第3章『土煙の小人』 1
「それでは、これからのことについて説明しようと思う」
ダアトの宿屋の男性部屋に、8人と1匹は集まっていた。
仲間が全員そろい、これからの旅の目的について定める必要があるのだ。
「その前にセネリオ、一つ聞いていいかしら?」
そう言ったのは、リンだった。
彼女は、セネリオに聞きたいことがあった。
「なんだ?」
「あなたがクラノスを怪しいと思って脱走した理由を聞かせてもらってもいいかしら?前回の旅の時点では、ほとんどクラノスの計画について情報を持ってなかったようだったし」
確かにリンの言う通り、セネリオはスクルド誘拐にクラノスが絡んでいると言ってレイノス達に同行してきたが、肝心の誘拐の理由やクラノスの計画そのものについては知らない様子だった。
意識集合体の事を知ったのも、スクルド救出の旅が終わった後の事だろう。
「…リンの言う通り、俺はほとんどクラノスの計画について知らなかった。いや、今もその全容は知らない」
リンの問いに対して、セネリオはそう答えた。
「きっかけは、部下の一人がもたらした報告だった。そいつが言うには、クラノスが六神将の一人、グレイシアとなにやら密談をしていて、それが誘拐の計画を立てているように聞こえた、と」
「それってまさか私の…?」
「…ああ、おそらくそうだったんだろうな。そいつが言うには、二人の会話の中に俺、セネリオの名前も出てきたため、まさかと思いつつも気になって聞いたらしい」
セネリオは部下のその話を聞いて、何かの間違いだろう、自分はそんな話聞かされていないし、何かの勘違いだろうと思ってまともに取り合わなかったらしい。
その部下自身も、セネリオが何も知らないと聞き、自分の聞いたことは何かの間違いだったんだと納得したようだったのだが…
「…一週間後、そいつは謎の死を迎えた」
セネリオはその死に、彼が一週間前に話したことが脳裏によぎった。
そこで、彼はクラノスを問い詰めた。
するとクラノスは、白状した。
ファブレ家の令嬢の誘拐計画を。
『なん、だと…!?』
『君の部下には悪いことをした。しかしこの計画を迂闊に外部に漏らすわけにはいかなかったのでな…外部の人間の犯行に見せかけ、殺した』
『貴様…!』
『君の怒りは尤もだ、セネリオ。しかしこの腐敗した世の中を救うためには、ファブレ家の令嬢の力が必要なのだ。どうか我々に協力してはくれないだろうか』
『ふざけるな!俺はあんたを、正しい人間だと信じてきた!平和の為に戦う正義の人間だと信じてきた!そのあんたが、悪党の片棒を担ぐというのか!』
『これが私の正義であり、同時に真の平和を紡ぐために選んだ道だ、セネリオ。他の六神将達も、私の正義を信じてついてきてくれている』
『俺は認めない…そんな正義を、そんな方法で紡がれる平和など、絶対に認めない!』
セネリオは、怒りのままにクラノスの部屋を出て行った。
…その一時間後、セネリオ・バークハルスに逮捕状が出た。
部下からのその報告を聞いたセネリオはダアトを脱出してバチカルに向かった…
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それで俺とリンと出会ったってわけか…」
「残された特務師団は、前述の部下の死と俺の失踪になにか関係があると踏み、俺の無実を証明するために奔走したらしい。だが、その動きを察知したクラノス達によってあいつらは…」
「っ!」
突然、スクルドが立ち上がり、部屋を出て行った。
「お、おい、スクルド!?」
突然部屋を出て行ったスクルドに、慌てた様子を見せるレイノス。
セネリオは、溜息を一つついて立ち上がる。
「俺が連れ戻してくる」
スクルドは、遠くへは行っていなかった。
宿の入り口の近くに立っていた。
「おい」
「あ、セネリオさん…?」
「泣いていたのか?」
スクルドの瞳には、涙がこぼれていた。
慌ててスクルドは、涙を拭う。
「な、なんでもないですよ!なんでも…」
「そんな泣き顔で、何を言っている。…特務師団のことは、お前に責任はない」
ロストロから特務師団の末路について話を聞いた時から、スクルドは元気がなかった。
おそらく、その時から責任を感じていたのだろう。
自分のせいで特務師団は…セネリオの部下は死んでしまったんだと。
「でも、私の誘拐の計画のこと知ったからセネリオさんにそのことを話した部下の人は…それにセネリオさんが神託の盾を脱走することになったのも、それに付随して他の方が処刑されたのもみんな…!」
スクルドの言葉は、途中で途切れた。
彼女の口に、セネリオの手が添えられたのだ。
「お前はクラノスの計画に巻き込まれた被害者だ。お前は悪くない。死んだあいつらも、きっと口を揃えてそういうさ」
「セネリオさん…」
「むしろ、あいつらが死んだのは俺の責任だ」
自分の行動が間違っていたなどとは思わない。
それでも、もう少し上手く立ち回っていれば彼らを死なせずに済んだのではないか。
取り返しのつかない過去の事だと分かっていても、そういう思いが頭をよぎる。
「だが、俺はあいつらに頭を下げるつもりはない」
「え?」
「過去の事でうじうじ悩むくらいなら、前を向いて行動する。あいつらだって、それを望んでいるはずだからな。奴らに詫びるのは…クラノスの野望を止めて、全てが終わった後でいい」
「前を向いて、行動する…」
セネリオの言葉を、スクルドは胸に刻む。
そうだ、どれだけ悔もうと過去を変えることなんてできない。
それなら自分も、セネリオが言うように前を向いて、未来に向けてできることをやればいいんだ。
(私の名前はスクルド…『未来の歌い手』。未来に向けて、歌い続けるんだ!)
「暗くなってきたな…話の続きだったし、そろそろ宿に戻るぞ」
セネリオはそういうと、宿の中へ入っていった。
そんなセネリオの背中を、スクルドは愛しげに見つめる。
「セネリオさん…ありがとう。私も、頑張ります!」
ダアトの宿屋の男性部屋に、8人と1匹は集まっていた。
仲間が全員そろい、これからの旅の目的について定める必要があるのだ。
「その前にセネリオ、一つ聞いていいかしら?」
そう言ったのは、リンだった。
彼女は、セネリオに聞きたいことがあった。
「なんだ?」
「あなたがクラノスを怪しいと思って脱走した理由を聞かせてもらってもいいかしら?前回の旅の時点では、ほとんどクラノスの計画について情報を持ってなかったようだったし」
確かにリンの言う通り、セネリオはスクルド誘拐にクラノスが絡んでいると言ってレイノス達に同行してきたが、肝心の誘拐の理由やクラノスの計画そのものについては知らない様子だった。
意識集合体の事を知ったのも、スクルド救出の旅が終わった後の事だろう。
「…リンの言う通り、俺はほとんどクラノスの計画について知らなかった。いや、今もその全容は知らない」
リンの問いに対して、セネリオはそう答えた。
「きっかけは、部下の一人がもたらした報告だった。そいつが言うには、クラノスが六神将の一人、グレイシアとなにやら密談をしていて、それが誘拐の計画を立てているように聞こえた、と」
「それってまさか私の…?」
「…ああ、おそらくそうだったんだろうな。そいつが言うには、二人の会話の中に俺、セネリオの名前も出てきたため、まさかと思いつつも気になって聞いたらしい」
セネリオは部下のその話を聞いて、何かの間違いだろう、自分はそんな話聞かされていないし、何かの勘違いだろうと思ってまともに取り合わなかったらしい。
その部下自身も、セネリオが何も知らないと聞き、自分の聞いたことは何かの間違いだったんだと納得したようだったのだが…
「…一週間後、そいつは謎の死を迎えた」
セネリオはその死に、彼が一週間前に話したことが脳裏によぎった。
そこで、彼はクラノスを問い詰めた。
するとクラノスは、白状した。
ファブレ家の令嬢の誘拐計画を。
『なん、だと…!?』
『君の部下には悪いことをした。しかしこの計画を迂闊に外部に漏らすわけにはいかなかったのでな…外部の人間の犯行に見せかけ、殺した』
『貴様…!』
『君の怒りは尤もだ、セネリオ。しかしこの腐敗した世の中を救うためには、ファブレ家の令嬢の力が必要なのだ。どうか我々に協力してはくれないだろうか』
『ふざけるな!俺はあんたを、正しい人間だと信じてきた!平和の為に戦う正義の人間だと信じてきた!そのあんたが、悪党の片棒を担ぐというのか!』
『これが私の正義であり、同時に真の平和を紡ぐために選んだ道だ、セネリオ。他の六神将達も、私の正義を信じてついてきてくれている』
『俺は認めない…そんな正義を、そんな方法で紡がれる平和など、絶対に認めない!』
セネリオは、怒りのままにクラノスの部屋を出て行った。
…その一時間後、セネリオ・バークハルスに逮捕状が出た。
部下からのその報告を聞いたセネリオはダアトを脱出してバチカルに向かった…
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「それで俺とリンと出会ったってわけか…」
「残された特務師団は、前述の部下の死と俺の失踪になにか関係があると踏み、俺の無実を証明するために奔走したらしい。だが、その動きを察知したクラノス達によってあいつらは…」
「っ!」
突然、スクルドが立ち上がり、部屋を出て行った。
「お、おい、スクルド!?」
突然部屋を出て行ったスクルドに、慌てた様子を見せるレイノス。
セネリオは、溜息を一つついて立ち上がる。
「俺が連れ戻してくる」
スクルドは、遠くへは行っていなかった。
宿の入り口の近くに立っていた。
「おい」
「あ、セネリオさん…?」
「泣いていたのか?」
スクルドの瞳には、涙がこぼれていた。
慌ててスクルドは、涙を拭う。
「な、なんでもないですよ!なんでも…」
「そんな泣き顔で、何を言っている。…特務師団のことは、お前に責任はない」
ロストロから特務師団の末路について話を聞いた時から、スクルドは元気がなかった。
おそらく、その時から責任を感じていたのだろう。
自分のせいで特務師団は…セネリオの部下は死んでしまったんだと。
「でも、私の誘拐の計画のこと知ったからセネリオさんにそのことを話した部下の人は…それにセネリオさんが神託の盾を脱走することになったのも、それに付随して他の方が処刑されたのもみんな…!」
スクルドの言葉は、途中で途切れた。
彼女の口に、セネリオの手が添えられたのだ。
「お前はクラノスの計画に巻き込まれた被害者だ。お前は悪くない。死んだあいつらも、きっと口を揃えてそういうさ」
「セネリオさん…」
「むしろ、あいつらが死んだのは俺の責任だ」
自分の行動が間違っていたなどとは思わない。
それでも、もう少し上手く立ち回っていれば彼らを死なせずに済んだのではないか。
取り返しのつかない過去の事だと分かっていても、そういう思いが頭をよぎる。
「だが、俺はあいつらに頭を下げるつもりはない」
「え?」
「過去の事でうじうじ悩むくらいなら、前を向いて行動する。あいつらだって、それを望んでいるはずだからな。奴らに詫びるのは…クラノスの野望を止めて、全てが終わった後でいい」
「前を向いて、行動する…」
セネリオの言葉を、スクルドは胸に刻む。
そうだ、どれだけ悔もうと過去を変えることなんてできない。
それなら自分も、セネリオが言うように前を向いて、未来に向けてできることをやればいいんだ。
(私の名前はスクルド…『未来の歌い手』。未来に向けて、歌い続けるんだ!)
「暗くなってきたな…話の続きだったし、そろそろ宿に戻るぞ」
セネリオはそういうと、宿の中へ入っていった。
そんなセネリオの背中を、スクルドは愛しげに見つめる。
「セネリオさん…ありがとう。私も、頑張ります!」
■作者メッセージ
第3章開始
今後の旅の方針について決める話を書くつもりが、前座のセネリオ脱走経緯の話が長くなったので今回はここまでで
今後の旅の方針について決める話を書くつもりが、前座のセネリオ脱走経緯の話が長くなったので今回はここまでで