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時空の狭間の物語(あとがき追記しました)

NANA

INDEX

  • あらすじ
  • 01 第一話
  • 02 第二話
  • 03 第三話
  • 04 第四話
  • 05 第五話
  • 06 第六話
  • 07 第七話
  • 08 第八話
  • 09 第九話
  • 第八話


    「これが俺の全力だ…!!! 轟け、雷よ!! サンダガァ!!!」

     バッと大きく手を翳すと、ゼノの上空が光り出す。
     相手は本気だと分かり、冷や汗を浮かべ捕らわれた二人の背後にも回廊を作り出す。

    「こうなれば「逃がさねえぜ!! ソラァ!!!」っ、貴様ァ!?」

     二人を連れて逃げようとした瞬間、クウに言われた名前に反応してゼノが身体を向ける。そこには、翼を纏った状態でキーブレードを構えるクウの姿があった。
     少しでも動きを止める為に、ワザとその名を呼んだ事に気付くゼノ。そうして引っかかったゼノを見て、クウは強く武器を握り締めた。


     目の前の少女と同じ顔をした、大事な仲間を思い浮かべながら。


    「お前が助けてくれた技、使わせて貰うぜっ!!! ハードストライク!!!」

    「ぐうぁ!?」

     ゼノに向かってキーブレードを振るい、思いっきり吹き飛ばす。
     命令をする主が攻撃された事で、回廊に入ろうとしたダスクが動きを止める。その一瞬の隙にクウは玉座に着地すると、右手をつけて残っている闇の力を解放させる。

    「ブラックホール!!」

     そうして黒いドームが作られ、クウを中心にリズとシャオを捕えているダスクを包み込む。
     直後、ドーム内で重力の衝撃波が幾度となく襲い掛かりダスクは消滅してしまう。
     その間にウラノスの放った巨大な雷が黒いドームへと落ちて、もの凄い威力と共に空間全体に轟いた。

    「はぁ、はぁ……生きてるかぁ?」

    「ギリギリ、な…」

     魔法を発動させた所為か、疲れた顔でウラノスが崩れゆく黒いドームに声をかけると、中からクウが気の抜けた声で返事を返す。
     見ると、クウは玉座の上に立っており、両脇にリズとシャオを抱えている。重力のドームとスピカのロケットのおかげで、どうにか生き延びたのが分かる。
     リズとシャオの奪還に成功して二人が力なく笑っていると、吹き飛ばされたゼノがゆっくりと起き上った。

    「おのれ…!」

    「リズは奪還したんだ。後はこいつを――」

    「待ってくれ」

     痛みを堪えるゼノを始末しようとウラノスが歩み寄る。
     しかし、玉座から降りたクウがウラノスを呼び止めると、抱えている二人を降ろしてからゼノに顔を向けた。

    「ゼノって言ったな。お前…俺とシャオを捕えて何をする気だ?」

    「ふ、ふふっ…その少年の資質、更には自分の力も気づいていないとな? 何と勿体無い。もはや宝の持ち腐れ、その力を与えた鍵の少女も嘆く事でしょうねぇ。あの方ならば、その力を使って世界の頂点に君臨出来ると言うのに…」

     自分を馬鹿にする言い方だが、それ以上にゼノの提示する力の使い方に強い怒りを感じた。

    「ふざけるな!! これはあいつを――シルビアを救う力だ!! そんな風に使うつもりは無いし、お前らの味方にもならない!! 何があってもだ!!」

    「フフ…アッハハハ!!」

    「何がおかしい!?」

    「本気で言ってるのか? 実に愚かだことっ!」

     そう言いながら一頻り笑うと、怒りを露わにするクウを見る。
     正確には、彼の右腕に刻まれた刻印を。

    「貴方の持つその力で、誰かを救うとな? そんな世界を揺るがす力で何をどうする気だ?」

     ニヤリと笑うゼノに、僅かに顔を歪めるクウ。

    「分離と融合の力…二つを以ってすれば、『χブレード』を作る事も容易い。そう、世界の中心への鍵を手に入れて全ての世界の心―――キングダムハーツを掌握すれば、何もかも思う通りになる。世界の破壊も、光を跡形も無く消す事も、人々を恐怖に陥れる事も――!!」

     熱を帯びて語っていたゼノだが、耳元で黒い羽根が高速で横切る。
     視界の端で、切られた髪の毛が数本舞っている。そんなゼノの前で、クウは腕を伸ばした状態で手を広げて睨みつけていた。

    「だから何だ? この力をどう使おうが俺の勝手だ。誰の指図も受けるつもりはない」

     何時もは女性に優しく接するクウだが、さすがにゼノの態度に我慢の限界が訪れたようだ。
     強い怒りを宿しながら冷たく言い放つと、羽根を投げた腕を下ろして決意の篭った目で宣言した。

    「俺は俺の道を行く、ただそれだけだ!!!」

    「――よく言ったぜ、クウ」

     自分の中の信念を叫ぶと、ウラノスが笑いながらその場から消える。
     直後、ゼノの背後に移動してチャクラムで斬り裂いた。

    「はぐぅ…!?」

    「戯言は終わりだ、こいつで――!!」

     倒れるゼノに追い打ちをかける様に、ウラノスがチャクラムに電流を纏う。
     顔を青ざめるゼノだが、感情を捨てたウラノスは構わずに武器を振り下ろした。


     そうしてゼノを切り裂く直前、後ろからクウが腕を掴んでウラノスの攻撃を止めた。


    「…何してんだ?」

     攻撃を止められ、ウラノスは不機嫌そうにクウを睨む。
     だが、その視線を受け流すとクウは軽く首を振った。

    「もう止めろ。どうせこいつは戦えない」

    「馬鹿言うな!! こいつはリズだけじゃなく、あのクソガキも捕まえた奴だぜ!? 敵って分かってて始末するなだとぉ!?」

    「貴方…妾に情けを掛けると言うのか!? まさか、あいつに似ているからって理由ではないだろうなっ!?」

     ウラノスだけでなくゼノまでも、見逃しを申し出るクウに反発を立てる。
     そんな二人に、クウは淡々と自分の考えを口にした。

    「それもあるが…――目の前で女性が傷つくのは見たくない。それだけだ」

    「こんな時でもそんな甘ったれた事――!!」

    「言った筈だせ、『女性は大切に扱う主義』だって。どんな奴であれ、女性である以上…――男として接しないといけないって教えられたんだよ」

     さっきとは違う、自身に課した信念を見せられてウラノスは反抗の意を収める。
     それを見て、クウは再び憤慨を露わにするゼノに向き合った。

    「そう言う訳だ、もう手を引け」

    「そんな言い分、妾が聞くとでも――!!」

    「引け。二度と…俺の前に現れるな」

     殺気を送りながら睨みつけるクウに、怒りを抱いているゼノも肩を震わせる。
     軽く下唇を噛むと、腕を上げて後ろに闇の回廊を作りだした。

    「ッ…!! 次は容赦しない!! 覚悟するのだな!!」

     勢いよく立ち上がりながら二人に怒鳴ると、ゼノはそのまま回廊へと足を踏み入れる。
     こうして敵が立ち去るのを見送ると、クウは掴んでいた腕を放す。ようやく拘束が解かれると、ウラノスは呆れながら武器を仕舞った。

    「あいつ、まーた襲ってくるな…止めを刺さなかった事、後から後悔するぞ?」

    「そん時はそん時だ。ちゃんと覚悟は決めとくさ」

    「ったく…やっぱり、あんたは甘いな…」

    「こう言うのは甘くていいんだよ…――誰かを犠牲にするとか、消すとか…こっちは嫌って言う程見て来たんだ…」

     クウは何処か遠い目を浮かべると、右手を広げて見つめ始める。

    「自由を手に入れる為に、沢山の奴らを裏切った…些細な行動で大事な物を幾つも失った…目の前で苦しんでるのに、どうする事も出来なかった…助けたかったのに、助けられなかった…!」

     これまでの過去、今現在巻き込まれている事件を思い出しながら、手を握り締めて拳を震わせる。
     ここにいるクウもまた、身体を乗っ取って助けたクウと似たような道を歩んでいる。そうウラノスが感じていると、クウが真剣な表情でこちらに顔を向けた。

    「お前のように、大事な奴を思う気持ち…そして、誰かを犠牲にする重さだって思い知ってる。だからこそ…この力は誰にも渡せない。もちろんシャオもだ」

    「結局、自分が大事って事か……俺と同じエゴな考えだな」

    「違えよ」

     即座にウラノスを否定すると、リズの隣で横になっているシャオに微笑む。

    「戦う力失って、どうしようもない俺をシャオはずっと信じてくれた。あいつの知ってる俺じゃないのに、【師匠】とまで呼んでくれた。この力だって……彼女が俺を信じて託してくれたものだ。どんな事があっても、手放す訳にはいかないんだよ」

     どんなに残酷な真実でもずっと信頼してくれたから、自ら犠牲になって未来を託してくれたから、今自分はここに立っている。彼らの為にも、見ず知らずの自分達を仲間として迎えてくれた人達の為にも、手に入れた光は守り通したい。
     一つの決意をウラノスに述べると、何処か悲しげにシャオの隣にいるリズを見つめた。

    「それに…俺達を犠牲にしたと知ったら、あの子は人間になったとしても悲しむんじゃないのか?」

    「――あぁ、同感だ。お前らの事を伏せてても、リズなら何時か知ってしまうだろうな。そう言う事に関しては勘がいいからな…」

     破天荒で鈍感なクセして、野生の勘が強く鋭い所に目を向ける。そして、ベクトルの方向が捻じ曲がるものの、一人で抱え込むほど他人に対する優しさを持っている。もし二人を犠牲にして人間としての人生を歩んだと知れば、リズは再び自分を追い詰めるだろう。
     ウラノスも悲しげにリズを見るが、やがて気を引き締める様に真剣な顔に戻った。

    「それでも、俺は諦める気は無い。何を犠牲にしてでも…あいつをノーバディと言う宿命から解き放って、心から笑顔にさせてみせる」

    「それは構わねえけど、命と引き換えってのは無しにしてくれ。どうしてもって言うんなら、俺ら巻き込まない形で頼む。またお前みたいな化け物と戦うなんて、あと一回で十分だ」

    「犠牲を生みたくないとか言っといて、傍観する気かよ?」

    「何かを叶える時は、どうしても犠牲は必要になるもんだろ。大きければ大きい程、それ相当のモノと引き換えになる」

     そう言うと、何処となく遠くを見る目で暗闇の空を見つめた。

    「それでも…俺は出来るだけ抑えるつもりだ。お前みたいに何もかも割り切ってしまったら、“あいつ”みたいになるからな…」

     全ての元凶であり、倒すべき相手――世界の敵となった自分を思い浮かべながら、クウは頑なに拳を握る。
     何もかも割り切ったから、彼は世界の敵となった。紙一重である自分もまた、一歩間違えば彼と同じになってしまう。何かを犠牲にして得たものが良い訳がないと理解させるためにも、同じ道を歩いてはいけないのだ。

    「ったく――羨ましいくらいに、ちゃんとした奴だな。あんたの爪の垢煎じて、あの幼なじみ君に飲ませたいくらいだ」

     クウの話に、ウラノスは笑いながら嫌っている少年を思い浮かべる。
     重い過去を背負う彼に少しでもクウのような考えがあれば、ちょっとは前向きにはなるかもしれない。例えそうなっても嫌いな事には変わりないが。
     その時、気を失っているリズの周りに突然黒いモヤが全身を包み込んだ。

    「何だ、この闇!?」

    「リズ、起きろ!! おい!?」

    「大丈夫、あの混沌は彼女を元の場所に送ってくれるから」

     ウラノスが駆け寄ろうとすると、聞き覚えのある声が響く。
     同時に、リズの隣から闇が現れてゼノに消された筈の少女が現れた。

    14/02/20 21:52 NANA   

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