DREAM85【繋がる心が、私の力だ!!】
「これって……!」
私はその写真を手に取り、その中に写るベネトナシュの笑顔を見て思わず涙を落とした。その水滴は彼女だけを埋め尽くすように広がり、どんどん涙が溢れて止まらなくなってきた
「νは……ベネトナシュは本当はこれを望んでたんだ」
今なら分かる。ベネトナシュは本当は心の何処かではレイ君を信じている。だがその想いはその身を支配した復讐心に善の意思ごと破棄された、それがνと言う事である。善の意思故に不確かな存在であるため私の夢に幾度も現れ、みんなの前に姿を現した時も半透明だった。そんな彼女は自身の願いを何もできない自身に変わって叶えてもらおうと現れた。分かっている、それは一人の気持ちだと。だが私だってベネトナシュを止めたいのだ。そしてそれはみんなも同じだし、νが再び元に戻りレイ君とまた仲良く暮らす事を望んでいる。そう、一人の気持ちでもみんながそれを望んでいる事だってあるのだ。その証拠に、この写真を見て私が悲しんでいる
「うっ……ううっ……」
「クロナ、泣いているのかい?」
「アディア……ううっ……」
「……ねぇクロナ?僕達には彼女に何があったか分からない。だけど、少なくともレイ君と割れているって事だけは分かってる。だから僕達が今出来るのは悲しむ事じゃなくて、ベネトナシュを止めてνを安心させてあげる事じゃないかな?」
「アディア……」
「その通りだな」
アディアの意見に賛同するようにローグが言うと、辺りを調べつつ言った
「あいつの事情は今お前しか知らない、だがそれを俺は聞いたりしない。何故なら……これはクロナにしか解決出来ない事だからだ」
ローグの言うとおりだった。幾ら夢の世界の存在とは言えベネトナシュもνも全て私、クロナなのだ。だからこれは私にしか解決出来ない事で、みんなは私が消える事を承知の上で着いてきてくれた。自殺さえすればその時点で止められる事になり直接倒すのと特に大差無いのだが、それでは誰も喜ばない為私は全身全霊を持って戦う事にした。この城“クロッシングドリーム”――恐らく5年前に滅びた姫君クロナの城の成れの果て――を突き進み、彼女に善の意思を思い出させる為にも
「よしリーダー、そろそろ行こうぜ?こんな薄気味悪い部屋に留まってる気はねぇんだろ?」
「ダーク君……もちろんよ」
今のこの部屋はベネトナシュと言う悪意の塊の心その物、だがその中で唯一清潔だった写真が彼女が希望を捨てていないと言う証拠となり、今ここに僅かな光を見い出した
「行こう、みんな」
ベネトナシュの部屋を出て先程発見した階段を走りながら登っていくが、それはオリンポスコロシアムにあった物ほどではないがとても長く、道中で襲ってくる空中型ドリームイーターも幾つかいたが、聖獣は基本的に中に浮いているのでそれを利用し難なく倒し進んでいった
長い階段を登った先には入り口前から見上げた玉座がもうすぐそこにあり、それは所謂ゴールを示していた。そしてそこで待ち構える、仮面の少女
「……来たわね」
ベネトナシュは静かに玉座から立ち上がり、私達メンバーの中に彼がいないか見渡した
「……レイ君はどうしたの?」
「相棒は待つってよ。お前の帰りをな」
「ふーん、私とは戦えないって事?」
「いいえ、これはレイ様なりに正しい判断をされたと思います。クロナさんに貴女の事を任せ、自身はレイディアントガーデンの防衛に回りながら大切な人の帰りを待つ……それは大切に思っている人である貴女の為を思っての事なんです!」
「大切な人……ねぇ?」
怒りを含んだ声を挙げるとベネトナシュの左手にキーブレードではなく三メートルはありそうなほど長い赤色の剣が現れ、それを使って凪ぎ払ってきた。それを全員辛うじて避けたが、その一振りだけで階段が落とされてしまった
「だったら何故……だったら何故約束を果たさなかった!大切なら果たしに戻ってくるはずじゃない!私は裏切られたんだ……レイ君に、この世界に。だからもう、こんな世界は要らない」
「“世界が要らない”?」
ベネトナシュが唐突に放った言葉はこの場にいる全員を驚愕させるには充分であり、ベネトナシュはついにその真の計画と目的を暴露した
「私は憎しみに捕らわれて以来、私を裏切ったこの世界が憎かった。裏切った彼がいた世界、そう聞いただけで虫酸が走る。だからまずは手始めにこの夢の世界を破壊する」
「今回の計画が……手始めだっただと!?」
「そして破壊された夢の世界の住人の魂は消え、その肉体を新たなドリームイーターに変化させる。そして、“ある方”に与えられた力で私は現実にすら行く事が出来る!」
「ある方……?それに現実に行く力!?」
「そう、私はこの夢の世界を破壊し……その時に消した人々をドリームイーターに変化させて兵団を作り、その力で現実世界をも破壊する!私は全てに、復讐するのよ!!」
今ここでベネトナシュの恐ろしい計画が明かされた。全てを裏切られた彼女はこの世界を憎み、手始めに全てを破壊することで人々の肉体をドリームイーター化して兵団を生み出し、謎の人物――ある方と呼ぶくらいなのだから彼女よりも上の存在だと思われる――により与えられた力で現実に行き、現実世界全てをも破壊すると言うまさに復讐の塊のような計画だった
「そんな……!貴女は本当にそれで良いの!?」
「じゃあ聞くけど、クロナ……貴女は耐えられるの?」
「っ!?」
「“どうして”って思わないの!?何故、何故運命は私達ばかりを引き離す!?私とレイ君が、神様に逆らったとでも言うの!?貴女だってそう叫びたいはず!なのに何故!!」
「……うん、叫びたいよ。けどね……復讐したって、意味無いと思うの」
目の前にいる憎悪に捕らわれた自分に笑顔を向け、溢れそうになる涙を押さえながら語りかけた
「確かに運命は何度も私達を引き離した。けどね、復讐したってそれは逃げてるだけだと思うんだ。だから私は、“運命に抗う”……自分自身と戦う!」
そもそもこの旅もその運命に抗いたいが為に始まった物でもある。だからこそ自分から逃げているベネトナシュをここで説得し、現実世界に進行される前に止める
「……理解不能だわ。どっちが簡単か分かるでしょ!?何故態々難しい方を選んで苦しむ!?貴女は偽善者よ!分かってるハズなのに……怖いハズなのに!レイ君が憎く無いのか!?」
「貴女だって充分偽善者よ!!」
怒り狂うベネトナシュに一括し、私は自身の本心を打ち明けた
「確かに貴女の選んでいる道の方が簡単よ?けどそれは逃げてる行為、生気が感じられない。けどさ、困難に立ち向かって運命に抗う……それが、“生きる”って事じゃないかな?」
「っ!?」
「それに……私はレイ君を憎んだ事なんて一度もない。だって……」
ここで自分を落ち着ける為に一度深呼吸し、満面の笑みで自信を持って答えた
「私は、今も昔もこれからも、レイ君を愛してるもん」
世間ではこれを恥ずかしい台詞と言うのだろうが、これ以上の正論が他にあるだろうか。今まで友達として親友として、一人の男の子として愛してきた人を憎むなんて事は出来ず、最後には愛しくなる。それが私と言う人間だ
「……黙れ……黙れ黙れ、黙れっ!!」
しかしベネトナシュはそれを最後まで拒み、再びその剣を横に強く振った
「クロナ、危ない!!」
「クロナさん!」
それが直撃する寸前にローグとルプクスが前に出てその攻撃を代わりに喰らい、意識を失ってしまった
「ローグ!ルプクス!!」
「庇ったか……まぁ良いわ。次こそ貴女を斬り殺す!!」
もはや夢の世界での法則すら頭に入らないほど頭に来ているようだ。冷静さを欠いているベネトナシュはその仮面を投げ捨て、怒りに満ちたその表情を露にした
「みんな!行くよっ!!」
「「「「「「「おう!!」」」」」」」
メンバー全員でベネトナシュに立ち向かい、それぞれ聖獣や各々の最強の技で彼女を倒そうと立ち向かうが、ベネトナシュから出現した聖獣に全て弾かれ、吹っ飛ばされてしまった
「「ぐっ!」」
「「「きゃあ!」」」
「っ!」
全員離れ離れになってしまい、今このフィールドに残っているのは私一人となってしまった。ベネトナシュが出現させたのは小柄の魔導士と言った風貌の聖獣であり、その赤い瞳からは強い憎しみと悲しみを感じる
「やれ、ミゼリオン!!」
ミゼリオンと呼ばれたその聖獣は恐ろしい程の魔力を放ち、なんと周囲に浮いていた岩を大量に使い仲間達全員を瀕死にまで追いやった。それは私も例外ではなく、その一撃に意識を失ってしまった
「(……駄目……意識が……!)」
消えかけの意識の中、いつの間にか視界にはステンドグラスのような円形の足場が広がっており、辺りは暗闇でありながらも空から差す光によってステンドグラスの床は幻想的に輝いていた
「私……もう、駄目なのかな……」
このままベネトナシュの絶対的な力に負け、消えてしまうのかと諦めかけたその時、聞き覚えのある声が響いた
「……クロナ」
そして目の前に、彼が現れた
「諦めるの?」
「レイ君?」
今目の前にいる彼からは何時もの明るく優しい雰囲気を感じ、レイディアントガーデンで待っている夢の世界の存在ではない事に気がついた
「でも……何処に勝機が……」
「クロナ」
落ち込んでいる私を見てレイ君は不意に顔を近づけて来たが直前で止まり、笑いながら言った
「……キスするとでも思った?」
「え……?」
「クロナ、よく聞いて」
そしてレイ君は私を抱き締めてくれた
「君の回りには、仲間がいる。みんながいる、そして俺がいる。そんな仲間達は、君が例え希望を失ってもまた灯してくれる。そして俺も……君に希望を灯すよ」
そうだ、私には待たせている仲間がいた。きっとこうして意識の中でレイ君と話している間にもみんなはベネトナシュと戦ってくれている。そんな仲間達の事を想うと自然と希望が戻り、レイ君の言うとおり仲間は消えかけていた私の希望を灯してくれた
「さぁクロナ、行くんだ……君の運命に抗う為に」
「……うん!!」
「クロナ……頑張ってね」
そして、私の意識がどんどんはっきりしてきた時に彼の言葉が聞こえた
『氷の勇者、クロナ……全ての幻想を凍てつかせて』
意識がはっきりした時には先程のミゼリオンの攻撃で受けたダメージがほぼ帳消しになっており、髪と瞳が水色に変色した。回りにも冷気が発生しており、レイ君の言った通り氷を司るファイブブレード氷の勇者となった
「クロナ!」
「クロナちゃん!」
「クロナ……フッ」
「クロナさん!」
「クロナ……」
「クロナ、いっけー!!」
「クロナ、お願い」
『俺も愛してるよ、クロナ』
仲間達から想いを託され、今ならみんなの力を使えるような気がする。左手にキーブレードを構え、ベネトナシュの前に立ちはだかった
「みんな、下がってて」
もう迷わない。私は私の大切な人達の為に戦い、この運命に抗って生き残って見せる。それに例えここで消えても、みんなの心の中で生き続けるから
「ベネトナシュ、貴女は憎しみに捕らわれて一つ大切な事を失ってる。それは……繋がりよ」
「繋がり……!?」
「人との繋がりは、かけがえの無い絆は私に力をくれた。喪失と言う絶望の中でも、何度でも希望を灯してくれた!例え会えなくっても何度でも私は彼を想い続ける!それが、私の生きた証!
繋がる心が、私の力だ!!」
レイ君も言っていた言葉を胸に、私はこの世界での最後の戦いに挑む。消えるかもしれない恐怖と残酷な運命に抗い、夢と現実を救う為に
私はその写真を手に取り、その中に写るベネトナシュの笑顔を見て思わず涙を落とした。その水滴は彼女だけを埋め尽くすように広がり、どんどん涙が溢れて止まらなくなってきた
「νは……ベネトナシュは本当はこれを望んでたんだ」
今なら分かる。ベネトナシュは本当は心の何処かではレイ君を信じている。だがその想いはその身を支配した復讐心に善の意思ごと破棄された、それがνと言う事である。善の意思故に不確かな存在であるため私の夢に幾度も現れ、みんなの前に姿を現した時も半透明だった。そんな彼女は自身の願いを何もできない自身に変わって叶えてもらおうと現れた。分かっている、それは一人の気持ちだと。だが私だってベネトナシュを止めたいのだ。そしてそれはみんなも同じだし、νが再び元に戻りレイ君とまた仲良く暮らす事を望んでいる。そう、一人の気持ちでもみんながそれを望んでいる事だってあるのだ。その証拠に、この写真を見て私が悲しんでいる
「うっ……ううっ……」
「クロナ、泣いているのかい?」
「アディア……ううっ……」
「……ねぇクロナ?僕達には彼女に何があったか分からない。だけど、少なくともレイ君と割れているって事だけは分かってる。だから僕達が今出来るのは悲しむ事じゃなくて、ベネトナシュを止めてνを安心させてあげる事じゃないかな?」
「アディア……」
「その通りだな」
アディアの意見に賛同するようにローグが言うと、辺りを調べつつ言った
「あいつの事情は今お前しか知らない、だがそれを俺は聞いたりしない。何故なら……これはクロナにしか解決出来ない事だからだ」
ローグの言うとおりだった。幾ら夢の世界の存在とは言えベネトナシュもνも全て私、クロナなのだ。だからこれは私にしか解決出来ない事で、みんなは私が消える事を承知の上で着いてきてくれた。自殺さえすればその時点で止められる事になり直接倒すのと特に大差無いのだが、それでは誰も喜ばない為私は全身全霊を持って戦う事にした。この城“クロッシングドリーム”――恐らく5年前に滅びた姫君クロナの城の成れの果て――を突き進み、彼女に善の意思を思い出させる為にも
「よしリーダー、そろそろ行こうぜ?こんな薄気味悪い部屋に留まってる気はねぇんだろ?」
「ダーク君……もちろんよ」
今のこの部屋はベネトナシュと言う悪意の塊の心その物、だがその中で唯一清潔だった写真が彼女が希望を捨てていないと言う証拠となり、今ここに僅かな光を見い出した
「行こう、みんな」
ベネトナシュの部屋を出て先程発見した階段を走りながら登っていくが、それはオリンポスコロシアムにあった物ほどではないがとても長く、道中で襲ってくる空中型ドリームイーターも幾つかいたが、聖獣は基本的に中に浮いているのでそれを利用し難なく倒し進んでいった
長い階段を登った先には入り口前から見上げた玉座がもうすぐそこにあり、それは所謂ゴールを示していた。そしてそこで待ち構える、仮面の少女
「……来たわね」
ベネトナシュは静かに玉座から立ち上がり、私達メンバーの中に彼がいないか見渡した
「……レイ君はどうしたの?」
「相棒は待つってよ。お前の帰りをな」
「ふーん、私とは戦えないって事?」
「いいえ、これはレイ様なりに正しい判断をされたと思います。クロナさんに貴女の事を任せ、自身はレイディアントガーデンの防衛に回りながら大切な人の帰りを待つ……それは大切に思っている人である貴女の為を思っての事なんです!」
「大切な人……ねぇ?」
怒りを含んだ声を挙げるとベネトナシュの左手にキーブレードではなく三メートルはありそうなほど長い赤色の剣が現れ、それを使って凪ぎ払ってきた。それを全員辛うじて避けたが、その一振りだけで階段が落とされてしまった
「だったら何故……だったら何故約束を果たさなかった!大切なら果たしに戻ってくるはずじゃない!私は裏切られたんだ……レイ君に、この世界に。だからもう、こんな世界は要らない」
「“世界が要らない”?」
ベネトナシュが唐突に放った言葉はこの場にいる全員を驚愕させるには充分であり、ベネトナシュはついにその真の計画と目的を暴露した
「私は憎しみに捕らわれて以来、私を裏切ったこの世界が憎かった。裏切った彼がいた世界、そう聞いただけで虫酸が走る。だからまずは手始めにこの夢の世界を破壊する」
「今回の計画が……手始めだっただと!?」
「そして破壊された夢の世界の住人の魂は消え、その肉体を新たなドリームイーターに変化させる。そして、“ある方”に与えられた力で私は現実にすら行く事が出来る!」
「ある方……?それに現実に行く力!?」
「そう、私はこの夢の世界を破壊し……その時に消した人々をドリームイーターに変化させて兵団を作り、その力で現実世界をも破壊する!私は全てに、復讐するのよ!!」
今ここでベネトナシュの恐ろしい計画が明かされた。全てを裏切られた彼女はこの世界を憎み、手始めに全てを破壊することで人々の肉体をドリームイーター化して兵団を生み出し、謎の人物――ある方と呼ぶくらいなのだから彼女よりも上の存在だと思われる――により与えられた力で現実に行き、現実世界全てをも破壊すると言うまさに復讐の塊のような計画だった
「そんな……!貴女は本当にそれで良いの!?」
「じゃあ聞くけど、クロナ……貴女は耐えられるの?」
「っ!?」
「“どうして”って思わないの!?何故、何故運命は私達ばかりを引き離す!?私とレイ君が、神様に逆らったとでも言うの!?貴女だってそう叫びたいはず!なのに何故!!」
「……うん、叫びたいよ。けどね……復讐したって、意味無いと思うの」
目の前にいる憎悪に捕らわれた自分に笑顔を向け、溢れそうになる涙を押さえながら語りかけた
「確かに運命は何度も私達を引き離した。けどね、復讐したってそれは逃げてるだけだと思うんだ。だから私は、“運命に抗う”……自分自身と戦う!」
そもそもこの旅もその運命に抗いたいが為に始まった物でもある。だからこそ自分から逃げているベネトナシュをここで説得し、現実世界に進行される前に止める
「……理解不能だわ。どっちが簡単か分かるでしょ!?何故態々難しい方を選んで苦しむ!?貴女は偽善者よ!分かってるハズなのに……怖いハズなのに!レイ君が憎く無いのか!?」
「貴女だって充分偽善者よ!!」
怒り狂うベネトナシュに一括し、私は自身の本心を打ち明けた
「確かに貴女の選んでいる道の方が簡単よ?けどそれは逃げてる行為、生気が感じられない。けどさ、困難に立ち向かって運命に抗う……それが、“生きる”って事じゃないかな?」
「っ!?」
「それに……私はレイ君を憎んだ事なんて一度もない。だって……」
ここで自分を落ち着ける為に一度深呼吸し、満面の笑みで自信を持って答えた
「私は、今も昔もこれからも、レイ君を愛してるもん」
世間ではこれを恥ずかしい台詞と言うのだろうが、これ以上の正論が他にあるだろうか。今まで友達として親友として、一人の男の子として愛してきた人を憎むなんて事は出来ず、最後には愛しくなる。それが私と言う人間だ
「……黙れ……黙れ黙れ、黙れっ!!」
しかしベネトナシュはそれを最後まで拒み、再びその剣を横に強く振った
「クロナ、危ない!!」
「クロナさん!」
それが直撃する寸前にローグとルプクスが前に出てその攻撃を代わりに喰らい、意識を失ってしまった
「ローグ!ルプクス!!」
「庇ったか……まぁ良いわ。次こそ貴女を斬り殺す!!」
もはや夢の世界での法則すら頭に入らないほど頭に来ているようだ。冷静さを欠いているベネトナシュはその仮面を投げ捨て、怒りに満ちたその表情を露にした
「みんな!行くよっ!!」
「「「「「「「おう!!」」」」」」」
メンバー全員でベネトナシュに立ち向かい、それぞれ聖獣や各々の最強の技で彼女を倒そうと立ち向かうが、ベネトナシュから出現した聖獣に全て弾かれ、吹っ飛ばされてしまった
「「ぐっ!」」
「「「きゃあ!」」」
「っ!」
全員離れ離れになってしまい、今このフィールドに残っているのは私一人となってしまった。ベネトナシュが出現させたのは小柄の魔導士と言った風貌の聖獣であり、その赤い瞳からは強い憎しみと悲しみを感じる
「やれ、ミゼリオン!!」
ミゼリオンと呼ばれたその聖獣は恐ろしい程の魔力を放ち、なんと周囲に浮いていた岩を大量に使い仲間達全員を瀕死にまで追いやった。それは私も例外ではなく、その一撃に意識を失ってしまった
「(……駄目……意識が……!)」
消えかけの意識の中、いつの間にか視界にはステンドグラスのような円形の足場が広がっており、辺りは暗闇でありながらも空から差す光によってステンドグラスの床は幻想的に輝いていた
「私……もう、駄目なのかな……」
このままベネトナシュの絶対的な力に負け、消えてしまうのかと諦めかけたその時、聞き覚えのある声が響いた
「……クロナ」
そして目の前に、彼が現れた
「諦めるの?」
「レイ君?」
今目の前にいる彼からは何時もの明るく優しい雰囲気を感じ、レイディアントガーデンで待っている夢の世界の存在ではない事に気がついた
「でも……何処に勝機が……」
「クロナ」
落ち込んでいる私を見てレイ君は不意に顔を近づけて来たが直前で止まり、笑いながら言った
「……キスするとでも思った?」
「え……?」
「クロナ、よく聞いて」
そしてレイ君は私を抱き締めてくれた
「君の回りには、仲間がいる。みんながいる、そして俺がいる。そんな仲間達は、君が例え希望を失ってもまた灯してくれる。そして俺も……君に希望を灯すよ」
そうだ、私には待たせている仲間がいた。きっとこうして意識の中でレイ君と話している間にもみんなはベネトナシュと戦ってくれている。そんな仲間達の事を想うと自然と希望が戻り、レイ君の言うとおり仲間は消えかけていた私の希望を灯してくれた
「さぁクロナ、行くんだ……君の運命に抗う為に」
「……うん!!」
「クロナ……頑張ってね」
そして、私の意識がどんどんはっきりしてきた時に彼の言葉が聞こえた
『氷の勇者、クロナ……全ての幻想を凍てつかせて』
意識がはっきりした時には先程のミゼリオンの攻撃で受けたダメージがほぼ帳消しになっており、髪と瞳が水色に変色した。回りにも冷気が発生しており、レイ君の言った通り氷を司るファイブブレード氷の勇者となった
「クロナ!」
「クロナちゃん!」
「クロナ……フッ」
「クロナさん!」
「クロナ……」
「クロナ、いっけー!!」
「クロナ、お願い」
『俺も愛してるよ、クロナ』
仲間達から想いを託され、今ならみんなの力を使えるような気がする。左手にキーブレードを構え、ベネトナシュの前に立ちはだかった
「みんな、下がってて」
もう迷わない。私は私の大切な人達の為に戦い、この運命に抗って生き残って見せる。それに例えここで消えても、みんなの心の中で生き続けるから
「ベネトナシュ、貴女は憎しみに捕らわれて一つ大切な事を失ってる。それは……繋がりよ」
「繋がり……!?」
「人との繋がりは、かけがえの無い絆は私に力をくれた。喪失と言う絶望の中でも、何度でも希望を灯してくれた!例え会えなくっても何度でも私は彼を想い続ける!それが、私の生きた証!
繋がる心が、私の力だ!!」
レイ君も言っていた言葉を胸に、私はこの世界での最後の戦いに挑む。消えるかもしれない恐怖と残酷な運命に抗い、夢と現実を救う為に