1-7 プロローグのプロローグ
「はいっ!ありがとうございますっ」
キラッ☆ キラキラ幼女スマイルで先生にお礼を言う桐。
なんという可愛らしい光景。一般男子や大勢の女子が保護欲に苛まれるのだが、俺に限っちゃ何とも全く心が動かない。
「(大人なんてちょろいもんです)」
ほらこれだよ……この見下す黒さ満点の言い方。っていうか古い喋り方消えてるし、どっちかはっきりしろよ。
「じゃあ、静かにおにいちゃんの近くにいるですっ」
たったと駆けて俺の隣に立つ。
「いい妹さんだな、大切にしろよ」
担任からのちっとも有り難くないお言葉ありがとう。大切にする必要なんてない。こいつは自力であらゆる敵に邪気で対抗出来るから放っておいてもノープロブレムだよ。
「よろしくね、おにいちゃん!」(ニヤリ)
断じて妹ルートに入らねえ。というかこいつは既にもう妹じゃない腹黒い何かだな。どうやったら無邪気な妹キャラが邪気臭全開の変態になるのだろうか。
「はぁ」
妹のドス黒さに溜息をつきつつ。
「あそこが俺の席な」
「はいっ! 先に行ってるです」
思えばこの”〜です”っていう語尾が本来ならば少し背伸びした小学生みたいで微笑ましいのになぜだろう? 桐のは聞いててイライラする。
そうして桐はひょこひょこと俺の机目がけて走って行った……俺にしか見えない邪気を振り撒きながら。
遅れて俺が席に着いた。桐にはどこから出したかわからない小さめの丸イスが置かれていて、そこにちょこんと座っていた。
「ところで、桐」
「なんですか? おにいちゃん」
「無理しなくていいぞ」
「え? なんのことですか、おにいちゃん?」
「猫かぶり」
「(猫かぶりゆうな! 世渡りの良い妹と言え)」
ほうら本性でた。
「(で、なにか用か?)」
「(いやさ、さっき言ってたストーカー女ってどんな人なんだ?)」
桐は攻略情報が頭に入っていると言っていたのを俺は明確に記憶している。それならそのストーカーについての詳細を知っている可能性がある訳だ。
「(うっ……)」
明らかに居心地悪そうに目を背ける桐。
「(ぶ、とんでもないブサイクじゃ! 学力も低くて落ちこぼれ! じゃ!)」
そうなのかー。
「(なら顔を背けずにもう一度)」
「(うぅっ……おにいちゃんのいじわる)」
「(ごめんなこの底意地悪い性格が俺の地だから)」
妥協してくれな?
「(ま、まあ……奴に近づくのは止めておいたほうがいい、貴様の可愛いくぁいい妹のありがたいお告げじゃ)」
「(けっ)」
自分のことを可愛いなんて言うやつにロクなもんはいねえよ。何か傍目からみればコソコソと妹と密談というシュールかつ犯罪チックな光景が広がっていたので即刻止め、俺は自分の席に座り直し黒板に向き直る。
桐は人懐っこく(※演技)俺の右腕にがしぃっと掴まっていた。
その光景を見て続々と増える敵(おもに男子)の「もう殺ってもいいよね♪」的な視線と先程から続く”あの視線”に俺は悩まされたのだった。
帰り、今日の学校の授業がすべて終了した。アニメで言えば終わったのはAパート、CM開けてまだ先は長い。
「帰ろうぅー」とマサヒロ。
「皆の者! 家へと撤収だっ! 今すぐ自宅警備という仕事に復帰するんだっ」以上ユイ。
自宅警備って言っても自分の部屋のパソコン周囲限定だろよ。
「帰ろー」とユキさん。
そうして集団でぞろぞろと教室を出るために二つしかない出入り口の一つを目指して間隔の狭い机群の間を歩いてゆくのだが……その時。
ガシャン何かが床へと落ちる音。
ただでさえ狭い机間で、更にノートが飛び出していたようで。俺の学生カバンがぶつかり、ノートを伝って筆箱も床に転げ落ちた。
「あ、すまんっ」
と謝りながら、すぐさまこぼれた筆箱本体と筆箱の中身やノートを拾う上げ机に置く。……どうやら筆箱やノートを見る限り女物のようだ。
ノートの表紙文字や可愛らしいピンクのソフトタイプの筆箱から分かる。
「い、いえ」
「ごめんな、ぶつかっちまったわ」
「ええと、大丈夫ですよ」
妙に落ち着き美麗なその声。ものを拾い上げて顔を見上げると。
「!」
そこには非常に整った顔立ち。清楚な佇まい。少し香る甘い匂い。長く綺麗な黒髪を放らせたかなりの美少女女子生徒がそこには居た。
「……ユウジ様ですよね?」
「え……?」
思わぬ言葉に驚いてしまう。
「なんで俺の名を?」
「一の二のクラスメイトの一人ですから、名前は覚えていますよ?」
そうきっぱり答える彼女が続けて。
「私は姫城 舞(ひめき まい)です」
「え、ああ! 覚えておくよ」
「ありがとうございます、では以後よろしくお願いします」
「あーこちらこそ」
その頃背景では――
「能登●美子ヴォイスキタコレ!」
「のとぉぉぉぉぉぉぉ……いや、これはよく聞くと――G●の能戸松だあああああああああ」
「(っち)」舌打ちする桐と。
「すぐ仲よくなったなー」と関心するユキがいた。
「よろしくな、じゃ」
と言って名残惜しいながらもその姫城さんから離れ帰路に着く俺。
この時だったのだろう。桐の舌打ちや姫城さんの「以後よろしく」の意味に気づいていれば……
あんな事態にはならなかったのかもしれない。