DREAM1【私の始まり】
『行っらっしゃい……もし貴方が消える事になっても、何もかも無くなっちゃっても……私の事だけは、ずっと覚えていて。』
『……うん!約束する!!』
あの日誓い合った約束は……未だ果たされてはいない
二人の約束を、私――クロナ・アクアスは窓からあの青空を見上げながら思い返していた。
あの全世界を巻き込んだ大事件から1ヶ月。私はこのアースにある病院に入院している。この1ヶ月で傷も癒え、後数日もすれば退院出来るらしい。
私は1度自分の今の姿を見るために1度鏡を覗いた。とても長くて綺麗な紫色の髪、クリスタルのように透き通る青い瞳。1ヶ月前と特に変わらない見た目だけど、1つだけ変わった事があった。
それは私から笑顔が消えていたという事。多分、理由はわかる。それはレイ君がいなくなってしまったから。
レイ君は私の幼馴染みで、その付き合いは一才の頃から。初めて逢ったあの日から私達の歩みは始まり、二人はまるで本当の兄弟のように仲良しで、決して離れる事など望まなかった。
だけど、あの日――十年前――に、私達は引き裂かれる事となった。
謎の化物、【アンチネス】。アンチネス達はとある人物の指示により、レイ君やみんなから私を奪った。
それ以降、私はブラックプリズンと呼ばれる監獄の世界に幽閉されていた。十年もの間私はただ彼の助けを待っているだけだった。
そして、彼は助けに来てくれた。そして思わず彼の名前を呼んだ。
『レイ君……!』
レイ君に助けられてからは、彼と行動を共にするようになり、お互いに助け合いながら様々なワールドを冒険していった。
その途中、様々な事実がわかった。
まずはレイ君の心の闇、【セイ・ディアス】。彼はレイ君を利用してχブレードを産み出し、キングダムハーツと同様の心を持つ【キングダムハーツの巫女】である私の心の扉を開き、この世に再びキーブレード戦争を引き起こし、今の世界を壊そうとした。
でも、それはレイ君達によって阻止され、彼はレイ君の心に還っていった。
セイが言っていた通り、アンチネスは世界で一番強い闇の存在に従うと、誰もがそう思っていた。
でも、誰も気付かなかった。いや、真実は隠されていて、気付けなかったのかもしれない。
アンチネスは実は世界の一番強い闇ではなく、とある邪悪な存在に統率されていた事が判明した。それは、【ダークエンドドラゴン】。
ダークエンドドラゴンは古の時代から存在し、光の世界の住人達をみるみる内にアンチネスに変えていった。
ダークエンドは世界の全てを破壊しつくし、世界が終わりを告げたその時、5人のキーブレード使いがダークエンドに挑んだ。
5人の勇者とダークエンドの戦いは熾烈を極め、その最中、多くの犠牲があった。
でも、勇者達は見事にダークエンドの封印に成功し、伝説となった。だけど………
「クロナ!」
その声に私ははっとした。病室の入り口には身長が低く、金髪のツンツン髪で、水色のPの字が真ん中に刻まれたバンダナが特徴的なフィオ君、先程声を掛けてくれた藍色の逆立ち頭で、オレンジ色で若干目付きが悪い目のダーク君がいた。
「二人とも。」
私は二人の元へ歩き、笑顔を見せた。でもそれはすぐに作り笑いだと気付かれ、二人は気を使ってくれるように言った。
「もう寝てなくて大丈夫なのか?」
「うん!元気満点だよ………。」
元気満点と自信満々に言ったつもりだったけど、やっぱり不安は隠しきれなかった。私自身が発した声なのに、何故か聞いていると泣けてくる。それでも私はみんなに泣いた顔は見せられない。だから私は再び笑顔を見せた。
「クロナちゃん……。」
「なぁ、どう思う?」
ダークとフィオが病院の外で先程の出来事について話している。ダークの不安が入り交じったように放たれた質問をフィオはスルーしようと思ったが、辛くも答える事にした。
「やっぱりレイがいなくなった事が心の傷になっているんだ……。」
「………だな。」
「……そろそろ帰ろう。紫音やヒナタさんも待ってるだろうし。」
「………あぁ。」
その頃、私――クロナ――はリハビリを終え、病室に戻ろうと歩いていた。この病院で知り合い、仲良くなった人は実は数人いて、もうすぐその人達とも会えなくなくとなると少し寂しい感じがする。
「…はぁ……。」
1つ溜め息を尽き、自身の病室の扉を開くと、そこには以前出会った赤髪で太陽のように四方八方に逆立った髪型で長身の謎の研究者、キルアントがいた。キルアントは私が部屋に入ってきた事に気付き、腕組をしたまま振り向き、静かに口を開いた。
「調子はどうだね?クロナさん。」
「お見舞いありがとうございますキルアントさん。最近は大変良くなり、あと数日もすれば退院出来ると言われています。」
「フッ、そうか。それは良かった。」
私はとりあえずベッドに座り込み、キルアントさんはその隣にあった椅子に座る。
「みんなは?」
「無事のようだ。ダークエンドキャッスルが崩れ落ちる際、地上に戻ったメンバーが力を結集し、ダークエンドキャッスルにいたメンバーを地上に転移させたらしいぞ。」
私はその言葉を聞き安心した。みんな無事であるという事は私には何より嬉しい。でも、ただ一人だけは無事じゃない………
「さて、そろそろ本題だ。」
突然キルアントさんが血相を変えて口を開いた。その瞬間に私も表情を変え、彼の目を真っ直ぐ見つめる。
「今回は君に、大事な事を伝えに来た。」
「…………何ですか?」
「実は…………レイの生命反応が消えたのだ。」
「えっ!?」
レイ君の生命反応が消えた!?そんな事私は信じられなかった。そもそもキルアントさんが何故そのような言葉を放ったのかもわからない。何を根拠にそんな事が言えるの?そう思った時、キルアントさんの口から信じられない言葉が放たれた。
「実は、あの事件の後私はレイの行方を探すため、様々な実験を繰り返し、ついにレイの生命反応をキャッチする装置を開発した。」
「完成したその装置を起動させてみると、レイの生命反応はトワイライトタウンという世界から発されていたのだが、突然信号が遮断され、行方がわからなくなった。」
「そんな………!」
「その後、装置のモニターにとある文字が現れたのだ。」
そう言ってキルアントさんは私に一枚の紙を手渡した。恐らくこの紙にその文字が書いてあるという事なんだろう。私はその紙に刻まれている文字を読み上げた。
「ドリーム……ワールド?聞きなれない言葉ね?」
「そう、私はすぐにこのドリームワールドについて調べてみた。すると、とある結果にたどり着いたのだ。」
「それは、世界中の子供達の夢から出来た世界、眠りの世界とはまた違う、光はおろか、闇でも狭間でもない世界。」
「夢の……世界。」
私はこの言葉に思い当たる事が1つだけあった。少し前に私の夢の中に現れたローグとルプクスという名前の二人。彼らは自身の事をドリームイーターの中でも特殊な存在である、【夢の民】と名乗り、現実世界の不安の元凶であるダークエンドを倒してほしいと言っていた。ダークエンドは今では倒され、再び眠りについた。だから彼らも安心しているのかは定かではないけど、レイ君を探すために開発した装置に夢の世界という文字が写し出されたとなると、関係無いとは思えない。
「もしかすると、夢の世界にレイの行方のヒントがあるかもしれないと私は踏んでいるが、残念ながら夢の世界へ行く方法がわからないのだ。」
「…………。」
「さて、私はそろそろ装置の修理をするために戻る。今は待つのだ。」
そう言ってキルアントさんは病室を出ていき、私は部屋に一人取り残された。私は窓の外を見つめて呟いた。
「………待てないよ。」
その夜、私はとある夢を見ていた。いや、夢と言うよりも意識だけがその不思議な世界に来ている感じだった。その世界は周囲が七色に煌めき、時々その一部が白く輝く、以前私が訪れた、あの二人と会った場所だった。
周囲を見てみると、以前来たときより光が無くなっている気がする。ダークエンドは倒され、夢の世界を脅かす人々の不安は消えたはずなのに、何故?
「クロナ。」
振り替えると、そこにはあのときとまるで変わっていない容姿の二人、ローグとルプクスがいた。私はこの空間の異変を聞こうと思ったが、それより先にローグの口が開いた。
「クロナ。ダークエンドドラゴンを倒してくれてありがとう。」
「だが、今夢の世界は、新たな危機に襲われようとしている。」
「えっ!?」
ローグの放った言葉はあまりにも衝撃的だった。そもそも夢の世界とは、ローグとルプクス曰く、人々の見る夢から形成され、人々の理想が具現化される世界。この世界がどのような世界になるのかは人々の夢次第で、良い夢なら希望の世界に、悪い夢なら絶望の世界となる。そう、つまりは人々の気持ちの持ちようがこの世界を作る。
「人々は、ダークエンドドラゴンの事件の後、また何かが起こる前触れだと嘆き始めた。」
「そしてせっかく出来た希望もどんどん絶望に変わっていって、良い夢を見る人はとうとう数人になってしまったの。」
「人々の気持ちが夢に反映する。絶望を抱けば当然悪い夢しか見れなくなってしまう。夢の世界は今、絶望の世界になろうとしている!」
「このままだと、夢の世界は壊れ、子供達が夢を持てなくなってしまうの!お願いクロナさん!私達に力を貸して!」
突然お願いされても私は力になれるか不安だった。私は傷が癒えてきたと言えどまだ病人。そこまで戦えるほど回復していない。しかも夢の世界事態どうやって行くのかわからなかった。でも、それを考える時間は私には残されてはいなかった。
「わかった。でも代わりに頼みがあるの。」
二人は軽く頷き、私は自分の頼みを二人に伝える。
「もし夢の世界を救ったら、レイ君を探すのを手伝ってくれないかな?」
「良いぜそのくらいなら。」
「世界を救ってくださるんだからね。そのくらいはしてあげないと。」
「ありがとう!」
私は二人にお礼を言い、勢いよくお辞儀をする。それを見たローグが腕組をして、言った。
「まず夢の世界に行く方法だが、普通行くことは不可能とされている。だが、俺達夢の民の力でなら、意識だけを送り込む事くらいは出来る。」
「意識だけを?それだけじゃ意味ないんじゃ?」
「大丈夫だ。しっかり考えてある。」
と、ローグは自信満々に言って見せた。クールそうな雰囲気を放っているローグが自信満々に考えてあると言い張るのは何だかシュールだけど、とりあえず私はそれに身を任せてみる事にした。
「所で、【あの二人】は今眠ってる?」
その質問をしたのは私だった。何となくだけど、私一人の力では夢の世界を救えないと思い、遠回しに二人も連れてこれるかと聞いてみた。するとルプクスが私の質問に答えてくれた。
「うん。眠ってる人なら、意識を連れ出す事くらい出来る。」
その言葉に自然と安心感を覚え、私はローグの方を向き、『準備OK』と言うように強く頷いた。
「よし、今から意識を夢の世界に転送するぞ。」
ローグが放った光が私を優しく包み込み、私は夢の中なのに深い眠りに落ちていった。
やがて私の意識は、何処か遠くへと飛んでいった………