第3章『土煙の小人』 5
ザオ遺跡の中を、一行は進んでいく。
遺跡の内部は日の当たらない地下にあるので、太陽の灼熱にさらされずにすんだ。
しかしかなり広そうなので、長丁場を覚悟することになりそうだ。
「……………」
セネリオは歩きながら、前日までこの周囲を覆っていた竜巻のことを考えていた。
あれは、自然発生したものだとは明らかに考えられない。
クラノス側で何かしらの(恐らくは意識集合体シルフの)妨害を行ったと考えていいだろう。
しかしその竜巻は、今日になって突然消えてしまった。
(妨害する必要がなくなったという事か…?だとしたら、この数日で何かしらの障害が設置された可能性があるか)
罠の可能性を考え、慎重に周囲を見回しながら進むセネリオであった。
そうして奥へと進んでいった一行。
途中大きな岩に道をふさがれている場所はあったものの、
「いっけえハノン!アタック!」
「みゅみゅー!」
ハノンのハノンアタックにより岩を破壊し、ずんずんと奥を目指している。
「テいうかサ、なんか迷うことなくズンズン進んでるけど、そのノームって奴がドコにいるのか分かるノ?」
道中、クノンが訊ねた。
ここまでの道は、主にリンとスクルドの主導により歩いてきている。
彼女たち二人の歩みに、迷いはない。
「気配というか、音素の濃度みたいなのを、感じるんです」
リンがクノンの方を向いて言った。
譜術の扱いに長けている二人は、意識集合体の音素濃度を感じ取っており、その濃度を感じる方向に向かって歩いているのだという。
「フーン、ボクには全然分かんないヤ」
「あ、クノンさん、さっきの戦闘で怪我を…」
クノンが腕を怪我しているのを見つけたスクルド。
治癒術で治療しようとするが、その前にクノンに止められてしまう。
「自分で回復できるからダイジョーブだよ。治癒功!」
そういって、自身の治癒の技で腕の傷を治す。
(クノンさん、私やリンさんの治癒術を拒否してるように思えるのは気のせいなのかな?)
以前からクノンは、スクルドやリン、最近治癒術を覚えたミステリアスが回復しようとすると拒否して、グミや自分の治癒の技で回復をしている。
(ミステリアスさん、どう思います?)
そばにいたミステリアスに小声でクノンの事について聞いてみる。
彼も、この5か月の間に治癒術を習得したみたいなのだが、やはりクノンには治癒を拒否されている。
(…一つ気になっていることがある)
(気になっていること?)
(以前チーグルの森で、FOFの全体回復術を使った時…クノンが顔を歪めていたような気がするんだ)
それは、チーグルの森でグラシャラボラスと戦っていた時の事。
ミステリアスは、FOFの力で『バレットシャワー』という回復術を使ったことがある。
銃から癒しの銃弾を撃ちだし雨のように降らせる技で、発射した銃弾には第七音素の治癒術が込められている。
(第七音素、治癒術…まさかあいつ)
ミステリアスの脳裏に、一つの可能性が浮かんだ。
もしこの仮説が正しいなら、クノンが治癒術を拒む理由に説明もつくが…
(まさかな…)
さらに奥へと進んでいった一行は、パッセージリングのあるエリアの手前まで来ていた。
そして、その先を阻むように、彼は立っていた。
その人物は、見た所まだ子供で、精々シノンより少しだけ歳上といった印象だった。
しかし、その瞳はシノンとは対照的で、冷たさを感じさせるものだった。
槍を持ったその少年は、黒いフードをかぶった人物を一瞥すると、少しだけ表情を緩ませ、口を開いた。
「やあセネリオ、待ってたよ」
「ルージェ…!」
セネリオが、警戒を露わにしながら少年を睨む。
そう、目の前にいるまだ幼いこの少年こそが、第四師団師団長ルージェニア・デスファクトなのであった。
「お前が…!」
反射的に剣を抜こうとしたレイノスを、ミステリアスが制止した。
そして、ルージェニアに向けて言う。
「六神将殿がこんなところに何の用があるかは知らないが、俺達はその先に用がある。通してくれませんかね」
どうやらミステリアスは、話し合いでこの場を切り抜けようと考えているらしい。
そもそも、六神将が今ここで自分達を襲えば、クラノスの立場が悪くなるのは明白だ。
ゆえに、向こうもそうやすやすと戦いに持ち込むことは出来ないだろうと、ミステリアスやセネリオは踏んでいる。
だから、穏便に話を済ませようとしているのだ。
「悪いけど、それは出来ないね。僕は君たちに用があったんだから」
「私達にって…いったいなんでしょうか?」
自分達に用があるというルージェニアに、アルセリアが警戒した様子で用件を聞いた。
「簡単なことだよ。ある人物を引き渡してほしい」
「!ス、スクルドは渡さねえぞ!」
咄嗟にレイノスはかばうようにスクルドの前に出る。
やはりクラノス達はスクルドのユリアの譜歌の力を欲しているのか。
一同はそう考えたが、しかしルージェニアは首を振って言った。
「違う、その女じゃないよ。引き渡してほしいのは…こいつだ」
そう言ってルージェニアが指差したのは…
「エ……?ボク…?」
その人物は、指名されて思わずその赤い目を丸くした。
そう、ルージェが指名してきたのは、スクルドではなくクノンだったのだ。
「何が狙いだ、ルージェ。何故クノンを引き渡す必要がある」
セネリオがルージェニアに訊ねる。
引き渡しが要求されるとしたら、自分かスクルドだとセネリオは考えていた。
しかし、要求されたのはそのどちらでもなく、クノンだったのだ。
「教えてあげてもいいけど…聞かない方がいいんじゃないかな」
そう言った直後、ルージェニアは鋭い目つきでクノンを睨んだ。
その表情には憎しみすら感じられ、クノンも怯んだ様子を見せる。
「なんだか知らないけど、クノンは私達の仲間だもん!連れて行かせたりなんかしない!」
「みゅみゅ!」
シノンとハノンが、クノンを連れていくというルージェニアの話を突っぱねる。
ルージェニアはそれを軽くスルーして他の面々の表情を窺う。
「どうやら、他の奴らもそのシノンってガキとチーグルと同意見みたいだね」
それならそれで構わない。
むしろそうであってくれなくては困る。
今回の目的は実際に彼らと戦ってその戦闘力を見極め、同時にこちらの力を見せつけることだ。
ここであっさりクノン引き渡しに応じられて戦闘を回避されても目的を果たせないというものだ。
「一応、そいつの確保は任務なんでね。そっちが応じないというなら、実力行使でいかせてもらう」
そういって、ルージェニアは槍を構えて戦闘態勢を取った。
それに合わせて、レイノス達もそれぞれの武器を構える。
「さあ、この【操り人形のルージェニア】相手に、どこまで戦ってくれるかな?」
遺跡の内部は日の当たらない地下にあるので、太陽の灼熱にさらされずにすんだ。
しかしかなり広そうなので、長丁場を覚悟することになりそうだ。
「……………」
セネリオは歩きながら、前日までこの周囲を覆っていた竜巻のことを考えていた。
あれは、自然発生したものだとは明らかに考えられない。
クラノス側で何かしらの(恐らくは意識集合体シルフの)妨害を行ったと考えていいだろう。
しかしその竜巻は、今日になって突然消えてしまった。
(妨害する必要がなくなったという事か…?だとしたら、この数日で何かしらの障害が設置された可能性があるか)
罠の可能性を考え、慎重に周囲を見回しながら進むセネリオであった。
そうして奥へと進んでいった一行。
途中大きな岩に道をふさがれている場所はあったものの、
「いっけえハノン!アタック!」
「みゅみゅー!」
ハノンのハノンアタックにより岩を破壊し、ずんずんと奥を目指している。
「テいうかサ、なんか迷うことなくズンズン進んでるけど、そのノームって奴がドコにいるのか分かるノ?」
道中、クノンが訊ねた。
ここまでの道は、主にリンとスクルドの主導により歩いてきている。
彼女たち二人の歩みに、迷いはない。
「気配というか、音素の濃度みたいなのを、感じるんです」
リンがクノンの方を向いて言った。
譜術の扱いに長けている二人は、意識集合体の音素濃度を感じ取っており、その濃度を感じる方向に向かって歩いているのだという。
「フーン、ボクには全然分かんないヤ」
「あ、クノンさん、さっきの戦闘で怪我を…」
クノンが腕を怪我しているのを見つけたスクルド。
治癒術で治療しようとするが、その前にクノンに止められてしまう。
「自分で回復できるからダイジョーブだよ。治癒功!」
そういって、自身の治癒の技で腕の傷を治す。
(クノンさん、私やリンさんの治癒術を拒否してるように思えるのは気のせいなのかな?)
以前からクノンは、スクルドやリン、最近治癒術を覚えたミステリアスが回復しようとすると拒否して、グミや自分の治癒の技で回復をしている。
(ミステリアスさん、どう思います?)
そばにいたミステリアスに小声でクノンの事について聞いてみる。
彼も、この5か月の間に治癒術を習得したみたいなのだが、やはりクノンには治癒を拒否されている。
(…一つ気になっていることがある)
(気になっていること?)
(以前チーグルの森で、FOFの全体回復術を使った時…クノンが顔を歪めていたような気がするんだ)
それは、チーグルの森でグラシャラボラスと戦っていた時の事。
ミステリアスは、FOFの力で『バレットシャワー』という回復術を使ったことがある。
銃から癒しの銃弾を撃ちだし雨のように降らせる技で、発射した銃弾には第七音素の治癒術が込められている。
(第七音素、治癒術…まさかあいつ)
ミステリアスの脳裏に、一つの可能性が浮かんだ。
もしこの仮説が正しいなら、クノンが治癒術を拒む理由に説明もつくが…
(まさかな…)
さらに奥へと進んでいった一行は、パッセージリングのあるエリアの手前まで来ていた。
そして、その先を阻むように、彼は立っていた。
その人物は、見た所まだ子供で、精々シノンより少しだけ歳上といった印象だった。
しかし、その瞳はシノンとは対照的で、冷たさを感じさせるものだった。
槍を持ったその少年は、黒いフードをかぶった人物を一瞥すると、少しだけ表情を緩ませ、口を開いた。
「やあセネリオ、待ってたよ」
「ルージェ…!」
セネリオが、警戒を露わにしながら少年を睨む。
そう、目の前にいるまだ幼いこの少年こそが、第四師団師団長ルージェニア・デスファクトなのであった。
「お前が…!」
反射的に剣を抜こうとしたレイノスを、ミステリアスが制止した。
そして、ルージェニアに向けて言う。
「六神将殿がこんなところに何の用があるかは知らないが、俺達はその先に用がある。通してくれませんかね」
どうやらミステリアスは、話し合いでこの場を切り抜けようと考えているらしい。
そもそも、六神将が今ここで自分達を襲えば、クラノスの立場が悪くなるのは明白だ。
ゆえに、向こうもそうやすやすと戦いに持ち込むことは出来ないだろうと、ミステリアスやセネリオは踏んでいる。
だから、穏便に話を済ませようとしているのだ。
「悪いけど、それは出来ないね。僕は君たちに用があったんだから」
「私達にって…いったいなんでしょうか?」
自分達に用があるというルージェニアに、アルセリアが警戒した様子で用件を聞いた。
「簡単なことだよ。ある人物を引き渡してほしい」
「!ス、スクルドは渡さねえぞ!」
咄嗟にレイノスはかばうようにスクルドの前に出る。
やはりクラノス達はスクルドのユリアの譜歌の力を欲しているのか。
一同はそう考えたが、しかしルージェニアは首を振って言った。
「違う、その女じゃないよ。引き渡してほしいのは…こいつだ」
そう言ってルージェニアが指差したのは…
「エ……?ボク…?」
その人物は、指名されて思わずその赤い目を丸くした。
そう、ルージェが指名してきたのは、スクルドではなくクノンだったのだ。
「何が狙いだ、ルージェ。何故クノンを引き渡す必要がある」
セネリオがルージェニアに訊ねる。
引き渡しが要求されるとしたら、自分かスクルドだとセネリオは考えていた。
しかし、要求されたのはそのどちらでもなく、クノンだったのだ。
「教えてあげてもいいけど…聞かない方がいいんじゃないかな」
そう言った直後、ルージェニアは鋭い目つきでクノンを睨んだ。
その表情には憎しみすら感じられ、クノンも怯んだ様子を見せる。
「なんだか知らないけど、クノンは私達の仲間だもん!連れて行かせたりなんかしない!」
「みゅみゅ!」
シノンとハノンが、クノンを連れていくというルージェニアの話を突っぱねる。
ルージェニアはそれを軽くスルーして他の面々の表情を窺う。
「どうやら、他の奴らもそのシノンってガキとチーグルと同意見みたいだね」
それならそれで構わない。
むしろそうであってくれなくては困る。
今回の目的は実際に彼らと戦ってその戦闘力を見極め、同時にこちらの力を見せつけることだ。
ここであっさりクノン引き渡しに応じられて戦闘を回避されても目的を果たせないというものだ。
「一応、そいつの確保は任務なんでね。そっちが応じないというなら、実力行使でいかせてもらう」
そういって、ルージェニアは槍を構えて戦闘態勢を取った。
それに合わせて、レイノス達もそれぞれの武器を構える。
「さあ、この【操り人形のルージェニア】相手に、どこまで戦ってくれるかな?」
■作者メッセージ
というわけで次回から六神将の一人ルージェニアとの戦いになります