SONG12【明日への鼓動】
あれから3日が過ぎ、時は約束の日の正午。リューザは朝早くから起床し、この時間までずっと街を徘徊していた。特に何をやるわけでもなく、ただ街の光景を見て回っているだけ。本当にそれだけなのに、そんな当たり前な事が今だけは何故か凄く大事な事に思えて、心の奥が苦しかった。ノーバディは脱け殻である為心は無い、でもこの胸の苦しさは別のはず。自分が英雄のノーバディと言う事実も今ではある程度自覚出来ており、リューザの心は完全に定まっていた。
今日ライガと戦い、そこでその答えを出すと
「……」
何時も通りの青い空、街の賑わい。何もかもが当たり前で大切な自分の思い出。何時からここに自分自身を人間と錯覚して住んでいたのかは正直覚えていないほど楽しく、その時までは本当に人間であれたのではないかとリューザは思っていた。しかし、事実を知った今もう人間としての生活には戻れない
「俺は……」
ふと空に浮かぶ太陽に手を伸ばした。どれだけその手を伸ばしても届かず、例え掴んだように見えてもそれは自分が掌を握りしめただけ。本当に届かないのだ。そして心の何処かに秘めている今まで通りの日常に戻りたいと言う願いもまた、届かない想い
「……行かなくちゃ、ライガの所。決着を付けに」
「悪いけど、そうはさせないよ」
ライガとの約束の地へ向かおうとしたリューザを声で静止したのは親友のアキラだった。その表情は何処か虚ろであり、その訳をリューザが知るはずもなくアキラは唐突に現れた
「アキラ……?」
「ウェンヴィスさんから聞いたよ……もう、会えないそうだね?」
「……あぁ」
あの口の固いウェンヴィスの事だから言わないと思っていたが、いざこうして事実を知られてしまうと胸が締め付けられてしまう。普段ならこうして街でばったり会えば何時もの楽しく下らない笑顔の溢れた会話になるはずなのに、今回だけは暗い表情の二人がその雰囲気を真逆の物としている
「どうして!?訳を聞かせてくれよ……何か悩みがあるなら、僕が……!」
「もう良いよ、アキラ」
分かっていた、アキラが自身の正体を知っていながらあえて触れず連れ戻そうとしている事くらい。親友である以上その思考は読み取れてしまう。しかし、そんな親友とも永遠の別れをしなければならない。リューザは手慣れた仕草でキーブレードを出現させると、驚く事に自分自身の片腕を攻撃した。そしてそこには傷ついた腕ではなく、無傷の腕があった
「俺はすでに、人間じゃない。どれだけ怪我をしようとそれは怪我にならないし、普通の攻撃で死ぬ事は無い
分かるだろ?俺はもう、この街にはいられない……」
「それは誰が決めたの……?」
「誰も決めてない……でも誰でも知ってる事だ。異端者は消えていく、それだけさ」
「そんな!リューザがいなくなったら、街のみんなは!!」
「誰も悲しまないさ」
静かに言い放ったその言葉によって全てが沈黙し、絶句した。そんな冷たくありつつも何処か切ない台詞を一言だけ残したリューザは無情にも静かに去っていき、その後ろ姿をアキラは見守る事しか出来なかった
「僕は……悲しいよ」
最後に放たれた親友の言葉は、彼には届かない
以前にも彼と戦った場所は分かりやすい事に霧が発生しており、霧で出来たドームの中に入ると中央にすでにライガが待ち構えていた。その手には彼の得物である両手剣が添えられており、リューザの右手にはすでにキーブレードが握られている。となれば、やることは1つ
「リューザ……覚悟は、出来たんだな?」
「あぁ、この街の見納めは終わった……未練は、もうない」
その言葉は実際は真っ赤な嘘で、本当は数えきれない程の未練が彼の中に渦巻いていた。一体どれだけこの街で思い出を作ってきたか、それを考えれば思い残す事など幾らでも発見出来る。しかしそれでも嘘を付いたのは、リューザなりのけじめなのだ
「そうか……じゃあ聞くぞ。お前は、これからどうするんだ?」
「俺は……レイに会いに行く!」
その言葉1つで、ライガが絶句するには充分だった。予想はしていたが、やはりリューザはこの考えを曲げる気は無いようだ。そこも彼に似たのだとライガは苦笑しつつ、リューザの想い語りは続く
「レイに会って、あいつと戦う!あいつに勝って、俺が俺であることを示すんだ!そうすれば……本当に人間として、またこの街で……!」
「それが、お前の出した答えか……」
リューザの出した答えは、他でもない自分の存在を証明すると言うものだった。通常ノーバディは存在しないものであり、存在してはいけないもの。そして本体とノーバディが交わったとき、消滅してしまう。しかしそれを承知の上でリューザはレイに勝ち、その存在を成り代わる事で存在しようとしているのだ。他でもないこの街やアキラと、また一緒に笑う為に。それが自分がこの3日間最後に考えて出した答えだからこそ、リューザは精一杯生き抜く
「なるほどな。お前の考えはよく分かった……けど、俺にだって譲れないものがある!」
その瞬間、ライガの回りを緑色のオーラが竜巻のように舞い始めた。それから感じられる力は絶大であり、ライガの中から何かが顕現しようとしていた
「俺だってまたあいつと、レイ達と笑いたい。それもみんなでな。友達や、家族……仲間達全員で
だからリューザ、お前には俺の霧風流を全てぶつける!」
その瞬間、ライガから顕現しようとしていた何かが彼の想いに呼応するかのようについに現出した。それは下半身の無い独特な姿形の忍者と言った風貌であり、まさしく霧を操るライガを象徴するものだった
「これは、聖獣……!?」
「ライガも……覚醒した……!」
ライガが顕現させた聖獣に対抗するべくリューザもまた本体も同様に使用する聖獣エルシオンを召喚し、これでこの霧のドーム内に2体の召喚獣が並んだ。
「フッ……これは熱い勝負になりそうだ。行くぞ、“ミストラン”!俺達の力をあいつにぶつける!」
「頼むエルシオン、俺に最後の力を貸してくれ!」
木霊するエルシオンの叫びと呼応するようにリューザの両手が光り、そしてその手には別のキーブレードの姿があった。しかし1つではなく、2本だ。
「……流石ノーバディ、二刀流までコピーしているのか」
「正確には、“他人の心を借りる能力”だと思うぞ。ほら、カオスエンドドラゴンの時の」
「フッ、そう言う事もあったな。でもあの時に比べれば!」
リューザが語りライガが振り返っているのは1年前のダークエンドドラゴンの事件の事であり、そこでレイはファイブブレード光の勇者の真の力である他人の心を一時的に借りる力を使い使用出来るキーブレードの数を増やした。だがあの時は驚愕の4刀流であり、あの時に比べればまだマシだとライガは内心では思っていた。しかし次の瞬間リューザが人目には見えない程の早さで動き、いつの間にかライガの身体に斬撃を浴びせていた
「なっ……!?」
「遅い!」
さらに正面にいたエルシオンの奇襲を受けるがそれはライガの覚醒した聖獣ミストランが受け止め、なんとか受け止める事が出来た。どちらも聖獣が覚醒したばかりだが、その戦いぶりはまるでそれを感じさせないほど壮絶であり、レイの事を知るライガも彼の事を夢で見ていたリューザもレイがまだ黒歴史であった頃のディアと戦っている時を振り替えるような熱い激闘だった
「そこだ!」
ミストランがエルシオンの両手を封じている間にライガ本体が聖獣にアイスミストを放ち、それが被弾すると同時に触れていないはずのリューザにもダメージが発生した。
「くっ……!」
「情報通りだな。聖獣の痛みは発動者にもフィードバックされる……それは俺も同じ、油断出来ないな」
「ならこちらも!」
自身の本体たるレイが使用していた技の1つであるストームラッシュをミストランの腹の辺りに放ち、先程のライガと同じ方法でダメージを与えた。1回も練習していないはずの本体の技を使えると言うのは、やはりノーバディの特権だろうか
「やるな……ならこいつはどうだ!ファイガ!」
ライガが天空に向けて放った炎の魔法ファイガは火の粉のように飛び散り、上手くライガとミストランに当たらないように火の雨となってこのバトルフィールド内に降り注いでいた
「これで決める……
お前に逃げ場は無い、『ノーブル・チェックメイト』!!」
只でさえ火の粉の舞い散るこの状況でさらに何処からともなく騎士や姫に魔導士などチェス盤では一般的な職業の姿をした霧が現れ、丁度それらの死角となる位置にリューザはいた。チェスのルール通りならここでチェックメイトとなり、文字通り何も出来ずにやられてしまう。そう、あくまでもチェスのルールなら
リューザは諦めておらず、ライガの予想の斜め上を行き高くジャンプしてエルシオンの頭上に乗った
「何っ!?」
「行くぞ、エルシオン。お前の力を貸してもらう」
「何をする気だ……?聖獣のコントロールだけでも難しいと言うのに……」
「レイを知っているなら分かるはずだ。このエルシオンは、色の神と呼ばれている聖獣。その力を、“あの技”に合わせれば!」
リューザが言うあの技、それはライガ所か彼を知る全ての人間が思い浮かべるレイを代表するあの技だ
「……この手で道を切り拓く!轟け、『ラグナロクRD』!!」
レイがこれまでの戦いで使用してきた技の中でもっとも使用率の高い技、それ故に代表格となったのがこのラグナロクRDだ。赤い光の弾丸を無数に発射し、1つ1つの威力こそ控え目だがそのスピードは絶大と言う技で、二刀流と言う条件も染まってその威力を増していた。さらにそこにエルシオンの放った七色の光が交わり新たな力となった
「ラグナロクRDが、七色に!?」
「これが聖獣との連携技……『ラグナロク・レインボー』だ!!」
七色に輝くラグナロクはミストランとライガを共に捉え、舞い散る火の粉はそのエネルギーによって消滅、チェス盤の幻影も打ち消されてしまった。さらにそれに合わせるかのように霧のドームも消え、道を切り拓く最後の一撃がライガに炸裂した
「俺の……負けか……」
聖獣のダメージがそのままフィードバックし、身体に激痛が走る。ミストランの消滅に計らいライガも倒れ、リューザは彼の元に駆け寄った。その際にエルシオンは消滅し、二刀流も消え去った
「ライガ……!」
「お前の勝ちだよ、リューザ……これからはお前の好きにすると良い。俺は止めないよ。だけど、クロナは許さないと思え」
「クロナか……」
「あぁ。あいつはレイに何かあればすぐ飛んでくるからな……もしお前がレイを倒したら、血眼になって襲ってくるかもな」
そう苦笑しながら言うライガは何処か楽しそうで、まるで彼がいた昔を振り返っているかのようだった。自分がレイを倒す事でその思い出を奪ってしまうのか一瞬心が揺らいだが、すでにリューザはライガを倒してしまっている。もう、後戻りは出来ない
「あぁ……肝に命じておくさ」
「そうしとけ……さぁ、もう行った方が良い」
「そうだな……」
そうしてリューザは人間としての自分の故郷を去った。大事な親友や大切な人々を残し、たった一人で自分の存在を証明する為に。そうすれば、またみんなに会えるから。そう、
全ては、“いつか終わる夢”の為に
キングダムハーツ【Five・Blade】
――時の使者編――
――Start up!――
(レイ君……今、会いに行くよ)
あなたには何が聞こえているの
星空に誓い合ったあの日の約束?
求める世界はとても大きくて いつの間にか夢さえ忘れていた
過ぎ去っていく季節の波に呑まれ 溺れそうになる時だって
めぐりめぐる軌跡の息遣いを 感じられるのなら
もう 迷いなどないさ
空にこだまする明日への鼓動
瞬き煌めく星のように 光になって道を照らし出すよ
だから行こう 僕らの未来へ
風が歌い出す明日への鼓動
雲間に閃く虹のように 架け橋になり道を描き出すよ
だから ほら 顔を上げて 真っ直ぐ前を向いて
そうさ 行くよ 僕は
そうさ 行こう 君と 未来へ
(そう……君と行きたいんだ、未来へ)
Five・Blade Project
■作者メッセージ
皆様お久しぶりです!久しぶりすぎる更新ですが、皆様内容は忘れてませんか?忘れてませんよね?
今回でリューザ編は終わり、次からは本格的にストーリーが進行します。分かりやすく言えばKH2でロクサスからソラに変わる感じですね、本当に分かりやすい
さぁ、次は第4期本編でお会いしましょう。それでは〜
「空に木霊する明日への鼓動〜」
今回でリューザ編は終わり、次からは本格的にストーリーが進行します。分かりやすく言えばKH2でロクサスからソラに変わる感じですね、本当に分かりやすい
さぁ、次は第4期本編でお会いしましょう。それでは〜
「空に木霊する明日への鼓動〜」