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境界の守護者

クラウン

INDEX

  • あらすじ
  • 01 序
  • 02 壱
  • 03 弐
  • 04 参
  • 05 肆


  •  隅田川のほとりには、人には見えない別の存在が一つの石を囲んで奇声を発している。影は小さく、下腹だけが異様に出っ張り、服はぼろきれと言って良いものだった。濃い緑に変色した肌の表面はざらつき、赤い目がぐりんと周囲を見回す。それら全てが人外である事はその形相から見てとれた。
     それらは、その瞳と同じ色の赤い石を仲間同士で奪い合っている。
     一方が鋭い爪で一方を引き裂けば、お返しとばかりに別の爪が切り裂く。血の様な液体が飛び散るが、その色は紅ではなかった。体から離れて時間の経つ血のような、黒。
     人々に見えないそれらの場所へと、青い着流しが現れた。
    「餓鬼(がき)か」
     涼やかな声が響く。
     声の方向へと赤い目が一斉に向けられる。二十を超える赤い目が、青い着流しを見て不気味に光った。
    「何ダオ前」
     赤い石を持った一匹が言う。声は醜くしわがれていた。
    「にんげん! 見エルにんげん!」
     別の一匹が興奮したように飛び跳ねる。それに呼応するようにもう三匹がばんばんと飛び跳ねた。また違う一匹は川辺の水をバシャバシャとやり、別の一匹は言葉になっていない奇声を発する。
     その統一性の無い動きに――統一性があったら怖いが――、朔夜は一つ息をついて前髪を払った。
    「その石は貴方達には荷が勝ちすぎます。渡して下さい」
     中央に陣取る赤い石を持つ一匹に、美しい白い手が差し出される。しかし、異形――餓鬼の反応は緩慢なものだった。
    「何言ッテルンダ、こいつ」
     首を傾げて仲間に問う。すると飛び跳ね続けていた一匹が甲高く叫んだ。
    「喰ッチャオウ! 喰ッチャオウ!」
     それを合図に、赤い目がぎろりと光る。
     あまり友好的とは言えない反応に、朔夜は苦笑をもらした。
    「全く」
     首を振って呆れた様子の朔夜などお構い無しに、餓鬼が三匹跳んだ。一瞬にして朔夜の場所まで跳んだ三匹は、一斉にその鋭い爪を彼の腹めがけて突き立てる。
     風の鳴る音がした。
     三匹の爪は虚空を斬り、やがてそれぞれの体へと吸い込まれる。
     奇妙な叫び声を中空で聞きながらも、バック転の要領で跳んだ朔夜は体を捻って着地した。その細い足からどうやってその高さまで跳躍できるのか不思議なほど、彼は綺麗に餓鬼の攻撃を避けて見せた。
     そして今度はお返しとばかりに彼は右手を前にかざした。すると、どこから現れたのか青い炎が灯り、やがてそれは長めの棒状の形へと変化する。炎が硬質化したタイミングで彼は右手でそれを掴んだ。
     主の存在が分かったのだろうか。凍った炎の表面がひび割れ、中から赤い刀身の剣が現れる。
    「勿体無いですが、使って差し上げましょう」
     剣を音を立てずに横へと滑らせてから、朔夜は左足を引いて剣の柄に左手を添えた。
     餓鬼達は青年の異質な変化など気にも留めずに次の一匹が跳ぶ。今度は高く跳ぶのではなく、真っ直ぐに朔夜目掛けて爪を伸ばした。
     自分に迫った爪目掛けて、朔夜は剣をゆっくりと動かした。斬るつもりなど欠片も無いかのように。
     しかし、効果はあった。
     剣と餓鬼の爪が金属のような悲鳴を上げる。黒板を爪で引っかいたような不快な音が響き渡った。それを合図に、刀身から青い炎が吹き上がる。
     飛び掛った一匹は、悲鳴を上げて後ろへ跳んだ。鋭い爪のあった右腕は、青い炎に焼かれて存在しなくなっていた。
     剣をそのままに、朔夜は笑って首をかしげる。
    「今度は頭を消されたいですか?」
     最後通牒に、餓鬼達はすぐさま踵を返して四足で川へと駆け出した。それに呼応するように隅田川の中央に黒い影が現れる。
     赤い石を持った餓鬼はおろおろと周囲を見回してから、すぐ目の前で朔夜が笑っている事に気づいた。小首を傾げてから石を持ったままくるりと川へと向くと、今度は目の前に朔夜の剣が地に突き刺さる形で現れて餓鬼は固まった。
    「石を置いていきなさい」
     涼やかで優しい音色の声だった。だが、そこに逆らいがたい恐怖を感じて、餓鬼は石を置いて逃げ出した。
     餓鬼達がばしゃばしゃと川を泳いでいく。そして、川の黒い影に穴でもあったかのようにそこへと消えていった。もう、あの奇妙な声も聞こえない。なのに、影はそこにあり続けている。
     黒い影をしばらく見ていた朔夜は、厳しい顔つきで目を伏せた。
    「境界が揺らぐなど……こちらの守護者は何をやっているのやら」
     呟いてから、朔夜は影を視界に入れないように目を開く。剣を地に突き立てたまま彼が手を離せば、剣は青い炎を吹き出してから陽炎の如く歪んで消えた。
     彼の足元には、赤い小さな石が転がっているだけ。
     その石を朔夜が拾い上げると、石は語りかけるように妖しげに赤い光を放った。それを握り締めて踵を返そうとしたその時に、唐突に声が降った。
    「その石、どうするつもりだい? お兄さん」
     聞き覚えのある声に、朔夜が振り返る。
     土手のあたりに、黄色い袈裟の男が頬杖を付いて座っていた。相撲でも見物するようなその姿に、警戒の色は見て取れない。しかし、朔夜は気付いていなかったのだろう、黒い瞳が大きく見開かれる。
    「貴方は……」
     朔夜の口に付いた言葉に、坊主はくつくつと笑った。そして自身を示すように手を胸にやる。
    「将守。現世(うつしよ)との関わりを捨てきれないクソ坊主さ。さて――」
     そう言いながら、彼は立ち上がる。そして腰に付いた葉と泥を払うと、懐から数珠を取り出して握る。鋭い視線が朔夜を射抜いた。
    「返答次第ではその首頂く事になるぜ」

    11/11/11 22:47 クラウン   

    ■作者メッセージ
    入りきらないのでぶつ切り
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