DREAM78【怒りの氷】
次の日の朝、私は何を思ったのかレイよりも先に起きては何となくその寝顔を見つめていた。しかし嬉しくはない、寧ろ寂しいのだ。またレイ君が何処かへ行くような気がして、目を離すのが怖くてこうして自分の視界に留めたくなってしまう
「……君は何時もよく寝てるね」
そっと頭を撫で、彼の頬に触れてみるとそこには本物そっくりの温もりがあった
「君はどんな夢を見てるの?楽しい夢かな……」
彼が楽しい夢を見ているなら幸いだが、果たして現実のレイ君は今何処で何をしているのだろうか。彼と感情を共有出来ないと言うだけで涙が流れてくる
「……私にも見せてよ」
その場に泣き崩れると、突如私の頭に一つの手が優しく触れた。励ますようにして撫でてくれたのはレイ君だった。
「……クロナ、何故泣いてるの?」
心配こそしている物の発言者が何故か今にも泣きそうになっており、彼を心配させない為にもあえて笑顔を作った
「ダイジョバ……泣いてないよ」
「本当に?」
「本当だもん!」
そう言って強引に彼を連れ出し、涙を隠した。再会するまで涙を人には見せたくないから。以前はプロメッサに心の奥を見透かされどうしようもなく流れてしまったが、これからは強くあろうと心に決めている
「……レイ君、準備良い?」
「……ダイジョバ」
「じゃあ行こう、レイ君!」
「うん!」
だからこそ私は彼と、仲間と共に戦う事にした。今頃ミゾール達と戦っている仲間達の元へ向かおうとしたその時、上空から一頭の巨大な黄金の竜が降り、その竜の背中には一人の騎士のような男が乗っていた。つまり彼は、竜騎士と言う訳である
「ふぅん……少し手間取ったが、所詮俺には勝てなかったな」
聞き覚えのあるその特徴的な笑い方の主と言えば一人しかいなかった。そう、ミゾールである。つまりディアと鈴神さんは負けてしまったと言う事になり、アディア達の行方すら怪しくなってくる
「ミゾール!あの二人はどうしたの!?みんなは、何処にいるの!?」
「ふぅん……何か勘違いしていないか?俺はあの二人としか戦っていない」
「えっ!?」
「この竜“タキオンクロー”はどうやら、気配を完全消去出来るみたいでな。あの二人を倒した後タキオンクローを使ってこの世界に向かって来ていたんだが、どうやら仲間達は無駄足を踏んだようだ」
なんとアディア達はミゾールを見つけられてすらいなかった。今ミゾールが乗っている竜ことタキオンクローのその能力により気配を消し、彼女達の目を欺いていた。もしアディア達の誰かがこの事に気づかない限り、誰も戻ってこず二人だけで戦わなくてはならない
「そんな……」
「さて、たった一人でも俺と戦うつもりか?」
「一人じゃないさ。俺は、クロナを守る」
キーブレードを構えてその台詞を放つレイ君を見て思わず頬を染めてしまい、それを聞いたミゾールは鼻で笑った
「ふぅん……貴様、面白い事を言うじゃないか。だが、貴様は1度大切な人を守れなかった」
「えっ!?」
ミゾールが語る衝撃の事実、それはレイ君の大切な誰かがもうこの世にいない事を意味していた。レイ君は悔しさを表情に浮かべ、私はどうすれば良いのか分からないでいる
「そんなお前が聖獣も使えないお荷物を背負った状態で勝てるはずが無い」
「……」
「本当なの?レイ君……」
彼は躊躇いがちにゆっくりと頷いた。本当は認めたく無い事なのだろうか、握り拳が震えている。しかし気になるのが何故ミゾールがそんなことを知っているのかと言う事であり、私は戦う事を心に決めキーブレードを構えた
「……ミゾール、私と戦いなさい」
「ほう……」
「レイ君を愚弄した貴方を、許す事は出来ない」
震えるレイ君の手を握り、彼に優しく囁くようにして言った
「大丈夫だよ。私が、君を守るから」
今は仲間達は誰一人としていない、だがレイ君と言う守りたい人がいる。だからこそ私はその人の為に共にミゾールに立ち向かうのだった
「絶対に倒す……!」