プロローグ『旅立ち前の物語』 3
「……………」
無言のまま牢屋の中で胡坐をかいている男が一人。
その目つきは非常に険しく血走っており、どことなくやつれている。
その男の名はフォルクス・ソレイユ。
数か月ほど前までオラクル騎士団第三師団師団長に君臨していた男だ。
現在の彼は、ファブレ家令嬢誘拐への関与の疑いにより牢に入れられていた。
(おのれ、おのれ、おのれ、おのれ、おのれ…)
牢に入れられたばかりの頃は、「出しなさい!」だの「私は第三師団師団長フォルクス・ソレイユですよ!」だのとうるさく叫んでいたりもしたが、その度に見張りの兵士に一喝され、今は表面上はおとなしくしている。
しかしその胸のうちには、未だ憤りを募らせている。
(待っていなさいセネリオたち…この私が牢から出たら、すぐにでもあなたたちを血祭にあげてやりますからね!)
クラノスは、牢に入れられる直前に「しばらく窮屈な思いをするだろうが、牢から出られるように手は打つ。だから私やセネリオのこと、その他余計なことは話すな」と言われている。
故に、フォルクスは今回の誘拐事件にクラノスが関与していることや、ファブレの令嬢を取り戻した一行の中にセネリオ・バークハルスがいることは話さず、黙秘を続けていた。
―トゥエ レィ ツェ クロア リュオ トゥエ ツェ―
どこからか、歌声が聞こえてくる。
とても澄んだ、美しい歌声だ。
(この歌はいったい…?)
突然聞こえてきた歌にフォルクスが疑問を感じていると、見張りをしていた兵士達が次々と倒れていく。
どの兵士も、苦しそうにうめき声を上げながら眠っていた。
(フォルクス)
そんな中、自分の名を呼ぶ声をフォルクスは聞いた。
よく知った声だ。
「グレイシアさん!」
(大声を上げるな、気づかれるだろ)
(す、すみません)
グレイシアの姿に思わずフォルクスは大きな声を出してしまう。
グレイシアはそんなフォルクスの迂闊さを注意する。
(グレイシアさん、早く行きましょう)
(ああ、そうだなウルド)
グレイシアの隣に付き従っている、グレイシアにはウルドと呼ばれている人物が、速やかな撤退を促す。
その人物は、緑色の教団服を着ているが、何よりも特徴的なのは顔を隠す仮面だ。
(こいつは…グレイシアさんの部下でしょうか?セネリオの旅についてきていた導師の従者といい、ダアトでは仮面で顔を隠すのが流行っているのでしょうか?)
ともかく、フォルクスはグレイシアとウルドに連れられて牢から出ると、そのままダアトの外までやってきた。
「…ここまで来れば、人目に付くことはないだろう」
グレイシアが、辺りに人がいないことを確認する。
そして誰もいないことを確認すると、
「さて、フォルクス」
「は、はい」
「私はお前にいったな、セネリオ達一行を倒して口封じが出来なければ、お前の六神将への道は、閉ざされることになるだろうと。そしてお前は、セネリオ達を倒すことに失敗した」
「そ、それは…」
「そしてお前は現在ファブレ家令嬢の誘拐への関与で捕まっている。世間的にはお前の独断で行われたということで、クラノス様への処分も軽いもので済んでいるが…いつまでもお前が口を閉ざし続けるとは限らない」
「そ、そんな!私はそんなこと…」
「故に私は、クラノス様の命により、今ここでお前を始末する必要がある」
「なっ!そんな、バカな…」
グレイシアの言葉に、フォルクスは驚愕する。
自分が、今ここで始末される?
「た、助けてくれたのではないのですか!?」
「誰がそんなことを言った。お前はここで死ぬんだ」
「そ、そんな、そんな…」
口をパクパクさせながらショックを受けた様子を見せるフォルクス。
そんなフォルクスの姿を面白そうに眺めるグレイシアは、続けて言った。
「フォルクス、生きたいか?」
「あ、当たり前です!どうしてこの私が死ななくてはならないのですか!?」
「…そうか、ではチャンスをやる。ウルド」
「はい」
グレイシアの呼びかけに応じて、仮面の人物―ウルドが返事をする。
グレイシアは、フォルクス・ウルドの双方を眺めると、フォルクスの方を向いていった。
「フォルクス、こいつはウルドと言って、お前に代わって第三師団師団長、および六神将を務める予定となっている」
「な、なんですって!」
ウルドの姿を見ながら、フォルクスは驚きの声を上げる。
まさか、もう既に自分の代わりが用意されていたなんて。
それでは、自分は、このフォルクス・ソレイユは、最初から捨て駒に過ぎない道化だったというのか。
「六神将は実力主義だ。故にフォルクス、お前が今ここでウルドを倒すことが出来れば、師団長への復帰と六神将への加入をクラノスに申し渡してやってもいい」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、お前の武器もちゃんとここに用意してある」
そういってグレイシアは、どこからかチャクラムを取り出した。
フォルクスが牢に入れられる際に回収した、彼の武器であった。
「こいつを、倒せば…!」
フォルクスはグレイシアから武器を受け取ると、ウルドを睨みつける。
こいつさえ倒せば、自分は念願の六神将になれるのだ。
「…………」
対するウルドも、無言で杖を構えてフォルクスと対峙する。
第三師団師団長と六神将の座をかけた戦いが、今始まる…!
○〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
「グレイシアさん、終わりました」
「ああ、ごくろう」
決着は着いた。
描写するほどもないほどに、あっさりと。
フォルクスの攻撃はことごとくかわされるか防がれるかして、逆にウルドの攻撃は的確にフォルクスを追い詰めていった。
そうして、フォルクスは一撃もまともに当てることすらできずに、死んだ。
「グレイ、ウルド、よくやってくれたね」
フォルクスの始末を終えた二人のもとに、現れたのは二十代半ばと思われるまだ若い男性。
「クラノス様!」
その男の姿に、ウルドが反応する。
無機質で機械的な普段の言動に比べると、少し声が弾んでいる。
「ウルド、この数か月で随分と腕を上げたようだな」
「はい、すべてはクラノス様の為に」
「グレイもよくやってくれた。彼女をたった数ヶ月でここまでの戦士に育て上げるとは、さすがだな」
ウルド、グレイの双方に賛辞の言葉を伝えたクラノスは、倒れたフォルクスの方を見ながら言った。
「…フォルクスは牢から脱出後、街の中でオラクル兵に見つかり逃げきれない事を悟って自殺した、という筋書きで行こう。そしてウルド、君を正式に六神将の一員として迎え入れる」
「はい、これからは六神将の一員として、クラノス様の為にこの命を捧げます」
翌日、ダアトの街中にて、フォルクス・ソレイユの遺体が発見された。
そして、彼に代わる第三師団師団長、およびセネリオに代わる六神将に、仮面の戦士・ウルドが就任した。
スキット「シンシアの憂鬱」
ルージェニア「どうしたの、シンシア?元気ないみたいだけど」
シンシア「うん…フォルクスさん、死んでしまったのよね?」
ルージェニア「ああ、そうだね。それがどうかしたの?」
シンシア「あの人も私たちの同士だったのに…悪いことしたなって、思っちゃって」
ルージェニア「そんなの、あいつが弱くて役立たずなのが悪いんだよ。シンシアが気に病む必要なんてない」
シンシア「……そうなの、かしら」
ルージェニア「そうだよ」
シンシア「…………」
無言のまま牢屋の中で胡坐をかいている男が一人。
その目つきは非常に険しく血走っており、どことなくやつれている。
その男の名はフォルクス・ソレイユ。
数か月ほど前までオラクル騎士団第三師団師団長に君臨していた男だ。
現在の彼は、ファブレ家令嬢誘拐への関与の疑いにより牢に入れられていた。
(おのれ、おのれ、おのれ、おのれ、おのれ…)
牢に入れられたばかりの頃は、「出しなさい!」だの「私は第三師団師団長フォルクス・ソレイユですよ!」だのとうるさく叫んでいたりもしたが、その度に見張りの兵士に一喝され、今は表面上はおとなしくしている。
しかしその胸のうちには、未だ憤りを募らせている。
(待っていなさいセネリオたち…この私が牢から出たら、すぐにでもあなたたちを血祭にあげてやりますからね!)
クラノスは、牢に入れられる直前に「しばらく窮屈な思いをするだろうが、牢から出られるように手は打つ。だから私やセネリオのこと、その他余計なことは話すな」と言われている。
故に、フォルクスは今回の誘拐事件にクラノスが関与していることや、ファブレの令嬢を取り戻した一行の中にセネリオ・バークハルスがいることは話さず、黙秘を続けていた。
―トゥエ レィ ツェ クロア リュオ トゥエ ツェ―
どこからか、歌声が聞こえてくる。
とても澄んだ、美しい歌声だ。
(この歌はいったい…?)
突然聞こえてきた歌にフォルクスが疑問を感じていると、見張りをしていた兵士達が次々と倒れていく。
どの兵士も、苦しそうにうめき声を上げながら眠っていた。
(フォルクス)
そんな中、自分の名を呼ぶ声をフォルクスは聞いた。
よく知った声だ。
「グレイシアさん!」
(大声を上げるな、気づかれるだろ)
(す、すみません)
グレイシアの姿に思わずフォルクスは大きな声を出してしまう。
グレイシアはそんなフォルクスの迂闊さを注意する。
(グレイシアさん、早く行きましょう)
(ああ、そうだなウルド)
グレイシアの隣に付き従っている、グレイシアにはウルドと呼ばれている人物が、速やかな撤退を促す。
その人物は、緑色の教団服を着ているが、何よりも特徴的なのは顔を隠す仮面だ。
(こいつは…グレイシアさんの部下でしょうか?セネリオの旅についてきていた導師の従者といい、ダアトでは仮面で顔を隠すのが流行っているのでしょうか?)
ともかく、フォルクスはグレイシアとウルドに連れられて牢から出ると、そのままダアトの外までやってきた。
「…ここまで来れば、人目に付くことはないだろう」
グレイシアが、辺りに人がいないことを確認する。
そして誰もいないことを確認すると、
「さて、フォルクス」
「は、はい」
「私はお前にいったな、セネリオ達一行を倒して口封じが出来なければ、お前の六神将への道は、閉ざされることになるだろうと。そしてお前は、セネリオ達を倒すことに失敗した」
「そ、それは…」
「そしてお前は現在ファブレ家令嬢の誘拐への関与で捕まっている。世間的にはお前の独断で行われたということで、クラノス様への処分も軽いもので済んでいるが…いつまでもお前が口を閉ざし続けるとは限らない」
「そ、そんな!私はそんなこと…」
「故に私は、クラノス様の命により、今ここでお前を始末する必要がある」
「なっ!そんな、バカな…」
グレイシアの言葉に、フォルクスは驚愕する。
自分が、今ここで始末される?
「た、助けてくれたのではないのですか!?」
「誰がそんなことを言った。お前はここで死ぬんだ」
「そ、そんな、そんな…」
口をパクパクさせながらショックを受けた様子を見せるフォルクス。
そんなフォルクスの姿を面白そうに眺めるグレイシアは、続けて言った。
「フォルクス、生きたいか?」
「あ、当たり前です!どうしてこの私が死ななくてはならないのですか!?」
「…そうか、ではチャンスをやる。ウルド」
「はい」
グレイシアの呼びかけに応じて、仮面の人物―ウルドが返事をする。
グレイシアは、フォルクス・ウルドの双方を眺めると、フォルクスの方を向いていった。
「フォルクス、こいつはウルドと言って、お前に代わって第三師団師団長、および六神将を務める予定となっている」
「な、なんですって!」
ウルドの姿を見ながら、フォルクスは驚きの声を上げる。
まさか、もう既に自分の代わりが用意されていたなんて。
それでは、自分は、このフォルクス・ソレイユは、最初から捨て駒に過ぎない道化だったというのか。
「六神将は実力主義だ。故にフォルクス、お前が今ここでウルドを倒すことが出来れば、師団長への復帰と六神将への加入をクラノスに申し渡してやってもいい」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、お前の武器もちゃんとここに用意してある」
そういってグレイシアは、どこからかチャクラムを取り出した。
フォルクスが牢に入れられる際に回収した、彼の武器であった。
「こいつを、倒せば…!」
フォルクスはグレイシアから武器を受け取ると、ウルドを睨みつける。
こいつさえ倒せば、自分は念願の六神将になれるのだ。
「…………」
対するウルドも、無言で杖を構えてフォルクスと対峙する。
第三師団師団長と六神将の座をかけた戦いが、今始まる…!
○〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
「グレイシアさん、終わりました」
「ああ、ごくろう」
決着は着いた。
描写するほどもないほどに、あっさりと。
フォルクスの攻撃はことごとくかわされるか防がれるかして、逆にウルドの攻撃は的確にフォルクスを追い詰めていった。
そうして、フォルクスは一撃もまともに当てることすらできずに、死んだ。
「グレイ、ウルド、よくやってくれたね」
フォルクスの始末を終えた二人のもとに、現れたのは二十代半ばと思われるまだ若い男性。
「クラノス様!」
その男の姿に、ウルドが反応する。
無機質で機械的な普段の言動に比べると、少し声が弾んでいる。
「ウルド、この数か月で随分と腕を上げたようだな」
「はい、すべてはクラノス様の為に」
「グレイもよくやってくれた。彼女をたった数ヶ月でここまでの戦士に育て上げるとは、さすがだな」
ウルド、グレイの双方に賛辞の言葉を伝えたクラノスは、倒れたフォルクスの方を見ながら言った。
「…フォルクスは牢から脱出後、街の中でオラクル兵に見つかり逃げきれない事を悟って自殺した、という筋書きで行こう。そしてウルド、君を正式に六神将の一員として迎え入れる」
「はい、これからは六神将の一員として、クラノス様の為にこの命を捧げます」
翌日、ダアトの街中にて、フォルクス・ソレイユの遺体が発見された。
そして、彼に代わる第三師団師団長、およびセネリオに代わる六神将に、仮面の戦士・ウルドが就任した。
スキット「シンシアの憂鬱」
ルージェニア「どうしたの、シンシア?元気ないみたいだけど」
シンシア「うん…フォルクスさん、死んでしまったのよね?」
ルージェニア「ああ、そうだね。それがどうかしたの?」
シンシア「あの人も私たちの同士だったのに…悪いことしたなって、思っちゃって」
ルージェニア「そんなの、あいつが弱くて役立たずなのが悪いんだよ。シンシアが気に病む必要なんてない」
シンシア「……そうなの、かしら」
ルージェニア「そうだよ」
シンシア「…………」