SONG2【時の使者】
「これでおしまいよ!」
氷の勇者の力を解放した途端圧倒的に力が増し、ドリームイーターの残党をいとも簡単に倒す事が出来た。最後の一体に止めのブリザガを浴びせ、事態を終息する事が出来た
「私の力、まだ衰えて無かったみたい」
自分の力がまだ数ヵ月前と同様であった事に喜びを感じ、D-Linkを解除した。と言うかD-Linkは対戦相手がいなくなると自動的に消えるので解除されたと言う表現が正しいのだろうが
10日後のデュエットイベントを楽しみにしながらレイディアントガーデン城の自室に戻り、夜になるまで勉強をする事にした。過去に幽閉されていた為に私の頭はかなり遅れている。だからこそこうして勉強し、現実に帰った時の高校受験に備えるのだ
もっとも、彼に助けてもらった日から毎晩は勉学に力を入れていたのだが。ただし夢の世界での戦いに関しては色々と忙しかった為に出来ていなかったので、こうして再開していると言う事である
その光景を、夢を通して見ている人がいた
「……うぅ……」
とある都会のマンションに住むこの少年の名はリューザ。そこまで目立ちはしないもののその金髪は逆立っており、青い瞳やその顔立ちは消えた“彼”を思わせる物だった
リューザは側にあった携帯を手に取り、その画面を開いた瞬間眠気が一瞬で吹き飛びベッドから飛び上がった
「嘘……もうこんな時間かよ……?」
リューザは頭を数回ほどかくと、すぐに出掛ける支度を始めた。寝癖だと思って直そうとしてもすぐにまた跳び跳ねる自分の髪型にウンザリしながらも手を洗い、朝食のトーストをかじった
「にしても、またあの夢?」
リューザは最近になって不思議な夢を見るようになっていた。一人の鍵のような剣“キーブレード”を持った少年が仲間と共に困難に立ち向かい、先程の夢に出てきた少女“クロナ”を助け、少年の闇の存在だと言う物を倒し世界を救うと言う、何処かの漫画にでも出てきそうな話がまず1回目。
そしてその少年が闇の力に手を出してしまったものの仲間との絆を結び直し世界を壊さんとする暗黒竜を止めて行方不明となったと言う前回の続きのような物が2回目。
さらに付け加えると少女“クロナ”がいなくなった少年を探すために異世界へと仲間と共に旅立ち、そこで仲間と言うものを知りながら自分自身と戦い見事勝利し、その異世界を救ったと言うファンタジー染みた話が3回目
「でもって……これで4回目か」
トーストの耳を食いちぎった数と同じく今日見た夢もまた4回目だった。しかもあの異世界での戦いの後のような、小説で言う後日談のような雰囲気の話が展開されていた。ここまで連続で夢を見てリューザは確信していた、これは偶然ではないと
「……気にしても仕方ないな」
しかしそこは陽気に受け流し、今日と言う日を生きる事にしたリューザは家の鍵を閉めると一目散に走り出した。リューザがここまで急ぐのには、ある理由があった
「今日は……新しい曲の発売日だよな!」
そう、リューザはCDショップへと向かっているのだ。大の音楽好きであるリューザは自身の気に入った曲は毎回逃さず手にいれており、特に今日新曲が発売する“Liv”の曲がその大半を占めていた
「とにかく急がないと!発売記念で今日だけ半額だからな!」
発売記念セールで今日だけ値段が半減すると言う耳寄りな情報を持っているからこそリューザは先に並ばれていないか心配なのだ。爆睡していたのにそれは矛盾しているだろうと思うかもしれないが、CDショップは休日は11時半から開店するので実を言うと丁度良い。そんな普通の学生らしい生活を送っているリューザに、後に大きな試練が降りかかろうとしている事は、まだ誰も知らない
一方その頃、かつて機関と呼ばれた者達のいた世界では五人の少年少女が一人の男と何かを話していた。しかし謎の男はフードを被っていて顔が見えず、分かるのは常人以上の長身と言う事だけだ
「……貴様ら、何者だ?」
「……我らは“レジェンドマスター”、未来からの使者だ」
「未来からの使者だと……!?」
謎の男は驚きを隠せなかった。通常時と言うのは幾つかの条件を満たさなければ越えられないもので、それも通常では不可能な物ばかりのはずだ。ましてやその歴史で起こる事は書き換えられず来るだけ無駄かもしれないと言うのにこのレジェンドマスターと呼ばれる集団は何をしに来たのか、一体何者なのか
「そして俺は“セフェル”。レジェンドマスターのリーダーであり、未来の代表だ」
「代表……?」
「お前の事は未来で調べた。お前はどうやら、相当な科学力を持っているようだな?そこでどうだ。我らに協力してみるのは?」
セフェルと言う名のレジェンドマスターのリーダーもまたフードを被っていて顔が見えず、隣にいる紅一点である少女に向かって頷くとその少女は一つのアタッシュケースを取り出した
「もし契約してくれるなら、未来の科学を纏めた資料がここにある。お前も科学者なら、黙ってはいないだろう?」
「……」
「悪い話では無いと思うんだが、どうだ?」
「フッ、面白い」
しかし、この男にとっては彼らの正体などどうでも良かった。
「契約しようじゃないか、レジェンドマスターよ」
謎の科学者はレジェンドマスターと言う謎の集団と契約を果たし、彼らに着いていった。彼らは一体何者なのか分からないが、彼らを出迎える一人の少年の姿があった。茶色の整ったロングヘアーであり、白い仮面で顔が隠されてはいるがどうやら少年のようだ
「契約成功したかい?」
「あぁ、当然だ“ホワイト”」
この不思議な雰囲気の少年はホワイト。ただでさえ謎の多いレジェンドマスターの存在を知る唯一の存在であり、かといって味方と言う訳でも敵と言う訳でも無いようだ
「そうか……君達は、“実行”するのかい?」
「……当然さ」
謎に包まれた二人の会話と共にこの存在しなかった城は夜を終え、リューザのいるボウフもまた時が進んでいく