー全員で情報を共有した方が都合が良いだろう。それに態々待ち合わせ場所まで指定すると言うことは、クロに何か考えでもあるのだろうか
「分かった。クロナが回復したらすぐ行くよ」
『えぇ、待ってるわ』
その台詞を最後に通信は切れ、アディアは速やかに眠りについた。クロから重要な情報を聞き出すのも、再び戦いに身を投じるのも全ては自分達のリーダーが目覚めてからである
そして私の視界に写ったのはまたあの景色。当然、彼女の姿もある
「また会えたね、クロナ」
私と全く同じ姿をしている無邪気だが侮れない少女“ν”は相変わらず陽気に微笑んでおり、敵意が無いと分かっていてもやはり警戒してしまう
「以前会いに来た時に伝え忘れた事があったから、話さないといけないんだ」
νの表情から笑顔が消え、彼女は妙に儚げな声で語り始めた
「この夢の世界で起きた事よ。
今から丁度五年前くらいになるかしら……この夢の世界には全ての世界を統治する“姫君”がいた。
夢の世界の盟主である姫君は常に夢を見る人達の想いに答えようと、持てる力全てを使って数々の夢を最高の物にしてきた。
しかし、それは姫君に予想以上の負荷と責任を負わせ……姫君は疲労のあまり風邪を引いてしまったの。
このままでは人々の夢を良き物に出来ない、そう考え自身の身体を壊してでも自分の使命を果たそうとした彼女を止めたのは……ある一人の兵士だったの。
彼は兵士の中でも落ちこぼれだったけど、病気の姫君を支え続け……いつの間にか姫君は彼に惹かれていった。
それからと言うものの姫君は兵士に支えられながら使命に捕らわれていた日常から離れ、一人の恋する女の子として過ごしていた。しかし、その間にも夢の世界の住人達の怒りは溜まっていき、その苛立ちは全ての世界に悪夢なる魔物を生み出した。
魔物の出現によりあっという間に戦争が起き、たくさんの夢の世界が消滅していった。もちろん姫君のいる世界も滅ぼされかけた……そんな危機から彼女を救ったのは、あの兵士だった。
兵士のお陰で何とか滅びを免れたその世界だけど、兵士はこれ以上滅びを訪れさせない為にもたった一人で魔物達の本拠地へと乗り込む決意をした。その際に姫君と約束したの。『必ず帰ってきて、結婚する』と。それを証明するかのように口付けもしてね。
けど、彼は帰って来なかった。兵士は戦争に負けたの。一時は一つの世界の滅びを退けた為に全ての人の希望となっていた彼が負けた事により、全住人が希望を失い、魔物達に消されていった。希望を失ったのは姫君も同じ……特に最愛の人を失ったその傷は深い、それに彼の力を信用していたから負けるなんてあり得ないと思っていた。だから彼女は兵士が裏切ったと思い、その身を憎しみで満たしたの
すると姫君は一瞬で圧倒的な力を手にし、全ての魔物達が彼女に服従した。その後憎しみに捕らわれた姫君は魔物達を使って数々の世界を滅ぼし尽くした
結果夢の世界は少数しか残らず、それは数えられるほどしかない。
何故破壊神と化した姫君が12の世界を残して破壊を止めたのか……あるいは死んだのか、誰も分からないの」
νの語った昔話はあまりにも壮絶で、姫君の苦痛を聞かされる度にまるで自分の事のように心がキリキリと傷む。信じていた婚約者が死に、自分自身も破壊神と化し、残ったのは今まで私達が訪れてきた世界を含む12の世界。
「何故、私にそんな話を?」
「……いずれ、必要になる時が来るから。貴女しか頼る人がいないから」
彼女の言葉には多くの謎が残るがアディアやローグと言った夢の民達が語らないこの話を聞いておいて損は無いだろう、それにνの言葉から察するにこの話にはこの先何かしらの重要性がありそうだ
「また来るよ、貴女はそろそろ目覚めの時だから……」
νの姿が消えるとあっという間に謎の空間が消滅し、夢が終わると共に瞼が開かれ見慣れた景色が視界に広がった