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瓢箪の美酒、仙楼を映して

恵・月烏賦

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  • あらすじ
  • 01 第一章
  • 02 第二章
  • 第二章

    「おい、グズ!早く動け!早くしないと世紀の大戦が始まるだろうが!」
    「…承知」
    酒呑童子は言われるがままに一人の妖魔の僕になっていた。
    その妖魔の名前は、蛟(みずち)と言うらしい。先程戦の支度をしている時に他の妖魔から話しかけられた際蛟と呼ばれていたので、この妖魔の名前は蛟である、と酒呑童子は理解した。
    「グズ」の意味を酒呑童子は理解していなかった。自分が何者かも知らない今、他の必要最低限の事以外はを知る必要はないと思っていた。蛟は「グズ」を卑下する言い方として酒呑童子に使っていたが、彼自身はあだ名だと思っていた。

    「お前には、これから始まる大戦で戦ってもらうからな。死にたくなければ死ぬ気で戦えよ!あと、逃げようなんて考えるなよ?その錠は、遠隔操作でいつでも電流を流せるから、逃げたら死が待ってると思っていろ!」
    そう言って蛟は酒呑童子の四肢についた錠を外し、首に一回り大きな錠をつけた。戦い易さの配慮であろうが、全く嬉しく感じない。

    この電流対応錠は、三国志・安土桃山の時代に在る様なモノではない。異世界となってしまったこの世界は、どうやら現代にも影響を与えてしまったらしく、姉川の地には高層ビルや高速道路が出現している。他の場所でも真夏のビーチが広がっていたりと、なんとも変わった風景が広がっているらしい。そうなると、この電流対応錠の入手元は簡単に分かる。現代の世界から引っ張ってきたに違いない。そんな話を、戦支度の時の他の妖魔と蛟の会話で入手した。酒呑童子の姿を見た他の妖魔が、彼の四肢についている錠について蛟に聴いた時、蛟がこのような返答をしていた。自分達がより有利な位置に立てるよう、現代から戦で使えそうな道具を調達しているらしい。電流対応錠をどうやって現代の人々から貰ったのか、気になる事は多いが、気にしている場合ではない。ちなみに、今現代から調達してきた道具はこの錠のみのようである。

    錠についていた鎖は無くなり、身動きはとりやすくなった。が、これはあくまでも戦う時の配慮なだけであり、その錠から流れる電流の威力は変わらず、結局は行動が制限されていた。首に装備させられたせいで、より体に電流が伝わりやすくなり、下手すると死に至る。蛟の気に触るような事をすれば、死ぬ。そう酒呑童子は理解した。恐怖も畏怖も何も感じないのに、何故か腕が震えた。体が勝手に拒否反応を起こしていたのだが、蛟はそれを見て嘲笑い、「せいぜい役に立つよう頑張るのだな」と低い声で言った。

    「…私は、使われ続けて死ぬ運命なのだろうか」
    酒呑童子は、両手を見ながらそう言った。



    ―XXX―



    「へえ、ここが妖蛇の巣ねえ…」
    本陣から馬を走らせ続け、討伐軍は妖蛇の巣へと足を踏み入れた。
    大地の荒れ果てた姿は禍々しさを露にし、空は黒く暗い色を放っていた。まるで、暗黒の世界にでも来たのかと思うほど、この巣の周りは深い闇に染まっていた。
    「あれが妖蛇か」
    司馬昭が指差した。その指先が示す先には、強大な邪気を放って自身は狂ったように暴れている妖蛇があった。妖蛇からみれば人間は蟻のような小ささであろう。それほどにまで妖蛇は巨大であった。
    「あれを倒すのか…?」
    「のこのこついて来てみたが…無謀と言うに等しくないか…?」
    「無理だあ…あんなのに勝てっこないさぁ…」
    戦う前からして討伐軍から泣き言が漏れ始めた。どの兵も、自分が想像していた妖蛇よりも巨大な妖蛇を見たのであろう、既に逃げ出そうとしている者までいる。士気が一瞬にしてどっと下がった。馬超は下がった士気を上げようと、
    「負けるな、この妖蛇に弑された友、家族、愛人、同朋達の為にも、ここで逃げる訳にもいかないであろう!俺達には、妖蛇にも崩せない『絆』がある。俺達が結束すれば、妖蛇等赤子の手を捻るも同然に倒せる!」
    と、言い放った。それでも顔が真っ青な者もおれば、その一言で我に返り喝を入れる兵もいる。やがて兵同士喝を入れ合い、士気は先程より増して回復した。槍や剣を振り上げ、「応、応」と点呼している。これは戦国時代では士気を高め自分達の頭角に立つ者を讃えるという意味合いを持ち、また、戦闘勝利後の凱歌の序章にも利用する。つまりこれは、馬超によって奮い立った兵達による意気込みの表れと言える。馬超は頷き、
    「さあ、我らが正義の槍で、あの妖蛇の首を討ち取ってやろう!」
    と言った。将兵は「応!」と口を揃えて言い放ち武器を高々と掲げた。が、完全に馬超が前に出たが為後ろに下がっていた司馬昭と半兵衛は、その意気込みにどうも乗る事が出来なかった。二人はそう易々と妖蛇は倒せない、と確信していたが故である。
    「馬超殿はああ言っているが、俺達の武器で妖蛇を倒そうなんてそれまた夢の話だな」
    「そうだね。妖蛇の首に刺さりもせずに跳ね返されるだろうね」
    二人は妖蛇を倒したい、と思う裏側で諦めがあった。ふと、司馬昭は刀を平らに構え刃に映る自分の顔を見た。そこに映った自分の顔は、顔に明るさがなく生きていなかった。

    戦いの幕が切って落とされた。

    前門が開き妖魔が雪崩のように攻め寄せて来た時、二人は我に返り武器を構え、剣を持って飛びかかってきた妖魔の首を半兵衛は羅針盤の刃で刎ね飛ばした。どす黒い色をした鮮血が宙を舞い、討伐軍は赤く染まる。半兵衛は自分が弑した妖魔軍の兵を見た。何故か顔に痣がある。よく見ると妖魔軍の兵の大半が顔や腕、足等に痣があった。
    近くにいた妖魔を突き殺すと、隣にいた妖魔は震えて逃げた。逃げる妖魔を矢で射殺し、またその近くにいた妖魔が怯えて逃げる、これの連鎖が延々と続いた。
    そして槍を片手に妖魔に近寄ると、妖魔は啼き叫んで許しを乞うた。これは戦いに不慣れな者達が無理矢理戦わされている時に多く見られる現象で、体のどこかしろに痣があり、戦いを恐れ逃げ、敵を目の前に許しを乞う、と言う事は身分が上の者に使われていた戦に無縁の奴隷位置の妖魔であることが分かる。
    そのような妖魔が全部を占めてるとは言い切れないが、先鋒としてなだれ込んできた妖魔の大半は上の記述に当てはまり、戦に慣れた者が多い討伐軍にはいとも簡単に破る事が出来た。討伐軍には全くと言っていいほど負傷がなく、一気に討伐軍の将兵は士気を上げた。これなら勝てる、と勇気ついた者が多かったのであろう。が、この後の悲劇によって討伐軍は壊滅状態になる事等、誰ひとり予想しなかった。



    ―XXX―



    討伐軍が破竹の勢いで妖魔軍を追い込む中、蛟と酒呑童子はその様子を上から眺めていた。人間達が妖魔軍の先鋒に圧勝し喜びの声を上げ士気を上げる様を、蛟は楽しそうに笑いながら見下ろしていた。
    「そうだ人間共、もっと喜べ、もっと勇気付け。今奴らの嬉しそうな顔をたっぷりと堪能した後に、最高の悲劇を御見舞いすることで、俺達の士気はぐんと上がり、人間達の滑稽な死に様を堪能できるのだ。嗚呼、早く人間共の嘆く声が聞きたいぜ」
    子供の様に無邪気になって人の死を愉しむ。これが妖魔か、と酒呑童子は思った。なんとも残酷な生き物である。もしかしたら、妖魔の生きる理由とは人の不幸を喜ぶ為だけなのではないか、と思うほどに蛟をはじめとした妖魔の軍勢は嬉しそうに人間達を見下ろしている。その光景がなんとも気味が悪く、酒呑童子には嫌だった。妖魔にこの様な感情を抱いているのだから、自分が味方すべき者は人間なのであろうか。ふと、彼はそんなことも考え始めた。では自分は妖魔が嫌で、人間を好んでいるとして、自分は一体どちらの種類に分類されるのか。その辺にいる妖魔よりは自分は人間に似た姿はしている。が、自分が人間なら何故妖魔の巣に倒れていたのか。自分はもしかして妖魔ではないのか。では自分が妖魔だとして、この妖魔達にこれからも付いて行くのは上策なのだろうか。色んな事が彼の頭をよぎった。だがどの質問にも、返す返答は同じ。

    「分からない」

    いくら自問自答しても、分かるモノ等何一つない。自分の存在が謎の塊であった。何も思い出せない自分に腹が立ち、またそのような事を考えるたびに自分の事を余計に知りたくなってしまう。妙なもどかしさが酒呑童子にまとわりついて離れなかった。もしかしたら、自分の事について何も分からないまま、死を迎えてしまうのではないか。それだけは嫌だった。何も知らぬままゆっくりと迫る自らの命の終わり。酒呑童子にとっての恐怖は、それが何よりも強かったのかもしれない。

    「教えてくれ。私は、私は一体何者なのだ」

    兎に角、自分の事について、何でも良いから知りたい。それが、今の酒呑童子を動かしている唯一の望みであった。

    「おい、酒呑童子!何処を見ている、もうそろそろ俺達も動くぞ!」
    蛟の声で我に返ると、酒呑童子は大きな瓢箪を構え、蛟に近寄った。
    「さあ、後は作戦通りに動くだけだ。お前等、しっかり働け!その分、人間の嘆き声が滑稽になるぞ!」
    妖魔軍の士気が上がる。このような事を言うだけで士気が上がる等、なんと残酷だろう。酒呑童子は、眉間に皺を寄せて蛟の後ろ姿を見ていた。

    作戦と言うのは、ごく普通の奇襲戦法である。

    先鋒を容易く殲滅し調子づいた討伐軍は、一気に妖蛇の巣元まで攻め寄せてくるであろう。そこで妖蛇を利用する。妖蛇に火炎放射、火石投擲等の援護をしてもらい討伐軍を巣元で食い止める。大体妖蛇にかかれば討伐軍など簡単に殲滅出来てしまうが、それでは面白くない。時間を稼ぎ、討伐軍を地道に弱らせ、後から来る妖魔軍の援軍を待つ。援軍が来た所で、妖蛇の巣元を囲む崖から奇襲。討伐軍を包囲し一気に殲滅する、というものである。こうすれば、じっくりと討伐軍の嘆き声を堪能できる。蛟達にとっては最高のグランドフィナーレであるらしい。

    酒呑童子に命ざれた役は、妖蛇と共に討伐軍を食い止める役である。

    「酒呑童子、人間達を恐怖のどん底に陥れて来い!」
    蛟が嬉しそうな顔で酒呑童子に命じた。
    「…承知」
    酒呑童子は、この戦いで人間とは如何なる生き物かを見極めようと思った。自分が身をゆだねるに相応しいか、相応しくないか、を。



    ―XXX―



    「坊主、かぐや一人異世界に往かせて大丈夫なのか?」
    「伏犠…さっきからその事ばかり聞いておらぬか?よほど心配なのならばお前も往くがよかろう」
    蘇生方法が分からず結局実践を頼んだ伏犠だったが、本当に大丈夫なのかそわそわしだした。太公望はその伏犠の様子に苛立ちを見せていた。
    「そこまで心配なら断言してやろう。人の子はまた必ず遠呂智を凌駕する。例え敗北の危機に直面しても、人の子にはそれを乗り越える『力』がある。私は確信しているぞ?物理的に最強を誇っているのは仙人、精神的に最強を誇っているのは人間だと」
    「乗り越える『力』があるのに何故精神的に最強を誇っているのだ…?わしには全く理解できん」
    「お前の頭は堅過ぎるのだよ、伏犠。少しは頭を使ったらどうだ」
    太公望は呆れたように溜息をついた。伏犠は大剣を構えると目付きが変わり恐ろしい力で敵をなぎ倒すほどの猛者なのであるが、どうも頭を使う事は苦手らしく会話にいちいち通訳を入れないと理解してくれない。太公望は伏犠の能力は認めているが、どうもその辺は嫌なようである。
    「ま、まあ、お主が断言するならまあ大丈夫だろう…。わしも人の子の底力は一度見たからのう。ま、上手くいくのを願うしかないか…」
    「仙人であり一部の歴史上で女カと夫婦で神として信仰されているお前が神頼みか。面白い画だな」
    「う、五月蝿いわ!」
    伏犠が顔を赤くして太公望の頭をぐしゃぐしゃと掻いた。太公望は髪型を崩されて腹を立てたが、苦笑いに変え笑いだした。伏犠もその様子を見、釣られて笑いだした。
    「さて、そろそろ時間だな」
    笑いながら太公望が言った。伏犠が「なんのことだ」と聞く前に太公望が答えた。
    「異世界で大きな動きが始まる。かぐやも丁度向かっているだろう。伏犠よ、蘇生方法を見せてやるから、よく見ているが良い」
    そう言って太公望はまた笑った。不気味に光る彼の紫色の瞳がまた輝きを増して光った。これから始まる長い戦いに、また太公望も身を投げる事になる。伏犠は嫌な予感を感じたが、あえて太公望に告げなかった。

    12/03/27 09:13 恵・月烏賦   

    ■作者メッセージ
    第二章は終了しました。ここまで読んで下さった方ありがとうございます。恐ろしく更新速度が遅いのは仕様です。(リアルで色々ありまして。。。)
    359hの要素はまだ出てきておりませんが無双OROCHI2の内容からどんどんはみ出してオリジナルに加工してきております。地味に無双OROCHI2の内容に沿いつつ、オリジナルを加えまくろうとは思ってます。最後あたりは完全にはみ出してみようかな(こら
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