クノンをケセドニアに残し、一行は再びザオ遺跡へと向かった。
とはいえ、クノンが離脱しアルビオールが使えない状態の為、その道中は前回よりも厳しいものだった。
暑さの中をどうにかオアシスまでたどり着き一晩を過ごすと、その次の日にザオ遺跡へ突入した。

「なあセネリオ、前みたいにお前がアルビオールを操縦するわけにはいかなかったのかよ？」

ザオ遺跡を進んでいる最中、レイノスがセネリオに尋ねた。

「無茶を言うな、あの時は緊急事態だった為やむを得ず騙し騙しの運転をしたにすぎない。あんな不安定な操縦でアルビオールが壊れでもしたら、どうするつもりだ」
「う…それは困るな」
「それにクノンにも念を押されたからな。『素人にアレをむやみに動かされたら困る』と」

そんなわけで、このザオ遺跡に辿り着くまで徒歩で歩き続けたわけだが、この遺跡は内部も広い。
まだまだ、歩き続けることになることだろう。



そうして、前回ルージェニアと戦闘をした場所をさらに奥に進んだ。
先導するのは、リンとスクルドだ。
そして、

「！ここね…」
「はい…ここが一番音素の濃度が強いです」

突然、リンとスクルドが立ち止まる。
どうやらここが、彼女たちが気配を追っていた音素濃度の濃い場所の中心点らしい。

「そ、それで、いったいここで何をするんですか？」

アルセリアが何をするのかと誰にともなく尋ねる。
確かにここが意識集合体のいる場所だとして、何をすればいいのだろう。
一行の視線は、その辺りの事情に詳しそうだと思われるセネリオに集中した。

「前にも言ったように、意識集合体との契約には、ユリアの譜歌が必要だ。おそらく呼び出すのもユリアの譜歌だろう」

視線を浴びたセネリオは、一同のそんな期待の眼差しに応えて返答してみせた。
彼が言うには、意識集合体を呼び出すにはユリアの譜歌が必要らしい。

「…分かりました、私、歌います」

セネリオの言葉を受け、スクルドは歌い始めた。



♪トゥエ レイ ズェ クロア リョ トゥエ ズェ

♪クロア リョ ズェ トゥエ リョ レイ ネゥ リョ ズェ

♪ヴァ レイ ズェ トゥエ ネゥ トゥエ リョ トゥエ クロア

♪リョ レイ クロア リョ ズェ レイ ヴァ ズェ レイ

♪ヴァ ネゥ ヴァ レイ ヴァ ネゥ ヴァ ズェ レイ

♪クロア リョ クロア ネゥ トゥエ レイ クロア リョ ズェ レイ ヴァ

♪レイ ヴァ ネゥ クロア トゥエ レイ レイ



少女から紡がれる美しい歌声。
みながその歌声に聞き惚れる。

「あ、見てください！何かが集まってきます！」

アルセリアが指差した方向を歌っているスクルド以外が振り向く。
そこには、まるでスクルドの歌に導かれるかのように、エネルギーのようなものが集まってきていた。
リンやスクルドでなくとも目視できるほどの濃密なエネルギー。
そのエネルギーはやがて生き物の形を作り、現れたのは…


「お〜、ボクちんを呼んだのはお前等か〜？」


…奇妙なモグラだった。




「え、えーと…あなたはいったい？」

突然現れた変なモグラに、戸惑いつつもリンが尋ねる。

「ボクちん？ボクちんはね〜、ノームだよ〜ん」
「お、お前がノーム！？」

レイノスが驚きの声を上げる。
意識集合体が実体化した存在。
さぞかし神々しい姿をしているのだろうと、想像していたのはレイノスに限った話ではなかった。
他の面々も、ノームの姿に呆気に取られている。

（なあおい、これが本当に意識集合体なのかよ）
（で、でも、音素の濃度はかなり濃いわ）
（でもこいつ、どうみてもモグラだぜ）
（う、う〜ん…）

「おいお前等、聞こえてるぞ。誰がモグラだよ〜ん」

レイノスとリンは小声であれが本当にノームなのかと話し合う。
が、ノームにはしっかり彼らの話が聞こえていたらしく、レイノスのモグラ発言に怒っている。

「いい！？いや、その…スクルドはどう思う！？」

話を聞かれていたことに焦りながら、レイノスはスクルドに話を振った。

「わああああ…！」

当のスクルドは、ノームの姿を見て目を輝かせていた。

「可愛いいいい〜！」

そして、歓声を上げた。
どうやら、母親譲りの可愛いものラブスイッチが入ったらしい。

「おお、お前はよく分かってんじゃんかよ〜ん！それに美人で可愛いし！」

可愛いといわれてノームは気をよくする。
そして、スクルドのことを可愛いと褒めた。
…スクルドを見てデレデレしているその姿は、やはり意識集合体などという存在に見えない。

「…地の意識集合体ノーム、そろそろ本題に入らせてもらっていいか？」

なんとも珍妙な空気の中、セネリオはノームと話をしようとした。

「ボクちんはスクルドちゃんと話してるんだよ〜ん！邪魔すんなよ〜ん！」
「………」

が、セネリオが話しかけるとノームは機嫌悪そうに彼の言葉を突っぱねた。
憮然としながら黙るセネリオ。
どうやらノームは、スクルドとの会話を邪魔されたのが気に入らなかったらしい。

「ノームさん、そんなこと言わないでセネリオさんの話を聞いてあげてください」
「ムウ、スクルドちゃんがそういうなら…」

が、スクルドに説得されるとあっさり話に応じてくれた。
なんとも扱いやすい奴である。




「俺達が聞きたいのは、クラノスという男とその仲間についてだ。お前は奴らと契約を交わしたのか？」
「クラノス〜？…………あああ！あの時のあいつかあ！」
「やはりクラノス達と接触したんだな？」
「いやそれがさあ、あいつらひどいんだよ〜ん！呼び出されたかと思うと、いきなりボコってきて、こっちがボロボロになってる隙になんか仮面かぶった奴が変な歌で無理やり契約結んできたんだよ〜ん」

ノームの話では、やはりクラノスは接触してきたらしい。
そして彼曰く、無理やり契約を結ばされたという話だ。

「仮面というと…【聖歌のウルド】か？やはり契約を結ぶためのユリアの譜歌を使っているのは、奴という事か？」

ミステリアスが、腕組みをしながら呟く。
彼の言うように、ノームの話を聞く限り、契約を結ぶための譜歌を歌えるのは、ウルドと考えていいだろう。

（聖歌のウルド…私と同じユリアの譜歌を使う人。いったい何者なんだろう？）

未知のユリアの譜歌使いの存在に、スクルドは戸惑いと興味を同時に覚えるのであった。



「その契約なんだが…破棄することはできないのか？」

セネリオが次の質問をする。
契約の破棄。
クラノス達の目的に意識集合体の力が必要な以上、それを破棄してしまえば彼らのしようとしていることを止められるはずなのである。
とはいえ、一度交わした契約をそう簡単には破ることは出来ないだろうとセネリオは考えていたが…

「できるよ〜ん」

ノームは、あまりにもあっさりと可能だと言った。

「おいおい、契約ってそんなに軽いものなのかよ！？」

あまりのあっさりっぷりに、思わずレイノスが突っ込む。

「普通はそう簡単に出来ないけどね〜。今回はあいつら、こっちの合意もなしに勝手に契約しちゃったからね。新しい契約者が現れれば、そいつと契約して上書きすることができるんだよ〜ん」

ノーム曰く、契約と言うのは本来双方の合意があって成り立つものらしい。
というより、人間の世界においても基本的に契約とはそういうものだろう。
しかし、今回クラノス達が行ったのは非合法な手段であり、一方的に契約を結んだのだ。
その為に契約が完全ではないため、新たな契約者と契約を結ぶことが可能なのだそうだ。

「そ、それなら！私と契約してください！」
「スクルドちゃんの頼みならオッケー…って言いたい所だけど、契約を結ぶなら、お前等の力を見せてもらう必要があるよ〜ん」

ノームはそういうと、大きなスコップのようなものを持って構えた。
どうやら、契約の為には戦わなければいけないらしい。



こうして、奇妙なモグラこと、地の意識集合体ノームとの戦いが幕を開けるのであった。