演劇イベント編・3
全員がいる大広間から離れたとある客間の一室。
そこに、あるメンバー達が集合していた。
「さーて、全員集まったね!」
呼び出した張本人であるラックとその補佐役のジェダイトの前にいるのは、ソラ・ヴェン・リク・テラ・アクセル・デミックスの六人だ。
集められた六人は不思議そうにラックを見るが、会合一番にデミックスが手を上げた。
「あのさー、このメンバーでどんな演劇するんだ?」
「それは…アタイ主催でお送りする【――――】って奴さ!」
「「なあぁ…!!?」」
ラックが提示した演目内容を聞いた瞬間、リクとテラに戦慄が走る。
だが、残りの人達は真逆の反応を見せていた。
「何それ!? ちょー俺好みの演出じゃん!!」
「俺もやってみたい!!」
「そうでしょう? 少なくとも誰も考え付かないアイデアですし、いい線行くと思うのですが…」
やる気に満ち溢れるデミックスとソラに、ジェダイトは案が通った事に嬉しそうに笑い出す。
「確かに一理あるな。それにちーっとばかし、興味がある」
「でも、俺でも大丈夫かな? ダンスは自信あるけど…」
乗り気になっているアクセルの横でヴェンが不安そうにしていると、ラックが笑顔で肩を叩いた。
「そこは練習やらあの舞台でどうにかなるもんさ! さ、そうと決まれば練習開始だよ!!」
案も決まり、さっそく本番に向けた練習を始めようとするが。
「ま、まて!? 俺はやるとは一言もいってない!!」
「そ、そうだ!! 俺には、そんなものをやり切れる自信が…!!」
不安と言うよりは、明らかにラックの提示した演目を嫌がっているリクとテラ。
何としてでも断ろうとする二人に、親友と弟分が近づいた。
「えー!? リク、一緒にやろうよー!!」
「俺、テラとなら何だって出来る気がするんだ!!」
「「う、うううぅ…!!?」」
キラキラとした純粋な目から放たれる眩い光線を浴びるリクとテラ。程無くして二人の心が折れたのは言うまでもないだろう…。
「うううううぅぅ…!!!」
一方、ステージのある大広間でもリクとテラと同じように呻き声を上げて、床に撃沈して泣いているグラッセがいた。
なぜ彼がこうなっているのかは…前回を参照して頂ければ分かります。
「……俺らが出て行ってる間に、何があったんだ?」
完全に落ち込んでいるグラッセを見てちょっとした話し合いで出て行ってたクウが訊く。
すると、作者であるナナが答えた。
「気にする事ないさ。かるーくグラッセを弄っただけだから」
「お前他人のキャラになんつー事してんだよ!! グラッセがあまりにも不憫すぎるだろ!? ただでさえ本編じゃ主人公って割に酷い扱いばっかりなのによ!!」
「クウ、あなたの言い方もどうかと思うわ…ウィドも少しやり過ぎよ」
「すみません、つい」
同じくクウと一緒に戻って来たスピカが注意すると、姉思い(シスコン)のウィドは素直に謝る。
こうして話が纏めに差し掛かっていると、ナナがまた口を開いた。
「まあまあ。って言うかぁ……前回のアレ、実は結構マシな方なんだよ。リラさんから最終話の内容と一緒にグラッセの人生聞いたんだが――目を逸らすしかないって言うかー」
「一体何を聞いたらそうなるんだよ!? と言うか死亡エンドより目を逸らすしかない話って一体俺に対して何を考えてんだぁ!!?」
何やらとんでもない大きなネタバレ事項に関する事に、グラッセが復活した。
「いや〜、それほどでも〜」
「ラストアルカナムゥゥゥ!!!」
「ぼぎゃあああああぁ!!? それボツ技ぁぁぁ!!!」
そうして、笑みを作って頭を掻くリラに魔術師とは思えない怒涛の連撃を見舞わせる。
広間にリラの悲鳴と殴りつける音が響き渡る中、ウィドは気になってナナに訊いた。
「それで、本来はどんな話なんですか?」
「ん」
その瞬間、なぜかナナはちょいちょいと人差し指で呼びつけ始める。
ウィドだけでなく、クウとスピカも興味を持ってナナに近づくと、三人の耳元に口を寄せて何やらゴニョゴニョと小さい声で話し出す。
話を聞き終えた直後、大人三人組はリラの処刑を終えたグラッセに近づくなり肩に手を置いた。
「グラッセ、今度一緒に町でナンパしに行くぞ。女性の口説き方について手取り足取り教えてやるから」
「クウさーん!?」
「これ、学園世界での転校届です。私の受け持つ生徒を紹介してあげますから、いつでも来なさい」
「ウィドさん、その憐みの目は何!?」
「世の中にはね、リズより強い人物がいるの。だったらリズよりいい女がいる筈よ」
「スピカさんまで!? 何で俺こんなに憐まれてるの!?」
クウだけでなくウィドやスピカまでもが生温かい目でグラッセを見ている。どうやら、よっぽど酷い内容のようだ。
「酷いとは失礼な!! グラッセは弄られてなんぼのキャラ「ギシャアァアアァァ…」モウナニモイイマセヌ…!!」
驚異的な生命力で復活したリラが反論するが、ジェノバどころかオメガウェポンのような存在にトランスしかけているグラッセの威嚇に一気に縮こまってしまった。
「さて、気を取り直して……次のメンバーはだーれだ?」
「はーい! 私達でーす!」
ナナが呼びかけると、なんとカイリが大きく手を上げた。
「えーと、『私達』って?」
「私とクウとスピカさんとグラッセの四人だよ! すっごくいい演目を考えたんだから! 早くいこう!」
「ああ! こうなったら、この演劇で俺の不憫さを挽回させるぞ!!」
「ふふ、腕が鳴るわ!」
「お手柔らかに頼むぜ、お前ら…」
(((一体何を演じる気なんだ…?)))
そうしてナナの疑問に答えたカイリを筆頭に、グラッセ、スピカ、クウがカーテンに仕切られたステージへと上がり出した。
やがて準備が整うと、ナナは事前にカイリから渡されたメモ用紙を取り出した。
「では、次の演目は――【LR(ライトニングリターンズ)FF13のオープニング】ゥゥゥ!!?」
『『『ええええええええぇ!!!??』』』
思いがけない作品のタイトルに、広間にいた全員が絶叫を上げる。
それと同時に、檀上のカーテンが独りでに開いて演目が始まった。
ステージ上の舞台は煌びやかな宮殿内に変わり、眩い服や仮面を付けた沢山の人達が踊っている(彼らは夢の力で作った幻影(エキストラ)だろう)。
そんな中、二階部分では数人の衛士に守られるように黒い衣装を纏ったクウが彼らを見下ろす様に険しい表情で座っている。
だが、急にクウが顔を上げると上空の方で黒い靄が現れ始める。
同じく、下の人々に紛れるようにそれを見つめる赤い目があった。
《混沌(カオス)の浸食です、撤退しますか?》
「もう遅い」
姿なき声(グラッセ)に答えながら歩く黒い鎧に白いマントの衣装、そして括っている髪を解いたスピカ。その背後には二人ほど倒れていて胸から白い光を放っている。
明らかに只ならぬ様子に、一人の衛士がスピカへと近づく。
「何をしている!」
すぐ傍まで迫った瞬間、スピカが無言で衛士を掴み上げて地面に叩きつける。
すると、衛士の胸から白い光が立ち上り、三つの魂がスピカの胸に浮き上がった刻印へと吸収された。
「解放者」
周りでどよめきが起こると、クウは立ち上がりながらスピカを睨む。
スピカも身を翻ると、二階にいるクウへと険しい視線を送る。そうして互いに睨み合っていると、闇が包み込んで眩しかったほどの照明が一斉に消える。
気づいた時には、一人の女性の近くにまるで波を打ったかのように揺らめいている白黒の壁のような物が現れていた。
「太守!」
「来るぞ」
クウの言葉を合図に、女性が壁から飛び出した怪物の手に捕まり中へと引き込まれる。
そうして、壁の中から巨大な斧を持ったモンスターが何体も現れて会場の人々を襲い始める。
「――てめえらぁ!」
クウが拳に炎を宿しながら飛び降りると、一体のモンスターの顔面に拳を叩きつける。
この攻撃にモンスターは闇となって霧散すると共に、まるでクウの中へと吸い込まれるように消えていく。
「ぅ…――っ!?」
腕から溢れる闇を抑えていると、モンスターがよろめくように倒れる。
慌てて後ろに跳ぶと、その先には赤い剣を振り上げたスピカがいた。
「スノウ、知っているはずだな。私が、何者であるか」
腕に付けた赤い盾を起動し、剣先で差す。
クウは氷の力を足に宿らせ、倒れたモンスターを踏みつぶしながらスピカを見る。
「ああ、知ってるさ――解放者!!」
そうしてクウが叫んだ直後、数体のモンスターがスピカを襲う。だが、それを物ともせずにスピカは華麗に立ち回って攻撃を受け止める。
「伝説は語る――闇を断つ閃光、囚われし魂の解放者。滅び行く世界に降り立ち、魂を最後の救いへと導く」
閃光と共に薔薇の花弁が舞い散り、上空に吹き飛ばされたモンスターをスピカは見えない速度で幾度も切り裂き爆発させた。
「…っていうがよぉ!! 早い話が!!」
襲い掛かろうとしたモンスターを倒して巨大な斧を奪い取るなり、クウは武器を凍りつかせる。
より強化された武器を別のモンスターに振るって吹き飛ばすと、二人は同時に地を蹴ってそれぞれの武器を叩きつけた。
「俺を殺しに来たんだろ…!!」
互いに武器を鳴らしたまま睨みあっていると、モンスターが割り込んでくる。
「「ぬあっ!!」」
二人は同時に武器を放してモンスターを両断すると、二階へと跳躍して剣と氷の斧をぶつけあいを始める。
「か、かっこいい…!!」
「あの二人、さすがだ…!」
激しく繰り広げられる戦いに、レイシャとザルディンは思わず見惚れてしまう。
やがてスピカの幾度も放った閃光の攻撃でクウが二階から誰もいない広間へと叩きつけられる。立ち上がろうとすると、背後から首筋に刃を突き立てられた。
「終わりだな」
「…まるで死神だな。俺をブッ殺して、魂を救ってくださるわけだ」
「そう願うなら、叶えてやろうか?」
立ち上がったクウに対し、スピカは冷淡に呟く。
すると、クウはいきなり振り返った。
「――それが答えか、ライトニング!!」
スピカの襟を掴み、顔をすぐ傍まで引き寄せるクウ。
首元の刃が更に近くなる。すぐにでも止めをさせる絶妙な距離に、スピカの瞳が揺らぐ。
「ッ…」
「まったくもう、無理しちゃって」
その時、少女の声と共に辺りの景色が灰色へと変わる。
スピカが前を見ると、目の前にいたクウが黒い服を着た少女へと変わっている。
「っ!?」
「…フフッ」
少女が不敵な笑みを浮かべると、首筋に当てていた剣に罅が入る。
数秒も経たない内に、スピカの剣は勝手に折れてしまった。
「「つぅ!?」」
景色が戻ると、少女はクウに戻り折れた刃は後方へと飛んで床に突き刺さる。
何が起こったのか分からないが、ふとクウが見上げると青い光を放つ巨大なシャンデリアに横に髪を結んだカイリが腰かけて足をブラブラさせていた。
「ルミナ!?」
「だめだめー、命は大事にしなきゃ」
クウに向かって指を振ると、ばっと天高く上げる。
すると指から赤い電撃が走り、シャンデリアを爆発させる。あちこちの留め具が壊れる中で、カイリは飛び降りると同時に空間の狭間に入って退却する。
そうしてシャンデリアは一際大きい爆発を起こし、炎に包まれて落下する。クウは掌から氷の魔法を発動させると、シャンデリアの落下を防ぐと共に氷のオブジェを作り出した。
「悪魔か、あのガキ…」
「死神の次は悪魔か…呪われているな」
尚もスピカは感情の篭らない声で話しながら、折れてしまった剣を構える。
だが、再び闇が辺りを包み込む。クウは全身から闇を立ち上らせると決意するように語り出した。
「誰にも邪魔はさせねえ。たとえ、悪魔と死神――解放者を、敵に回してもだ…!」
そう言って背を向けるクウ。背後で揺らめいているあの白黒の壁に入り、スピカの前から消える。
やがてステージ上が何も見えなくなるほど真っ暗になると、誰もいないのに勝手にカーテンが閉じられた。
そこに、あるメンバー達が集合していた。
「さーて、全員集まったね!」
呼び出した張本人であるラックとその補佐役のジェダイトの前にいるのは、ソラ・ヴェン・リク・テラ・アクセル・デミックスの六人だ。
集められた六人は不思議そうにラックを見るが、会合一番にデミックスが手を上げた。
「あのさー、このメンバーでどんな演劇するんだ?」
「それは…アタイ主催でお送りする【――――】って奴さ!」
「「なあぁ…!!?」」
ラックが提示した演目内容を聞いた瞬間、リクとテラに戦慄が走る。
だが、残りの人達は真逆の反応を見せていた。
「何それ!? ちょー俺好みの演出じゃん!!」
「俺もやってみたい!!」
「そうでしょう? 少なくとも誰も考え付かないアイデアですし、いい線行くと思うのですが…」
やる気に満ち溢れるデミックスとソラに、ジェダイトは案が通った事に嬉しそうに笑い出す。
「確かに一理あるな。それにちーっとばかし、興味がある」
「でも、俺でも大丈夫かな? ダンスは自信あるけど…」
乗り気になっているアクセルの横でヴェンが不安そうにしていると、ラックが笑顔で肩を叩いた。
「そこは練習やらあの舞台でどうにかなるもんさ! さ、そうと決まれば練習開始だよ!!」
案も決まり、さっそく本番に向けた練習を始めようとするが。
「ま、まて!? 俺はやるとは一言もいってない!!」
「そ、そうだ!! 俺には、そんなものをやり切れる自信が…!!」
不安と言うよりは、明らかにラックの提示した演目を嫌がっているリクとテラ。
何としてでも断ろうとする二人に、親友と弟分が近づいた。
「えー!? リク、一緒にやろうよー!!」
「俺、テラとなら何だって出来る気がするんだ!!」
「「う、うううぅ…!!?」」
キラキラとした純粋な目から放たれる眩い光線を浴びるリクとテラ。程無くして二人の心が折れたのは言うまでもないだろう…。
「うううううぅぅ…!!!」
一方、ステージのある大広間でもリクとテラと同じように呻き声を上げて、床に撃沈して泣いているグラッセがいた。
なぜ彼がこうなっているのかは…前回を参照して頂ければ分かります。
「……俺らが出て行ってる間に、何があったんだ?」
完全に落ち込んでいるグラッセを見てちょっとした話し合いで出て行ってたクウが訊く。
すると、作者であるナナが答えた。
「気にする事ないさ。かるーくグラッセを弄っただけだから」
「お前他人のキャラになんつー事してんだよ!! グラッセがあまりにも不憫すぎるだろ!? ただでさえ本編じゃ主人公って割に酷い扱いばっかりなのによ!!」
「クウ、あなたの言い方もどうかと思うわ…ウィドも少しやり過ぎよ」
「すみません、つい」
同じくクウと一緒に戻って来たスピカが注意すると、姉思い(シスコン)のウィドは素直に謝る。
こうして話が纏めに差し掛かっていると、ナナがまた口を開いた。
「まあまあ。って言うかぁ……前回のアレ、実は結構マシな方なんだよ。リラさんから最終話の内容と一緒にグラッセの人生聞いたんだが――目を逸らすしかないって言うかー」
「一体何を聞いたらそうなるんだよ!? と言うか死亡エンドより目を逸らすしかない話って一体俺に対して何を考えてんだぁ!!?」
何やらとんでもない大きなネタバレ事項に関する事に、グラッセが復活した。
「いや〜、それほどでも〜」
「ラストアルカナムゥゥゥ!!!」
「ぼぎゃあああああぁ!!? それボツ技ぁぁぁ!!!」
そうして、笑みを作って頭を掻くリラに魔術師とは思えない怒涛の連撃を見舞わせる。
広間にリラの悲鳴と殴りつける音が響き渡る中、ウィドは気になってナナに訊いた。
「それで、本来はどんな話なんですか?」
「ん」
その瞬間、なぜかナナはちょいちょいと人差し指で呼びつけ始める。
ウィドだけでなく、クウとスピカも興味を持ってナナに近づくと、三人の耳元に口を寄せて何やらゴニョゴニョと小さい声で話し出す。
話を聞き終えた直後、大人三人組はリラの処刑を終えたグラッセに近づくなり肩に手を置いた。
「グラッセ、今度一緒に町でナンパしに行くぞ。女性の口説き方について手取り足取り教えてやるから」
「クウさーん!?」
「これ、学園世界での転校届です。私の受け持つ生徒を紹介してあげますから、いつでも来なさい」
「ウィドさん、その憐みの目は何!?」
「世の中にはね、リズより強い人物がいるの。だったらリズよりいい女がいる筈よ」
「スピカさんまで!? 何で俺こんなに憐まれてるの!?」
クウだけでなくウィドやスピカまでもが生温かい目でグラッセを見ている。どうやら、よっぽど酷い内容のようだ。
「酷いとは失礼な!! グラッセは弄られてなんぼのキャラ「ギシャアァアアァァ…」モウナニモイイマセヌ…!!」
驚異的な生命力で復活したリラが反論するが、ジェノバどころかオメガウェポンのような存在にトランスしかけているグラッセの威嚇に一気に縮こまってしまった。
「さて、気を取り直して……次のメンバーはだーれだ?」
「はーい! 私達でーす!」
ナナが呼びかけると、なんとカイリが大きく手を上げた。
「えーと、『私達』って?」
「私とクウとスピカさんとグラッセの四人だよ! すっごくいい演目を考えたんだから! 早くいこう!」
「ああ! こうなったら、この演劇で俺の不憫さを挽回させるぞ!!」
「ふふ、腕が鳴るわ!」
「お手柔らかに頼むぜ、お前ら…」
(((一体何を演じる気なんだ…?)))
そうしてナナの疑問に答えたカイリを筆頭に、グラッセ、スピカ、クウがカーテンに仕切られたステージへと上がり出した。
やがて準備が整うと、ナナは事前にカイリから渡されたメモ用紙を取り出した。
「では、次の演目は――【LR(ライトニングリターンズ)FF13のオープニング】ゥゥゥ!!?」
『『『ええええええええぇ!!!??』』』
思いがけない作品のタイトルに、広間にいた全員が絶叫を上げる。
それと同時に、檀上のカーテンが独りでに開いて演目が始まった。
ステージ上の舞台は煌びやかな宮殿内に変わり、眩い服や仮面を付けた沢山の人達が踊っている(彼らは夢の力で作った幻影(エキストラ)だろう)。
そんな中、二階部分では数人の衛士に守られるように黒い衣装を纏ったクウが彼らを見下ろす様に険しい表情で座っている。
だが、急にクウが顔を上げると上空の方で黒い靄が現れ始める。
同じく、下の人々に紛れるようにそれを見つめる赤い目があった。
《混沌(カオス)の浸食です、撤退しますか?》
「もう遅い」
姿なき声(グラッセ)に答えながら歩く黒い鎧に白いマントの衣装、そして括っている髪を解いたスピカ。その背後には二人ほど倒れていて胸から白い光を放っている。
明らかに只ならぬ様子に、一人の衛士がスピカへと近づく。
「何をしている!」
すぐ傍まで迫った瞬間、スピカが無言で衛士を掴み上げて地面に叩きつける。
すると、衛士の胸から白い光が立ち上り、三つの魂がスピカの胸に浮き上がった刻印へと吸収された。
「解放者」
周りでどよめきが起こると、クウは立ち上がりながらスピカを睨む。
スピカも身を翻ると、二階にいるクウへと険しい視線を送る。そうして互いに睨み合っていると、闇が包み込んで眩しかったほどの照明が一斉に消える。
気づいた時には、一人の女性の近くにまるで波を打ったかのように揺らめいている白黒の壁のような物が現れていた。
「太守!」
「来るぞ」
クウの言葉を合図に、女性が壁から飛び出した怪物の手に捕まり中へと引き込まれる。
そうして、壁の中から巨大な斧を持ったモンスターが何体も現れて会場の人々を襲い始める。
「――てめえらぁ!」
クウが拳に炎を宿しながら飛び降りると、一体のモンスターの顔面に拳を叩きつける。
この攻撃にモンスターは闇となって霧散すると共に、まるでクウの中へと吸い込まれるように消えていく。
「ぅ…――っ!?」
腕から溢れる闇を抑えていると、モンスターがよろめくように倒れる。
慌てて後ろに跳ぶと、その先には赤い剣を振り上げたスピカがいた。
「スノウ、知っているはずだな。私が、何者であるか」
腕に付けた赤い盾を起動し、剣先で差す。
クウは氷の力を足に宿らせ、倒れたモンスターを踏みつぶしながらスピカを見る。
「ああ、知ってるさ――解放者!!」
そうしてクウが叫んだ直後、数体のモンスターがスピカを襲う。だが、それを物ともせずにスピカは華麗に立ち回って攻撃を受け止める。
「伝説は語る――闇を断つ閃光、囚われし魂の解放者。滅び行く世界に降り立ち、魂を最後の救いへと導く」
閃光と共に薔薇の花弁が舞い散り、上空に吹き飛ばされたモンスターをスピカは見えない速度で幾度も切り裂き爆発させた。
「…っていうがよぉ!! 早い話が!!」
襲い掛かろうとしたモンスターを倒して巨大な斧を奪い取るなり、クウは武器を凍りつかせる。
より強化された武器を別のモンスターに振るって吹き飛ばすと、二人は同時に地を蹴ってそれぞれの武器を叩きつけた。
「俺を殺しに来たんだろ…!!」
互いに武器を鳴らしたまま睨みあっていると、モンスターが割り込んでくる。
「「ぬあっ!!」」
二人は同時に武器を放してモンスターを両断すると、二階へと跳躍して剣と氷の斧をぶつけあいを始める。
「か、かっこいい…!!」
「あの二人、さすがだ…!」
激しく繰り広げられる戦いに、レイシャとザルディンは思わず見惚れてしまう。
やがてスピカの幾度も放った閃光の攻撃でクウが二階から誰もいない広間へと叩きつけられる。立ち上がろうとすると、背後から首筋に刃を突き立てられた。
「終わりだな」
「…まるで死神だな。俺をブッ殺して、魂を救ってくださるわけだ」
「そう願うなら、叶えてやろうか?」
立ち上がったクウに対し、スピカは冷淡に呟く。
すると、クウはいきなり振り返った。
「――それが答えか、ライトニング!!」
スピカの襟を掴み、顔をすぐ傍まで引き寄せるクウ。
首元の刃が更に近くなる。すぐにでも止めをさせる絶妙な距離に、スピカの瞳が揺らぐ。
「ッ…」
「まったくもう、無理しちゃって」
その時、少女の声と共に辺りの景色が灰色へと変わる。
スピカが前を見ると、目の前にいたクウが黒い服を着た少女へと変わっている。
「っ!?」
「…フフッ」
少女が不敵な笑みを浮かべると、首筋に当てていた剣に罅が入る。
数秒も経たない内に、スピカの剣は勝手に折れてしまった。
「「つぅ!?」」
景色が戻ると、少女はクウに戻り折れた刃は後方へと飛んで床に突き刺さる。
何が起こったのか分からないが、ふとクウが見上げると青い光を放つ巨大なシャンデリアに横に髪を結んだカイリが腰かけて足をブラブラさせていた。
「ルミナ!?」
「だめだめー、命は大事にしなきゃ」
クウに向かって指を振ると、ばっと天高く上げる。
すると指から赤い電撃が走り、シャンデリアを爆発させる。あちこちの留め具が壊れる中で、カイリは飛び降りると同時に空間の狭間に入って退却する。
そうしてシャンデリアは一際大きい爆発を起こし、炎に包まれて落下する。クウは掌から氷の魔法を発動させると、シャンデリアの落下を防ぐと共に氷のオブジェを作り出した。
「悪魔か、あのガキ…」
「死神の次は悪魔か…呪われているな」
尚もスピカは感情の篭らない声で話しながら、折れてしまった剣を構える。
だが、再び闇が辺りを包み込む。クウは全身から闇を立ち上らせると決意するように語り出した。
「誰にも邪魔はさせねえ。たとえ、悪魔と死神――解放者を、敵に回してもだ…!」
そう言って背を向けるクウ。背後で揺らめいているあの白黒の壁に入り、スピカの前から消える。
やがてステージ上が何も見えなくなるほど真っ暗になると、誰もいないのに勝手にカーテンが閉じられた。
■作者メッセージ
えー、久々の旅館モノ投稿です。前に出したのが11月頭だったから…二ヶ月ですね。こちらの方を楽しみにしていた方、今の今まで待たせてしまい本当に申し訳ありません。
今後は少しは投稿スピードも上がるとは思いますので、頑張ります。ネタ出しはある程度出来てはいますので。
今後は少しは投稿スピードも上がるとは思いますので、頑張ります。ネタ出しはある程度出来てはいますので。