『***、今日の戦闘訓練は終わりだ』

声が聞こえる。

『お疲れ様、***』

真っ暗な闇の中で、声だけが聞こえる。

『やるもんだね、ここ数か月で急速に強くなっている』

その声はとても様々で。

『てめえも少しは見習えよ、バカ###』
『なんだとテメエ！』

とても賑やかで。

『頑張っているようだね、***』

とても暖かい――。




「また、あの夢…」

スクルドは、目を覚ました。
バチカルに戻ってきてから、時々見るようになった夢。
それはとても不思議な夢で、真っ暗で何も見えない闇の中で、声だけが聞こえるのだ。

スクルドは、外を見る。
まだ少し暗い。
しかし、お日様は出かかっているようで、すぐにでも明るくなりそうだった。
随分と中途半端な時間に起きてしまった。
こういう時、兄なら二度寝して寝坊する所だろうが、スクルドは着替えることにした。
そうして、まだ誰も起きていないであろう屋敷の廊下を、歩き出した。
今日からまた、この屋敷とはしばらくお別れなのだ。
別に永遠の別れというわけではないだろうが、出発の前にしっかりと目に焼き付けておきたい。

「あれ…？」

とある部屋の明かりが、既についている。
そこは、セネリオが使っている部屋だ。

コンコン

「セネリオさ〜ん？」
『…スクルドか？』
「はい、その…入ってもいいですか」
『ああ…』
「失礼します」

スクルドが入ると、セネリオは剣の手入れをしていた。
なんというか、いつも手入れをしているような気がするのは気のせいだろうか。

「どうした、こんな時間に？まだ朝とも言い難いぞ」
「それを言うならセネリオさんだって」
「…まあ、そうだな」

スクルドは、セネリオが腰かけているベッドに腰を下ろした。

「私は、少し早く目が覚めたので、せっかくだから屋敷の中を散歩しようと。しばらくお別れですから」
「そうか」
「セネリオさんの剣って綺麗ですよね！リンさんの剣みたいです」
「ああ」
「あ、そういえばセネリオさん、この前こんな事が…」

そうしてしばらく、スクルドのトークが続いた。
セネリオは、スクルドの会話に短い返事を返すのみである。

「あの…セネリオさん、もしかしてご迷惑でしたか？さっきから、私ばっかり話して…」
「いや、そんなことはないさ。いい退屈しのぎになる」
「本当ですか！？」
「ああ、一人でよくこれだけ会話が続くものだと、感心するよ」
「うう〜、ひどい言われようです」

そうこうしている内に、空からはお日様が現れてきて、朝が訪れようとしていた。

「もう朝ですね…あ、そうだセネリオさん。相談に乗ってほしいことがあるのですが」
「相談？なんだ？」
「はい…実は最近、変な夢を見るんです」
「変な夢…」
「はい、辺りは真っ暗なのに、声だけが聞こえて、何人かの声が聞こえるんですけど、聞き覚えはなくて…」
「…それはいつからのことなんだ？」
「ん〜、バチカルに帰ってきてからすぐのことでしょうか。なんだか得体が知れなくて、夜に寝るのが怖いんです」
「…………ふむ」

スクルドの話を聞き、セネリオは腕を組む。
夢で聞こえる謎の声…これは、誘拐された時の事となにか関係があるのだろうか。

「あ、あの、聞いてくれてありがとうございます。余計な心配かけたくないから、今まで誰にもこの話をしてなかったんです。話したら、少し気が楽になりました」
「…そうか、それはなによりだ」
「あ、そういえば」
「今度はなんだ？」
「昨日セネリオさん、魔物狩りの競争で私達が負けた場合の条件を付けてきましたよね？」
「…そういえば、そんなことも言ったな」

あれは、レイノスとスクルドに本気になってもらうためにいったことで、本当に置いていく気だったわけではないのだが。

「考えてみれば、こちらにだけ罰ゲームがあるなんて不公平です！セネリオさんが負けたんですから、セネリオさんが罰ゲームを受けるべきです」
「…そういうものか？」
「そういうものです！あ、でもお兄ちゃんと相談するべきかなあ」


「スクルド！」


その時、部屋のドアが開いた。
現れたのは、レイノスだった。

「あれ、お兄ちゃん。早朝稽古がない日にこんな早く目を覚ますなんて珍しいね」
「す、スクルドお前、セネリオと二人でいったい何を…」
「え、何をって、セネリオさんとお話をしてただけだよ？」
「お、お話？それだけか！？」
「それだけだけど…お兄ちゃん、何を想像したの？」
「え、なにをってそれは…その」

何やらもごもごしてしまったレイノスを見て、スクルドとセネリオは顔を合わせておかしそうに笑った。

「なに笑ってるんだよ！と、とにかく、飯食ってさっさと出発しようぜ」

レイノスは、逃げるように部屋から出て行った。

「セネリオさん、行きましょう」
「ああ」

スクルドに腕を引っ張られながら、セネリオも部屋を後にした。


スキット「罰ゲーム」
スクルド「あ、そうだお兄ちゃん。相談したいことがあったんだ」
レイノス「相談？なんだよ」
スクルド「うん、昨日魔物狩り競争でセネリオさんに勝ったでしょ？せっかくだから、なにか罰ゲーム考えようよ」
セネリオ（その話、続いていたのか…）
レイノス「おお、そりゃいいな！」
スクルド「なにかいい案はある？」
レイノス「そうだな……あ、そうだ！こんなのはどうだ？ｺﾞﾆｮｺﾞﾆｮｺﾞﾆｮ…」
スクルド「ええ！？ほんと！？ふんふん…いいね、それ！」
セネリオ「…決まったのか？」
スクルド「はい！また今度教えてあげますね！」
セネリオ「？」

スキット「男女二人っきりで」
スクルド「で、さっきは何を想像したの、お兄ちゃん」
レイノス「べ、別になんだっていいだろ」
セネリオ「大方、俺がスクルドを部屋に連れ込んでいかがわしいことでもしているのだと勘ぐったのだろう？」
レイノス「な！？なんで分かるんだよ！？お前エスパーかよ！？」
セネリオ「…カマをかけただけなのだが、正解とはな。随分と信用がないんだな」
スクルド「セネリオさんはそんなことしないよ！」
セネリオ「…とはいえスクルド、お前ももう少し警戒心は持つべきだ」
スクルド「え〜、そうですか？」
セネリオ「年頃の女性が、異性に対してあれだけ無防備でいるのは危険だ」
レイノス「そ、そうだぞ！男女で部屋に二人っきりとか、何があってもおかしくないんだからな」
スクルド「じゃあ、お兄ちゃんもリンさんと部屋で二人っきりになったらリンさんの事襲うの？」
レイノス「な、なななななにいってんだよ！？なななんでそこでリンが出てくるんだよ！？」
セネリオ「動揺しすぎだ」
スクルド「意気地なし」