演劇イベント編・6
今も尚続くイベントで大勢が集まっている大広間。
騒がしい部屋に近づく様に、廊下をクウとウィドが歩いていた。
「畜生…酷い目にあった…」
「酷い目とはなんだ、酷い目とは? あぁ、あちらこちらに存在する古い遺跡…どれだけ攻撃しても倒せない妙な生物が邪魔をしなければもっと詳しく調べたかったのに…」
「倒せないからって遥か彼方まで蹴り飛ばした奴の言う台詞かよ……そいつらもだが、見えない攻撃しかけたり急に変身する二人組と言い、お前に似た陰険眼鏡とか、妙な奴らに襲われてマジ大変だった…」
まるで苦労話のように語るクウ。戦った人物が実はとんでもなく有名で重要な位置に立っているのだが、この二人が知る訳などない。
そうこう話しながら、ようやくクウとウィドは大広間へと戻ってきた。
「よー、戻った…ん?」
クウが足を踏み入れた瞬間、我が目を疑った。
「フィールド上に存在する『深海の○ィーヴァ』に、『深海の○り』をチューニング! シンクロ召喚! 鋭き矛先で全てを貫く、『氷結○の龍グ○グニール』!」
「レベル7のシンクロモンスター!?」
「『グ○グニール』の効果発動! 手札を墓地に捨てる事で、捨てた枚数だけ相手フィールド上に存在するカードを破壊する事が出来る。私は一枚墓地に捨てて、『ガン○○ディア』を破壊する!」
「させない! 永続罠発動『マーシャ○○グ・フィー○ド』! このカードを墓地に送る事で機械属性のエクシーズモンスターを破壊から防ぐ!」
「くっ!」
「さらにこのカードが墓地に送られた時、あたしはデッキから『RUM-アー○ェント・カオス・フォー○』を一枚手札に加えるわ!」
「そんな!」
大広間の中央で、何故か決闘(デュエル)しているリリィとオパール。そしてその戦いを遠巻きに見る観戦者。
この光景に、ウィドは自然とある人物に顔を向けた。
「…リク、これはどう言う状況ですか?」
「どうして俺を見ながら言うんだ?」
そうリクは不満げに言葉を返すが、二人の喧嘩の元凶となるべく存在だと言う事に気付いていない。もはや性質の悪い天然だ。
「俺にも分からないんだ。二人がホワイトデーを迫って来たからみんなで食べれる様にと思って買ってきたクッキー缶を見せた途端、急にデュエルし始めて」
「100%お前の所為だろ!」
大きめのクッキー缶を見せるリクに、即座にクウがツッコミを入れる。
女心としては、好きな人から貰えるとしてもファミリータイプよりも個別がいいのだろう。
「カオスエクシーズチェンジ! これがあたしの最高傑作、『CX 超巨○○中要塞バ○ロン』! さーて、『バ○ロン』で『グ○グニール』に攻撃ぃ!!」
「させないよ! 罠カード発動!」
「見ていると熱い戦いですねー。理由は理由でくだらないものですが」
「だからどうして俺を見て言うんだ!?」
追撃とばかりに毒舌でウィドに言われ、リクは訳が分からないとばかりに怒鳴りつけた。
「さて、クッキーを賭けた戦いが行われていますが無視して次行きましょうか」
「ナナさん、意外と図太いですね…」
ホワイトデーのプレゼントを賭けた決闘を無視して演劇イベントを進行するナナに、リラは呆れを浮かべる。
そんな中で、一人の人物が手を上げた。
「次は俺達が行くぜ」
そう名乗り出たのはムーンで、彼の後ろにはシャオ・マールーシャ・レイア・ガイア・カヤ・ザルディンの7人がスタンバイしている。
「演じるのはアル○ネリ○3だ。折角だし、今の状況にピッタリのイベントシーンを演じるぜ」
「あ、あれですか? でもあれはボツだって…」
自信満々に説明するムーンに、ガイアが不安そうに呟く。
「いいのではないか? 元々候補には上がっていたのだ、状況に合わせての変更もよくある事だ」
「んじゃ、さっそくやるよー」
「ああ…」
マールーシャの助言により決定し、シャオが我先にとステージに上がる中ザルディンはなぜか青い顔で後をついて行く。
こうして役者がステージに上がるのを見送りながら、リラは首を捻らせた。
「一体何のイベントを演じるのでしょうか?」
「さあ?」
同じようにナナも首を捻らせる中で、ステージの幕が上がった…。
場所は巨大な施設の中。階段を上った最上階に、球状型の機械が幾つもの大きなチューブを接続された状態で置かれていた。
「…これが…」
「…DFP…」
「…何か、怖い…」
巨大な機械を見ながらムーン、マールーシャ、ガイアが思い思いに呟いていると、カヤが奥にあるコンピューターに小走りで近づいた。
「さあ、サ○さん。詩(うた)を…」
「…あ…はい。がんばりますっ!」
カヤが声をかけると、レイアが緊張しながら一歩前に出る。
そして胸の前で両手を握り締めると、小さく口を開く。
「そこまでだ!」
直後、牽制するようにザルディンの声が辺りに響く。全員は声のした方へ一斉に振り返った。
『『『ぎゃあああああああああぁ!!?』』』
すると、なぜか観客から悲鳴が上がる。
それもそうだろう…現れたザルディンは青いワンピースに髪にリボンを付けた少女の衣装を纏っているのだ。しかもサイズは小さいため、筋肉が見える程ピチピチの状態だ。
ある意味で目に毒な光景に観客達が叫ぶ中、ムーンはザルディンを睨みつける。
「っ! 男女! またお前かよ!」
「…あれだけのロボット兵から逃れてくるか、やはりお前…ただ者じゃねぇな…」
「何度やられても倒れないお前の精神力もただ者じゃねぇよ!」
「きーっ! ここが正真正銘貴様らの墓場だ! 今度こそ、ギッタンギッタンのグッチョングッチョンにしてやるだあああっ!!」
出来る限り甲高い声で叫びながら台詞を言うザルディンに、観客の反応はと言うと。
「あの、ナナさん。私あっちの方見に行ってもいいですか?」
「うん、リラさん。実際にこういう見た目のキャラいるからね、だから遠い目で逃げようとしないで、元ネタはちゃんと男の娘だから!」
「それフォローになってない気がする」
リラでさえ他の人達と共に未だに続くオパールとリリィの決闘に逃げ込もうとするのを、ナナが必死に呼び止めている。だが、ちょっと間違ったフォローに対してヴェンにツッコミを入れられるが。
「サ○! 頼んだぜっ!」
「はっ…はい! サ○、頑張りますっ!」
そうこうしている内に話は進み、ムーンがレイアに向かって叫ぶ。
レイアは観客の方に振り向くと、もう一度胸の前に両手を合わせた。
《けんかはや・め・てー!!》
そうして、スピーカーから緊迫した場にそぐわない可愛らしい曲が大音量で鳴り響いた。
『『『エ…?』』』
流れる曲とそれに合わせて歌うレイアに、観客だけでなく決闘していた二人でさえポカンとしながら思考を停止させる。
そして、それはステージにいる役者も同じだった。
「…は、はぁ!? 何これ!? 嘘でしょ!?」
「ちょ…さ、サ○!? この…詩は…」
シャオが耳を疑う様にヘッドフォンに手を当てる中、ムーンは呆れながら歌いながら踊るレイアに呆れを浮かべる。
しかし、カヤだけは興奮したように目の前のコンピューターを見ていた。
「よっしゃあ! DFP充填開始! ア○ト君! 動力が溜まるまで少し時間がかかります。サ○さんを護ってあげてください!」
「お…おう! 分かったぜ!」
カヤの指示にどうにかムーンが我に返る中、ザルディンはレイアの歌に感化されていた。
「な…なんだこのカワユイ…じゃねぇ、ふざけた詩は!! アタシを愚弄する気か!! おーのーれー!! バカにしやがって! いーくーだーよーーーーーっ!!!」
(((なんだこのカオスは…!?)))
流れる猫の歌とザルディンの姿と戦いの雰囲気が調和する事なくごちゃ混ぜになる舞台の光景に、もはや何も言えなくなった観客達であった。
「ふぃー! 楽しかったぜ!」
「少ししか出番なかったのはちょっと寂しかったけど、無事に喧嘩も終わったみたいだし」
ようやく演出が終わり、ムーンとガイアは満足げに舞台から降りてくる。
「あんなの見せられたら嫌でも止めるわよ…」
「そんな目で俺を見るな…!!」
嫌でも決闘を中断せざる負えない状況になったオパールの不満に、元の黒コートになったザルディンは周りの白い目と共に耐えるしか出来なかった。
「クウさん、私の演技どうでしたか? ちゃんと出来ましたか?」
「まあ、何と言うか…レイアだからこそ許される演技だよな」
『『『何なの、その目は?』』』
遠い目を浮かべて感想を述べるクウに、ヒロイン達は一斉に鋭い視線を送る。だが、今のシーンは(精神)年齢が幼いからこそ真似が出来ると言う物。この場にいる正規のKHヒロインキャラがやるとなればとてつもない勇気がいるだろう。
「シャオ、ナイスアシストだったぞ」
「そ、それほどでも〜」
そうこうしている間に、最後にカヤとシャオが舞台から降りる。
これにてムーン達の演目が終わった…となった時、廊下から何か物音が聞こえてきた。
「ん? なんだ?」
何かを引き摺っている音が聞こえ、グラッセが振り返る。
すると、襖が倒れると同時にワンダニャンとコウモリバットが大きな白い袋を引き摺って現れた。
「キュー!」
「ピキー!」
「お前ら、その袋は一体?」
突然口を縛った袋を持って現れた二匹に、主人であるリクが問いかける。
二匹がその場に置くと、袋が勝手に動き始めた。
「モゴモゴ――ぷはぁ!」
そうして中から飛び出したのは――。
『『『シャ…シャオーーーーーーーーーーっ!!?』』』
今しがたムーン達と一緒にステージで演じていたシャオだった。
「お、おい!? おかしいだろ!! だってシャオは――!!」
「『ブライン』!」
ルキルがカヤの隣にいるであろうシャオへと振り向こうとした瞬間、暗闇の魔法が大広間を包み込んだ。
「な、なにぃ!?」
「真っ暗で見えないー!?」
顔に黒い靄が纏わりついて視界が防がれてしまい、悲鳴を上げるヴィクゼンとソラ。
他の人達もパニックを起こす中、シャオと思しき人物は魔法を放ったキーブレードを降ろして逃げようとした。
「待ちなさい、偽物!!」
「ッ!」
鋭く放たれたエンの声と共に、偽物の真横にルインの魔法が放たれる。
足を止めて振り向くと、暗闇状態になっていないエンだけでなくラックも立っていた。
「私には状態異常の効果が効かない事を知らないようですね」
「アタイはエンとは違うが、こういった耐性が普通の奴らより強いんだ! その化けの皮、剥ぎ取ってやるよぉ!!」
「くっ!」
武器である鎌を持って襲い掛かるラックに、偽物はキーブレードを構える。直後辺りに閃光が走り、全員の視界が元に戻る。
暗闇状態が解除されて目に飛び込んだのは、悔しそうに武器を下ろすラックと溜息を吐くエンだった。
「ラック、あの偽物は!?」
「一瞬で魔法で逃げられたよ…悪いね、捕まえられなくて」
「今の、誰なんだ…?」
悔しそうにラックがリズに答える中、テラは不思議そうに今までいた偽物について考える。
他の人達も難しい表情で首を捻らせていると、ナナが隅の方に移動してトランシーバーを弄っていた。
「裏方スタッフに告ぐ…今すぐ逃げているであろう奴を捕えて部屋に閉じ込めて置け…! 出番まだだってのに、何やってんだあいつは…!」
「ナナさんにはちゃんと何者か分かっているんですね…」
静かに怒りを纏わせて指示を出すナナに、思わずリラは一筋の冷や汗を垂らした。
■作者メッセージ
ナナ「えー、こちらの方を読んでくださっている読者の皆さん。一ヵ月以上こちらを投稿していなくてすみません」
グラッセ「そんな事はどうでもいいから、さっさと前回の特別篇の結果報告をしろぉ!!!」
ゼノ「そうじゃ!! 特別篇が終わって妾がどれだけ待ったと思っておる!!!」
ナナ「分かった、社交辞令このくらいにするからトランスと禍々しい闇のオーラを引っ込めてぇ!!?」
ルキル「久々の投稿だってのに、初っ端からこれかよ…」
スピカ「まあ長い間待たせていたんだし、早い方がいいでしょ。さ、結果報告して頂戴」
ナナ「はい。前回のイベントの結果ですが――リラさんとの話し合いの結果、一番良かったのはスピカに決まりましたー!」
スピカ「ふふ、当然ね」
グラッセ&ゼノ「「チイィ!!!」」
ルキル「どれだけ悔しいんだよ、お前ら…」
ナナ「そう言う訳で、近い内…とは行きませんが、執筆が出来次第彼女の外伝を書いて行きたいと思っています。それでは今回はこの辺で」