ベルケンド港に着いたのは、次の日の夜であった。
当然船は既に出ていないので、その日は宿に泊まることとなった。

「そういやセネリオ、一つ思ったんだが」
「どうした？」
「なんでシェリダンに行くのに、バチカルの港を使わずにベルケンドまで行くんだ？前の旅の時もそうだったけど」
「バチカルはスクルドの誘拐事件以降、港の利用が制限されている。前回の旅の時は誘拐された当日だったから尚更にな。今は多少緩和されているとはいえ、それでも検問は厳しいし、出航の頻度は低いからな。ここベルケンドまで来た方が早いし安全というわけだ」
「そうだったのか…前に親父や母さん、スクルドとグランコクマにいった時はすぐに船に乗れたけどなあ」
「それはおそらく特別に手配された船だろう。一般人はそうたやすく乗れないだろうし、仮に乗るにしても俺がいる以上リスクが大きいからな」

そんなこんなで夜は更けて、次の日の朝から一行はシェリダン行の船に乗り込んだ。

「んー…」
「どうしたの？お兄ちゃん」
「いや、シェリダンでアルビオールを手に入れたら、たぶん船に乗る機会はほとんどなくなるだろ？前の旅では何度も世話になった移動手段だし、少し寂しくなるなって」
「そういえば、前の旅の時もベルケンドの船からシェリダンに行ったんだっけ？」
「ああ、そしてシェリダンであいつ…クノンと出会ったんだ」

それが、レイノスの旅の始まりだった。
あの時はスクルドに追いつくため、ベルケンド港までの道のりは今回と違ってかなりの急行軍だったが…

「クノンさん…２７歳ってこと聞かされた時は驚いたなあ」
「ああ、俺もクノンがシェリダンでそう申告してきた時はマジでびっくりしたよ」
「私はそんなに話してないけど、楽しそうな人だよね」
「う〜ん、まあにぎやかな奴だよな。ちょっと騒がしくて意地の悪い所はあるけど。最初に会ったときもオーズって人に追いかけられてて…」



一方その頃シェリダン

「ﾊｸｼｭﾝ！ウ〜ン、誰かボクのウワサしてルのカナ〜？」
「てめえクノン待ちやがれ！また俺の音機関いじりやがってー！」
「ﾆｬﾊﾊﾊﾊﾊ！遅いよ蛆虫！」

やっぱりクノンはオーズに追いかけられていた…

「おいクノン！」

と、そこへクノンの育ての親とも呼べる存在であるギンジが現れた。

「あ、ギンジさん！」
「こんなところで油売ってる暇ないだろ。彼らが来る前にアルビオールの調整を済ませるぞ」
「ハ〜イ」
「…そういうわけでオーズさん、この場は見逃してくれませんかね？音機関の方はオイラが後で直しますから」
「チ…ギンジさんがそういうなら仕方ねえな」

ギンジに諭され、オーズはクノンを恨めし気に見つめながらその場を去っていった。

「サーテ、それじゃあ最後の調整と行きますかネ」

そういってクノンは、ギンジと共に空飛ぶ音機関――アルビオールのもとへと向かった。


スキット「独身兄妹」
クノン「そういえば、ギンジさんもノエルさんも、もう結構な歳なはずだけど、いつまでたっても独身だよネ」
ギンジ「な、なんだよ突然」
ノエル「ま、まあシェリダンには若い職人さんって少ないから」
クノン「でもさ〜、いくら出会いの少ない場所で仕事一筋で頑張ってきたっていっても、寂しくナイ？」
ノエル「まあ、少しは…」
クノン「ギンジさん、今までにいいなあって思った人とかいないの？」
ギンジ「う〜ん正直あんまり…昔お世話になったノワールさんって人は美人だったなあって思うけど」
クノン「ノエルさんは？」
ノエル「え？私は…」

ノエル（……ルークさん）

クノン「ア！そのカオは誰か思い出してるネ？」
ノエル「え？…な、なんでもない！何も思い出してないから！」
ギンジ「ノエル、お前好きな人いたのか？初耳だぞ」
クノン「ねえねえ教えてよ〜」
ノエル「ダメ！絶対に言わない！」