第1章『漆黒の訪問者』 2
「クラノスの…!?本当か、セネリオ!」
「ああ」
セネリオの言葉に、レイノスは身を乗り出して聞き返す。
対するセネリオは落ち着いた様子で肯定の意を示す。
クラノス・グラディウス。
ダアトの神託の盾騎士団の主席総長であり、その類まれなる指導力とカリスマで騎士団をまとめあげる人物だ。
しかし、セネリオによればなにやら不穏な動きを見せているらしく、5か月前のスクルド誘拐にも手引きしている可能性があるらしい。
レイノスとしては、世界的な信頼を集めるクラノスが妹の誘拐に関わっていることについて当初は半信半疑だったが、スクルド奪還の旅を第三師団師団長でありクラノスの部下であるフォルクス・ソレイユが妨害してきたことなどもあり、今ではその疑惑は非常に強いものとなっていた。
「奴は…クラノスは、第七音素を除く、6つの意識集合体の力を手に入れようとしている」
セネリオは話を切り出した。
スクルド、ルーク、ティアが真剣な面持ちで話を聞く中、レイノスは一人ポカンとしている。
「意識集合体…?あれ、どっかで聞いたような…なんだったっけ」
「…お前、グランコクマでのジェイド元帥の話をもう忘れたのか」
どうやらレイノスは、意識集合体という言葉に引っ掛かりを感じていたらしい。
そんなレイノスにセネリオはバカにしたようなジト目をレイノスに向ける。
「グランコクマ…ジェイド元帥……そうだ!確か自我を持った音素の事だよな!第一音素がノームで…」
「…第一音素はレムだよ、お兄ちゃん」
うろ覚えな知識を披露して自爆する兄に呆れながら訂正するスクルド。
黙って話を聞いていたルークとティアの視線も少し冷たい。
「レイノスお前な…俺とティアで第七音素や超振動の事教えるときに、音素の復習も一通りしただろうが」
「…物覚えの悪い息子で、ごめんなさい」
「ど、ど忘れしただけだって!」
「…話を進めていいだろうか?」
脱線しかかっている話の流れにうんざりした様子で、セネリオが訊ねる。
「ど、どうぞセネリオさん!お兄ちゃんの事はほっといていいですから!」
「ちょ!?スクルドお前な!」
スクルドの言葉にレイノスが憤慨した様子を見せるが、セネリオはそれを無視して話を続けることにした。
「約一名を除いて知っていると思うが、音素は一定以上集まることで自我を持ち、これを意識集合体という。そして同音素が大量に集まる場所では、自我だけでなく、生物の形を成すらしい」
「クラノスたちは、その生物の形を持つほどの濃密な音素の力を、手に入れようとしているってことか」
「その通りだ。第七音素を除く6つの音素、レム、ノーム、シルフ、ウンディーネ、イフリート、そしてシャドウの力をな」
説明に対するルークの言葉に、セネリオは肯定する。
「でもよ、そんなすげえ音素の集まりみたいなのを、従わせることなんてできるのかよ?」
「…一応見当はついている。おそらく、ユリアの譜歌だ」
「ユリアの譜歌って…私やお母さんの……!」
ユリア・ジュエ。
それは、かつて2000年も前の大戦争「譜術戦争(フォニック・ウォー)」を終結に導いた天才譜術師の名だ。
ユリア・ジュエは大譜歌によって第七音素の意識集合体「ローレライ」と契約を交わし、以後2000年にわたるオールドラントの歴史が事細かに記された「ユリアの預言」を残した。
ユリアの譜歌は本来譜術に比べて威力の弱い譜歌にもかかわらず、譜術と同等かそれ以上の力を秘めているのだ。
そのユリアの譜歌を扱う事の出来るティアやスクルドは、ユリアの子孫であると考えられている。(ちなみにレイノスは音痴で譜歌を扱う才能がなかった)
「なるほどね、かつて第七音素の意識集合体「ローレライ」と契約を果たしたユリアの譜歌ならば、他の意識集合体との契約も可能…スクルドの誘拐にクラノスが関わっていることとも、つじつまが合うわね」
ティアは、納得したようにつぶやく。
実際に自分もかつて、兄であるヴァン・グランツの中にいるローレライを大譜歌で解放したことがあるため、セネリオの推察の意図も正確に察していた。
「でもよ、こうしてスクルドは無事に戻ってきたんだし、計画は失敗したってことだろ?」
「いや…」
レイノスの言葉に、セネリオは首を振って否定した。
「この5か月の間に、クラノスたちはいくつかの意識集合体と契約を結んでいるらしい」
「ええ!?で、でも、私やお母さんの力が無いと契約は出来ないんじゃ…」
「私やスクルド以外のユリアの子孫を見つけ出して、捕らえたのかしら…」
「その可能性もないことはない…だが、おそらく……」
そこでセネリオは、チラッとスクルドを見る。
スクルドは視線に気づき、不思議そうな顔をした。
「どうしました、セネリオさん?私の顔に、なにかついてますか?」
「…なんでもない。ともかく、これがこの5か月で分かったことだ。奴らは、意識集合体の力を借りようとしており、その計画は着実に進行している」
セネリオの話が終わり、しばらく周囲は静寂に包まれた。
やがて、レイノスが口を開く。
「そ、その意識集合体って奴ら全部と契約したら、どうなるんだ?」
「分からない…だが、ジェイド元帥の話では、それほどの強大な力ともなれば、惑星譜術を軽く超えるほどの力となりかねないらしい」
「惑星譜術を…!?マジかよ!」
ルークは驚きの言葉を思わず漏らす。
スクルドとティアも、あまりに途方もない話に呆然としていた。
「ルーク・フォン・ファブレ公爵。ティア・グランツ夫人」
ルークとティアの方を向いたセネリオは、二人に向けて言う。
「今のこの話は内密にお願いします。このような話が伝われば、混乱は必至でしょうから」
「あ、ああ。でも、ナタリアには伝えとくよ。元々俺達に謁見の許可を貰って、今の話を伝えるつもりだったんだろ?」
「ええ、そうしていただけると助かります。…それと、もう一つ。あなた達の御子息のことなんですが…」
「セネリオ!」
「セネリオさん!」
セネリオの言葉は、レイノスとスクルド、二人の兄妹により遮られた。
「俺はお前についてくぜ!クラノスがそんなやばいことしようっていうんなら、俺が止めてやる!」
「私も行きます!意識集合体の契約にユリアの譜歌が関わってるなら、なにか役に立てることがあるはずです!」
同行を申し出る二人の剣幕に、セネリオはハア、と溜息をつきながら呆れた様子を見せる。
「…そういうわけです。あなた方の御子息を巻き込むことには抵抗がありますが…今の俺一人では、どうにも出来ない。あいつらの力が必要なんです。どうか、あいつらの同行を許してくれませんでしょうか?」
そういって、セネリオは頭を下げた。
レイノスは、あのプライドの高そうなセネリオが頭を下げてまで自分達の同行を頼んでいることに軽く驚きの表情を見せていた。
「…頭あげろよ。俺はかまわないぜ、レイノス達がどうにかしないとやばいみたいだしな。ティアはどうだ?」
「…あの子たちの事、どうかよろしくお願いします」
「ありがとうございます」
こうして、レイノスとスクルドは再び旅に出ることとなった。
意識集合体の力を得ようとする、クラノスの企てを阻止するために。
スキット「改めてよろしく」
セネリオ「そういうわけで、またお前達の力を貸してもらう」
スクルド「これからよろしくお願いします、セネリオさん」
レイノス「また旅に出られるんだな!くぅ〜、楽しみだぜ」
セネリオ「遊びに行くんじゃないぞ、浮かれてもらっては困るな」
レイノス「別にそんなんじゃねえよ!にしても、お前が頭を下げてまで親父や母さんに俺達の同行を頼むとは思わなかったぜ。お前、そんなに俺達と行きたかったのかよ?」
セネリオ「目上の者への礼儀を重んじただけだ。それ以上の意味などない」
スクルド「えへへ…私はセネリオさんと一緒にいられて、うれしいです」
レイノス「まあ、ともかく…これからまた、よろしくな!」
セネリオ「ああ」
「ああ」
セネリオの言葉に、レイノスは身を乗り出して聞き返す。
対するセネリオは落ち着いた様子で肯定の意を示す。
クラノス・グラディウス。
ダアトの神託の盾騎士団の主席総長であり、その類まれなる指導力とカリスマで騎士団をまとめあげる人物だ。
しかし、セネリオによればなにやら不穏な動きを見せているらしく、5か月前のスクルド誘拐にも手引きしている可能性があるらしい。
レイノスとしては、世界的な信頼を集めるクラノスが妹の誘拐に関わっていることについて当初は半信半疑だったが、スクルド奪還の旅を第三師団師団長でありクラノスの部下であるフォルクス・ソレイユが妨害してきたことなどもあり、今ではその疑惑は非常に強いものとなっていた。
「奴は…クラノスは、第七音素を除く、6つの意識集合体の力を手に入れようとしている」
セネリオは話を切り出した。
スクルド、ルーク、ティアが真剣な面持ちで話を聞く中、レイノスは一人ポカンとしている。
「意識集合体…?あれ、どっかで聞いたような…なんだったっけ」
「…お前、グランコクマでのジェイド元帥の話をもう忘れたのか」
どうやらレイノスは、意識集合体という言葉に引っ掛かりを感じていたらしい。
そんなレイノスにセネリオはバカにしたようなジト目をレイノスに向ける。
「グランコクマ…ジェイド元帥……そうだ!確か自我を持った音素の事だよな!第一音素がノームで…」
「…第一音素はレムだよ、お兄ちゃん」
うろ覚えな知識を披露して自爆する兄に呆れながら訂正するスクルド。
黙って話を聞いていたルークとティアの視線も少し冷たい。
「レイノスお前な…俺とティアで第七音素や超振動の事教えるときに、音素の復習も一通りしただろうが」
「…物覚えの悪い息子で、ごめんなさい」
「ど、ど忘れしただけだって!」
「…話を進めていいだろうか?」
脱線しかかっている話の流れにうんざりした様子で、セネリオが訊ねる。
「ど、どうぞセネリオさん!お兄ちゃんの事はほっといていいですから!」
「ちょ!?スクルドお前な!」
スクルドの言葉にレイノスが憤慨した様子を見せるが、セネリオはそれを無視して話を続けることにした。
「約一名を除いて知っていると思うが、音素は一定以上集まることで自我を持ち、これを意識集合体という。そして同音素が大量に集まる場所では、自我だけでなく、生物の形を成すらしい」
「クラノスたちは、その生物の形を持つほどの濃密な音素の力を、手に入れようとしているってことか」
「その通りだ。第七音素を除く6つの音素、レム、ノーム、シルフ、ウンディーネ、イフリート、そしてシャドウの力をな」
説明に対するルークの言葉に、セネリオは肯定する。
「でもよ、そんなすげえ音素の集まりみたいなのを、従わせることなんてできるのかよ?」
「…一応見当はついている。おそらく、ユリアの譜歌だ」
「ユリアの譜歌って…私やお母さんの……!」
ユリア・ジュエ。
それは、かつて2000年も前の大戦争「譜術戦争(フォニック・ウォー)」を終結に導いた天才譜術師の名だ。
ユリア・ジュエは大譜歌によって第七音素の意識集合体「ローレライ」と契約を交わし、以後2000年にわたるオールドラントの歴史が事細かに記された「ユリアの預言」を残した。
ユリアの譜歌は本来譜術に比べて威力の弱い譜歌にもかかわらず、譜術と同等かそれ以上の力を秘めているのだ。
そのユリアの譜歌を扱う事の出来るティアやスクルドは、ユリアの子孫であると考えられている。(ちなみにレイノスは音痴で譜歌を扱う才能がなかった)
「なるほどね、かつて第七音素の意識集合体「ローレライ」と契約を果たしたユリアの譜歌ならば、他の意識集合体との契約も可能…スクルドの誘拐にクラノスが関わっていることとも、つじつまが合うわね」
ティアは、納得したようにつぶやく。
実際に自分もかつて、兄であるヴァン・グランツの中にいるローレライを大譜歌で解放したことがあるため、セネリオの推察の意図も正確に察していた。
「でもよ、こうしてスクルドは無事に戻ってきたんだし、計画は失敗したってことだろ?」
「いや…」
レイノスの言葉に、セネリオは首を振って否定した。
「この5か月の間に、クラノスたちはいくつかの意識集合体と契約を結んでいるらしい」
「ええ!?で、でも、私やお母さんの力が無いと契約は出来ないんじゃ…」
「私やスクルド以外のユリアの子孫を見つけ出して、捕らえたのかしら…」
「その可能性もないことはない…だが、おそらく……」
そこでセネリオは、チラッとスクルドを見る。
スクルドは視線に気づき、不思議そうな顔をした。
「どうしました、セネリオさん?私の顔に、なにかついてますか?」
「…なんでもない。ともかく、これがこの5か月で分かったことだ。奴らは、意識集合体の力を借りようとしており、その計画は着実に進行している」
セネリオの話が終わり、しばらく周囲は静寂に包まれた。
やがて、レイノスが口を開く。
「そ、その意識集合体って奴ら全部と契約したら、どうなるんだ?」
「分からない…だが、ジェイド元帥の話では、それほどの強大な力ともなれば、惑星譜術を軽く超えるほどの力となりかねないらしい」
「惑星譜術を…!?マジかよ!」
ルークは驚きの言葉を思わず漏らす。
スクルドとティアも、あまりに途方もない話に呆然としていた。
「ルーク・フォン・ファブレ公爵。ティア・グランツ夫人」
ルークとティアの方を向いたセネリオは、二人に向けて言う。
「今のこの話は内密にお願いします。このような話が伝われば、混乱は必至でしょうから」
「あ、ああ。でも、ナタリアには伝えとくよ。元々俺達に謁見の許可を貰って、今の話を伝えるつもりだったんだろ?」
「ええ、そうしていただけると助かります。…それと、もう一つ。あなた達の御子息のことなんですが…」
「セネリオ!」
「セネリオさん!」
セネリオの言葉は、レイノスとスクルド、二人の兄妹により遮られた。
「俺はお前についてくぜ!クラノスがそんなやばいことしようっていうんなら、俺が止めてやる!」
「私も行きます!意識集合体の契約にユリアの譜歌が関わってるなら、なにか役に立てることがあるはずです!」
同行を申し出る二人の剣幕に、セネリオはハア、と溜息をつきながら呆れた様子を見せる。
「…そういうわけです。あなた方の御子息を巻き込むことには抵抗がありますが…今の俺一人では、どうにも出来ない。あいつらの力が必要なんです。どうか、あいつらの同行を許してくれませんでしょうか?」
そういって、セネリオは頭を下げた。
レイノスは、あのプライドの高そうなセネリオが頭を下げてまで自分達の同行を頼んでいることに軽く驚きの表情を見せていた。
「…頭あげろよ。俺はかまわないぜ、レイノス達がどうにかしないとやばいみたいだしな。ティアはどうだ?」
「…あの子たちの事、どうかよろしくお願いします」
「ありがとうございます」
こうして、レイノスとスクルドは再び旅に出ることとなった。
意識集合体の力を得ようとする、クラノスの企てを阻止するために。
スキット「改めてよろしく」
セネリオ「そういうわけで、またお前達の力を貸してもらう」
スクルド「これからよろしくお願いします、セネリオさん」
レイノス「また旅に出られるんだな!くぅ〜、楽しみだぜ」
セネリオ「遊びに行くんじゃないぞ、浮かれてもらっては困るな」
レイノス「別にそんなんじゃねえよ!にしても、お前が頭を下げてまで親父や母さんに俺達の同行を頼むとは思わなかったぜ。お前、そんなに俺達と行きたかったのかよ?」
セネリオ「目上の者への礼儀を重んじただけだ。それ以上の意味などない」
スクルド「えへへ…私はセネリオさんと一緒にいられて、うれしいです」
レイノス「まあ、ともかく…これからまた、よろしくな!」
セネリオ「ああ」
■作者メッセージ
2話目更新
今回は、セネリオによるクラノスの目的説明でした
レイノスじゃないけど、自分も音素や意識集合体について復習しないとなあ
この調子でどんどん更新していきたいです
今回は、セネリオによるクラノスの目的説明でした
レイノスじゃないけど、自分も音素や意識集合体について復習しないとなあ
この調子でどんどん更新していきたいです