第3章『土煙の小人』 3
翌朝、宿にやってきたアルセリアとミステリアスと合流し、一行は出発することとなった。
出発に先立ち、ミステリアスと共にやってきた導師ロストロが街の入り口まで見送りに来てくれていた。
「出発の前に、皆さんに話しておきたいことがあります。…新しい六神将、『聖歌のウルド』の事です」
聖歌のウルド。
それは、数か月前に処刑された元第三師団師団長フォルクス・ソレイユに代わり新たな第三師団師団長となり、セネリオ脱走後空席となっていた六神将の座に就任した。
ミステリアスのように顔に仮面をかぶっており、その素性は謎に包まれている。
「まだ就任から日が浅く、詳しいことは分かりませんが…強力な効果を持つ譜歌を歌うとの噂を聞いています」
強力な効果を持つ譜歌というロストロの言葉にピクリと反応したのはスクルドだ。
「強力な効果の譜歌って…もしかして私やお母さんと同じユリアの譜歌?」
通常譜歌はそれほど大きな効果を持たない。
しかしユリアの譜歌は別で、譜術と同程度の効果を持つ強力なものなのだ。
そのウルドの譜歌がそれほど強力なものであるというならば、それはユリアの譜歌である可能性が高い。
「もしウルドがユリアの譜歌を使えるというのなら、クラノス達が意識集合体との契約を行えているのにも説明がつくが…」
スクルドの言葉を受けて、ミステリアスが考察する。
彼の言う通り、意識集合体との契約を行っているのはウルドである可能性が高いだろう。
「デモさ、そもそもウルドって、どんなやつなのサ?」
クノンが、もっともな疑問を口に出す。
突然現れた新たな六神将ウルド…いったい何者なのだろうか。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。話を整理させてくれよ…」
レイノスが、話を整理するためにあまり良くない頭を使って唸る。
しばらくして顔を上げると、語り始めた。
「えっと、意識集合体と契約するにはユリアの譜歌が必要で、その為にスクルドをさらったんだよな?」
「ええ、そうなるわね」
レイノスの話にリンが頷く。
意識集合体の力を必要としていて、その力を得るためにユリアの譜歌が必要だというなら、クラノスがスクルドの誘拐の計画を立てたのは、ユリアの譜歌の力を欲したが故だろう。
しかしそれは、レイノス達の手により失敗した…はずだ。
「だったら、おかしくないか?そのウルドって奴は、クラノスに従ってて、なおかつユリアの譜歌が使えるんだろ?そんな奴がいるなら、スクルドを誘拐する必要なんてないはずだ」
レイノスの言葉に、一同はハッとする。
確かにレイノスの言う事はもっともだ。
ユリアの譜歌が使える者が手元にいるなら、スクルドを必要とする理由はなくなる。
「スクルドさんの誘拐に失敗した後に、ウルドさんを見つけた…ってことはないでしょうか?」
アルセリアが仮定を口に出す。
確かに考えられないこともない。
しかし、スクルド誘拐の失敗から数か月で、そう都合よくそんな人物が見つかるものだろうか?
(ウルド…確か古代イスパニア語で『過去を歌い手』だったか)
議論が続く中、セネリオは一人思案を続けていた。
過去を歌うもの…『未来を歌い手』の意味を持つスクルドと全く正反対の意味を持つ名だ。
そして彼女はユリアの譜歌を歌うという噂だ。
偶然にしては出来過ぎている。
(『聖歌のウルド』…おそらく奴は……)
「とにかくさ、早く出発しようよ!」
「みゅう!」
話の輪に入れないでいて退屈していたシノンとハノンが、出発を促す。
「それもそうね。ウルドについては、実際に会ったこともないんだもの。これ以上考えたって結論は出ないわ」
リンもシノンに同意し、他の一同も議論が煮詰まってしまったのでこの話は保留となった。
一行は港を目指して、ロストロに見送られながら街を出た。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一方その頃、神託の盾本部では、第四師団師団長ルージェニア・デスファクトが、主席総長クラノス・グラディウスの召集を受けていた。
「彼らは、ザオ遺跡へ向かうようだ。ルージェ、出迎えてやってくれ」
クラノスがルージェに命令を与える。
出迎えるというのはすなわち…彼らと戦えという意味であった。
「了解です…しかし、よろしいのですか?フォルクスに続いて、六神将である僕が彼らの襲撃を襲えば、今度こそクラノス様が責任を追及されてしまうのでは…」
ルージェはそう、懸念を口にする。
実際、フォルクスの処理に関しても多少とはいえクラノスに対する疑惑の目は存在しているのだ。
ここで更に自分が襲撃をかければ、クラノスの地位は危ぶまれるのではないだろうか。
「心配はいらない。襲撃の名目は、作ってある」
そういうとクラノスは、一つの手配書を出した。
手配書に描かれた人物は、まるで兎のような赤い目をしていた。
出発に先立ち、ミステリアスと共にやってきた導師ロストロが街の入り口まで見送りに来てくれていた。
「出発の前に、皆さんに話しておきたいことがあります。…新しい六神将、『聖歌のウルド』の事です」
聖歌のウルド。
それは、数か月前に処刑された元第三師団師団長フォルクス・ソレイユに代わり新たな第三師団師団長となり、セネリオ脱走後空席となっていた六神将の座に就任した。
ミステリアスのように顔に仮面をかぶっており、その素性は謎に包まれている。
「まだ就任から日が浅く、詳しいことは分かりませんが…強力な効果を持つ譜歌を歌うとの噂を聞いています」
強力な効果を持つ譜歌というロストロの言葉にピクリと反応したのはスクルドだ。
「強力な効果の譜歌って…もしかして私やお母さんと同じユリアの譜歌?」
通常譜歌はそれほど大きな効果を持たない。
しかしユリアの譜歌は別で、譜術と同程度の効果を持つ強力なものなのだ。
そのウルドの譜歌がそれほど強力なものであるというならば、それはユリアの譜歌である可能性が高い。
「もしウルドがユリアの譜歌を使えるというのなら、クラノス達が意識集合体との契約を行えているのにも説明がつくが…」
スクルドの言葉を受けて、ミステリアスが考察する。
彼の言う通り、意識集合体との契約を行っているのはウルドである可能性が高いだろう。
「デモさ、そもそもウルドって、どんなやつなのサ?」
クノンが、もっともな疑問を口に出す。
突然現れた新たな六神将ウルド…いったい何者なのだろうか。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。話を整理させてくれよ…」
レイノスが、話を整理するためにあまり良くない頭を使って唸る。
しばらくして顔を上げると、語り始めた。
「えっと、意識集合体と契約するにはユリアの譜歌が必要で、その為にスクルドをさらったんだよな?」
「ええ、そうなるわね」
レイノスの話にリンが頷く。
意識集合体の力を必要としていて、その力を得るためにユリアの譜歌が必要だというなら、クラノスがスクルドの誘拐の計画を立てたのは、ユリアの譜歌の力を欲したが故だろう。
しかしそれは、レイノス達の手により失敗した…はずだ。
「だったら、おかしくないか?そのウルドって奴は、クラノスに従ってて、なおかつユリアの譜歌が使えるんだろ?そんな奴がいるなら、スクルドを誘拐する必要なんてないはずだ」
レイノスの言葉に、一同はハッとする。
確かにレイノスの言う事はもっともだ。
ユリアの譜歌が使える者が手元にいるなら、スクルドを必要とする理由はなくなる。
「スクルドさんの誘拐に失敗した後に、ウルドさんを見つけた…ってことはないでしょうか?」
アルセリアが仮定を口に出す。
確かに考えられないこともない。
しかし、スクルド誘拐の失敗から数か月で、そう都合よくそんな人物が見つかるものだろうか?
(ウルド…確か古代イスパニア語で『過去を歌い手』だったか)
議論が続く中、セネリオは一人思案を続けていた。
過去を歌うもの…『未来を歌い手』の意味を持つスクルドと全く正反対の意味を持つ名だ。
そして彼女はユリアの譜歌を歌うという噂だ。
偶然にしては出来過ぎている。
(『聖歌のウルド』…おそらく奴は……)
「とにかくさ、早く出発しようよ!」
「みゅう!」
話の輪に入れないでいて退屈していたシノンとハノンが、出発を促す。
「それもそうね。ウルドについては、実際に会ったこともないんだもの。これ以上考えたって結論は出ないわ」
リンもシノンに同意し、他の一同も議論が煮詰まってしまったのでこの話は保留となった。
一行は港を目指して、ロストロに見送られながら街を出た。
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一方その頃、神託の盾本部では、第四師団師団長ルージェニア・デスファクトが、主席総長クラノス・グラディウスの召集を受けていた。
「彼らは、ザオ遺跡へ向かうようだ。ルージェ、出迎えてやってくれ」
クラノスがルージェに命令を与える。
出迎えるというのはすなわち…彼らと戦えという意味であった。
「了解です…しかし、よろしいのですか?フォルクスに続いて、六神将である僕が彼らの襲撃を襲えば、今度こそクラノス様が責任を追及されてしまうのでは…」
ルージェはそう、懸念を口にする。
実際、フォルクスの処理に関しても多少とはいえクラノスに対する疑惑の目は存在しているのだ。
ここで更に自分が襲撃をかければ、クラノスの地位は危ぶまれるのではないだろうか。
「心配はいらない。襲撃の名目は、作ってある」
そういうとクラノスは、一つの手配書を出した。
手配書に描かれた人物は、まるで兎のような赤い目をしていた。