DREAM80【ファラフェニックス】
私の新たな力“愛の守護者 ファラフェニックス”は私自身に新たな勇気と決意をくれた。みんなの気持ちを理解し、それを守るほどの覚悟と力の象徴の出現はまさに聖獣の覚醒そのものだった
「行くよ……いや、行こう……ファラフェニックス」
ファラフェニックスはそれを理解したように頷き、私を背中に乗せるとミゾールのいる場所へと高速で飛び始めた
「行け、クロナ!!」
ダーク君の声援は力となり、みんなの想いもまた力となる。そんな数々の力がファラフェニックスに集まり、ミゾールの目の前でそれを冷気として放った
「ぐっ!?」
その冷気は見た目はただの吹雪なのだが何故か鋭く、触れるだけで全てを切り裂かれそうな痛みにミゾールは襲われた
「これは……これが……お前の……!」
吹雪を何とか振り払ったミゾールはボロボロになりながらも再び聖獣を出そうとするが、それはプロメッサの放った霧魔法“ミスト”の霧により視界を奪われ阻まれた
「何!?」
「クロナ、今よ!」
「うん。ありがとう、プロメッサ!」
そしてファラフェニックスと共に空を舞い、仲間達のいる場所を除いて全てのフィールドを凍らせた。そしてその冷気は猛吹雪を呼び、それは何処からともなく現れた鎌鼬と共に吹き荒れる
「こ、これは……!」
ミゾールの足は先程の冷気に巻き込まれた為凍りついており、身動きの取れない彼に大量の鋭い刃が襲いかかる
「……全ての邪念を、全ての邪悪を凍てつかせる。これが私の、“アイシクルストリーム”!!」
聖獣との新たな連携技の名前を叫ぶのとほぼ同時に吹雪はさらに激しく吹き荒れ、鎌鼬もまた一斉にミゾールを切り裂き始め、凍りついたフィールドが一気に爆発すると同時にミゾールもそれに巻き込まれ、元のフィールドに戻ったが唯一違うのはミゾールが氷付けと言う事だけだ
「ぐっ……貴様ァ……」
「貴方の負けよ、ミゾール。私の前でレイ君を愚弄したと言う事は、確実に凍てつくと言う事よ」
君を守るからと約束している以上は立ちはだかるもの全てを凍てつかせる、それが私の得た強さと決意だった。凍てつかせると言う表現は氷属性の使い手ならではであるが、この世の邪悪を全て凍らせる事が出来るのなら是非ともその為に使いたい
「ふぅん……流石は、リーダー……我らが盟主」
「盟主だと?」
突如ミゾールが言い放った意味深な言葉にディアが食い付き、多少警戒しながらも彼に聞いた
「どういう事だ?まさかクロナがお前らのリーダーだとでも言いたいのか?まさか、そんなことは無い。それにクロナは今までずっと、俺達と戦って来たんだぞ」
「そうだよ!クロナちゃんが僕達を裏切るはずが無い!」
「嘘つくならもっとマシな嘘つきやがれ!お前のそれなんて、三流以下だぜ!」
仲間達はミゾールの言葉を信じず私を庇ってくれた。確かに今まで七星座に協力した事は一度もなく、エージェント達の宿命を知って悔やんだりはしたが彼らの目的に加担するような事は決してしなかった
「……そこまで言うなら教えてやろう、我らがリーダーベネトナシュは……」
「ミゾール、口を閉じなさい」
ミゾールが何かを言おうとしたまさにその時、何処からか聞き覚えのある声がすると同時に仮面を被った少女――ベネトナシュが姿を現した
「ベネトナシュ……!」
「まさかミゾールを倒すなんてね。組織でただ一人正体を知る算法だったから信頼していたけど、貴方達は彼を越えた」
余裕そうに喋りながらもミゾールの氷を解いたベネトナシュは自身の仮面に触れた
「さて、そんな貴方達に、ミゾールの代わりに答えてあげるわ」
先程ミゾールが言いかけた事を代わりに答えると言っているベネトナシュだったが、先程から仮面に触れているばかりで喋ろうとしない。答える気が無いのかと思われたが、彼女はなんとその仮面を外した
「っ!!?」
「嘘だろっ!?」
なんと仮面の奥に隠されていたのは私――クロナ・アクアスそのものだった。髪は少々荒れてしまっているが間違いなく同一の顔であり、その目はまるで笑ってはいなかった
「これが私、ベネトナシュことクロナの正体」
「そんな……バカな!!」
「僕達が倒そうとしていたのは……クロナだって事!?」
ベネトナシュの正体が自分自身、いや、自分の夢の存在か。そうなると先程のミゾールの発言も納得が行く。しかし、あまりの衝撃に私はどうしていいか分からないでいた
「フッ……久しぶりね、レイ君。随分と無様じゃない、貴方が何も出来ずに助けられるだけなんて」
「……クロナ……!」
「レイ君?」
ベネトナシュが本当に夢の世界での私ならレイ君を知っているのは当然だが、どういう訳かレイ君の様子がおかしかった。まるで何かに怯えているような、恐怖に支配された表情をしていた
「まさか、姫君の兵士って……!」
「そう言う事よ。流石はもう一人の私ね」
ベネトナシュがかつての姫君である事はクロさんから聞いていた。そしてその正体は夢の世界でのクロナ・アクアス、そしてその最愛の人であった兵士と言えば今の彼の状態から察するに答えは一つしか無かった。そう、この夢のレイ君こそが5年前の悲劇の話に出てくる兵士だったのである
「あれからどうしたのかは知らないけど、夢の世界は消させてもらうよ」
「っ!止めろクロナっ!!」
ベネトナシュをレイ君が止めようとするが、それを復帰したミゾールに阻まれた
「ふぅん……我らが盟主の邪魔はさせん」
「……さぁ、大いなる破壊を!」
ベネトナシュが右手に暗黒色の力を集め、それを天空に解き放つと空から三つの星が消えた。方角からしてそれぞれワンダーランドとポートロイヤル、次に闇の世界が消されてしまったのだと思われる
「そして我が精鋭よ、数多の世界に解き放たれよ!」
その号令により何処からともなく大量かつ上位の部類に入るほどのドリームイーターが各地に現れ、夢の世界の破壊を開始した。5年前の悲劇通りにドリームイーターを操り、夢の世界を破壊するようだ
「フハハハッ、もうすぐ私の悲願は果たされる」
「そんなことさせない!」
「あら、良いの?夢の民から聞かなかった?夢の存在と現実の存在は一心同体である事を」
その言葉は一気に私の戦意を喪失させた。ローグとルプクスから何時しか聞いていた事、それは夢の世界で生きる者と現実世界で生きる者は一心同体であると言う事。現実の私が死ねば夢の世界の私も死ぬ。それは逆もまた然りだ
「つまり、貴方達は私を倒す事は出来ないと言う事よ」
そしてベネトナシュは姿を消し、追いかけようとしたその時に先程出現した大量のドリームイーターに囲まれてしまった
「くっ……!」
ここで逃げたとしてもドリームイーターは各地に出現している。逃げ場の無いこの状況で何が出来るのか考える暇も無く、アディアが急いでゲートを出現させた
「こっちだ、早く!」
全員急いでゲートへと飛び込み、ただ一人俯いてとても動けるような状態ではないレイ君を引っ張って自身もゲートに飛び込んだ。ドリームイーターが攻撃してくる直前にゲートが閉じた為、何とか逃げる事が出来た