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瓢箪の美酒、仙楼を映して

恵・月烏賦

INDEX

  • あらすじ
  • 01 第一章
  • 02 第二章
  • 第一章

    頭上に響く、禍々しい咆哮。

    近づいてくる、無数の足音。どんどん大きくなるその音は、止んだ。

    分かる。自分の隣で止まったのだ。誰かが、自分を見ている。


    「こいつ、こんなところで何寝てやがるんだ?」
    「邪魔なんだよな…。どう処分する?」

    二人の男が見下ろしているのが分かる。目線を感じ取れた。異様な気配も感じ取れる。声も、個性豊かでもなく、感情を抱きもしない、ただ単調な音程の声。長い間聴いていると、おかしくなってしまいそうな…。
     男どもが悩んでいると、もう一人誰か来たようだ。

    「そいつ、処分するのか?」
    「おう。邪魔だからな。妖蛇様の神聖なる巣の近くで、こんなに堂々と寝ころぶ奴、生かしておいても重宝ないだろうしな」
    「勿体無いぜぇ?強そうな体つきしてるが…。強い奴なら、扱使っちまえばよくないか?拾ってやった恩が云々〜とでも言っちまえばよぉ…。それに、弱くても奴隷にでも使えばよくないか?言う事聴かないなら処分でいいだろうけどよ」
    「名案だなぁ、おい!そうしちまおうぜ!」

    自分が起きて聴いているとも知らず、男どもは話し続ける。
    自分は、奴隷にされるのか。自分は、扱使われるのか。
    別に何の感情も抱かなかった。ここが何処かも知らないし、話の内容もついていけないのだ。勝手にすればいい、と思った。
    「妖蛇」? 神聖な巣?そんなもの、どうでもいい。

    自分が知りたいのは、ただ一つ。

     ”  私は…   誰だ…   ? ”



    −XXX−



    「妖蛇」を討たんと心に誓った生き残りの将たちは、それまでの敵対関係も全て一時的に水に流し、ただ「妖蛇」を討つという同じ使命をこなす為に、荒れ果てた大地の上で、討伐軍結成を図った。名だたる将は、やはり「妖蛇」に尽く贄にされ、残ったのは司馬昭、馬超、竹中半兵衛を頭角とした、ごく少数の名将だった。

    「妖魔どもめえぇ!よくも馬岱やホウ徳殿を…!絶対に許さん!我が正義の槍で、全員八つ裂きにしてくれる…!」
    「まぁ、落ち付くんだ 馬超さん」

    半兵衛が止めた。この陣営で「妖蛇」にぶつかっても、勝てる確率など無に等しいのだ。この戦力では、幾ら名将一人一人が有能であっても、相手は妖魔の集団。是より何倍もの人数が居るし、尚且つあの強大な「妖蛇」を撃退できるような威力を持った武器も必要であろう。今我らが持っている武器でちくちくと「妖蛇」を突き刺した所で、倒せるのも夢の彼方であろう。

    半兵衛は分かっていた。この戦、勝てるわけがない。

    『無謀なんだ。人間と妖魔の大群の争いなんて、勝てる訳がないんだ…』

    迫りくる開戦時間。もうここで、自分は、贄にされる――
    自分の、寝て暮らすという夢は、塵滓と消える…。

    「まあ、努力はしてみよう。駄目なら潔く散るだけだもんね」

    半兵衛は決意を固めた。援軍でも来ない限り、この状況、覆せるものでもない。心強い援軍が来てくれる事を強く祈っていた。
     せめて、少しは抗ってやる…。
    半分自棄糞になっているが、そんなこと言っていられないのだ。
    とにかく今は、凄絶に抗い続けるしかない。

    「いこう。時間だよ。 相手は待ちくたびれてるだろうね」

    馬超は頷いた。司馬昭は苦笑いしたが、刀を持つなり顔色が一変し、覚悟を決めたように、鋭い顔つきになっていた。

    「往くぞ!正義を最後まで貫き通す!」
    「それじゃ、いってみよー」
    「おう、やってやろう!」

    三人は武器を持ち駆けだした。妖蛇の巣元へと。
     この後自分達に降りかかる宿命が良きか否か等、知る由もなかった。



    −XXX−



    気付いてみれば、先とは違う風景が眼の前に広がっていた。
    先の男どもに連れられたのだろうか。起き上がろうと腕を使って立とうとすると、何故か腕が言う事を聴かなかった。手首に妙な冷たさを感じていたが、それが錠だと今気付いた。

    じゃらり、と音を立てて手錠に繋がった鎖が揺れた。
    背中の方に腕をまわされた状態で手首を封じられていたので、どうも身動きが取れない。念入りに足首まで錠がつけられていたので、横たわっている事しか出来なかった。

    鎖の立てる金属音に気がついたのか、先ほどの男どもが自分の前に集って来た。牢屋のような室の中に入れられた自分が酷く滑稽なのか、にたにたと笑っている。

    「おい、お前!名前はなんだァ?!この俺様の下で働かせてやる!」

    いきなり三人の中の一人が自分に対して呶鳴った。初対面でこの扱いか、とふと思ったか、どうでもよい事だった。改めてこいつ等の顔を拝んだが、どうも気色の悪い顔つきである。三人とも同じ顔だし、見ていると腹が立つような、そんな顔である。

    『この者達、何者なのだ…?』

    疑問に思ったその時、何故か体全身に激烈な痛みが走った。

    「ッ…?!」

    声を出して叫ぶ事は堪えたが、まるで刃物で刺されたかのような激痛が走った。大きく荒い息をひとつ吐き、呼吸を整えていると先に大声を出した男が言い放った。

    「ハン!俺様の質問に答えないからだ!その錠は電流を流して無理矢理調教できるんだからな!」

    自分につけられていたのはどうやら猛獣等を調教する為によく利用される電流対応錠の様である。高い電流を流し、言う事を聴かぬ猛獣等に強烈な痛みを味わせ、恐怖と激痛を憶えさせ無理にでも手懐けさせるというモノだ。

    言う事を聴かぬ場合は、錠を扱い言う事を聴かせるつもりであろう。

    『汚い者達だ…』

    そう思った。知らぬうちにこのもの共に対して敵対心が芽生えている気がしたが、どうでもよかった。また一人の男が話し始める。

    「さあ、もう一度チャンスをやろう!お前の名前を言え!」

    もう一度あの痛みを味わいたいか、と言わんばかりに問い詰めてくる。
    面倒だ。自分が一つだけ知っている事を、教えてやる。

    「…私の名は酒呑童子。それ以外の事は何も知らぬ」

    酒呑童子(しゅてんどうじ)。それが、彼が知ってる、唯一の自分の事。
    酒呑童子の顔を見るなり、男は頷いた。そして彼に向って言い放つ。

    「俺様の名前は… っと、教えるまでもないな!これからみっちり働けよ!」

    男は名前を言いもしない。かなり無礼な話だが、酒呑童子は特に気にはしなかった。当てもないので、この男に一時的についていけばいい。新たに共に行くべき者が見つかれば、その者についていけばいい。

    まずは、この者に寄生し、自分の事を一つでも思い出せたら…。

    どう卑下されても良い。とにかく自分が何者かが知りたいのだ。
    酒呑童子は啼き、探し求めていた。答を持つ者、手を差し伸べてくれる者を――




    −XXX−



    「なんだと?遠呂智の力が暴走して、妖蛇として蘇生した?」
    銀髪の美青年が言う。隣にいる鎧を纏った大きな男が返答した。
    「うむ。なんとも面倒な事になったものじゃ。坊主、妲己の場所もまだ特定できておらんのじゃな?」
    「分かっているならすぐさま仙界に戻らせ罪を償わせている。全く、毎度毎度騒動を起こすな…妲己は。罪は何に値しようか?クク…遠呂智同様、永久(とこしえ)の虚無…か?」
    美青年は嘲笑った。永久の虚無。それは、死すら許されぬ永遠の無。
    ただ真っ暗の世界で、何もせず暮らすのだ。何をすることも許されない。
    遠呂智は、永遠とその罪に伏せるはずだった。

    だが、現状は違う。

    妲己が遠呂智を永久虚無の獄から逃がしたのである。
    罰則から抜け出した遠呂智は忽ちその身にため込んでいた力を解き放ち、人間界を異世界へと変え、残虐の限りを尽くした。

    忽ち異世界は赤く染まった。妲己も遠呂智に加勢し瞬く間に異世界は妖魔の住処となった。この状態を無視できまいと立ち上がった人間達は、敵対関係を忘れ皆で結束し、絆を深めていく。そして遂に人間の力は遠呂智を凌駕し、遠呂智は敗れ去った。

    そんな過去があったにも関わらず、またこの騒ぎ。呆れるしかなかったが、遠呂智は前より何倍もの力をつけているはずだ。暴走した力のせいで理性を操れず「妖蛇」として蘇生し、荒れ狂い続けている。
    見過ごしてはおけまい。それに、前回とは違い、大量の人間はすでに贄になり、今異世界に居る将はごく僅。この状況を、とても覆すことはできなかろう。

    例え、前回に遠呂智の力を凌駕した、人間の絆があったとしても。

    鎧姿の男は、項垂れた。
    美青年と鎧姿の男が途方に暮れていると、突如光陣が二人の目の前に現れ、美しい黄色の光の輝きに包まれた、一人の女性が現れる。
    「太公望様。伏犠様。こちらにおられましたか」
    「おお、かぐやか。どうだ、妲己の尻尾をとらえたか?」
    「いえ、妲己様の現在地は存じ上げません…。ですが、異世界の方で動きがあった模様ですので、お伝えに参りました」
    鎧姿の男は伏犠(ふっき)、銀髪の美青年は太公望(たいこうぼう)、光陣から現れた女性はかぐやである。
    ここは仙界。人間界を超過した都市機能と文化を取りそろえた、仙人のみがいる事を許される場所。仙人とは、見た目、体内部の構造等は人間と全く変わらないものの、人間にはあり得ない特殊能力等を使いこなす者達の事である。

    人間には寿命があり、仙術等は使いこなせない。妖術は修行すれば人間も習得できるが、仙術とは比べ物にならないほど微能力なのである。
    それに比べ、仙人には寿命がない。死のうと思えば死ねるものの、そう思おうとしない限り、仙人が寿命を迎える事はないのだ。人間が仙人を殺すことは不可能だし、仙人を殺すには相応の能力が必要となる。
    さらに、仙人には特殊能力が備わっている。瞬間移動を使いこなし、宙を飛び回ることもできる。手を鳴らせば対象の物を燃やし、掌を翳せば対象の物を凍てつかせる事も出来る。メルヘンチックに例えてしまえば、魔法使いのようなものである。

    かぐやは、太公望と伏犠に一礼する。
    「で、異世界で何があった?申せ」
    「人達がごく少数ですが結束し、妖蛇に立ち向かおうとしています。相手は妖魔の大群です。いくら人の絆が強くても、この劣勢を覆すのは無謀にございます」
    「遂に人間も…おしまいかのう」
    伏犠が溜息をついた。
    妖魔と言うのは人間でも仙人でもない類。人間のような体つきをした者もいれば、全く違う姿かたちをした者もいる。仙人のように瞬間移動出来たりするが、人間・仙人と全く違うのは、性格である。
    人間は思いやる心、信じる心を持つと言われている。仙人も良心は持っているらしいが、妖魔にそんなものはない。あるのは相手の不幸を喜ぶような、破壊的・残酷的な思考。これもメルヘンチックに例えれば、悪魔である。

    遠呂智も、妲己も妖魔である。酒呑童子を捕えた者達も、妖魔――


    「人の最後は近い、と申すか?伏犠よ」
    「当たり前じゃろうて。あまりにも人の子の立ち位置が不利過ぎるんじゃ」
    「クク…どうだろうな。私には、まだ起死回生の手があると思うが?」
    太公望がまた嘲笑った。彼の紫色の輝きを放つ眼の奥に、何が映っているのか、知る由もない。だが、こうも自信に満ちた言い方をするときは、何か考えがある証拠なのである。
    「何か策があるのか、坊主」
    「ああ、ある。我らが協力してやればいい、唯其れだけの事だ」
    「はぁ?坊主、寝言を言っておるのか?」
    伏犠が顔を歪ませた。自分達仙人の力は強大。だがいくらなんでも少数しかいない人間の手助けをした所で、「妖蛇」を倒す方法は見つからない。
    「あんな少人数の人の子を助けても、勝ち目はないじゃろうて…。もっと別の方法…、妲己を捕えて根本から解決をだな…」
    「妲己の居場所が分からない今、眼前の問題を一つずつ潰すのが良策だと思うが?人の子と歩み、妖魔を殲滅して往けば、あの狐(妲己の事)も姿を現わさざるを得ないようになると思うが…?」
    「ぬ、ぬう。確かにその通りか…」
    「それに、我ら仙人には、散って逝った人の子を蘇生させる方法がある事にも、気付いて欲しいものだな、伏犠よ」
    「人の子を蘇生させる…?」
    太公望が言うその蘇生方法が全く持って分からなかった。
    蘇生方法がある、と断言した太公望は、かぐやを見るなり薄く笑った。
    「何故かぐやを見て笑うのだ…?かぐやがその方法に必要不可欠と言うのか?」
    太公望は、頷いた。
    恥ずかしいものの、かぐやの能力を利用して人の子を救う方法が分からない。
    伏犠は太公望にその方法を見せてもらうよう頼みこんだ。無駄に話を聴くより、そちらの方が伏犠にとっては断然手っ取り早いのだ。

    「クク…良かろう。かぐやよ、異世界に降り立て」
    「畏まりました、太公望様」

    命ざれると、かぐやはまた光陣の中に消えていった――


    12/02/19 23:38 恵・月烏賦   

    ■作者メッセージ
    一章は終了しました。ここまで読んで下さった方ありがとうございます。
    無双OROCHI2のストーリーにほぼ沿っていますが、オリジナルな所も多いです。文章力がないので、読みにくいかもしれませんし、話の内容がつかみにくいかもしれません。ご了承ください。
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