SONG6【ウェンヴィス】
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だって。心配しすぎだ」
昨日は謎の少年ライガに突然襲撃され、何とかキーブレードや謎の力で退けたが同時に多少の傷も負ってしまった。しかしこの多少の傷と言うのがやけに気になった。何故ならあのとき戦っていた場所は半分ほど崩壊しており、それほどの威力があるなら普通の人間であればそれで生死を彷徨うはずと言う疑問が残るからである。幾つかの疑問は残るもののリューザは痛みを堪え、アキラとゆっくり下校していた
「ふーん、そうかもね」
流石と言うべきかアキラはそのマイペース振りを崩す事は無く、それは親友リューザの怪我に関しても動じなかった。まぁ多少の傷と言う事もあるだろうが、リューザなら大丈夫だとアキラは信じているとも取れる
それにしてもあのライガと言う少年は一体何者だったのか、そもそも彼の言っていたノーバディと言う言葉やキーブレード、そしてあのとき出現した謎の力など謎はあまりにも多い。ここ最近起きている出来事に悩まされている俺の頭はとうとう不安に支配されそうで、すぐに回りの物音がその思考に遮られた
「……ザ、リューザ!」
「……っ!?」
どのくらい思考が怪事件の事に支配されていたのか、その長さを物語るようにアキラが心配そうな表情でリューザの顔を覗き込んだ
「大丈夫?」
「アキラ……うん、大丈夫だ」
「本当に?」
――その時は、ただ頷く事しか出来なかった
――アキラを、こんなことに巻き込みたくなかったから
アキラと別れマンションの前に来るとまずはライガのような怪しい人物がいないか確認をし、5階にある家に帰ろうとしたその時リューザはある人物と出会った
「よっ、リューザ」
「ウェンヴィスさん!」
リューザの家の前で待っていた彼の名はウェンヴィス・エクスペリエンス。若干金色混じりの茶髪を特に目立たない程に逆立たせてあり、限りなく青に近い水色の瞳は早朝に見られる空の色と同様に綺麗だった。彼はリューザの友達の一人であり、旅商人として世界中を巡っている。そんな彼がここにいると言う事はその旅の途中でここに来たと言う事であり、リューザはウェンヴィスを家に招き入れた
「お茶しか無いけど、良い?」
「OKっス。悪いねわざわざ」
リューザはウェンヴィスにお茶を出すと、自分の身の回りで起きている事を彼に話そうか躊躇った。ウェンヴィスもまたアキラと同様に大切な友達であるため安易に巻き込む事は出来ないが、ウェンヴィスは旅商人をしている為自然と様々な情報が入ってくる。リューザはウェンヴィスなら何か知っているのではないかと思い、他に頼れる人もいないので彼に相談をする事にした
「……なるほど」
ウェンヴィスはリューザの話を一通り聞くと、暫く黙り込んでお茶を一口飲んだ。そして次の瞬間リューザを驚かせる一言を言い放った
「ノーバディなら、聞いたことがあるぞ」
「本当か!?」
ウェンヴィスはすぐに頷いた。今の一言はリューザを驚愕させるには充分な物であり、ウェンヴィスのその口から今までリューザの疑問であったノーバディの主要が語られた
「強い心や想いを持つ者がハートレスになった時、残された肉体と魂が別の世界で生まれ変わったもの……それが“ノーバディ”っス。残された肉体だからか光と闇の狭間に属する不安定な存在で、“抜け殻”だとか“人の半分”、“魂の存在”“存在しない者”って呼ばれてる。個体数はハートレスに比べてそれ程多くはないけど、個々の戦闘能力はハートレスよりも高く、ある程度の知能もあって統制能力もある」
「それって……あいつ、レイは1度ハートレスになったって言うのか?」
「そうかもしれない。それにリューザがノーバディと言う件も、昨日受けた傷が常人ではあり得ない事も考えれば辻褄が合う」
「じゃあ俺は……人じゃない?」
自分が人ではないと言う事実をリューザは受け止められなかった。今まで当たり前に過ごしてきた日常が、自分と言う存在が全てノーバディと言う一言で否定されてしまうのが怖くなったのだ。“自分が人ではない”、それを告げられて動揺しない人間はいないだろう、リューザの場合あのような事が起こった為尚更である
「……キーブレードについては詳しい人がこのボウフから遠く離れた“レイベス”に住んでるって話を聞いた事がある。もしかしたらレイって人の事も分かるかもしれない……レイベス行きの船は僕が何とかしておくから、1度行ってみると良いっス」
「分かった。ありがとう、ウェンヴィス」
ウェンヴィスの協力もあり、ついにリューザは自身の真実を確かめる為に動き出した