SONG11【宣告】
「……決めたのか?」
もう間もなくボウフ行きの船に乗ろうとしているリューザを見送りに来たディアは彼に言葉にならないほど切ない視線を向けており、それはかつてこの世界を破滅へと追い込んだ存在“セイ・ディアス”とは思えないほどの“心配”を表していた
「はい。俺は、俺として生きる。その為に……レイを探します」
「でも、レイ様に関する情報はまだ……」
同じく見送りに来ていた鈴神がこの漠然とした状況に立ち向かおうとするリューザに補足しようとしたが、それをリューザは言葉によって遮った
「分かってます。けど、このままだとまたライガが来る。あまりのんびりしてられないんだ……出来るだけ早く動き出さないと。いや、多分この先ライガとの戦闘は、避けられない……!」
ライガは不確実な方法とは言え自分の友人を救う為に自身を狙っている、その事をリューザは知ってしまった以上彼を避けて通る事は出来ない。つまり、再び彼と交戦する機会が必ずこの先あると言う事。自身のか弱い右手を見つめ、ふと目を閉じると今まで自分が人間だと思って積み上げてきた思い出が過る。震える右手を左手で押さえ、自身の恐怖を断ち切らせるとリューザは顔を上げた
「それじゃあ、お世話になりました!」
「あぁ、気を付けてな」
「また来てくださいね……!」
リューザは何も言わず、笑顔で頷くと静かにゆっくりと乗船し、出航する頃には甲板上で空を見上げていた。これから自分はどのようにして生きていくのか、果たしてこの綺麗な青空は後何回見上げられるのか
「……真実を知ったみたいだな?」
突然背後から聞き覚えのある声がしたので振り替えってみると、そこには驚くことにライガがいた。先程までそこにいなかったと言うのに何故背後にいたのか、リューザは以前の彼との戦闘を思い出すことでその訳を察した。ライガは霧を使う事が出来る。恐らくその力を使って自身の姿及び気配を隠し、こうして今姿を現したのだろう
「……なら分かるだろう?俺だって本当はお前を消したくない……だが、レイを助けられるなら……俺はお前に矛先を向けなければならない……」
「ライガ……確かに俺を消せばアイツは助かるかもしれないが、なにも必ずそうとは限らない。他に方法があるはずだ!」
「方法?そんなものあったら苦労は無い!」
リューザの優しい言葉はライガにはまるで届かず、悲痛な表情を浮かべると共にその心情を露にした
「アイツを……レイをずっと待ってるやつがいるんだ」
「クロナってやつの事か……」
「そうさ。クロナはレイを探すために行動を開始した。だが、状況を考えてみろ!あれから1年、レイは消息不明のまま!これじゃあクロナが可哀想だ……だから俺は、クロナの為にお前を……!」
「……友達の為に、そこまで出来るなんて……」
友達の為だからこそ焦り、方法を見失ってしまう。リューザにはその気持ちが痛いほど分かった。何せリューザはライガがクロナやレイの事を想っているのと同じくらいアキラやウェンヴィスの事が大事なのだから
「……だけど俺は、俺のやり方でレイを見つける。そして俺は俺として、これからも生きていく」
「なら、決着を付けよう」
リューザとライガの二人以外誰もいない甲板上で、ある1つの約束が宣言された
「3日後、俺と初めて会った場所に来い。そこで再び、お前と戦う。お前が勝てば俺はお前を止めないし狙わないが、俺が勝てば……」
「俺は、消える……」
「正直お前のやり方も俺は納得している。だが、俺も一度決めた事を曲げたくはない。どっちの正義が正しいか、はっきりさせよう」
どうしても殺さなくてはいけないと言う残酷な方法を選んだライガ、誰も殺さず自分の生き方を貫きながらレイを探す道を選んだリューザ。お互いに相手の正義を理解していながらも自身の方法が正しいかどうか確かめたい気持ちがあった。互いの想いをぶつけ合い、その上で正しい答えを導き出す。ライガかリューザか、はたまた全く別の第3の答えが現れるのか。ここでリューザとライガの考えが一致し、彼の頷きによって3日後の決戦は約束された
「……分かった。ライガ、俺はお前を倒して……自分のやり方を示す!」
「そうか。じゃあ……また会おう」
その言葉と共にライガは何処からか発生した霧に包まれ、晴れた時にはすでにその姿はなかった。彼との決戦は3日後、リューザの瞳は決意に燃えていた