DREAM89【さよなら】
この夢の世界を脅かしていた七星座のリーダーであるベネトナシュがついに消滅し、ついにこの世界は救われた。これで現実世界への進撃は中止となり、各世界に現れていたドリームイーターの暴走も止まった。それどころかナイトメアであったドリームイーターが彼女の絶望と憎悪から解放されたからかスピリットへと変貌し、夢の世界は完全に平和となった
しかし、それまでに払った犠牲は予想以上に多かった。七星座に無理矢理従わされていたエージェント達の死、大量のスピリット、そして――
「……みんな、お別れね」
私自身も、その犠牲の一つだった。七星座のリーダーベネトナシュの現実世界の存在は私で、私の夢の存在こそがベネトナシュなのだから。片方が消滅すればもう片方である私も消えるのは必然としか言い様が無い
「……クロナ」
落ち込み涙が流れそうなフィオを励ますように肩を叩いたダーク君が真っ先に前に出て、その拳を前に出した。私もそれに合わせるようにして右拳をぶつけ、彼の言葉を聞いた
「……じゃあな!またどっかで会おうぜ」
あえてさよならではなく“じゃあな”と言う辺りダーク君らしいと言うか、彼なりの気遣いなのだろう。例えここで消滅しても何時かまた会える、その時を信じて
「うん、ありがとう」
自身も泣きそうになりみんなの方を見ようとしたその時、自分の身体が透け始めている事に気がついた。それはもう間もなく、私の存在が完全に消えると言う事を示している
「もっと話したいけど、時間みたい」
身体が段々重くなっていき、少しずつ透明になっていく自分を感じながら笑顔で言った
「じゃあね……みんな」
そして完全に消滅しようとしたまさにその時、聞き覚えのある声が聞こえた
「クロナ!」
もはや霊体であるνが消滅寸前の私と重なり、不思議な光を放つとどう言う訳か意識までは戻らなかったものの私の身体が元に戻り、代わりにνが苦しみ始めた
「おい夢クロナ、今何したんだ!?」
「ベネトナシュとクロナの……夢の繋がりを移し変えたの。ベネトナシュの消滅により死ぬはずだったクロナの夢の繋がりを代わりに私が引き受けることで、クロナは消滅を免れる」
「可能なのか?そんなことが!?」
「不可能も何も、同じクロナなんだから出来ないはず無いでしょ?」
同一人物だからこそ出来た夢の繋がりの移植により私は消滅を免れたようで、それは代わりにνが消えてしまうと言う意味に繋がる
「私は元々、ただの魂の存在だった。それでもプロメッサ……ううん、ルミナを始めとしたたくさんの人は私の願いを私の代わりに叶えてくれた。ありがとう……もう、悔いはないわ」
そう言ってνまでも消滅し、私の意識が戻らない状況をローグはこう説明した
「確かに消滅を免れているようだが、何せ消滅の直前で繋がりを移植したんだ。大分存在が消えてる。恐らく暫くは、目覚めないだろう」
少しずつ消されていった私の存在は再びこの世に繋ぎ止められた物の消滅寸前にストップした為にその存在は2割も残っていなかった
「だが、この夢の世界の医学を使えば存在を再び安定させる事は出来るはずだ。ルプクス、アディア、クロ、これから忙しくなるぞ」
この世界の住人の代表である夢の民達は力強く頷き、私の存在回復に全力を尽くしてくれるようだ。一体何時になるかは分からないが、これで何とか生き長らえる事が出来た。νと言う犠牲はあったけれど、夢の世界の平和と言うそれ以上の成果を手に入れた分喜びの方が大きい
しかし、別れは突然訪れた。全員が気付いた時にはプロメッサが半透明になっており、儚げな笑顔を浮かべていた
「プロメッサさん、それは!!」
「うん、私の役目は終わったみたい。元々使命を果たすまでしか生きられない決まりだからね」
やはりあのときの言葉は単なる言い間違いなどではなかった。プロメッサ――ルミナはベネトナシュを止め夢の世界を救うと言う使命を私達と共に果たしたことによりその役目を終え、今度こそ成仏されようとしていた
「ライガには会いたかったけど、でも良いんだ。だって、ベネトナシュは現実をも破壊しようとしてたじゃない?だから最後に、大切な人を守れて良かったって思うの」
大切な人に何回会うかではなく何回その人の事を想うか、プロメッサはそれの大切さをその生き様で見せてくれた。現実へと進撃せんとするベネトナシュを止め、間接的にではあるが彼を守る事が出来た
「もう、悔いはないから。みんな、最後まで私に付き合わせちゃってごめんね」
プロメッサの瞳から涙が流れ、それを励ますようにダーク君がいつも通りの陽気な口調で言った
「バーカ、言葉がちげーよ」
「うん、そうだね……」
プロメッサは涙を吹き、仲間達に笑顔を向けると自身の想いをみんなに伝えた
「ありがとう!そして、サヨナラー!」
最後の最後に記憶を失っていた頃の口癖を放ち、音もなくルミナの思念体であるプロメッサは消え、ルミナと言う存在は今この瞬間に成仏された。しかしその記憶は仲間達全員の心に刻まれており、その生き様はレイディアントスターの仲間達には特に忘れられない物となった。彼女と共に過ごした思い出は短いながらもどれも輝いており、疑ったり喜んだりした。そして彼女はルミナでも思念体でもない、一つのプロメッサと言うかけがえのない私達の仲間となった
「じゃあ、行くか!」
「そうですね。早くクロナさんをレイディアントガーデンへ運ばないと行けませんし」
「じゃあクロナは、ローグ達に任せても良いか?」
「任せておけ」
全員順当にクロッシングドリームから脱出し、レイディアントガーデンへ戻るとそれぞれの日常へと戻った。中には現実世界へ戻り特訓を再開する者やそれに付き合う者、ディアス家に戻り今回の事を伝える者もいれば夢の世界で存在の回復について研究する者達もいた。νやプロメッサの守りたかった世界はこんなにも美しくて、ベネトナシュが憎んでいた世界は本当はこんなにも優しかった。たった一人の喪失から始まった物語は、壮大な思い出となってから2ヶ月が経った