DREAM77【優しい記憶】
「ほらほらレイ君、こっちだよ!」
「はいはい、やれやれ……」
例の情報の正体は夢の世界のレイ君だったが、それでも私は嬉しかった。夢だとしても、また彼の姿や声を感じられただけで心が満たされていく。しかし、それだけでは足りなかった。だから私は我が儘かもしれないが今日一日だけレイ君とこの世界を回る事を頼んだ。その結果みんなは理由を相当熟知していたようで、了承してくれた。なので当然私が彼を引っ張って行っているのだが、レイ君は呆れつつも満更でもないようだった
それにしてもこの場合そうなるのかはわからないが、初めての浮気の相手が夢の世界のレイ君だなんて思っても見なかった。だが夢の存在と現実の存在は繋がっており、実質同一人物である為そこは曖昧である
「ね!手でも繋いでみる?」
「な、何を唐突に……?」
「唐突でもトンコツでも良いけど、今日だけ私の事をこっちの私と思って、さぁ!」
そう言って右手を出すと、レイ君はそれを左手で握ってくれた。こうしていると何だか幼い頃を思い出し、もしあの頃から両想いだったとしたらどうなっていたんだろうと考えながらも二人でこの世界を見て回った
なにもかもが懐かしい彼の4p高い身長を持った身体、その顔つきや声など全て自分が知っている物だった。しかしそれは本物のようだがそうではない。彼は夢の世界の存在、本来ならばこっちの私と付き合うべきだと考えると胸が締め付けられる。自分と彼は引き離され、どうしようもなく運命に逆らいたくもなる
「そう言えばレイ君、こっちの私ってどんな感じなの?」
だから私は今この瞬間を笑って過ごす事にした。本物では無くとも、確かに温もりはそこにある
「うーん、あえて言うなら……“お姫様”って所かな」
「それって好きって事だよね!?」
そんな彼と話しているだけでも本物と同じ温かさを感じていられた
「良かった!もし現実のレイ君もそうだったら、嬉しいんだけど……」
「そうだと思うよ」
独り言のように呟いた言葉に返答したレイ君の言葉に、私は一瞬耳を疑った
「俺さ、こっちの君を守る為にナタ姉の特訓を受けて強くなったんだ。誰かの為に自分の力を、ましてや一番大切な人の為に使えるって、嬉しいと思わない?」
「うん、分かる気がする……」
「だから、いざ守るって時に恥ずかしくないように……強くなりたかったんだ」
“なりたかった”、何故かレイ君はそう答えた。過去形と言う事はそれはもう果たされたのか、それとも何か別の理由があるのだろうか
「……ごめん、今のは忘れて」
それだけ言うとレイ君は私の手を引いて何処かへ向けて歩き出した
その後私達は二人で様々な所を見て回った。神聖な雰囲気の中流れる滝、風に揺られる花々、鏡のように綺麗な石碑、様々な物を発見してまさに最高のデートを彩っていた
そしてたどり着いたのが一際大きな神殿であり、中に入るとそこには教会のような大広間が広まっていた
「凄い……」
「でしょ?この世界の人達って、ここで結婚式を行うんだって」
「私も……出来るかな?」
現実のレイ君との将来を考える私はあまりにも漠然とした事にうなだれそうになるが、彼は私の頭を撫でて言った
「その時は、ダークやフィオ……ディアにライガに鈴神、紫音とヒトミ、みんなを呼べばいい」
「……そうだね!」
何時かあのような場所に二人で立てる事を願い、最初にこの世界に降り立った所に戻ると誰もいなかった
「みんなは?」
「多分ディアと鈴神さんの所へ向かってるんじゃ無いかな?」
普通ならレイ君と共に二人を助けに行かなければならない、しかしみんな私の事を想って二人の時間を許してくれた。せめて自分達だけでもあのミゾールを食い止めようとしてくれているみんなの所へ行きたいのも山々なのだが、まだレイ君とは話さなければならない事がある
その夜、私達はヴァーヴァリアンコロッセオの宿屋に止まって休む事にした。そもそも回りが神殿だらけだったので若干目立ちにくいが、流石はレイ君と言うべきか割りと簡単に発見していた。しかし宿屋の店主によれば私達の部屋には何か問題があるらしい
「これって……!」
そう、ベッドが一つしか無かったのだ。他の部屋に移ろうにも他にも客が来ているようなのでそれは叶わず、仕方なく一緒に寝る事になったが本心では嬉しかった
「……ねぇレイ君、まだ起きてる?」
「……うん」
同じベッドで横になっている為にお互いに恥じらい、落ち着かない様子だった
「何故君はこの世界に来てたの?」
「……探している人がいてね」
「探している人?」
「言わなきゃ駄目?」
「ううん、深入りしないよ」
出会った時から思っていたが彼は現実のレイ君と比べると非常に冷静な印象を受ける。それに所々何かあるような言葉が目立ち、明らかに何かを抱えているようだったがそれにはあえて深入りしなかった。彼の事を分かってくれる人はこの夢の世界で、一人しかいないのだから
「レイ君、お願いがあるんだけど……その、私達と一緒に戦ってくれないかな?訳はちゃんと話すから」
「知ってる、七星座でしょ?」
なんとレイ君は七星座の事を知っていた。相変わらず謎が残る彼だが、彼は私の頼みを受け入れるように頷いた
「……分かった。共に戦うよ、君と……」
「うん、ありがとうレイ君!」
「そう言えば知ってる?この世界その物が、クロナ達の世界に浮上した浮遊島ダークエンドなんだよ」
「えっ!?」
その意外な真実には驚くしか無かった。今思えば私達は今まで現実のレイ君の記憶を辿るようにしてワールドを巡ってきたが、ここだけどういうわけか例外だった。しかし建物の中にそれらしき物もあり、幾つかの兵器の残害もあったので間違いないだろう。そう考えるとこの世界その物がダークエンドを封印していた事になり、鈴神さんがそれを解き放った為にこの世界が変貌して浮遊島ダークエンドとなったと思われる
「驚いた?」
「うん……まさかこの世界自体がそれだなんて思わなくて」
「まぁ、それが普通だろうね」
そう言うとレイ君は突然私を抱き寄せた
「きゃっ」
「ごめん、暫くこうさせて」
何処か潤んだその瞳からは何処と無く悲しみに満ちた物を感じ、私はそれを慰めるようにして頭を撫でてやるとそっと彼を抱き締め、気がつけばそのまま眠りについていた