エンディングフェイズ2
エンディングフェイズ2〈非日常の終わり〉
シーンプレイヤー 鶴月愛星
バス横転爆発事故の事件解決から、数日が経った。
世間も事故については最初は不幸な出来事として議論がなされていたが、今ではその話題を取り立てる事もなく、過去の事として人々の記憶から忘却されて行く事だろう。
鶴月愛星は、再び日本支部に赴いていた。理由はその裏で何があったのかを霧谷に報告する為だ。
「――以上が、今回黄昏市で起きた事件の全容です」
「そうですか。事件解決ご苦労様でした、鶴月支部長」
「まだ全て終わった訳ではありませんが。それで、狭川羽粋についてなのですが」
「狭川羽粋については、再び記憶処理を施しました。ですが、FHにマークされていますからね。実績を持つチルドレンを預かる支部に協力を申し出ました。護衛付きになりますが、日常生活を送れる事は保証します。本来は両親と共に生活を送れればいいのでしょうが…狙われている以上、距離を置いた方がいいだろうとその両親が申し出をしたもので…」
「一刻も早く奴らを潰さないと、彼女に平穏は来ないと言う訳ですね…――色々手回しをしてくれてありがとうございます、霧谷支部長」
「いえ。これもUGNとして当然の仕事ですから」
そう言って、霧谷は温和な笑みを浮かべる。
思わず愛星も笑いかけようとしたが、霧谷の顔を見て急に黙り込んだ。
「…ちなみに霧谷支部長」
「はい」
「最後に休暇を取ったのは何時?」
「半年前ですかね?」
「最後に寝たのは?」
「1ヵ月前です「休みなさい」」
にこやかなまま答える霧谷に、愛星もまた笑顔で一刀両断にして発言を切り捨てた。
「いえ、ですが」
「『いえ』じゃないわ!! 多忙なのは重々理解しているし、休みを取れる環境じゃない事も承知よ…だけど、あまりにも酷過ぎるわ!! ブラック企業並みの激務所じゃないわ、オーヴァードじゃなかったらとっくに死んでるわよ!!」
「私はこの国を上から守る立場です。休んでなどいられませんよ。あと93秒後には報告やら書類報告や始末書等の作業、その7時間16分29後には80秒間の食事。それから定例報告が3時間45分19秒みっちり行われ、次の書類作業が午前11時の――」
「お願いだから休んで! 話を聞いただけで私まで胃潰瘍になるわ! 私を含めた地方支部長でも出来る仕事を大量に回していいから、一日くらい休んで! 誰も文句言えないように私が手回しするから!」
平気な顔で過労死してもおかしくないスケジュールを淡々と話す霧谷に、とうとう悲鳴じみた叫びを上げてしまう。
意地でも休ませようとする愛星に、霧谷も口を止めると何処か嬉しそうに笑った。
「鶴月支部長、あなたは優しいですね」
「…UGNに関わる血族で育ってきたもの。未来を案ずるのは当然の事よ」
そっと眼鏡を軽くかけ直し、遠い目を浮かべる。
UGN――…一番最初に“ガーディアンズ”と呼ばれた時代。その時代から、自分の血族の人が関わっていた。あの頃は目的もハッキリしていて、FHを…レネゲイドの力を悪用する人物から人々を護る為に戦っていた。
だが、UGNを創立してやる事も人も増えて…ただひたすらに真っ直ぐだった意志は、何時からか歪み始めた。その証拠に、今ではUGN内部で争う始末だ。
この国、日本も“ある事情”により中枢評議員達に睨まれて、目を光らせられている状態だ。僅かでも隙を見せれば取り込まれてしまう。そうなってしまえば、【人とオーヴァードとの共存】と言うUGNの掲げる当初の目的は消えてしまい、この国のUGNはFHを倒す為だけの戦闘部隊となってしまう。
それだけは、あってはならないのだ。今回の事件のように、本当に救いを求める者達の為にも。
「霧谷支部長。この国のUGNがあるのもあなたのお蔭よ、私はそれをよく知っている。知っているからそこ、あなたの味方になると決めたの。そんなあなたが激務で倒れてしまったら元も子もないわ。だから」
「ありがとうございます、鶴月支部長。では、一刻も早く休みを取れるようにこちらも頑張りましょう」
「だから、そうやって一人で何でも背負おうとしないでっ!」
爽やかな笑みで激務を続けようとする霧谷に、思わず愛星は怒鳴りつけてしまう。
今日も今日とて、UGNは日常の為に大変な日になりそうだ。
エンディングフェイズ3〈未来の戦いへの手掛かり〉
シーンプレイヤー 言峰切嗣
平日。昼も過ぎた頃に、切嗣は屋敷に帰ってくる。
だが、この時戻ったのは彼一人ではなかった。
「うっわー!」
「凄い御屋敷だな…」
「広さだけはあるからな。さあ、上がるといい」
屋敷の敷地に最低限の荷物を抱え入ってきた闇一と大湖。驚く二人に、切嗣はさっさと玄関を開ける。
空き部屋に闇一と大湖を案内し、縁側で一息吐く。ふと横に気配を感じて視線を向けると、大湖と闇一が複雑な表情でこちらを見下ろすように立っていた。
「…本当に良かったのか? 俺達を引き取って貰って」
「支部長の孤児院…UGNの施設に入りたくないと駄々を捏ねたのはお前達だろう? 私も元FHだからな、お前達の気持ちは分からなくもない」
「「ううっ…」」
「一番は神影達の住むアパートを借りる事だが、まだ数日は手続きがかかる。その間だけ私が面倒を見ると言うだけの話だ。引っ越しの手続きが済むまではここで寛ぐと良い、士郎と近い歳のお前達がいればあの子も喜ぶ」
「す、すまない…」
大湖は頭を下げると、一人その場を立ち去る。だが、それも仕方ない。
FHチルドレン――UGNチルドレンと同じで、幼い頃からレネゲイドに関わり、非日常を過ごしてきた存在。日常が仮初である事、脆く儚い事を知っている。
だが、彼らも時期にこの日常に慣れるはずだ。まだ、人の心を失っていないのだから。
闇一はまだその場に残っており、落ち着かないのかそわそわしている。彼が口を開くまで切嗣は待つ事にし、懐から一本のナイフを取り出した。
風切冷牙が残した、唯一の所持品を。
「このナイフ、やはりFHで作られた…」
「それ…冷牙のナイフ?」
「見覚えがあったから回収したんだ。お前と奴は仲間だと言っていたが…」
「うん。でも、詳しい事は分からない。俺達と一緒で潜入捜査しているんだ、それもずっと前から。だから会った事はそんなになくて…役に立てなくてごめん」
「気にする事はない。どうせここから先は、UGNの仕事だからな」
「うん…」
「…そう言えば、羽粋に接触した理由は“光”と言っていたな。それは一体――」
質問しようとしたのと同時に、玄関が開く音が響く。
それからパタパタと走ってくる音が聞こえ、士郎が姿を現した。
「ただいま、じいさんー! あれ? その人は誰?」
「士郎、紹介しよう。この子は――」
戦いはこれで終わりじゃない。あの大災害のように、何時の日か平和な日が崩れる事もある。
それでも、今はこの時間を満喫しよう。救えた子供達と共に…。
エンディングフェイズ4〈極悪で厄介な犯罪者〉
シーンプレイヤー 神影小暮
神影家の住んでいるアパートの一室。
事件は終わったと言うのに、雷神はピリピリした空気を纏って胡坐をかいて座っていた。その隣には、呆れ顔の小暮も正座している。
「………」
「雷神、いい加減不貞腐れるのは止めなさい」
「不貞腐れて当然だろ!! 何で羽粋がこの町から追い出されなきゃならねーんだよ!!」
「追い出すんじゃなくて、別の町に転校させるだけよ…」
「意味一緒だろ!! だから俺はUGNが嫌なんだよ!! 周りの奴らを考えようともせずに行動を押し付けて!! 小暮姉さんは何も思わないのかよ!?」
聞く耳なしと言わんばかりに雷神は姉に噛みつく。すると、小暮も顔を歪めて目を逸らした。
「確かに思うわよ。羽粋がいなくなって寂しくなるって…でも、羽粋は闇一によって記憶を失っている。万が一彼に接触したら、全部の記憶が解けて混乱する恐れがある。それに今の支部の環境じゃ私達だけで彼女を守れるとは思えないし、FHチルドレンである闇一達を引き取ったから、様子見をして本当に彼らが無害な存在かを確認する必要がある。やる事尽くめな状態で手を出したら、どっちも駄目になるわよ」
「闇一は俺達の味方だし、敵が来れば俺達でやっつける!! ただそれだけの事だろう!! 本当にUGNは軟弱な奴らだなぁ!!」
「雷神、確かに怒りを覚えるのは分かる。だけど、これでもまだマシな方よ? 本来なら羽粋も闇一達も日本支部に送検されて、監視と保護の為に監禁なんて事も平気でありえるのよ? 支部長には本当に頭が上がらないわ…」
「けどな…!!」
「それに、二度と会えない訳じゃない。そこそこ離れているけど休みを使えば会えない距離でもないわ、そうでしょ?」
そう言って、にっこりと小暮は笑う。
羽粋の処遇はただ一つ、遠くの町に転校させるだけ。どこかに閉じ込めるでも、酷い行いをさせる訳でもない。護衛に任されるのは、実力を持つUGNチルドレンやイリーガルだと聞かされている。安心は出来ないが、環境は良い方だろう。
その事は雷神も分かっている。ただ羽粋と離れるのが寂しくて嫌なだけなのだ。
「はあぁ…もういい、決まった事をどうこう言ったってしょうがないか。よし、まず最初の目的としてどうにかして羽粋のいる学校に転入できれば…!」
「あなたね、羽粋の事が好きなのは分かるけどそんな事したらストーカーで逮捕されるわよ? 教師なんだから犯罪に手を染めちゃダメよ」
「普段どころか裏でも犯罪まがいのセクハラしてる奴に言われたくねぇよ!」
小暮の説教に、反射的にツッコミを入れてしまう。
今回の件で嫌と言う程思い知ったが、セクハラを使った小暮の肉体・精神攻撃は『狂気』を通り越して『凶器』である。まあ、雷神もFHに入って暗殺活動していた時点で既に犯罪に手を染めているが。
もはやその辺の犯罪者よりも厄介で凶悪な姉弟が言い合っていたが、ふと雷神の頭にまだ聞いていない疑問が浮かんだ。
「そういや、羽粋はどこに行くんだ?」
「えーと、確か」
そう小暮が呟き、すぐに答えを口にした。
「――志武谷って大都会よ」
シーンプレイヤー 鶴月愛星
バス横転爆発事故の事件解決から、数日が経った。
世間も事故については最初は不幸な出来事として議論がなされていたが、今ではその話題を取り立てる事もなく、過去の事として人々の記憶から忘却されて行く事だろう。
鶴月愛星は、再び日本支部に赴いていた。理由はその裏で何があったのかを霧谷に報告する為だ。
「――以上が、今回黄昏市で起きた事件の全容です」
「そうですか。事件解決ご苦労様でした、鶴月支部長」
「まだ全て終わった訳ではありませんが。それで、狭川羽粋についてなのですが」
「狭川羽粋については、再び記憶処理を施しました。ですが、FHにマークされていますからね。実績を持つチルドレンを預かる支部に協力を申し出ました。護衛付きになりますが、日常生活を送れる事は保証します。本来は両親と共に生活を送れればいいのでしょうが…狙われている以上、距離を置いた方がいいだろうとその両親が申し出をしたもので…」
「一刻も早く奴らを潰さないと、彼女に平穏は来ないと言う訳ですね…――色々手回しをしてくれてありがとうございます、霧谷支部長」
「いえ。これもUGNとして当然の仕事ですから」
そう言って、霧谷は温和な笑みを浮かべる。
思わず愛星も笑いかけようとしたが、霧谷の顔を見て急に黙り込んだ。
「…ちなみに霧谷支部長」
「はい」
「最後に休暇を取ったのは何時?」
「半年前ですかね?」
「最後に寝たのは?」
「1ヵ月前です「休みなさい」」
にこやかなまま答える霧谷に、愛星もまた笑顔で一刀両断にして発言を切り捨てた。
「いえ、ですが」
「『いえ』じゃないわ!! 多忙なのは重々理解しているし、休みを取れる環境じゃない事も承知よ…だけど、あまりにも酷過ぎるわ!! ブラック企業並みの激務所じゃないわ、オーヴァードじゃなかったらとっくに死んでるわよ!!」
「私はこの国を上から守る立場です。休んでなどいられませんよ。あと93秒後には報告やら書類報告や始末書等の作業、その7時間16分29後には80秒間の食事。それから定例報告が3時間45分19秒みっちり行われ、次の書類作業が午前11時の――」
「お願いだから休んで! 話を聞いただけで私まで胃潰瘍になるわ! 私を含めた地方支部長でも出来る仕事を大量に回していいから、一日くらい休んで! 誰も文句言えないように私が手回しするから!」
平気な顔で過労死してもおかしくないスケジュールを淡々と話す霧谷に、とうとう悲鳴じみた叫びを上げてしまう。
意地でも休ませようとする愛星に、霧谷も口を止めると何処か嬉しそうに笑った。
「鶴月支部長、あなたは優しいですね」
「…UGNに関わる血族で育ってきたもの。未来を案ずるのは当然の事よ」
そっと眼鏡を軽くかけ直し、遠い目を浮かべる。
UGN――…一番最初に“ガーディアンズ”と呼ばれた時代。その時代から、自分の血族の人が関わっていた。あの頃は目的もハッキリしていて、FHを…レネゲイドの力を悪用する人物から人々を護る為に戦っていた。
だが、UGNを創立してやる事も人も増えて…ただひたすらに真っ直ぐだった意志は、何時からか歪み始めた。その証拠に、今ではUGN内部で争う始末だ。
この国、日本も“ある事情”により中枢評議員達に睨まれて、目を光らせられている状態だ。僅かでも隙を見せれば取り込まれてしまう。そうなってしまえば、【人とオーヴァードとの共存】と言うUGNの掲げる当初の目的は消えてしまい、この国のUGNはFHを倒す為だけの戦闘部隊となってしまう。
それだけは、あってはならないのだ。今回の事件のように、本当に救いを求める者達の為にも。
「霧谷支部長。この国のUGNがあるのもあなたのお蔭よ、私はそれをよく知っている。知っているからそこ、あなたの味方になると決めたの。そんなあなたが激務で倒れてしまったら元も子もないわ。だから」
「ありがとうございます、鶴月支部長。では、一刻も早く休みを取れるようにこちらも頑張りましょう」
「だから、そうやって一人で何でも背負おうとしないでっ!」
爽やかな笑みで激務を続けようとする霧谷に、思わず愛星は怒鳴りつけてしまう。
今日も今日とて、UGNは日常の為に大変な日になりそうだ。
エンディングフェイズ3〈未来の戦いへの手掛かり〉
シーンプレイヤー 言峰切嗣
平日。昼も過ぎた頃に、切嗣は屋敷に帰ってくる。
だが、この時戻ったのは彼一人ではなかった。
「うっわー!」
「凄い御屋敷だな…」
「広さだけはあるからな。さあ、上がるといい」
屋敷の敷地に最低限の荷物を抱え入ってきた闇一と大湖。驚く二人に、切嗣はさっさと玄関を開ける。
空き部屋に闇一と大湖を案内し、縁側で一息吐く。ふと横に気配を感じて視線を向けると、大湖と闇一が複雑な表情でこちらを見下ろすように立っていた。
「…本当に良かったのか? 俺達を引き取って貰って」
「支部長の孤児院…UGNの施設に入りたくないと駄々を捏ねたのはお前達だろう? 私も元FHだからな、お前達の気持ちは分からなくもない」
「「ううっ…」」
「一番は神影達の住むアパートを借りる事だが、まだ数日は手続きがかかる。その間だけ私が面倒を見ると言うだけの話だ。引っ越しの手続きが済むまではここで寛ぐと良い、士郎と近い歳のお前達がいればあの子も喜ぶ」
「す、すまない…」
大湖は頭を下げると、一人その場を立ち去る。だが、それも仕方ない。
FHチルドレン――UGNチルドレンと同じで、幼い頃からレネゲイドに関わり、非日常を過ごしてきた存在。日常が仮初である事、脆く儚い事を知っている。
だが、彼らも時期にこの日常に慣れるはずだ。まだ、人の心を失っていないのだから。
闇一はまだその場に残っており、落ち着かないのかそわそわしている。彼が口を開くまで切嗣は待つ事にし、懐から一本のナイフを取り出した。
風切冷牙が残した、唯一の所持品を。
「このナイフ、やはりFHで作られた…」
「それ…冷牙のナイフ?」
「見覚えがあったから回収したんだ。お前と奴は仲間だと言っていたが…」
「うん。でも、詳しい事は分からない。俺達と一緒で潜入捜査しているんだ、それもずっと前から。だから会った事はそんなになくて…役に立てなくてごめん」
「気にする事はない。どうせここから先は、UGNの仕事だからな」
「うん…」
「…そう言えば、羽粋に接触した理由は“光”と言っていたな。それは一体――」
質問しようとしたのと同時に、玄関が開く音が響く。
それからパタパタと走ってくる音が聞こえ、士郎が姿を現した。
「ただいま、じいさんー! あれ? その人は誰?」
「士郎、紹介しよう。この子は――」
戦いはこれで終わりじゃない。あの大災害のように、何時の日か平和な日が崩れる事もある。
それでも、今はこの時間を満喫しよう。救えた子供達と共に…。
エンディングフェイズ4〈極悪で厄介な犯罪者〉
シーンプレイヤー 神影小暮
神影家の住んでいるアパートの一室。
事件は終わったと言うのに、雷神はピリピリした空気を纏って胡坐をかいて座っていた。その隣には、呆れ顔の小暮も正座している。
「………」
「雷神、いい加減不貞腐れるのは止めなさい」
「不貞腐れて当然だろ!! 何で羽粋がこの町から追い出されなきゃならねーんだよ!!」
「追い出すんじゃなくて、別の町に転校させるだけよ…」
「意味一緒だろ!! だから俺はUGNが嫌なんだよ!! 周りの奴らを考えようともせずに行動を押し付けて!! 小暮姉さんは何も思わないのかよ!?」
聞く耳なしと言わんばかりに雷神は姉に噛みつく。すると、小暮も顔を歪めて目を逸らした。
「確かに思うわよ。羽粋がいなくなって寂しくなるって…でも、羽粋は闇一によって記憶を失っている。万が一彼に接触したら、全部の記憶が解けて混乱する恐れがある。それに今の支部の環境じゃ私達だけで彼女を守れるとは思えないし、FHチルドレンである闇一達を引き取ったから、様子見をして本当に彼らが無害な存在かを確認する必要がある。やる事尽くめな状態で手を出したら、どっちも駄目になるわよ」
「闇一は俺達の味方だし、敵が来れば俺達でやっつける!! ただそれだけの事だろう!! 本当にUGNは軟弱な奴らだなぁ!!」
「雷神、確かに怒りを覚えるのは分かる。だけど、これでもまだマシな方よ? 本来なら羽粋も闇一達も日本支部に送検されて、監視と保護の為に監禁なんて事も平気でありえるのよ? 支部長には本当に頭が上がらないわ…」
「けどな…!!」
「それに、二度と会えない訳じゃない。そこそこ離れているけど休みを使えば会えない距離でもないわ、そうでしょ?」
そう言って、にっこりと小暮は笑う。
羽粋の処遇はただ一つ、遠くの町に転校させるだけ。どこかに閉じ込めるでも、酷い行いをさせる訳でもない。護衛に任されるのは、実力を持つUGNチルドレンやイリーガルだと聞かされている。安心は出来ないが、環境は良い方だろう。
その事は雷神も分かっている。ただ羽粋と離れるのが寂しくて嫌なだけなのだ。
「はあぁ…もういい、決まった事をどうこう言ったってしょうがないか。よし、まず最初の目的としてどうにかして羽粋のいる学校に転入できれば…!」
「あなたね、羽粋の事が好きなのは分かるけどそんな事したらストーカーで逮捕されるわよ? 教師なんだから犯罪に手を染めちゃダメよ」
「普段どころか裏でも犯罪まがいのセクハラしてる奴に言われたくねぇよ!」
小暮の説教に、反射的にツッコミを入れてしまう。
今回の件で嫌と言う程思い知ったが、セクハラを使った小暮の肉体・精神攻撃は『狂気』を通り越して『凶器』である。まあ、雷神もFHに入って暗殺活動していた時点で既に犯罪に手を染めているが。
もはやその辺の犯罪者よりも厄介で凶悪な姉弟が言い合っていたが、ふと雷神の頭にまだ聞いていない疑問が浮かんだ。
「そういや、羽粋はどこに行くんだ?」
「えーと、確か」
そう小暮が呟き、すぐに答えを口にした。
「――志武谷って大都会よ」