SONG9【失わない気持ち】
「以上が、キーブレードについてだ。他にも知るべき事はあるが、まぁそれは追々話すとしよう……詰め込みすぎは良くない」
「……そう言えば、気になった事が」
「どうしました?リューザさん」
「実は以前、ライガって言うやつに襲撃されて……その時に俺がノーバディだって言われて」
「ライガが……?」
「あいつは俺を消すと言っていた……ディアさん、教えてください。ノーバディは消えたらどうなるんだ?何故ライガは俺を消そうとするんだ!?」
ハートレスとキーブレードはディアから、ノーバディはウェンヴィスからそれぞれ聞いて様々な事が理解出来てきたリューザだったが、知れば知るほどあのライガと言う少年が何故自分を消そうとしたのか分からなくなってくる。そもそも何処の誰かも分からない人物であるが故に、余計に謎は深まるばかりである
「……ライガは、俺と同様レイの友人だ」
「えっ!?」
ディアから放たれたその言葉はリューザを驚かせるには充分過ぎた。ライガは自身の本体であるレイの友人、それなら何故そのノーバディを倒そうとするのか。その答えは鈴神の口から言い放たれた
「そもそもハートレス及びアンチネスになった人間は、倒されて心が解放されることで元に戻ります。しかし、ノーバディが生じている場合はノーバディも消滅しなければなりません」
「え……って事は……」
「すでにアンチネスは消滅している。恐らくだがライガは、ノーバディであるお前を倒せばレイが戻ってくると推測し、今も狙っているのだろう」
「そんな……」
「もっとも、レイ様は例外だらけの存在。ライガさんの推測通りになるとは限りません」
「……それじゃあ何故?」
「多分、ライガはこれに懸けたんだろうな。何せレイの帰りを待っているやつはたくさんいる、俺達だってそうだ。その為に、方法を選んでいられなかったのだろう。それが、どんなに罪な事でも……」
「それに、誰よりもレイ様を想っている人もいます。彼女の悲しみを知っているからこそ、ライガさんは他の方法を見つけられず貴方を殺そうとしたのだと思います」
「それって……クロナの事?」
ディアと鈴神は無言で頷いた。これまでに見た4度の夢に出てきた少女、クロナはレイの大切な人。故に他の誰よりも彼の帰りを待ち望んでいる。もし自分が彼女の友人だったらライガのように一刻も早くと焦り、罪に身を染めてしまうかもしれない。だが、不安定な存在であるノーバディを消した所で、きっと法律はそれを罪とは見なさない。ただ化け物が一体消えるだけだ。そうなるならそれでも良いと思った。だが俺にも友達がいる以上、本当に消えるべきか迷ってしまう。
――本当に、自分が消える事で全て解決するのだろうか?
答えは誰にも分からない、誰も教えてくれない。きっとどんな解答用紙にだって記されていない、どんな天才にだって掴めない答えを、リューザは迫られていた。このたった2択の、最大の選択肢を
――即ち、“生きる”か“死ぬ”か
「……自分の生死について、悩んでいるのだろう?」
やはりと言うべきかリューザの思考を読み取っていたディアは彼の肩に手を置き、先程までのクールな雰囲気からは考えられないほど優しい声で言った
「なら、ゆっくり考えれば良い。確かにあいつの考えも分かるが、俺は他に方法があると信じている。俺達は、君の味方だ」
「ディアさん……」
「リューザさん、答えなんて一緒に探せば見つかる物です。みんななら、百人力です」
二人の優しい言葉は不安だらけのリューザの心を支え、彼の笑顔を取り戻させた。自分がノーバディだとしても、リューザは苦しいとか辛い、悲しいと言った感情を感じている。これは紛れもなく生きている証拠。脱け殻じゃない、本当の心。みんなと共に悩み見つけるはずの答えは、この時すでにリューザの中で見つかっていた
――みんなに支えてもらった心を、殺したくない