第1章『漆黒の訪問者』 3
その後セネリオは、宿で一泊すると言ってファブレ邸を後にしようとしたが、スクルドの引き留めや、宿や野宿よりもこっちで一泊したほうが目立たないし安全だろうと、ルークやティアの説得してきた
「俺としては、ファブレ家に余計な嫌疑をかけることになりかねないので遠慮したかったのだが…」
「あんま気ぃ使うなって。娘の救出に手を貸してくれた恩もあるし、あんた一人匿うくらいのことはわけないって」
「スクルドもあなたにいてほしいみたいだしね」
「…ご厚意、感謝します」
そういうわけで、セネリオはファブレ邸で一夜を過ごすこととなった。
「おい、セネリオ!」
「セネリオさん、こんばんは」
セネリオに与えられた部屋に、レイノスとスクルドがやってくる。
セネリオは、旅の間もそうしていたように、愛剣であるラグネルとエタルドを念入りに手入れしていた。
作業の手を止めたセネリオは、顔をあげて現れた兄妹の方を向いた。
「何か用か」
面倒くさそうな顔をしながら用件を尋ねる。
どうやら剣の手入れの邪魔をされたことが不服らしい。
「せっかく久しぶりに会ったんだ、手合せしようぜ!」
「わ、私は、お兄ちゃんとセネリオさんの稽古を見学したいなあって…」
「…ふむ」
レイノスの提案に、セネリオは腕を組んで考える。
そして、一瞬二人の方をチラッと見ると、再び思案顔となった。
そうしてしばらくして顔を上げると、言った。
「分かった、ただし一つ確認しておきたいことがある」
そういうとセネリオは、二人のもとに近づき、そしてスクルドの方を向いて言った。
「スクルド、お前にはこれからの旅で戦闘に出る覚悟はあるか?」
「え…!?も、もちろんですよ!いつかこの日が来る予感がしてたから、密かに特訓だってしてたんですから」
「そうか…レイノスは、こいつが戦うことに異論はないのか?」
「…そ、それは」
「…迷っているようだな」
「お兄ちゃん!私だって戦えるよ!」
「べ、別にお前が無理して戦いに出ることないだろ。戦いにだって慣れてねえだろうし…」
スクルドを戦わせるという事に抵抗を感じているらしいレイノス。
そんなレイノスに、スクルドは自分も戦うと主張する。
そんな二人の様子を見ながら、セネリオは言った。
「二人とも、街の外へ行くぞ」
「おいセネリオ、どこまで行くつもりだよ」
「街の近くでは騒ぎになるからな、用心してのことだ」
バチカルの街を出たレイノス達は、街を離れてどんどんフィールドを進んでいく。
「おいセネリオ、俺とティアも連れて、どうするつもりなんだよ?」
「すみません、付き合わせてしまって…着いたら説明します」
彼らに着いて、ルークとティアも一緒に来ていた。
セネリオの頼みで連れてこられたようだ
やがて、街から充分離れると、セネリオは言った。
「ここまで離れれば充分だろう…レイノス、スクルド、今からお前達にはこの周辺の魔物を退治してもらう」
「へ?魔物退治?」
セネリオの言葉に、レイノスはきょとんとする。
てっきり、自分とセネリオの手合せをやるものだと思っていたので、彼のその言葉は寝耳に水であった。
セネリオは説明を続ける。
「今から3時間、お前たち二人と俺一人で、どちらがより多くの魔物を狩れるかを競ってもらう」
「きょ、競争、ですか?私も?」
「ああ、お前にはレイノスと組んで魔物退治をしてもらう」
「は、はあ…」
スクルドも突然の提案に戸惑っているようだった。
「私とルークは、監視役兼集計役といったところかしら?」
「ええ、ルークさんにはレイノス達の、ティアさんには俺についてもらいたい。緊急の時を除き、手出しは無用でお願いします」
「へえ、面白そうじゃねえか!」
説明を聞いて、ルークは結構乗り気のようだ。
もういい年だというのに、妙な所で子供っぽい。
「レイノス、スクルド、構わないな?」
「お、おう…」
「は、はい…」
まだ戸惑いを隠せていない様子ながら、レイノスとスクルドは了承した。
「…ちなみに、もし俺に負けるようであれば、お前たちは旅に連れて行かない。弱いものを連れて行っても、足手まといになるだけだからな」
「はぁ!?」
「ええ!?」
「…そういうわけで、本気で行けよ。それでは、スタートだ」
そういってセネリオは、駆けて行った。
監視役であるティアが、それを追う。
残されたレイノスとスクルドは、監視役であるルークを尻目に、呆然としていた。
「おいお前等、ボーっとしてる場合かよ」
ルークに声をかけられ、二人はハッとする。
そうだ、こうしている場合じゃない。
すぐに、行動を開始しなければ。
「くそ、セネリオの奴…見てろよ!負けねえからな!」
「あ、お兄ちゃん!待ってよ!」
駆け出したレイノスを、慌ててスクルドが追う。
「これは俺とセネリオの勝負だ!お前は手を出すな!」
「な、何言ってるの!?セネリオさんは、私と一緒にって…」
「そんなハンデみたいなもんつけられた勝負なんて、やってられるか!俺一人でやる!」
「はあ…ったく、俺の息子は変な所で意地っ張りな奴だな」
どうやらレイノスは、スクルドと一緒に戦えと言われた事に、ハンデをつけられたと思い屈辱を感じているらしい。
そんな負けず嫌いな息子の様子を、監視役であるレイノスは苦笑しながら見つめていた。
「とにかくお前は戦わなくていい!俺の後ろについてきてくれればそれでいい!」
レイノスは譲らない。
彼は、妹に危険な目に遭ってほしくなかったのだ。
旅にユリアの譜歌が必要だということで、同行は仕方ないとはいえ、危険な戦闘にまで巻き込みたくなかったのだ。
苦難の旅の末に、ようやく助け出したのだ。
それなのにまた怖い目に遭ったりなどしたらと思うと、危険なことなどさせたくない。
(大丈夫だ、今の俺はスクルドをさらわれたあの時とは違う!強くなったんだ!だから今度こそ俺がこいつを守り…)
「いいかげんにしてよ!」
スクルドの叫びに、レイノスもルークも驚いたように目を見開く。
「そんなに私が頼りない!?そんなに私は足手まとい!?」
「スクルド…」
「…五か月前、お兄ちゃんに助け出されて、嬉しかった。だけどそれと同時に、心苦しかった」
俯きながら、その時のことを思い出しながらスクルドは語る。
「賊の頭との戦いを終えたお兄ちゃんは、死んじゃうんじゃないかってくらいボロボロだった。そばに倒れていたリンさんも…。二人のあの姿を思い出すたびに、私を助けようと旅に出たから、二人はあんなことになったんだって思うと、辛かった」
「別にお前のせいじゃねえよ!お前をさらった、賊の奴らのせいだ!スクルドが責任を感じる必要はねえ!」
「それだけじゃない!賊たちは、私以外にもたくさんの人を誘拐してた!だけど私には、あの人たちを励ますことはできても、助け出す力はなかった!どうしようもなく、無力だったんだよ…!」
レイノスの言葉を無視し、スクルドは続ける。
「だからね、この5か月、密かにお母さんから訓練を受けてたんだ。お兄ちゃんやリンさん、セネリオさん、他のみんな…私を助けるために戦ってくれたみんなに、恩返しがしたかったから」
「そして、私のように酷い目にあった人たちを、助けられる力が欲しかったから!」
強い意志を持った瞳で、スクルドはレイノスを見る。
レイノスは、その覚悟をまとった瞳から、目が離せなかった。
「危険なのは覚悟の上だよ、お兄ちゃん。それでも私は、戦う。たとえどれだけ反対されようとも」
そうして二人は、しばらく無言で見つめ合う。
やがてレイノスが、ハア、と溜息をついた。
「覚悟の上、か…俺も、覚悟を決めねえといけねえのかもな」
「お兄ちゃん!」
「…分かったよ。一緒に戦おう、スクルド」
「うん!」
レイノスとスクルドの前に、3体のボアが現れる。
ボアは、スクルドをかばうように立つレイノスめがけて突進していく。
「守護方陣!」
レイノスは、ボアが近づいてきたのとタイミングを合わせて、技を繰り出す。
レイノスの周囲を覆う光の方陣は、見事に3体のボアの動きを止め、ダメージを与える。
「エクレールラルム!」
さらに発動されたスクルドの譜術にて、地面には十字の光が現れ、方陣の攻撃を受けたボアを追撃する。
兄妹の連続攻撃を受けて、ボアは3体まとめて戦闘不能となって倒れた。
「次来るぞ!スクルド!」
勝利の喜びに浸る間もなく、続けて5体のガルーダが現れた。
「私に任せて!お兄ちゃん!」
スクルドがすぐさま詠唱を開始する。
――FOF変化――
「プリズムフラッシャ!」
光の雨が5体いたガルーダの内3体を戦闘不能にする。
「残りは任せろ!紅蓮剣!」
そして残りの2体がレイノスの放った紅蓮の一撃の前に倒れ、5体のガルーダは全滅した。
「さっすがお兄ちゃん!」
「へへ、お前もやるじゃねえかスクルド!」
「はは、何だよあいつら…さっきまで喧嘩してたくせに、息ぴったりじゃねえかよ」
そんな二人の戦いの様子に、ルークは子供達の成長を感じ、嬉しそうな表情で眺めるのであった。
「…どうやら、上手くやっているようだな」
二人の様子を見ていたのは、ルークだけではなかった。
この競争の発案者…セネリオも、魔物狩りをしながらも二人の様子を観察していた。
「あなたの目論見は成功したという事かしら、セネリオ・バークハルス?」
「ええ、どうやら上手くいきそうです。あいつらには、不安な所がいくつかありましたから」
「…よければ、教えてもらってもいいかしら?」
ティアの言葉に、セネリオは語り出した。
「この競争の目的の一つは、スクルドの戦闘経験不足を少しでも減らすことでした。前の旅の時に少し手伝った程度の戦闘経験しか持っていませんでしたからね」
「そしてもう一つは…レイノスの事かしら?」
「…さすがに察しがいいですね」
もう一つの目的に気づいているらしいティアに、セネリオは感心する。
ティアの言う通り、セネリオのもう一つの気がかりは、レイノスのことであった。
彼は、スクルドを大事に思うあまり、彼女を戦闘に巻き込むことに消極的だった。
ゆえに、この機会を通してそのわだかまりを減らせれば…というのが、セネリオの狙いであった。
「私の兄は、目的の為に沢山の犠牲が出ることを厭わない人だったけど、私の事はとても心配してくれた。自分達のすることに、私が極力巻き込まれないようにしていた。ふふ…妹を想う兄というのは、みんなそうなのかしら」
息のあった連携で次々と敵を倒していく兄妹を見つめるティアの表情は、少し悲しげだった。
戦闘をしながら、レイノスもまた、近くで戦うセネリオの様子を見ていた。
(セネリオの奴…また強くなってやがる。この5か月で。封印術の解除を相当進めたんだな)
手合せを挑んだ時、レイノスはセネリオに勝つつもりでいた。
しかし、もし仮に勝負を挑んでいたなら、自分はおそらくは負けていただろう。
(世の中は広いってことだな…俺も結構強くなったつもりでいたけど、気を引き締めて、もっと強くならないとな)
目標とするライバルがまだまだ遠い存在であることを痛感しながら、レイノスは魔物を狩っていった。
やがて、3時間が経ち、魔物狩り競争は終了した。
勝利したのは、僅差でレイノス&スクルドだった。
「やったね!お兄ちゃん!」
「あ、ああ…」
「?どうしたの?元気ないけど」
「その…スクルド、ごめん!」
「わわっ!?ど、どうしたのお兄ちゃん」
突然頭を下げてきた兄に、スクルドは困惑の表情を浮かべる。
「俺、お前の事を勝手に弱いって決めつけて、今の俺なら、一人でもお前を守れるんだって驕ってた。だけど、今日おまえと一緒に戦って、そばで戦ってたセネリオを見て、思ったんだ。強くなったのは、俺だけじゃないんだって。お前になら…俺の背中を預けられる」
「お兄ちゃん…うん、任せてよ!」
こうして、突然始まった魔物狩り競争というイベントは、幕を閉じた。
明日はいよいよ、出発の時だ。
「俺としては、ファブレ家に余計な嫌疑をかけることになりかねないので遠慮したかったのだが…」
「あんま気ぃ使うなって。娘の救出に手を貸してくれた恩もあるし、あんた一人匿うくらいのことはわけないって」
「スクルドもあなたにいてほしいみたいだしね」
「…ご厚意、感謝します」
そういうわけで、セネリオはファブレ邸で一夜を過ごすこととなった。
「おい、セネリオ!」
「セネリオさん、こんばんは」
セネリオに与えられた部屋に、レイノスとスクルドがやってくる。
セネリオは、旅の間もそうしていたように、愛剣であるラグネルとエタルドを念入りに手入れしていた。
作業の手を止めたセネリオは、顔をあげて現れた兄妹の方を向いた。
「何か用か」
面倒くさそうな顔をしながら用件を尋ねる。
どうやら剣の手入れの邪魔をされたことが不服らしい。
「せっかく久しぶりに会ったんだ、手合せしようぜ!」
「わ、私は、お兄ちゃんとセネリオさんの稽古を見学したいなあって…」
「…ふむ」
レイノスの提案に、セネリオは腕を組んで考える。
そして、一瞬二人の方をチラッと見ると、再び思案顔となった。
そうしてしばらくして顔を上げると、言った。
「分かった、ただし一つ確認しておきたいことがある」
そういうとセネリオは、二人のもとに近づき、そしてスクルドの方を向いて言った。
「スクルド、お前にはこれからの旅で戦闘に出る覚悟はあるか?」
「え…!?も、もちろんですよ!いつかこの日が来る予感がしてたから、密かに特訓だってしてたんですから」
「そうか…レイノスは、こいつが戦うことに異論はないのか?」
「…そ、それは」
「…迷っているようだな」
「お兄ちゃん!私だって戦えるよ!」
「べ、別にお前が無理して戦いに出ることないだろ。戦いにだって慣れてねえだろうし…」
スクルドを戦わせるという事に抵抗を感じているらしいレイノス。
そんなレイノスに、スクルドは自分も戦うと主張する。
そんな二人の様子を見ながら、セネリオは言った。
「二人とも、街の外へ行くぞ」
「おいセネリオ、どこまで行くつもりだよ」
「街の近くでは騒ぎになるからな、用心してのことだ」
バチカルの街を出たレイノス達は、街を離れてどんどんフィールドを進んでいく。
「おいセネリオ、俺とティアも連れて、どうするつもりなんだよ?」
「すみません、付き合わせてしまって…着いたら説明します」
彼らに着いて、ルークとティアも一緒に来ていた。
セネリオの頼みで連れてこられたようだ
やがて、街から充分離れると、セネリオは言った。
「ここまで離れれば充分だろう…レイノス、スクルド、今からお前達にはこの周辺の魔物を退治してもらう」
「へ?魔物退治?」
セネリオの言葉に、レイノスはきょとんとする。
てっきり、自分とセネリオの手合せをやるものだと思っていたので、彼のその言葉は寝耳に水であった。
セネリオは説明を続ける。
「今から3時間、お前たち二人と俺一人で、どちらがより多くの魔物を狩れるかを競ってもらう」
「きょ、競争、ですか?私も?」
「ああ、お前にはレイノスと組んで魔物退治をしてもらう」
「は、はあ…」
スクルドも突然の提案に戸惑っているようだった。
「私とルークは、監視役兼集計役といったところかしら?」
「ええ、ルークさんにはレイノス達の、ティアさんには俺についてもらいたい。緊急の時を除き、手出しは無用でお願いします」
「へえ、面白そうじゃねえか!」
説明を聞いて、ルークは結構乗り気のようだ。
もういい年だというのに、妙な所で子供っぽい。
「レイノス、スクルド、構わないな?」
「お、おう…」
「は、はい…」
まだ戸惑いを隠せていない様子ながら、レイノスとスクルドは了承した。
「…ちなみに、もし俺に負けるようであれば、お前たちは旅に連れて行かない。弱いものを連れて行っても、足手まといになるだけだからな」
「はぁ!?」
「ええ!?」
「…そういうわけで、本気で行けよ。それでは、スタートだ」
そういってセネリオは、駆けて行った。
監視役であるティアが、それを追う。
残されたレイノスとスクルドは、監視役であるルークを尻目に、呆然としていた。
「おいお前等、ボーっとしてる場合かよ」
ルークに声をかけられ、二人はハッとする。
そうだ、こうしている場合じゃない。
すぐに、行動を開始しなければ。
「くそ、セネリオの奴…見てろよ!負けねえからな!」
「あ、お兄ちゃん!待ってよ!」
駆け出したレイノスを、慌ててスクルドが追う。
「これは俺とセネリオの勝負だ!お前は手を出すな!」
「な、何言ってるの!?セネリオさんは、私と一緒にって…」
「そんなハンデみたいなもんつけられた勝負なんて、やってられるか!俺一人でやる!」
「はあ…ったく、俺の息子は変な所で意地っ張りな奴だな」
どうやらレイノスは、スクルドと一緒に戦えと言われた事に、ハンデをつけられたと思い屈辱を感じているらしい。
そんな負けず嫌いな息子の様子を、監視役であるレイノスは苦笑しながら見つめていた。
「とにかくお前は戦わなくていい!俺の後ろについてきてくれればそれでいい!」
レイノスは譲らない。
彼は、妹に危険な目に遭ってほしくなかったのだ。
旅にユリアの譜歌が必要だということで、同行は仕方ないとはいえ、危険な戦闘にまで巻き込みたくなかったのだ。
苦難の旅の末に、ようやく助け出したのだ。
それなのにまた怖い目に遭ったりなどしたらと思うと、危険なことなどさせたくない。
(大丈夫だ、今の俺はスクルドをさらわれたあの時とは違う!強くなったんだ!だから今度こそ俺がこいつを守り…)
「いいかげんにしてよ!」
スクルドの叫びに、レイノスもルークも驚いたように目を見開く。
「そんなに私が頼りない!?そんなに私は足手まとい!?」
「スクルド…」
「…五か月前、お兄ちゃんに助け出されて、嬉しかった。だけどそれと同時に、心苦しかった」
俯きながら、その時のことを思い出しながらスクルドは語る。
「賊の頭との戦いを終えたお兄ちゃんは、死んじゃうんじゃないかってくらいボロボロだった。そばに倒れていたリンさんも…。二人のあの姿を思い出すたびに、私を助けようと旅に出たから、二人はあんなことになったんだって思うと、辛かった」
「別にお前のせいじゃねえよ!お前をさらった、賊の奴らのせいだ!スクルドが責任を感じる必要はねえ!」
「それだけじゃない!賊たちは、私以外にもたくさんの人を誘拐してた!だけど私には、あの人たちを励ますことはできても、助け出す力はなかった!どうしようもなく、無力だったんだよ…!」
レイノスの言葉を無視し、スクルドは続ける。
「だからね、この5か月、密かにお母さんから訓練を受けてたんだ。お兄ちゃんやリンさん、セネリオさん、他のみんな…私を助けるために戦ってくれたみんなに、恩返しがしたかったから」
「そして、私のように酷い目にあった人たちを、助けられる力が欲しかったから!」
強い意志を持った瞳で、スクルドはレイノスを見る。
レイノスは、その覚悟をまとった瞳から、目が離せなかった。
「危険なのは覚悟の上だよ、お兄ちゃん。それでも私は、戦う。たとえどれだけ反対されようとも」
そうして二人は、しばらく無言で見つめ合う。
やがてレイノスが、ハア、と溜息をついた。
「覚悟の上、か…俺も、覚悟を決めねえといけねえのかもな」
「お兄ちゃん!」
「…分かったよ。一緒に戦おう、スクルド」
「うん!」
レイノスとスクルドの前に、3体のボアが現れる。
ボアは、スクルドをかばうように立つレイノスめがけて突進していく。
「守護方陣!」
レイノスは、ボアが近づいてきたのとタイミングを合わせて、技を繰り出す。
レイノスの周囲を覆う光の方陣は、見事に3体のボアの動きを止め、ダメージを与える。
「エクレールラルム!」
さらに発動されたスクルドの譜術にて、地面には十字の光が現れ、方陣の攻撃を受けたボアを追撃する。
兄妹の連続攻撃を受けて、ボアは3体まとめて戦闘不能となって倒れた。
「次来るぞ!スクルド!」
勝利の喜びに浸る間もなく、続けて5体のガルーダが現れた。
「私に任せて!お兄ちゃん!」
スクルドがすぐさま詠唱を開始する。
――FOF変化――
「プリズムフラッシャ!」
光の雨が5体いたガルーダの内3体を戦闘不能にする。
「残りは任せろ!紅蓮剣!」
そして残りの2体がレイノスの放った紅蓮の一撃の前に倒れ、5体のガルーダは全滅した。
「さっすがお兄ちゃん!」
「へへ、お前もやるじゃねえかスクルド!」
「はは、何だよあいつら…さっきまで喧嘩してたくせに、息ぴったりじゃねえかよ」
そんな二人の戦いの様子に、ルークは子供達の成長を感じ、嬉しそうな表情で眺めるのであった。
「…どうやら、上手くやっているようだな」
二人の様子を見ていたのは、ルークだけではなかった。
この競争の発案者…セネリオも、魔物狩りをしながらも二人の様子を観察していた。
「あなたの目論見は成功したという事かしら、セネリオ・バークハルス?」
「ええ、どうやら上手くいきそうです。あいつらには、不安な所がいくつかありましたから」
「…よければ、教えてもらってもいいかしら?」
ティアの言葉に、セネリオは語り出した。
「この競争の目的の一つは、スクルドの戦闘経験不足を少しでも減らすことでした。前の旅の時に少し手伝った程度の戦闘経験しか持っていませんでしたからね」
「そしてもう一つは…レイノスの事かしら?」
「…さすがに察しがいいですね」
もう一つの目的に気づいているらしいティアに、セネリオは感心する。
ティアの言う通り、セネリオのもう一つの気がかりは、レイノスのことであった。
彼は、スクルドを大事に思うあまり、彼女を戦闘に巻き込むことに消極的だった。
ゆえに、この機会を通してそのわだかまりを減らせれば…というのが、セネリオの狙いであった。
「私の兄は、目的の為に沢山の犠牲が出ることを厭わない人だったけど、私の事はとても心配してくれた。自分達のすることに、私が極力巻き込まれないようにしていた。ふふ…妹を想う兄というのは、みんなそうなのかしら」
息のあった連携で次々と敵を倒していく兄妹を見つめるティアの表情は、少し悲しげだった。
戦闘をしながら、レイノスもまた、近くで戦うセネリオの様子を見ていた。
(セネリオの奴…また強くなってやがる。この5か月で。封印術の解除を相当進めたんだな)
手合せを挑んだ時、レイノスはセネリオに勝つつもりでいた。
しかし、もし仮に勝負を挑んでいたなら、自分はおそらくは負けていただろう。
(世の中は広いってことだな…俺も結構強くなったつもりでいたけど、気を引き締めて、もっと強くならないとな)
目標とするライバルがまだまだ遠い存在であることを痛感しながら、レイノスは魔物を狩っていった。
やがて、3時間が経ち、魔物狩り競争は終了した。
勝利したのは、僅差でレイノス&スクルドだった。
「やったね!お兄ちゃん!」
「あ、ああ…」
「?どうしたの?元気ないけど」
「その…スクルド、ごめん!」
「わわっ!?ど、どうしたのお兄ちゃん」
突然頭を下げてきた兄に、スクルドは困惑の表情を浮かべる。
「俺、お前の事を勝手に弱いって決めつけて、今の俺なら、一人でもお前を守れるんだって驕ってた。だけど、今日おまえと一緒に戦って、そばで戦ってたセネリオを見て、思ったんだ。強くなったのは、俺だけじゃないんだって。お前になら…俺の背中を預けられる」
「お兄ちゃん…うん、任せてよ!」
こうして、突然始まった魔物狩り競争というイベントは、幕を閉じた。
明日はいよいよ、出発の時だ。
■作者メッセージ
というわけで、3話目でした
5000字ギリギリで、まだ書き足りない部分があるので、4話目もすぐに書いて投稿しようと思ってます
投降の間隔が空き気味ですし、モチベが上がっている内に一気に書きたいですからね
5000字ギリギリで、まだ書き足りない部分があるので、4話目もすぐに書いて投稿しようと思ってます
投降の間隔が空き気味ですし、モチベが上がっている内に一気に書きたいですからね