SONG16【戦闘流儀(コマンドスタイル)】
「見事だったよ、クロナ。衰えるどころか、より進化しているね」
「黒凰こそ、以前よりもパワーが増していたわ。やっぱり、敵わないなぁ」
白凰ら白黒コンビの腕試しがまさに夕方と言う丁度良いタイミングで終わり、プラズマイトの復旧を手伝っていた白凰も戻りみんな揃って先程の戦いで盛り上がっていた。特に今一番話題に上がっている事としては相変わらずの黒凰の超パワーであり、やはり片手のみで巨木を引き抜いたと言う伝説は伊達ではないようだ。それとは対照的にスピード重視の白凰は以前にも増して得物の扱いが上手くなっており、私からすればすでに自分のキーブレードを持っていてもおかしくないほどである
「何を言うか。黒凰にはパワー、クロナには魔術と攻撃速度と言うように……それぞれに与えられた長所がある。ならばクロナは、今まで通りを極めればよい」
「まぁ君の場合極めすぎて、ネズミ並の紙装甲だけどね」
「それを言うな黒凰……」
もはや安定と言うか懐かしの黒凰の毒舌が発動し、それは見事に白凰の弱点を抉ったようだ。まぁスピードタイプが防御力が低いのは定番だが、白凰の場合は一言言われるだけでショックを受けるほどに気にしていたようで、案外そのジンクスを覆してやろうと思っていたのかもしれない。しかし同じ速度重視である忍の場合は防御所か避けるので、まずそれを見習えば良いのではと思うのは後の話
「まぁ気持ちは分かるよ白凰、僕だって攻撃受けると痛いし」
「フォローになってないぜフィオ……」
元々の能力が遠距離攻撃に向いている為に同じく防御力が心許ないと言う共通点を持つフィオ君がフォローに入るが、すかさずダーク君が『間接的に攻撃を受けたらどうしようもないと言う弱点を言ってしまっている』事に気付きそれにツッコミを入れる。その為に白凰は言葉もなくさらにどんよりとした雰囲気を強くしてしまい、黒凰が鼻で笑っているこの光景はまさにどっちが白凰でどっちが黒凰か初見の人が困惑するほどである。それにしても黒凰は、何時になってもやはりドSだったと言う事になる
「と、とにかく!みんなそれぞれ違う弱点があるんだし、それを克服したらどうかな?防御が心許ない人は、忍者みたいにするとか」
「忍者って言われると、自然とライガが思い浮かぶな」
自分で忍者と言う言葉を出しておいてダーク君のその言葉でようやくそれに気が付いた。確かにライガは髪型も忍の時代のそれに近く、行動の手早さや戦法がまさしく忍者のそれなのである。その上肉弾戦になってもそこそこ腕っぷしは強いため防御力も安心所か驚異であり、耐久力に自信のない人はまず身近に彼がいた場合参考にしそうである。その証拠に、ここにいる耐久力のない約2名がハッとしていた
「そう言えば、ライガどうしてるのかしら……?」
「確かシュージのやつも最近見てないって言ってたし、親友にすら連絡しないってなんか変だな……」
ここで言う親友とは無論シュージ先輩の事であり、ライガと彼は私達が知り合う前からの仲なのである。良くも悪くも対照的な二人の先輩はあっという間に馴染んでいき、いつの間にか仲間になっていた。クラスで例えるならシュージ先輩が音楽家で、ライガが忍と言った所か
「白凰に黒凰は、何か心当たりはある?」
「いや、我らも彼を見ておらぬ」
「……」
無言で頷く黒凰の目もまるで嘘をついておらず、白凰もその直後に『すまない』と付け加え頭を下げた。普通ならただ最近忙しいから見ないと言う程度で済みそうだが、ただでさえすでに一人行方不明となっているのでその彼を探すために行方を眩ましたとも充分考えられてしまう為にみんなの不安が高まってしまうのである
「さて、例の話もシュージ先輩から聞いたのだろう?ならば我らも協力する。異存はないか、黒凰?」
「無いに決まってるだろ、このハリネズミ」
もはや相変わらずのやりとりをしてこちらに笑顔を向ける二人と同時に握手をし、白黒コンビもまた私と共に再び彼を探す旅に同行してくれる事になった。二人に『ありがとう』を伝え一緒に戦うのがダークエンド事件の時以来だなと感じていると、何処からともなく気配を感じた
「どうしたの、クロナちゃん?」
「……いや、何でもないよ。ちょっとトイレ!」
何でもないと言いながらトイレに行くと言う明らかに矛盾した行為で誤魔化したものの、その気配を追いかけて気がつけば北の森の方角に戻っていた。謎の気配が消えてたどり着いたのは少し広目のフィールドであり、ここでなら存分に戦えると思わされるように丁度良すぎる空間だった。となれば謎の気配の狙いはただ1つ、背後にそれを問い掛ける
「狙いは決闘、そうでしょう?」
「……あらら、気付いてたか」
案の定後ろへ振り替えるとそこには若干金色混じりの茶髪を特に目立たない程に逆立たせてあり、限りなく青に近い水色の瞳を持った少し大人びた雰囲気の青年がいた。足音もなく背後を取った所を見る限り彼は相当な手慣れのようで、彼の顔も見覚えがない。となれば彼を怪しむ他なく、真っ先に浮かんだ事は1つだった
「貴女……あの5人組の一人なの?それとも……あの仮面の男?」
「言うなれば、どっちでもないぜ。でもまぁ、そいつらの事は知ってるッス」
「なら今すぐ答えなさい!貴女が何者で、何をしにここに来ているのか!」
しかしその質問に言葉では応えず、謎の青年はその場で軽く1回転すると不適な笑みを浮かべて構えた。その際に、右手にあるものを現出させて
「キーブレード!?」
謎の青年が顕現させたその特殊な形状の武器は紛れもなくキーブレードで、嘘偽りのない本物だった。彼のそれの登場に呼応するかのように私のシャインセイバーも左手に握られ、戦いの本能が私を戦闘体勢へと移行させる。身の毛もよだつようなこの闘気、私はすぐにそれらから察した。油断すれば、一瞬で叩き伏せられると
「そんなに知りたければ、勝負に勝つんだな。俺はウェンヴィス・エクスペリエンス、旅商人やってる。さぁ、始めるッスよ!」
「私はクロナ、クロナ・アクアス。キーブレード使いの一人として、参ります!」
突如私の前に現れた謎の青年ウェンヴィス・エクスペリエンスは戦闘開始と共になんとキーブレードを一旦天空に放り投げ、それを再び片手でキャッチした。その際、得物が逆の方向となって握られている
「逆手持ち……?」
マスターエラクゥスの元にいて修行していたとされるキーブレード使い、ヴェントゥスの戦法である逆手持ちによる抜刀術。それをこのウェンヴィスは習得し、リスペクトしていると言う事だろうか。何にせよ油断することは出来ず、特にその戦法と同様であれば“あの奥義”が来る前に決着を着ける必要がある
「行くッスよ!」
掛け声と共にウェンヴィスはラストアルカナムとソニックレイヴの中間とも取れる猛ラッシュを繰り出し、それを防ぎつつ後方に下がり氷弾を発射する事で彼の動きを妨害した。よく見れば逆手持ちの開祖たる人物のそれによく似た彼のキーブレードの刃身はそれにより凍てつき、思ったように動かなくなった
「よし!」
「やるッスね……ならこれだぜ!ファイラ!」
ウェンヴィスが途端に唱えた魔法『ファイラ』により刃身を縛る氷がみるみる溶けていき、次にそれを降り下ろした時には完全に氷がなくなっていた。さらに溶けたあとの水により幾らか剣も重くなっており、特に直接火がぶつかることにより溶けたものなので熱湯となり私を襲う。しかしそれよりも冷たい氷の盾を形成し受け止める事で隙を生ませ、そこを私の一閃が貫き一撃を与えた
「はぁっ!」
貫いた閃光はウェンヴィスの技を止めさせ、一見最初の一撃を与えることが出来たように見えてもその隙に私も見えない所からキーブレードを投げる事で放たれる『ストライクレイド』による斬撃を受け、実際は五分五分だ。それにしてもこのウェンヴィスと言う青年、初見では攻略の難しい氷の技を簡単に突破し私に食らい付いてくる辺り、やはり相当に強いと言う事なのだろう。まだお互いに1手2手しか手の内を見せていないとは言え、早くも危機感を抱いている
「ハハッ、やるなぁ!ならそんなお姫様には、俺の本気を見せてやる!」
「お、お姫様っ!?」
「行くぞ……スタイル、解放!」
自身の力を駆動する為の口上を高らかに宣言し、次の瞬間にウェンヴィスは強大な風を纏い水色の光を放っていた。これが私がもっとも恐れていた、ヴェントゥスも使っていたとされる強力な戦術。人によっては『コマンドスタイル』とも称されるその力によりウェンヴィスは絶対的なスピードを得、彼と同等のキーブレードの力を発揮する
「これが……“スピードレイヴ”!?」
■作者メッセージ
どうも〜、レイラです!
今回はウェンヴィス久し振りの登場回でした。
今回は彼との突然の戦闘前半戦でしたが、次回は後半戦。あのスピードレイヴを発動したウェンヴィスにクロナはどう立ち向かうのか、ご期待ください
今回はウェンヴィス久し振りの登場回でした。
今回は彼との突然の戦闘前半戦でしたが、次回は後半戦。あのスピードレイヴを発動したウェンヴィスにクロナはどう立ち向かうのか、ご期待ください