2-13 俺達の戦いはこれから、だと思ったら既に始まっていた。
藍浜高等学校生徒会。
基本的に三年が会長の座に就き、二年が副会長の二人書記一人、1年が副会長補佐一人会計一人雑務複数名で構成されている。
……はずなのだが三年の会長が就任後病欠で学校そのものを欠席しており事実上二年の副会長一人が会長代行として昇進し就いている。
ということで現在は二年から会長一人副会長一人書記一人、一年から会計一人となっているらしい。
副会長補佐が欠員しているのは今期の生徒会役員が成績的に優秀だったが為に省略され副会長二人体制で不足なしと判断された。
ちなみに雑務は、各学年の生徒委員会所属委員(要するに、クラス委員長を数名呼ぶ)から出張してもらう方式で人員の削減を徹底している。
しかし副会長補佐を設定しなかったのが裏目に出た。
会長の欠員によって副会長一人に格上げが実施され副会長は一人で補佐無しという現状になった。
現在副会長が一人しかおらず、更に補佐も居ないことから深刻な役員不足が問題視されている。
そこで部活や他役員に無所属な者を生徒会役員全員が自ら推薦して任意同行し書類調査を行い役員試験を受けさせた――
「ちょっとまて、任意同行? 拉致の大きな間違いだろ? いくらなんでもそれには語弊があるぞ」
「……細かいことを気にする男は嫌われるわよ?」
と上級生の女子生徒。机の手作り感満載の段ボール製紙立てに”書記”と書いてある紙が挟まれている。
「細かいですか!? これって!」
そう上級生に抗議し、すべての根源であろう姉貴を睨みつける。
「ゴメンネ☆」
と、反省気まるでなしの言い方で謝られた……もちろん俺にとって逆効果なのは言うまでもない。
「会長はなんでこんな奴を?」
男勝りな声な女子生徒が顎で指す……こんな奴とはいきなり扱いがひどいな。
「戸夏は何か知っているの?」
とチビッ子と純粋無垢そうに舌足らずで高い声で問いかける。
「同じクラスだから知っているのだが……色々な女子をはべらせているんだ」
「!?」
はべらせている……だって? ハッ、いきなり何をいうかと思えばそんなあり得ないことを。
俺の周りには友人しかいないぞ? いくならあギャルゲーの主人公っぽい物になったとはえいな、そんなには――
ユキがいるじゃん。そんでもって最近は姫城さんも……そっか学園のヒロインを大げさに言えば独り占めしてることになるのか?
……いやいや、いくらなんでも自意識過剰すぎだろう。ユキとは友人止まりでショボーンだそ姫城さんには告白されて撤回されて無かったことにされて友人だしなあ。
「戸夏……それはどういうこと?」
童顔にに似つかわしくなく眉間にしわを寄せてチビッ子が聞く。
「こいつ数人の女子と妙に親密で……登校時に手を繋ぐ程の関係のある女子と別に、違う女子と地下倉庫前で密談関係のある女子を差し置いて違う女子と昼食してたりな!」
くっ……表現の仕方に多少誤差があるも、だいたいあってる。
まぁあんな暗い地下倉庫前で話してたら怪しむのも当然か……実際は俺と姫城さんが命の危機に瀕していた訳だけど。
「ユ、ユウくん! それはどういうことっ!?」
「うわぁ、なんか食いついてきた!」
身を乗り出して興奮気味に食いついてきたのは他らならぬまた姉貴。
いや……まぁ今のこいつ(コナツ)の発言は取り方によっては俺が不健全な交友をしているようにも聞こえてくることからあくまで姉として注意するのは理解できるとしても。
……問題はなぜにそれほどまでに目が血走っているのか、だ。今、食いついてきたのは姉貴の私情が大半だろうな……とおおよそ予測がついてしまう。
「いや、一人はユキだよ。ほら家の前まで迎えに来てくれる」
「ああユキちゃんね……で、もう1人は?」
あれ、姉貴が恐いぞ?
なんというか、姫城が怒っていた時の雰囲気に似てる……?
「ただのクラスメイトだよ。ユイやマサヒロやユキが学食に行ったから一緒に飯食うことになって……」
「密談は?」
むごいぐらいにガシガシ攻めてくるな。
「彼女は何か悩んでいたらしくて人の多い場所じゃなんだから、と俺に相談を地下倉庫前で」
殺すことに悩んでたから、完全に嘘ではない……はず。
「なんでユウくんなの?」
もう、もうひと押しだ!
「友人としてだぞ? 友人である俺に相談してきたんだろ。彼女……姫城さんはあまり話す相手がいないらしくてさ」
「……そうなの」
「あ、ああ」
……。
「そうなんだ! よかったぁ!」
……ふぅ、とりあえず急場は凌げたぜ。すると先程コナツとやらに聞いていたチビッ子は。
「なるほどね、うんうん! そういう事情なら仕方ないね。コナツ、いきなり決めつけりゅことはよくないよ!」
名も知らぬ少チビッ子、擁護ありがとう! でも素晴らしいほどに舌足らずだぞ……
「ということで、この話題は置いておいて」
「完結させないの!?」
チビッ子あと少しじゃないか! 頑張ってくれよ!
「ということで、我が生徒会の主なメンバー紹介をするよ」
するとチビッ子は立ち上がった……擁護してくれたとはいえ、なんだこの会長気取り。というか同じ学年にこんな少さい子いたっけか?
「私は……葉桜
はざくら
飛鳥
あすか
二年生徒会長代行っ!」
「えっ」
少女さんが会長代行? ということは……上級生!?
「…………」
「なんで突然黙るのかな! しもの!?」
こんな人の名前を平仮名調で言う人が上級生な訳あるもんか。
「じゃあ次は私ね」
先程俺が任意同行に語弊がある! と、言った際に「細かい男」云々を呟いた書記。
「私は紅
あかつき
知沙
ちさ
二年書記」
説明を受けたその数秒後。初っ端毒舌を吐かれて困ったものだ。
「Q&Aの発言も私よ」
「え?」
そういえば知沙……何かあったような?
『Q.8 知沙「ふふ、一年の癖によく知った口が叩けるものね』
これかっ!? というか、さりげなく心読まれた!?
「で……あたしか」
先程何か俺への当てつけのように「こいつはべらせてるよ」的発言をしてきた奴だ。
「あたしは福島
ふくしま
戸夏
こなつ
一年会計」
やっぱ1年か……会計は1年だからな。更にさっきさりげなく同じクラスとか言ってたな――
ちょっとまて、同級生に罵られてた上になぜに好感度がストップ安なんだ!?
「私は下之美――」
「姉貴はいいよ」
「(しゅん)」
何に落ち込む姉貴。いや、いらないからさ……もちろん知ってるし。
「というか、なぜ俺なんです?」
「美奈から推薦されたから」
「いや、そうじゃなくて……生徒会役員全員が推薦したってことは姉貴以外が推薦した別の人がいるはずじゃないですか」
俺以外の姿は見当たらない。俺が一番最初なら仕方ないのだが。
「ああ、それなら」
するとチビ――会長代行は。
「美奈の副会長権限によって全却下されちゃったんだよねー」
……。
「……姉貴、あとで……わかるよな?」
「やだ! ユウくん告白なんて!」
「今までの会話の何処に告白の要素があるのか、よく考えてみようか」
それを聞いて会長代行はというと顔を真っ赤にして。
「告白なんてふしだらだよ! 十八歳にならないと」
いや歳関係なく姉弟同士は駄目だと思います。
「流石ね」
……なにが流石なんですか、書記さん!
「……これだから、男は」
俺のせいで男子全員が否定された!?
「……」
え、えと入ってそうそうイジられ始めています。今居ない会長はこのストレスで病にかかったに違いない。
「で、シモノは副会長補佐代行ってことでよろしくね」
「!? ちょっと待ってください! だから俺は生徒会に入るとは言ってな――」
「ようこそ! わが生徒会へっ!」
「いや、だから――」
「可愛がってあげる(イジリ甲斐がありそう)」
「結構です!」
「人と見ずに……まぁ荷物運びに、一人居てもギリギリ許容範囲だな」
既に人外の扱い。というかこいつはどれだけ俺のこと嫌いなんだよ……
「ユウくんと一緒に働けるなんてお姉ちゃんすごく楽しみ! ワクワク」
「ああ、姉貴と一緒に働くなんて不安で心が折れそうで、今は心臓バクバクだよ……」
とりあえず拝啓名前も存じていない会長さま。早めの復帰を心から願います。