第2章『集いし仲間』 8
翌日、一行はガイに見送られながらグランコクマを発った。
チーグルの森は徒歩でこそ数日かかるとはいえそこまで遠くもないので、すぐに着いた。
森のチーグルや魔物を刺激しないように少し離れた所にアルビオールを停め、そこからは徒歩で向かった。
森に入り、魔物を倒しながら歩いていると、一軒の木造の家のようなものが見えた。
どちらかというと小屋というのが近いかもしれない。
「前はここにこンなのナかったよネ?」
クノンの言うように、スクルド以外の4人がここへ訪れた際にはこのようなものはなかった。
あれ以降に建てられたのだろう。
よく見れば、使われている木材も新しい。
「パパ、ママ、行ってきま〜す」
家の扉が開く。
そこから現れたのは、幼い少女だ。
少女は、家のなかの両親に出発の挨拶をすると、正面を向いた。
「え!?」
そこにいた人達の姿に、シノンは驚いた表情を見せる。
しかしそれは一瞬のことで、すぐに喜びの表情に変わると、
「みんな!久しぶりだね!!」
「どうしたのシノン?大きな声出して」
「おお、あんたらよう来たのう」
シノンと彼女の両親から歓迎されながら、一行は家の中へと迎えられた。
この家は、以前の家がグラシャラボラスの襲撃により破壊されてしまった為に新しく造ったものらしい。
セネリオはここに来た理由をシノンの両親に話す。
しかし、世俗から離れた生活をしているためか、どちらもセネリオの話をほとんど理解できていないようだった。
「…よう分からんが、ようするにシノンを連れて行きたいっちゅうことか?」
「ええ、そうです」
それでも、なんとか最低限の意図は伝わったらしい。
「ワイはかまわんぞ。シノンの好きにしたらええ」
「私も異論はないです。旅の話をシノンやあなたから聞いて、あなたたちとの旅がシノンによい刺激を与えてくれているということがよく分かりましたから」
前回快くシノンの旅に賛成してくれた父親は勿論、以前は渋々ながらの了承だった母親も認めてくれた。
シノンの母のいう『あなた』とはセネリオのことだ。
前回の旅が終わった時にセネリオはシノンをチーグルの森に連れ帰ったのだが、その際に少し旅の様子について話をしたらしい。
「ありがとう!パパ、ママ!」
「おう、しっかり頑張るんじゃぞ」
「身体には気をつけてね」
こうして両親にも認められ、シノンは再びレイノス達と旅をすることになったのであった。
シノンの旅支度を待つためエンゲーブへ向かおうとしたレイノス達だったが、以前森を救ってくれたお礼がしたいということで昼食を御馳走になることとなった。
とはいえまだ昼には早い時間だったためしばらく自由時間となった。
「ハノンライジング!」
「みゅみゅ!」
シノンの指示が飛ぶと、穴を掘り始めるハノン。
地面に潜り、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
「みゅみゅーっ!」
「うおおおっ!?」
しばらくして、レイノス・セネリオ・クノンの真下から現れるハノン。
セネリオとクノンはすぐに気配を察知して飛びのいたが、レイノスは盛大にすっ転んでしまった。
「アハハハハハハハ!坊ちゃんバッカでぇ〜」
「て、てめえら俺置いて逃げてんじゃねえよ」
ゲラゲラと笑うクノンにレイノスは抗議の声をあげる。
「おいレイノス、よそ見している場合ではないぞ」
「へ?」
セネリオの言葉にきょとんとしていると、
「えいっ!ハノングライダー!」
「なっ!」
空を飛んだハノンに持ち上げられたシノンがチャクラムを持ってこちらに向かってきていた。
レイノスはかろうじて体勢を低くしてシノンの攻撃を避ける。
攻撃をかわされたシノンとハノンはレイノスの上を通り過ぎていく。
「へへっ!今度は避け…」
ザクッ
攻撃をかわして立ち上がろうとしたところを、飛んできたナイフがレイノスの腕に刺さる。
攻撃をかわされた後、シノンはすぐにナイフを投擲していたのだ。
「いってええええ!」
「えっへへ〜!油断大敵だよレイ兄」
「みゅみゅ〜」
シノンに持ち上げられて空を飛んでいたシノンが地面に着地すると、得意顔でナイフの攻撃の痛みに堪えているレイノスに向けてVサインを作る。
シノンを地面に降ろして再び彼女の肩に乗っているハノンもご満悦の様子だ。
チーグルの住む場所にてハノンと合流した後、ハノンが新しい技を覚えたので見てほしいというシノンの要望により男性陣3人が実験台となったのだ。
そうして、ハノンの技をレイノスが受けて、今に至るというわけだ。
「穴を掘っての地面からの攻撃にシノンを持ち上げての空中からの攻撃か。なかなか多彩だな」
「ありがとうセネセネ!」
「みゅう!」
「後は、穴を掘る際に気配をなるべく断つことと、空を飛ぶ際に小回りが利くようになれば、より効果的になるだろう」
「そっかあ、なるほどねえ」
「みゅうみゅう」
ハノンの技を拝見したセネリオが、評価とアドバイスをする。
シノンとハノンは素直に彼の言葉を受け止める。
こうして、ハノンの技お披露目は幕を閉じたのであった。
「そういえばね、みんなと別れた後、一回だけだけどハノンとお話しできたんだよ!」
ハノンの技の紹介が終わった後、シノンがそう切り出してきた。
シノンが言うには、特訓中にハノンの声が聞こえてきて、「もっと強くなりたい、その為に新しい技を覚えたい」と言ってきたそうだ。
それっきりハノンの言葉はまた分からなくなってしまったが、シノンはハノンの言葉に従って新技の案を出し、その結果生まれたのが先ほどの技だという。
「空耳じゃねえの?」
シノンの言葉に、レイノスは空耳ではないのかとシノンに話す。
するとシノンはぷくりとほっぺたを膨らませる。
「空耳なんかじゃないよ!聞こえたもん!」
「全くお坊ちゃんはユメがないネ〜」
空耳じゃないと断言するシノンをクノンも擁護する。
「な、なんだよ!セネリオだってそう思うだろ!?」
ちびっこ二人に責められたレイノスは、うろたえながらもセネリオに同意を求めた。
現実主義者な彼なら自分と同意見だろうと考えたからだ。
レイノスに同意を求められたセネリオは、なにかを考え込むような仕草を見せる。
そしてしばらくして顔を上げると言った。
「俺は魔物と話をする知り合いを知っている」
「な、なんだと!?」
「だからシノンのそれも、気のせいだと断じることは出来ないな」
セネリオの言葉に、レイノスは驚きの声を漏らす。
彼には、魔物と話をする知り合いがいるというのだ。
故に、シノンの話も気のせいだとは言い切れないのだという。
「その知り合いっていったいダレなのさ?」
「シンシア・レビラーノン…六神将の一人『豪炎のシンシア』だ」
一方リンとスクルドは、シノンの母親を手伝って昼食の準備をしていた。
とはいえ二人ともあまり料理は得意ではないので、簡単なお手伝い程度しかできていないのだが。
「男を落とそうと思ったら、まず胃袋からって言うからね。二人とももうちょっと料理を覚えた方がいいと思うわよ」
「うう…精進します」
「いつかセネリオさんに手料理を振舞ってあげたいなあ…」
そんなこんなで三人は料理の準備を進めていく。
慣れないことに四苦八苦しつつ、リンもスクルドも結構楽しそうな様子だった。
そんな中、シノンの母親は二人に言った。
「ねえ、シノンのことでちょっと聞きたいことがあるんだけど…あの子がハノンの言葉を分かったって言ってたんだけど…本当なのかしら?」
「シノンがハノンの言葉を…?」
シノン母の言葉に、リンはなんのことだか分からないと言った様子で不思議そうな顔をする。
「ああ、そういえばリンさんはあの時いませんでしたね…実はですね……」
スクルドはリンとシノン母にフォルクス戦での事を話す。
フォルクスとの戦いの中、フォルクスとの一騎打ちで絶体絶命のピンチをシノンが迎えていた。
そんな時、シノンはハノンとの意思疎通を可能にし、一人と一匹でオーバーリミッツを発動させてフォルクスを倒したのだ。
「へえ〜、私がゼウスに捕まってる間にそんな事があったんだ…」
「……………」
興味深げにスクルドの話を聞いているリン。
一方シノン母の表情は少し暗かった。
「『心開術』…あの子もやっぱりあの集落の…エルメスの子なのね」
シノン母のつぶやきは小さく、リンとスクルドには聞こえなかった。
チーグルの森は徒歩でこそ数日かかるとはいえそこまで遠くもないので、すぐに着いた。
森のチーグルや魔物を刺激しないように少し離れた所にアルビオールを停め、そこからは徒歩で向かった。
森に入り、魔物を倒しながら歩いていると、一軒の木造の家のようなものが見えた。
どちらかというと小屋というのが近いかもしれない。
「前はここにこンなのナかったよネ?」
クノンの言うように、スクルド以外の4人がここへ訪れた際にはこのようなものはなかった。
あれ以降に建てられたのだろう。
よく見れば、使われている木材も新しい。
「パパ、ママ、行ってきま〜す」
家の扉が開く。
そこから現れたのは、幼い少女だ。
少女は、家のなかの両親に出発の挨拶をすると、正面を向いた。
「え!?」
そこにいた人達の姿に、シノンは驚いた表情を見せる。
しかしそれは一瞬のことで、すぐに喜びの表情に変わると、
「みんな!久しぶりだね!!」
「どうしたのシノン?大きな声出して」
「おお、あんたらよう来たのう」
シノンと彼女の両親から歓迎されながら、一行は家の中へと迎えられた。
この家は、以前の家がグラシャラボラスの襲撃により破壊されてしまった為に新しく造ったものらしい。
セネリオはここに来た理由をシノンの両親に話す。
しかし、世俗から離れた生活をしているためか、どちらもセネリオの話をほとんど理解できていないようだった。
「…よう分からんが、ようするにシノンを連れて行きたいっちゅうことか?」
「ええ、そうです」
それでも、なんとか最低限の意図は伝わったらしい。
「ワイはかまわんぞ。シノンの好きにしたらええ」
「私も異論はないです。旅の話をシノンやあなたから聞いて、あなたたちとの旅がシノンによい刺激を与えてくれているということがよく分かりましたから」
前回快くシノンの旅に賛成してくれた父親は勿論、以前は渋々ながらの了承だった母親も認めてくれた。
シノンの母のいう『あなた』とはセネリオのことだ。
前回の旅が終わった時にセネリオはシノンをチーグルの森に連れ帰ったのだが、その際に少し旅の様子について話をしたらしい。
「ありがとう!パパ、ママ!」
「おう、しっかり頑張るんじゃぞ」
「身体には気をつけてね」
こうして両親にも認められ、シノンは再びレイノス達と旅をすることになったのであった。
シノンの旅支度を待つためエンゲーブへ向かおうとしたレイノス達だったが、以前森を救ってくれたお礼がしたいということで昼食を御馳走になることとなった。
とはいえまだ昼には早い時間だったためしばらく自由時間となった。
「ハノンライジング!」
「みゅみゅ!」
シノンの指示が飛ぶと、穴を掘り始めるハノン。
地面に潜り、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
「みゅみゅーっ!」
「うおおおっ!?」
しばらくして、レイノス・セネリオ・クノンの真下から現れるハノン。
セネリオとクノンはすぐに気配を察知して飛びのいたが、レイノスは盛大にすっ転んでしまった。
「アハハハハハハハ!坊ちゃんバッカでぇ〜」
「て、てめえら俺置いて逃げてんじゃねえよ」
ゲラゲラと笑うクノンにレイノスは抗議の声をあげる。
「おいレイノス、よそ見している場合ではないぞ」
「へ?」
セネリオの言葉にきょとんとしていると、
「えいっ!ハノングライダー!」
「なっ!」
空を飛んだハノンに持ち上げられたシノンがチャクラムを持ってこちらに向かってきていた。
レイノスはかろうじて体勢を低くしてシノンの攻撃を避ける。
攻撃をかわされたシノンとハノンはレイノスの上を通り過ぎていく。
「へへっ!今度は避け…」
ザクッ
攻撃をかわして立ち上がろうとしたところを、飛んできたナイフがレイノスの腕に刺さる。
攻撃をかわされた後、シノンはすぐにナイフを投擲していたのだ。
「いってええええ!」
「えっへへ〜!油断大敵だよレイ兄」
「みゅみゅ〜」
シノンに持ち上げられて空を飛んでいたシノンが地面に着地すると、得意顔でナイフの攻撃の痛みに堪えているレイノスに向けてVサインを作る。
シノンを地面に降ろして再び彼女の肩に乗っているハノンもご満悦の様子だ。
チーグルの住む場所にてハノンと合流した後、ハノンが新しい技を覚えたので見てほしいというシノンの要望により男性陣3人が実験台となったのだ。
そうして、ハノンの技をレイノスが受けて、今に至るというわけだ。
「穴を掘っての地面からの攻撃にシノンを持ち上げての空中からの攻撃か。なかなか多彩だな」
「ありがとうセネセネ!」
「みゅう!」
「後は、穴を掘る際に気配をなるべく断つことと、空を飛ぶ際に小回りが利くようになれば、より効果的になるだろう」
「そっかあ、なるほどねえ」
「みゅうみゅう」
ハノンの技を拝見したセネリオが、評価とアドバイスをする。
シノンとハノンは素直に彼の言葉を受け止める。
こうして、ハノンの技お披露目は幕を閉じたのであった。
「そういえばね、みんなと別れた後、一回だけだけどハノンとお話しできたんだよ!」
ハノンの技の紹介が終わった後、シノンがそう切り出してきた。
シノンが言うには、特訓中にハノンの声が聞こえてきて、「もっと強くなりたい、その為に新しい技を覚えたい」と言ってきたそうだ。
それっきりハノンの言葉はまた分からなくなってしまったが、シノンはハノンの言葉に従って新技の案を出し、その結果生まれたのが先ほどの技だという。
「空耳じゃねえの?」
シノンの言葉に、レイノスは空耳ではないのかとシノンに話す。
するとシノンはぷくりとほっぺたを膨らませる。
「空耳なんかじゃないよ!聞こえたもん!」
「全くお坊ちゃんはユメがないネ〜」
空耳じゃないと断言するシノンをクノンも擁護する。
「な、なんだよ!セネリオだってそう思うだろ!?」
ちびっこ二人に責められたレイノスは、うろたえながらもセネリオに同意を求めた。
現実主義者な彼なら自分と同意見だろうと考えたからだ。
レイノスに同意を求められたセネリオは、なにかを考え込むような仕草を見せる。
そしてしばらくして顔を上げると言った。
「俺は魔物と話をする知り合いを知っている」
「な、なんだと!?」
「だからシノンのそれも、気のせいだと断じることは出来ないな」
セネリオの言葉に、レイノスは驚きの声を漏らす。
彼には、魔物と話をする知り合いがいるというのだ。
故に、シノンの話も気のせいだとは言い切れないのだという。
「その知り合いっていったいダレなのさ?」
「シンシア・レビラーノン…六神将の一人『豪炎のシンシア』だ」
一方リンとスクルドは、シノンの母親を手伝って昼食の準備をしていた。
とはいえ二人ともあまり料理は得意ではないので、簡単なお手伝い程度しかできていないのだが。
「男を落とそうと思ったら、まず胃袋からって言うからね。二人とももうちょっと料理を覚えた方がいいと思うわよ」
「うう…精進します」
「いつかセネリオさんに手料理を振舞ってあげたいなあ…」
そんなこんなで三人は料理の準備を進めていく。
慣れないことに四苦八苦しつつ、リンもスクルドも結構楽しそうな様子だった。
そんな中、シノンの母親は二人に言った。
「ねえ、シノンのことでちょっと聞きたいことがあるんだけど…あの子がハノンの言葉を分かったって言ってたんだけど…本当なのかしら?」
「シノンがハノンの言葉を…?」
シノン母の言葉に、リンはなんのことだか分からないと言った様子で不思議そうな顔をする。
「ああ、そういえばリンさんはあの時いませんでしたね…実はですね……」
スクルドはリンとシノン母にフォルクス戦での事を話す。
フォルクスとの戦いの中、フォルクスとの一騎打ちで絶体絶命のピンチをシノンが迎えていた。
そんな時、シノンはハノンとの意思疎通を可能にし、一人と一匹でオーバーリミッツを発動させてフォルクスを倒したのだ。
「へえ〜、私がゼウスに捕まってる間にそんな事があったんだ…」
「……………」
興味深げにスクルドの話を聞いているリン。
一方シノン母の表情は少し暗かった。
「『心開術』…あの子もやっぱりあの集落の…エルメスの子なのね」
シノン母のつぶやきは小さく、リンとスクルドには聞こえなかった。
■作者メッセージ
というわけで今回はシノンを迎えに行くチーグルの森編でした。
突然頭の中に新設定が湧いたので、今回その伏線を仄めかしました。
突然頭の中に新設定が湧いたので、今回その伏線を仄めかしました。