第3章『土煙の小人』 2
セネリオとスクルドが戻ってきて、話し合いが開始された。
まず、意識集合体の力を手に入れようとするクラノスの野望を止めるというのが、この旅の目的である。
しかしセネリオとミステリアスの調査によれば、既にクラノス達はいくつかの意識集合体と契約を結んでいるらしい。
「奴らがこれまでに契約を結んだと考えられるのはこの4つだ」
ミステリアスがそういって一枚の紙切れを出した。
そこには、このように書いてある。
「ノーム…ザオ遺跡
シルフ…タタル渓谷
ウンディーネ…アラミス湧水洞
イフリート…ザレッホ火山」
どうやら、クラノス達が契約した意識集合体と彼らがいると思われる場所のメモらしい。
「って、もう4つも契約してんのかよ!」
メモを見たレイノスが、叫んだ。
そう、クラノス達はもう既に、6つの意識集合体のうち4つと契約している可能性があるのだ。
「とりあえずまずは、この4つの意識集合体に会いにいこうと思っている。既に契約を終えているとしても、話を聞くくらいはできるかもしれん」
セネリオが、具体的な方針を提案する。
確かに実際に彼ら意識集合体に会って話をすれば、クラノスの狙いや具体的な目的などが判明するかもしれない。
セネリオの提案に、異論は出なかった。
「それで、まずはどこに行くの?この近くのザレッホ火山かアラミス湧水洞?」
リンの言葉にミステリアスが首を横に振った。
確かにこの二つは今いるこの大陸内にいるとはいえ、クラノスや六神将も近くにいるのだ。
直接襲ってくるとは考えにくいにしても、妨害される可能性を考えれば、彼らから離れた場所を優先するべきだろう。
そういうわけでザレッホ火山とアラミス湧水洞は後回しとなり、更に話し合いを続けた結果、まずはザオ遺跡へ向かうことになった。
「それじゃあ皆さん、私は明日の旅の準備の為に一度家に戻りますね」
「俺が送っていく」
目的地が決まると、アルセリアは明日の出発の準備の為に町はずれの自宅へと戻っていき、ミステリアスも彼女を送るために宿を出て行った。
「セリアさん…あの孤児院で育ったんでしょうか」
アルセリアが去った後、スクルドがそう呟いた。
「独り暮らしをしている様子だったし、そうなのかもね」
スクルドの言葉をリンが肯定した。
「ここ10年ほどのうちに、孤児は増加してきている。あの孤児院も相当古いようだったし、経営も大変だろうな」
セネリオが話を繋ぐ。
孤児。
両親と当たり前のように暮らしてきたレイノスやスクルド、リンやシノンには今まで縁のない話だった。
世の中には親と暮らせない子供が多くいるという事実に、彼らは表情を暗くする。
「今は戦争とかも終わって、平和じゃねえか。なんで、そんなことになってるんだよ」
暗い表情のまま、レイノスが尋ねた。
レイノスの問いに、セネリオが答える。
「理由は主に二つだ。一つは、犯罪が増えてきているため。強盗などで命を落とす人が増えてきている」
「あのゼウスとかみたいな奴らのせいか…!」
先日妹を犯罪者集団に誘拐されたレイノスは、憤りを隠せない様子だった。
そんな中、クノンが突然立ち上がった。
「イヤ〜、なんか難しい話しててチンプンカンプンだから、ちょっと外出てるネ」
そう言ってクノンは部屋を出た。
「…シノン。ハノンと一緒に、アイツのところへ行ってやれ」
「え?」
シノンをクノンの所に行かせようと促すセネリオ。
セネリオの言葉にシノンはキョトンとする。
「あいつも一人じゃ寂しいだろ」
「そっか!じゃあ行ってくるね!」
クノンが一人で寂しがるとは思えない、と心の中でレイノスは突っ込んだが、シノンはセネリオの言葉にあっさり納得したようで、ハノンと共に部屋を出て行った。
「話を続けるぞ。孤児が増えているもう一つの理由だが…親が子供を捨てる為だ」
セネリオの話に、レイノス、リン、スクルドは衝撃を受ける、
親が子供を捨てる。
そのような非人道的なことが、それほど多く行われているとは。
そして同時に3人は、セネリオがシノンを理由をつけて部屋から出した理由を察した。
まだ親に甘えたい盛りの年頃な彼女にこの現実を突きつけるというのは、残酷だ。
「親が子供を捨てるって…そんなに多いものなの?」
リンが、恐る恐るセネリオに訊ねた。
セネリオは、首を縦に動かし肯定した。
「俺の知り合い…いわゆる六神将だが、そいつらの中にもそういう経験をしている奴が二人いる」
実際に名前こそ出さなかったが、セネリオのいう六神将二人とは第二師団師団長カッシャー・ワイヨン・ネイスと、第四師団師団長のルージェニア・デスファクトだ。
どちらも、親に捨てられた過去を持ち、その過去ゆえに、特定の人間にしか信頼を示さない人間不信に陥っている。
「それに、10年ほど前までには、そういった子捨てを援助するグループ…いわゆる人身売買を生業とする犯罪組織も存在していた」
「あ…それは聞いたことがあるかも。確か『スレイブ』とかいう名前でしたよね」
セネリオの出した話に、スクルドは聞き覚えがあるようだった。
彼女の口から出た『スレイブ』という言葉に、レイノスも思い出した。
10年ほど前、確かにそのような犯罪組織の噂を聞いたことがあった。
当時は幼かったために、子供が売られるという話を聞いて、恐ろしさを感じていたものだった。
スクルドなんかは、母さんに「捨てないで!」なんて言って泣きついてたっけ。
「クラノスは、こういった犯罪行為や非人道的行為が蔓延する世の中を憂い、そんな世界を変えたいと願っていた」
「なんだよそれ…そんな奴が、なんで賊の力を借りてスクルドを誘拐するような真似してんだよ!」
「ああ…だから俺は、奴のもとを去った」
セネリオの話を聞き、3人の胸中には暗いものが残った。
表面上は平和と思われていたこの世界は、裏では様々な悲劇が起こっていたのだ。
そんな悲劇が起こらない、真の平和が紡がれる日は、果たして訪れるのだろうか…
「クーノン♪」
宿の外にいたクノンに、シノンは声をかけた。
振り向いたクノンの表情を見て、シノンはびっくりした。
クノンの表情には、いつもの快活さがなかった。
なんというか、ものすごく怖い顔をしていた。
以前シュレーの丘で怒られた時とはまた違う、冷たさを感じるような。
「く、クノン、どうかしたの?」
「…なんでもない」
「なんでもないなんてことないよ!すっごく元気ないみたいだもん」
「そういうおチビちゃんは元気だね」
「うん、私もハノンも元気百倍だよ!」
「みゅう!」
グッとガッツポーズをシノンとハノンがとると、クノンの表情が少し和らいだ。
そして、彼女に向けて手を伸ばし、頭を優しくなでた。
「く、クノン?」
「…俺はお前が羨ましい。子供らしく明るく健やかに成長していくお前が」
「へ?俺?」
クノンの様子に、シノンは戸惑う。
なにやら一人称まで変わっている。
「シノン、お前は俺みたいになるな。その明るさを失わず、立派な大人になってくれ」
「う、うん…?」
相変わらず一人称が変わって様子がいつもと違うクノンに戸惑いつつ、シノンは頷いた。
まず、意識集合体の力を手に入れようとするクラノスの野望を止めるというのが、この旅の目的である。
しかしセネリオとミステリアスの調査によれば、既にクラノス達はいくつかの意識集合体と契約を結んでいるらしい。
「奴らがこれまでに契約を結んだと考えられるのはこの4つだ」
ミステリアスがそういって一枚の紙切れを出した。
そこには、このように書いてある。
「ノーム…ザオ遺跡
シルフ…タタル渓谷
ウンディーネ…アラミス湧水洞
イフリート…ザレッホ火山」
どうやら、クラノス達が契約した意識集合体と彼らがいると思われる場所のメモらしい。
「って、もう4つも契約してんのかよ!」
メモを見たレイノスが、叫んだ。
そう、クラノス達はもう既に、6つの意識集合体のうち4つと契約している可能性があるのだ。
「とりあえずまずは、この4つの意識集合体に会いにいこうと思っている。既に契約を終えているとしても、話を聞くくらいはできるかもしれん」
セネリオが、具体的な方針を提案する。
確かに実際に彼ら意識集合体に会って話をすれば、クラノスの狙いや具体的な目的などが判明するかもしれない。
セネリオの提案に、異論は出なかった。
「それで、まずはどこに行くの?この近くのザレッホ火山かアラミス湧水洞?」
リンの言葉にミステリアスが首を横に振った。
確かにこの二つは今いるこの大陸内にいるとはいえ、クラノスや六神将も近くにいるのだ。
直接襲ってくるとは考えにくいにしても、妨害される可能性を考えれば、彼らから離れた場所を優先するべきだろう。
そういうわけでザレッホ火山とアラミス湧水洞は後回しとなり、更に話し合いを続けた結果、まずはザオ遺跡へ向かうことになった。
「それじゃあ皆さん、私は明日の旅の準備の為に一度家に戻りますね」
「俺が送っていく」
目的地が決まると、アルセリアは明日の出発の準備の為に町はずれの自宅へと戻っていき、ミステリアスも彼女を送るために宿を出て行った。
「セリアさん…あの孤児院で育ったんでしょうか」
アルセリアが去った後、スクルドがそう呟いた。
「独り暮らしをしている様子だったし、そうなのかもね」
スクルドの言葉をリンが肯定した。
「ここ10年ほどのうちに、孤児は増加してきている。あの孤児院も相当古いようだったし、経営も大変だろうな」
セネリオが話を繋ぐ。
孤児。
両親と当たり前のように暮らしてきたレイノスやスクルド、リンやシノンには今まで縁のない話だった。
世の中には親と暮らせない子供が多くいるという事実に、彼らは表情を暗くする。
「今は戦争とかも終わって、平和じゃねえか。なんで、そんなことになってるんだよ」
暗い表情のまま、レイノスが尋ねた。
レイノスの問いに、セネリオが答える。
「理由は主に二つだ。一つは、犯罪が増えてきているため。強盗などで命を落とす人が増えてきている」
「あのゼウスとかみたいな奴らのせいか…!」
先日妹を犯罪者集団に誘拐されたレイノスは、憤りを隠せない様子だった。
そんな中、クノンが突然立ち上がった。
「イヤ〜、なんか難しい話しててチンプンカンプンだから、ちょっと外出てるネ」
そう言ってクノンは部屋を出た。
「…シノン。ハノンと一緒に、アイツのところへ行ってやれ」
「え?」
シノンをクノンの所に行かせようと促すセネリオ。
セネリオの言葉にシノンはキョトンとする。
「あいつも一人じゃ寂しいだろ」
「そっか!じゃあ行ってくるね!」
クノンが一人で寂しがるとは思えない、と心の中でレイノスは突っ込んだが、シノンはセネリオの言葉にあっさり納得したようで、ハノンと共に部屋を出て行った。
「話を続けるぞ。孤児が増えているもう一つの理由だが…親が子供を捨てる為だ」
セネリオの話に、レイノス、リン、スクルドは衝撃を受ける、
親が子供を捨てる。
そのような非人道的なことが、それほど多く行われているとは。
そして同時に3人は、セネリオがシノンを理由をつけて部屋から出した理由を察した。
まだ親に甘えたい盛りの年頃な彼女にこの現実を突きつけるというのは、残酷だ。
「親が子供を捨てるって…そんなに多いものなの?」
リンが、恐る恐るセネリオに訊ねた。
セネリオは、首を縦に動かし肯定した。
「俺の知り合い…いわゆる六神将だが、そいつらの中にもそういう経験をしている奴が二人いる」
実際に名前こそ出さなかったが、セネリオのいう六神将二人とは第二師団師団長カッシャー・ワイヨン・ネイスと、第四師団師団長のルージェニア・デスファクトだ。
どちらも、親に捨てられた過去を持ち、その過去ゆえに、特定の人間にしか信頼を示さない人間不信に陥っている。
「それに、10年ほど前までには、そういった子捨てを援助するグループ…いわゆる人身売買を生業とする犯罪組織も存在していた」
「あ…それは聞いたことがあるかも。確か『スレイブ』とかいう名前でしたよね」
セネリオの出した話に、スクルドは聞き覚えがあるようだった。
彼女の口から出た『スレイブ』という言葉に、レイノスも思い出した。
10年ほど前、確かにそのような犯罪組織の噂を聞いたことがあった。
当時は幼かったために、子供が売られるという話を聞いて、恐ろしさを感じていたものだった。
スクルドなんかは、母さんに「捨てないで!」なんて言って泣きついてたっけ。
「クラノスは、こういった犯罪行為や非人道的行為が蔓延する世の中を憂い、そんな世界を変えたいと願っていた」
「なんだよそれ…そんな奴が、なんで賊の力を借りてスクルドを誘拐するような真似してんだよ!」
「ああ…だから俺は、奴のもとを去った」
セネリオの話を聞き、3人の胸中には暗いものが残った。
表面上は平和と思われていたこの世界は、裏では様々な悲劇が起こっていたのだ。
そんな悲劇が起こらない、真の平和が紡がれる日は、果たして訪れるのだろうか…
「クーノン♪」
宿の外にいたクノンに、シノンは声をかけた。
振り向いたクノンの表情を見て、シノンはびっくりした。
クノンの表情には、いつもの快活さがなかった。
なんというか、ものすごく怖い顔をしていた。
以前シュレーの丘で怒られた時とはまた違う、冷たさを感じるような。
「く、クノン、どうかしたの?」
「…なんでもない」
「なんでもないなんてことないよ!すっごく元気ないみたいだもん」
「そういうおチビちゃんは元気だね」
「うん、私もハノンも元気百倍だよ!」
「みゅう!」
グッとガッツポーズをシノンとハノンがとると、クノンの表情が少し和らいだ。
そして、彼女に向けて手を伸ばし、頭を優しくなでた。
「く、クノン?」
「…俺はお前が羨ましい。子供らしく明るく健やかに成長していくお前が」
「へ?俺?」
クノンの様子に、シノンは戸惑う。
なにやら一人称まで変わっている。
「シノン、お前は俺みたいになるな。その明るさを失わず、立派な大人になってくれ」
「う、うん…?」
相変わらず一人称が変わって様子がいつもと違うクノンに戸惑いつつ、シノンは頷いた。