SONG4【来訪者】
今日の全ての授業が終わり部活など特に入っていないリューザは下校中、いつになく大きな溜め息を吐いていた。理由は今まで4度も見てきた例の夢が今回に限って見られなかったと言う事。今まで疑問に思ってきたが流石に何度も見れば自然に感じ、何時も通りが無いだけでリューザは不安感を抱いていた
「はぁ……」
帰れば自分の好きな曲を聴けるとプラスに考えようとしてもやはり夢の事が頭に浮かび、リューザはどうしようもなく頭を悩ませていた。苦悩しつつ帰宅すること10分、自分の家のあるマンションの前に一人の少女のような歳上の少年が途方に暮れていた
「あの、どうしたんですか?」
よく見れば彼はこの都会では見掛けない人物であり、リューザはそんな彼に優しく話し掛けた
「いや、ちょっと道に迷っていてね。最近この町に来たけど、やはり都会は広いな……」
「よく言われます。でも、その分楽しい事もいっぱいありますよ」
「そっか。じゃあ、案内役を頼めるかな?この町をもっと知りたいんだ」
何処か遠い所からの来訪者の頼みをリューザは聞き入れ、それを示すように軽く頷いた
「ありがとう。俺は“霧風 ライガ”、宜しくな」
「リューザと言います」
他所からこの都会にやって来たライガと握手を交わしたが、表情こそ爽やかであるものの彼の目だけが何故か笑っていない事に気がついた。しかしそこは今は気にせずに、ライガを案内する事にした
「ここは、俺がよく立ち寄るCDショップです。最近のやつから古いのまでもう何でもあるんですよ!」
「へぇー、じゃあ何か一つ買っていこうかな?」
ライガはまるで無邪気な子供のようにそう発言すると、早速購入するCDを選び始めた。先程と違い目が輝いている事を考えると、彼もまた自身と同様に音楽が好きなのだろうとリューザは感じていた
続けて立ち寄ったのはとあるレストランであり、リューザはここの解説を始めた
「ここは“レヴェル”って言うレストランで、主に外国の料理を取り扱ってますね」
「外国か……もしかして、あの国旗の?」
店の壁に張られている国旗をライガは指差した。それは左が緑、右が赤、真ん中が白色の単純な見た目の物だった
「はい。どうやらここの店主がやたら拘りを持ってる見たいで。まぁでも、ジェラートとかは俺食えないですけど」
「あれ、もしかして甘い物とか嫌い?」
「と言うか、デザート自体あんまり食べないですね、基本は」
「そっか、じゃあよくご家族と来たりするのか?」
「いえ……俺、独りなんです」
“独り”と言う言葉を発するその表情は暗かった。実はリューザに家族はおらず、物心ついた時にはすでに独りだった。しかしそれでもアキラを始めとした友達や近所の人に支えられ何とか生活しているが、問題なのは家族の事を一切覚えていないと言う事。物心ついた時には両親はいなかった上に、その両親の存在を示す物すら無かった為にもうすぐ高校生だと言うのにリューザは未だに家族の顔を知らない
「……そっか」
それを察してくれたのかライガはただ頷いた。しかしその瞳は何処か冷たい雰囲気を放っており、その時にはリューザも気付かない内に頷いていた
その後もリューザはこの都会ボウフの名所をライガに紹介した。このような案内をしている日に限ってアキラに見つからなかったのは幸いと言えるだろう、もし彼が来ていたら完全に日が暮れていた所だ。もっとも、すでに時刻は6時半を回っているのだが
「これで大体終わったかな?どうですか、この町は?」
「良い場所じゃないか。こんな町がアースにあったなんて、気付かなかったな……」
夕日を見つめてそう言うライガのその微笑みは何処か切なく、何より笑っていると言う感じがしなかった。ライガがリューザの方に振り向くと、先程までの爽やかさが一瞬にして消滅すると同時に言った
「……一つ、聞きたい事がある」
「何ですか改まって?」
「……君の名前を今一度聞いておきたい」
「えっ?さっき言ったはずじゃ……」
「違う違う、スペルだよ」
どうやらライガが聞きたいのは名前のスペルのようだ。リューザは何故そんなことを聞くのか不思議に思いながらもそのスペルを答えた
「……“Ryxa”、ですけど……」
「……やっぱりな」
その瞬間突然ライガの声がドスを含んだ感じになり、先程までとは全く異なる雰囲気を放つようになった
「お前は“レイ・ディアス”と言う名前に心当たりはあるか?」
「レイ……?」
「惚けても無駄だ。だって、もうお前は“夢”で見ているはずだ」
自身がこれまで4度も見て今回に限って何故か見られなかったあの少年の夢の事を何も言っていないのに見破られた事にリューザは困惑し、その時から夢の中に出てきた少年がレイであることとこのライガが只者ではないと言う事を知った
「何故“レイの夢ばかり見る”か、それは……お前が“ノーバディ”だからだ」
「ノーバディ……?何だそれ……?」
「それに、さっきお前は独りだと言っていたが、ノーバディなんだから元よりいない訳だしな」
「さっきから何言ってるんだよ!?」
まるで会話が成立していない事に苛立ってきたリューザは昨日自身の手元に現れたキーブレードを出現させ、何時攻められても大丈夫な状態となったが、それを見たライガは先程言っていた“ノーバディ”と言う仮定を確信するにまで至っていた
「それさ!そのキーブレードが動かぬ証拠。あいつのノーバディだから、キーブレードが使える。おかしいと思わなかったのか?自分がキーブレードを使えたと言う事が」
確かに一般的にはおかしいと思われるかもしれないが、リューザは今までレイが当たり前にキーブレードを使っていた所しか見ていない為にキーブレードを当たり前に使える何かだと思っていた。その為今のライガの台詞からそれが特別な物だと再認識した
「さてリューザ。最後の用事だ……」
そう言うとライガは何処からともなく両手剣を取り出し、それを構えると殺気溢れた鋭い目をした
「悪いが、お前にはここで消えてもらう!」
今日案内したはずの人間が何故自分を襲うのか全く状況が理解出来ていないリューザだが、もしかすると道に迷って途方に暮れていたのも演技で全てはノーバディと言う存在であるかどうかを確め、始末する為に近付いたのかもしれないとリューザは悟った。先程出現させたキーブレードを構え、ライガとの戦いに臨む