第2章『集いし仲間』 6
セネリオの女装騒動を終えた一行は、朝食を済ませるとそれぞれの時を過ごした。
リンの父親であるガイは昼からジェイドを訪ねて屋敷を空け、戻ってきたのは夕方頃であった。
「明日の昼からなら、ジェイドの旦那も時間が取れるらしいぞ」
夕食の席にて、ガイはそう切り出した。
それによれば、明日の昼にジェイドに話をしに行くことが可能らしい。
「よし、それでは明日マルクト軍基地へ向かうぞ」
〜翌日〜
レイノス達は、マルクト軍基地のジェイドの執務室へとやってきていた。
部屋に入ると、ジェイド・カーティス元帥が机で筆を動かしている姿が見えた。どうやら仕事をしているようだ。
しかし、レイノス達がやってきたことに気付くと、筆を止めて彼らのもとへ近づいてきた。
「待っていましたよ、皆さん」
「ジェイド・カーティス元帥、さっそくですが―」
と、セネリオが話を行おうとしたその時、
「よ〜、お前等!俺も仲間に入れてくれよ〜♪」
突然、ジェイドの執務室に現れた人物。
歳は見た所ジェイドとあまり変わらないようだが、その快活さには年齢を感じさせない。
振り向いてその姿を見た瞬間、リンはぎょっとした。
「ぴ、ピオニー皇帝陛下!?」
そう、彼こそがこのマルクト帝国の皇帝、ピオニー・ウパラ・マルクト九世なのだ。
ピオニー陛下は、ニヤニヤしながらこちらに近づいてくる。
そして、ジェイドの前に立つと、むっとした表情を見せた。
「おいおいひどいぞジェイド。こんな面白そうな密会を親友の俺に黙ってるなんてよ」
「陛下は仕事が溜まっていてそんな暇はないでしょう。今頃大臣たちが必死になって探していますよ」
「まあまあ固いこと言うなって。そっちの…セネリオだったか。お前もどうせ今回は俺に報告するつもりだったんだろ?」
「それは…そうですが」
「だったらここで俺とジェイドにまとめて話した方が手っ取り早いじゃねえか!話を聞かせてくれるまで、俺はここから離れないぞ!」
結局、ピオニーの強引さに押されたまま、セネリオはジェイドとピオニーにことのあらましを説明することとなったのだった。
「ふむ、なるほど…惑星譜術をも超える、ですか」
「下手したらネビリム先生よりもやばい化け物が生み出されかねないって事か。…厄介だな、ジェイド」
「ええ…もしも本当ならば、必ず止めなければいけないですね」
話を聞いたジェイドとピオニーは、険しい顔をしながら話をしていた。
ピオニーの口からネビリム先生という言葉が出ると、ジェイドの表情が一瞬歪む。
しばらく険しい表情で俯いていたジェイドとピオニーだったが、やがて顔を上げると表情を戻し、言った。
「話は分かりました。こちらでも意識集合体について探ってみようと思います」
「それと、一応この話は俺とジェイドの間での話にしておく。確証がない以上、下手に他の奴らに漏らすのはいろんな意味で危険だからな」
こうして、クラノスについての報告は終わった。
レイノス達は、執務室へ出ようとするが、しかしそこでジェイドに呼び止められる。
「待ってください。リン、あなたはいつもの訓練場へ来てください」
「!もしかして、訓練してくれるんですか!?」
「30分後に私も行きます。準備をしておいてください」
「はい!分かりました!…そういうわけでみんな、私はちょっと行ってくるから!」
そういってリンは、一人訓練場へと走っていった。
残された4人は、今度はピオニー陛下に呼び止められた。
「お前達も俺の部屋に来てくれないか?相談したいことがあるんだ」
「相談したいこと…ですか?」
ピオニーの言葉にレイノスは首をかしげる。
皇帝陛下直々の相談とは、いったいなんであろうか。
なにやら真剣な表情をしているので、かなり重要なことなのかもしれない。
「こ、皇帝陛下への相談相手が私達で、いいんですか?」
スクルドが恐縮した様子で訊ねる。
「ああ、勿論だ」
「へえ、コウテイなんてエライひとに頼られるなんて、悪い気はしないネ。ニャヒハ♪」
こうして、レイノス達はピオニーの案内のもと彼の私室へとやってきた。
そこにいたのは…
プギー
プギー
「ぶ、ブウサギ!?それもこんなにいっぱい!?」
部屋に入った瞬間、レイノスは驚きの声をあげる。
ピオニー九世皇帝陛下は、無類のブウサギ好きな破天荒な人物…と、話には聞いていたが、それにしたってマルクトのナンバー1である人物の部屋が何匹ものブウサギの庭になっているというのはどうなんだろうか。
「うわあ〜〜〜〜〜〜♪可愛い〜〜〜〜〜〜〜〜♪」
一方でスクルドは歓声を上げていた。
目の前に広がるブウサギの群れに、目を輝かせている。
「…陛下、それで相談というのは」
セネリオが、呆れた様子を見せながらピオニーに訊ねる。
するとピオニーは、一匹の子供のピオニーを持ち上げて、言った。
「こいつの名前を考えてくれ」
「はあ!?」
あまりにくだらない相談に、レイノスは二度目の驚きの声を上げてしまう。
「子供のブウサギ、ちっちゃくて可愛い…♪」
一方スクルドは、子供ブウサギにメロメロだった。
「ブヒッ♪ブヒッ♪」
そんなスクルドに、子豚ブウサギは近づいて甘えてくる。
スクルドは子豚ブウサギを持ち上げると頭をなでてやる。
「よしよし、いい子だね」
「ブヒッ♪ブヒッ♪」
「ふむ、そいつはスクルドに懐いてるみたいだな。…よし、スクルド、そいつの名前はお前が決めていいぞ」
「え、いいんですか陛下!?陛下のペットの名前を、私がつけちゃって」
「そいつもスクルドにつけてもらった名前なら喜んでくれるだろうさ。遠慮せずに決めてやってくれ」
「…分かりました」
ピオニーに促され、スクルドは名前を考え始める。
やがて、一つの名前を思いついたスクルドは、子供のブウサギを見つめながら言った。
「それじゃあ、あなたの名前は…私の名前の古代イスパニア語での意味『未来の歌い手』から取って、『ミライ』!どうかな?」
「ブヒッ♪ブヒッ♪」
「良かった、喜んでくれたみたい」
こうして、ピオニーによって持ち込まれた相談、ブウサギの名前は、スクルドの手により無事に決まることとなったのだった。
「はああああ!」
気合の声と共に、リンの身体は蒼白く光る。
この5か月の間に習得した、オーバーリミッツの光だ。
「…ここまではいいですね。後は術を発動させるだけです」
「ジェイドさん…本当に私に、あの技を使う事ができるのでしょうか?以前ジェイドさんが使った秘奥義…『ミスティックケージ』を」
かつてスクルドを取り戻す旅の最中、街を襲う魔物を一掃するためにジェイドが放った秘奥義『ミスティックケージ』。
その技を、今リンはジェイドから手ほどきを受け習得しようとしているのだ。
「この譜術は私が独自に編み出したものですからね。既存の譜術と違い複雑で、習得は難解です。ですが…あなたの才能ならばあるいは…」
「…やってみます」
リンは意識を集中させ、詠唱を開始する。
「…旋律の戒めよ、リンディス・ガラン・ガルディオスの名のもとに具現せよ」
「…ミスティックケージ!!」
詠唱を終えて譜術の名を叫んだ瞬間、リンの前方に光が発生し、爆発する。
「で、出来た…?」
「…ダメですね。今のでは精々中級譜術程度の威力…術の出力を出し切れていない」
「ですよね…」
確かに今の術は明らかに威力が弱かった。
まだまだ未熟な自分に、ガックリと肩を落とす。
「まあ、術の理論はほとんど理解できているようです。後は今の感覚を忘れずに、実践の経験を積めば、完全に使いこなすのも時間の問題でしょう」
「はい!私、頑張ります!」
「…ですが、無理はしてはいけませんからね。あなたは私の仲間の娘であり、優秀な弟子です。万が一命を落とすようなことがあれば、ガイに顔向けできませんし、私も…悲しいです」
「ジェイドさん……分かってますよ。ありがとうございます!」
ジェイドにお辞儀をしたリンは、軽快に走りながら訓練場から出て行った。
スキット「ピオニーと幼馴染」
レイノス「にしてもすごい部屋だったな…」
セネリオ「ああ…あれがマルクト皇帝の部屋とはな」
スクルド「私やお兄ちゃんは何度か出会ったことあるけど、ピオニー陛下って変わった人ですよね」
クノン「ボクは好きだけどねえ、ああいう王様♪」
レイノス「あの人の幼馴染だっていうジェイドさんも結構アレだし…そういやディストって人も幼馴染なんだっけ?どういう奴なんだろうな」
セネリオ「俺は知り合いのつてでディストには何度かあったことがあるが、奴もかなりの変わり者だという印象だな」
クノン「へえ〜、ルイはトモをよぶってやつかねえ」
リンの父親であるガイは昼からジェイドを訪ねて屋敷を空け、戻ってきたのは夕方頃であった。
「明日の昼からなら、ジェイドの旦那も時間が取れるらしいぞ」
夕食の席にて、ガイはそう切り出した。
それによれば、明日の昼にジェイドに話をしに行くことが可能らしい。
「よし、それでは明日マルクト軍基地へ向かうぞ」
〜翌日〜
レイノス達は、マルクト軍基地のジェイドの執務室へとやってきていた。
部屋に入ると、ジェイド・カーティス元帥が机で筆を動かしている姿が見えた。どうやら仕事をしているようだ。
しかし、レイノス達がやってきたことに気付くと、筆を止めて彼らのもとへ近づいてきた。
「待っていましたよ、皆さん」
「ジェイド・カーティス元帥、さっそくですが―」
と、セネリオが話を行おうとしたその時、
「よ〜、お前等!俺も仲間に入れてくれよ〜♪」
突然、ジェイドの執務室に現れた人物。
歳は見た所ジェイドとあまり変わらないようだが、その快活さには年齢を感じさせない。
振り向いてその姿を見た瞬間、リンはぎょっとした。
「ぴ、ピオニー皇帝陛下!?」
そう、彼こそがこのマルクト帝国の皇帝、ピオニー・ウパラ・マルクト九世なのだ。
ピオニー陛下は、ニヤニヤしながらこちらに近づいてくる。
そして、ジェイドの前に立つと、むっとした表情を見せた。
「おいおいひどいぞジェイド。こんな面白そうな密会を親友の俺に黙ってるなんてよ」
「陛下は仕事が溜まっていてそんな暇はないでしょう。今頃大臣たちが必死になって探していますよ」
「まあまあ固いこと言うなって。そっちの…セネリオだったか。お前もどうせ今回は俺に報告するつもりだったんだろ?」
「それは…そうですが」
「だったらここで俺とジェイドにまとめて話した方が手っ取り早いじゃねえか!話を聞かせてくれるまで、俺はここから離れないぞ!」
結局、ピオニーの強引さに押されたまま、セネリオはジェイドとピオニーにことのあらましを説明することとなったのだった。
「ふむ、なるほど…惑星譜術をも超える、ですか」
「下手したらネビリム先生よりもやばい化け物が生み出されかねないって事か。…厄介だな、ジェイド」
「ええ…もしも本当ならば、必ず止めなければいけないですね」
話を聞いたジェイドとピオニーは、険しい顔をしながら話をしていた。
ピオニーの口からネビリム先生という言葉が出ると、ジェイドの表情が一瞬歪む。
しばらく険しい表情で俯いていたジェイドとピオニーだったが、やがて顔を上げると表情を戻し、言った。
「話は分かりました。こちらでも意識集合体について探ってみようと思います」
「それと、一応この話は俺とジェイドの間での話にしておく。確証がない以上、下手に他の奴らに漏らすのはいろんな意味で危険だからな」
こうして、クラノスについての報告は終わった。
レイノス達は、執務室へ出ようとするが、しかしそこでジェイドに呼び止められる。
「待ってください。リン、あなたはいつもの訓練場へ来てください」
「!もしかして、訓練してくれるんですか!?」
「30分後に私も行きます。準備をしておいてください」
「はい!分かりました!…そういうわけでみんな、私はちょっと行ってくるから!」
そういってリンは、一人訓練場へと走っていった。
残された4人は、今度はピオニー陛下に呼び止められた。
「お前達も俺の部屋に来てくれないか?相談したいことがあるんだ」
「相談したいこと…ですか?」
ピオニーの言葉にレイノスは首をかしげる。
皇帝陛下直々の相談とは、いったいなんであろうか。
なにやら真剣な表情をしているので、かなり重要なことなのかもしれない。
「こ、皇帝陛下への相談相手が私達で、いいんですか?」
スクルドが恐縮した様子で訊ねる。
「ああ、勿論だ」
「へえ、コウテイなんてエライひとに頼られるなんて、悪い気はしないネ。ニャヒハ♪」
こうして、レイノス達はピオニーの案内のもと彼の私室へとやってきた。
そこにいたのは…
プギー
プギー
「ぶ、ブウサギ!?それもこんなにいっぱい!?」
部屋に入った瞬間、レイノスは驚きの声をあげる。
ピオニー九世皇帝陛下は、無類のブウサギ好きな破天荒な人物…と、話には聞いていたが、それにしたってマルクトのナンバー1である人物の部屋が何匹ものブウサギの庭になっているというのはどうなんだろうか。
「うわあ〜〜〜〜〜〜♪可愛い〜〜〜〜〜〜〜〜♪」
一方でスクルドは歓声を上げていた。
目の前に広がるブウサギの群れに、目を輝かせている。
「…陛下、それで相談というのは」
セネリオが、呆れた様子を見せながらピオニーに訊ねる。
するとピオニーは、一匹の子供のピオニーを持ち上げて、言った。
「こいつの名前を考えてくれ」
「はあ!?」
あまりにくだらない相談に、レイノスは二度目の驚きの声を上げてしまう。
「子供のブウサギ、ちっちゃくて可愛い…♪」
一方スクルドは、子供ブウサギにメロメロだった。
「ブヒッ♪ブヒッ♪」
そんなスクルドに、子豚ブウサギは近づいて甘えてくる。
スクルドは子豚ブウサギを持ち上げると頭をなでてやる。
「よしよし、いい子だね」
「ブヒッ♪ブヒッ♪」
「ふむ、そいつはスクルドに懐いてるみたいだな。…よし、スクルド、そいつの名前はお前が決めていいぞ」
「え、いいんですか陛下!?陛下のペットの名前を、私がつけちゃって」
「そいつもスクルドにつけてもらった名前なら喜んでくれるだろうさ。遠慮せずに決めてやってくれ」
「…分かりました」
ピオニーに促され、スクルドは名前を考え始める。
やがて、一つの名前を思いついたスクルドは、子供のブウサギを見つめながら言った。
「それじゃあ、あなたの名前は…私の名前の古代イスパニア語での意味『未来の歌い手』から取って、『ミライ』!どうかな?」
「ブヒッ♪ブヒッ♪」
「良かった、喜んでくれたみたい」
こうして、ピオニーによって持ち込まれた相談、ブウサギの名前は、スクルドの手により無事に決まることとなったのだった。
「はああああ!」
気合の声と共に、リンの身体は蒼白く光る。
この5か月の間に習得した、オーバーリミッツの光だ。
「…ここまではいいですね。後は術を発動させるだけです」
「ジェイドさん…本当に私に、あの技を使う事ができるのでしょうか?以前ジェイドさんが使った秘奥義…『ミスティックケージ』を」
かつてスクルドを取り戻す旅の最中、街を襲う魔物を一掃するためにジェイドが放った秘奥義『ミスティックケージ』。
その技を、今リンはジェイドから手ほどきを受け習得しようとしているのだ。
「この譜術は私が独自に編み出したものですからね。既存の譜術と違い複雑で、習得は難解です。ですが…あなたの才能ならばあるいは…」
「…やってみます」
リンは意識を集中させ、詠唱を開始する。
「…旋律の戒めよ、リンディス・ガラン・ガルディオスの名のもとに具現せよ」
「…ミスティックケージ!!」
詠唱を終えて譜術の名を叫んだ瞬間、リンの前方に光が発生し、爆発する。
「で、出来た…?」
「…ダメですね。今のでは精々中級譜術程度の威力…術の出力を出し切れていない」
「ですよね…」
確かに今の術は明らかに威力が弱かった。
まだまだ未熟な自分に、ガックリと肩を落とす。
「まあ、術の理論はほとんど理解できているようです。後は今の感覚を忘れずに、実践の経験を積めば、完全に使いこなすのも時間の問題でしょう」
「はい!私、頑張ります!」
「…ですが、無理はしてはいけませんからね。あなたは私の仲間の娘であり、優秀な弟子です。万が一命を落とすようなことがあれば、ガイに顔向けできませんし、私も…悲しいです」
「ジェイドさん……分かってますよ。ありがとうございます!」
ジェイドにお辞儀をしたリンは、軽快に走りながら訓練場から出て行った。
スキット「ピオニーと幼馴染」
レイノス「にしてもすごい部屋だったな…」
セネリオ「ああ…あれがマルクト皇帝の部屋とはな」
スクルド「私やお兄ちゃんは何度か出会ったことあるけど、ピオニー陛下って変わった人ですよね」
クノン「ボクは好きだけどねえ、ああいう王様♪」
レイノス「あの人の幼馴染だっていうジェイドさんも結構アレだし…そういやディストって人も幼馴染なんだっけ?どういう奴なんだろうな」
セネリオ「俺は知り合いのつてでディストには何度かあったことがあるが、奴もかなりの変わり者だという印象だな」
クノン「へえ〜、ルイはトモをよぶってやつかねえ」