第三話
「ここが最深部みたいだな」
一方、そんな事があったと知らないクウとシャオは天井の無い崩れた神殿の内部に足を踏み入れていた。
辺りに激しく散乱する瓦礫や崩れた階段を進んでいると、奥に不思議な色をしたクリスタルで出来た高い椅子があるのにシャオは気付いた。
「何だろ、あの椅子みたいなの?」
「偉い人物が座る為の王座みたいだな。これと言った手がかりはないか…」
「周りも何もないね…」
クウが軽く玉座を調べ終えるのを見て、シャオも辺りを見回す。
空は相変わらず真っ暗で、周りも老朽した壁や柱のみ。出口どころか、空間の歪みすらも存在しない。
もう調べられる所は調べつくし、二人は口を閉ざして無言になる。
「なあ、シャオ」「ねえ、師匠」
すぐに何かを思いついたのか、二人は同時にお互いに顔を向ける。
「師匠、先に言って」
「いや、お前から話せよ」
お互いに発言を譲り合うので、先にシャオから言う事にした。
「師匠。ボク、思いついた事があるんだけど」
「奇遇だな。俺も今思いついた事があるんだ」
「リズ達…いないよね?」
「ああ、いないな」
「もしかして、師匠も同じ考え?」
「さあな。だが、事情を知らない奴の前ではやりたくないな」
シャオが意味ありげに聞くと、クウは笑いながら前置きをする。
しかし、考えが一緒なのが伝わったのか、クウは真剣な目で暗闇に覆われた上空を見上げた。
「――やるか」
「うん。いっせーの…」
シャオも頷き、上空を見上げる。
そのまま二人は大きく息を吸い込み、大声で叫んだ。
「神様ーーーーーっ!!! イリアさーーーんっ!!! たーすーけーてー!!!」
「あー!! どうせここで最後ならイリアのでっかい胸に顔埋めとけば良かったなー!!」
そうして助けを求める二人の叫びは、響く事無く虚しく暗闇へと散っていく。
しかし、二人は目に期待浮かべて上空を見上げ続ける。
変化のない暗闇を見上げて少しして、ようやくクウがポツリと呟いた。
「…来るか?」
「来ない、みたい…」
シャオもようやく呟き、助けが来ない状況に二人は盛大に肩を落とす。
イリア――正式にはイリアドゥスと呼ばれる人物は、異世界に存在する神と呼べる女性でもある。彼女と知り合ったのは昨日だが、見ず知らずにも関わらず絶望していた自分達にさまざまな助言や立ち直るキッカケを与えてくれた。
そんなイリアでも、さすがに助けには来てくれそうにもない。期待をしつつも、現実的な考えもしていたのですぐに二人は立ち直った。
「神頼みならって思ったけど、失敗かぁ…――と言うか、師匠。そんなの聞かれたらまた怒られるよ?」
「それ目当てで言って見たんだ。あの二人が聞いたら飛んでくる内容だろ? そりゃあ、少しは男としての本音もあったけどよ……とにかく、イリア頼みも失敗だな」
「本当にどうすればいいんだろ…」
「考える必要なんてねぇよ」
腕を組むクウの横でシャオが弱音を呟いた時、やけに低い声が背後から飛んでくる。
二人が顔を向けると、只ならぬ殺気まで纏わせたウラノスが歪んだ笑みを浮かべこちらを見ている。
さっき別れた時よりも敵意が激しくなったウラノスに、シャオが後ずさる。そんなシャオを守ろうと、クウが一歩前に出た。
「おいおい…やけに不機嫌じゃねーか? そんな殺気のオーラ出して、俺達なんかしたか?」
「あぁ。少なくとも、お前ら二人の所為でリズは消えるし闇も消える。存在自体が迷惑だ」
「は? 何言ってんだ?」
思わず目を丸くクウだが、ウラノスは聞いてないのか笑いながら話を続ける。
「だけどな…考え付いたんだよ。お前らが消えて、リズが幸せになる方法をなぁ」
そう言うと、ウラノスは何処からか二つのチャクラムを取り出して両手で握る。
武器を取り出したウラノスにクウが最低限の構えを見せていると、腕を伸ばしてチャクラムの先端を突き付ける。
殺気を当てられて、クウの後ろで震えているシャオを。
「なあ、クソガキ。お前の身体、レプリカなのに人間らしいじゃねえか……それに鴉野郎の力を合わせれば、クソガキの身体を使ってリズを人間にさせてやる事が出来る。未来は変えられるし、リズも救える…立派な方法だと思わないかぁ!!!」
腹の底から叫ぶなり、血走ったように二人を睨みつけるウラノス。
そんなウラノスの言葉に、ようやくクウは彼が何をしたいのか理解する。と同時に、服の上から右腕に刻まれている刻印を握り締める。
「シルビアから貰った力使うってか!? これは俺に与えられた力で、お前が使える訳じゃ――!!」
「そんな事知った事じゃねぇ!!! ――まずはお前の右腕斬り落としてでも、その力を奪ってやるよぉ!!!」
チャクラムに電流を纏わせるなり、クウに向かって右手の武器を一気に投げつける。
もう言葉では止められないと悟ったのか、二人はすぐにキーブレードを取り出して構える。
だがその直後、チャクラムはシャオの頭上に飛んでいくと雷を落とした。
「あぐぅ!?」
「シャオ!!」
不意打ちの攻撃にクウが振り返ると、ダメージと共に電気特有の痺れが走ったのかその場で蹲る。
そこを狙い、ウラノスが一気に間合いを詰める。このままではマズイと直感で感じ、クウはキーブレードを振るった。
「悪いっ!!」
「ふぐっ!?」
なんと蹲るシャオを薙ぎ払い、床まで完全に崩れ去った神殿の一部へと吹き飛ばす。
荒いやり方でシャオを逃がすクウに、ウラノスは舌打ちしつつ両手に雷の魔力を溜めた。
「お前は逃がすかぁ!!!」
両手に溜めた雷の魔力を解き放つなり、クウを閉じ込める様に辺り一帯に電撃の檻を作り出す。
こうして『落雷の牢獄』を作り出したウラノスに、思わずクウも目を瞠った。
「ナ…っ!?」
「し、しょう…っ!?」
シャオは崩れ去った崖から落ちながら、電撃の檻に閉じ込められたクウに手を伸ばす。
しかしその手は届く事無く、すぐに深い底へと落ちて行った。
崩れた神殿内部で、戦いの火蓋が切って落とされる。
その騒音は、神殿の下の方にいるリズにも聞こえていた。
「なに…今の音…?」
只ならぬ破壊音に、リズは思わず顔を上げる。
上にあるのは、廃墟となった神殿。よく見ると中に雷の壁が出来ている。
見覚えのある雷に目を瞠っていると、その中でウラノスが自分を助けてくれた男性を攻撃しているではないか。
「ウラノス…!? どうして、あいつを襲ってるの…!?」
遠くからでも優しそうな感じは消え失せているのが分かり、まるで掃討するかの如く武器で攻撃しているのが伝わる。このままでは、あの男性は殺されてしまう。
止めなければ。そう思う傍ら、足は二人のいる場所に動くどころかその場に固まったままだった。
「だめ、行けない…行けないよ…!!」
仲間を傷付けたくはないと言うのもあるが、ウラノスと戦ってその間にノーバディと言う事がバレてしまえば…いや、もしかしたらノーバディと言う事を知っていて、それで私を助けた彼が襲われている可能性だってある。
良き仲間であったウラノス。そんな彼が敵意のある表情を、何時自分へと向けてくるのかが怖くてたまらない。その恐怖に、とうとうリズはその場で膝を付いた。
「願えばいい――自分の思うままに」
「え…!?」
突然聞こえた少女の声に、リズは顔を上げる。
そこには先程ウラノスと話していた少女が、じっとリズを見つめていた。
「この世界は、人の願いを映す場所でもある。だけど、あなたは存在を許されない者――ノーバディ。どんなに願っても、人間ではないから幸せな未来など掴めはしない」
少女の口から言われた事実に、リズは顔を俯く。
そんなリズに、少女は急に優しく微笑んだ。
「けど、辛い現実から逃れる事は出来る。逃れた先に、あなたの望む未来が手に入る」
まるで子守唄の様な安らぎを感じ、何処か虚ろな目で顔を上げるリズ。
それを見た少女は、微笑んだままゆっくりと手を差し伸べた。
「――行こう、リズ?」
少女の言葉に誘われるかのように、ゆっくりとリズが手を伸ばし――。
「駄目だ、リズっ!!!」
聞き覚えのある叫びと共に、割り込む様に二人の間に白いキーブレードが突き刺さった。
「「ッ!?」」
突然の乱入に、リズだけでなく少女も手を引っ込める。
キーブレードが飛んできた方向を見ると、クウによって逃がされたシャオが肩で息をしながら少女を睨んでいた。
「シャ、オ…?」
「そんな、奴の…言う事、聞いちゃダメだよ…!! 自分がノーバディでも…誰に何を、言われても……自分の思うままに、進むのがリズ…じゃ、ないか…!!」
痺れているのか、シャオは僅かに身体を痙攣している。よく見ると、服が若干焦げていたり怪我をしている。
電撃による麻痺が起こっているにも関わらず、自分を助ようとしてくれたシャオにリズは涙目になってしまった。
「シャオ…私…!」
「あと少しだったものを…でも、計画には問題ないわ」
その時、傍観していた少女は口調だけでなく声まで変わる。
二人が顔を向けると、少女から膨大な闇が溢れて立ち尽くすリズとシャオを呑み込んだ…。
■作者メッセージ
ここから戦闘シーン…となりますが、一旦ここで投稿を中断します。
出来上がってない訳ではないですよ? ちょっと手直しが間に合わなかったと言うか、一気に全部出してしまうと楽しみが一気に終わりそうと言うか…。
大体は完成しているので、次に投稿するのは今日のお昼12時頃になります。その後、夜ぐらいに最後の話を出したいと思っています。
出来上がってない訳ではないですよ? ちょっと手直しが間に合わなかったと言うか、一気に全部出してしまうと楽しみが一気に終わりそうと言うか…。
大体は完成しているので、次に投稿するのは今日のお昼12時頃になります。その後、夜ぐらいに最後の話を出したいと思っています。