第3章『土煙の小人』 7
「へえ、オーバーリミッツね…それで、なにをするつもりなのかな?」
「あなたを、倒す」
リンが発動させたオーバーリミッツを見ても、余裕の態度を崩さないルージェニア。
対するリンは、一言宣言すると詠唱を始めた。
「…面白い、やってみなよ」
リンの詠唱を、ルージェニアは妨害する様子もなかった。
リンを守るように立ち塞がるシノン、スクルド、ミステリアスに攻撃を仕掛ける様子もなく、何もしてこない。
(この戦闘の目的はこいつらの戦力の把握がメインだ…ガルディオスのお嬢様が本気を見せるっていうなら、見極めてやろうじゃないか…!)
(私はあの時、彼に助けられた)
それは、シュレーの丘での戦いの時。
賊の頭であるゼウスに捕らえられたあの時、彼は助けてくれた。
その身体をボロボロにしても、立ち上がって…私を守ってくれた。
(私は、助けられるだけのお姫様なんて嫌だ)
ゼウスによって仲間が全滅の危機にあった時、自分に出来たことはわが身と引き換えに見逃してもらうことだけだった。
だけど、今の自分はあの時とは違う。
強くなろうと、この5か月精一杯特訓した。
(今度は私が彼を…レイノスを守るんだ!)
「旋律の戒めよ…」
詠唱の一字一字に、力を込める。
「リンディス・ガラン・ガルディオスの名のもとに…」
もっとだ、もっと集中して、想いを込めて…そして詠唱に込めた力のすべてを、一気に…
「具現せよ!」
解放する!
―秘奥義発動―
「ミスティック・ゲージィ!!」
リンの叫びと共に、ルージェニアの周囲に光が集束し、一気に爆発する。
それは、今までの【ミスティック・ゲージ】とは比べ物にならない、凄まじい大爆発であった。
「や、やった…?」
肩で息をしているリンが、爆発のあった方を見ながら呟いた。
「すごいです、リンさん!」
「すごかったね、ハノン!」
「みゅう!」
「まさに、【秘奥義】の名にふさわしい威力だったな」
スクルド、シノン、ハノン、ミステリアスがリンの放った術を称賛する。
「やった…やったんだ。ジェイドさんの譜術を、私は…!」
譜術の成功を確信したリンの表情は、自然とほころんでいた。
「リン!」
レイノス達前衛メンバーが、こちらに向かってくる。
どうやら、グラビティによる身体の鈍重さは、解除されたらしい。
「レイノス…!」
リンは、満面の笑みで彼らのもとへ向かおうとするが、
「!レイノス、避けろ!」
ミステリアスが、レイノスに向けて叫ぶ。
槍が、彼めがけて放たれていた。
その槍を手にしているのは、勿論ルージェニア。
彼は、リンの秘奥義を受けてなお、無事だったのだ。
「させるか!」
クノンが、レイノスを突き飛ばし…
グサリ
「クノン!!」
シノンが悲痛な叫びをあげる。
クノンの小さな体を、槍が貫いたのだ。
「があああぁぁぁ…!」
槍に貫かれたクノンは、苦悶の声を上げる。
しかし、苦しみながらもその目に闘志は消えない。
「でりゃああああああ!」
槍に貫かれたままの状態で、カウンターの拳を決める。
「ぐううっ!」
槍から手が離れ、吹き飛ばされるルージェニア。
クノンは槍に貫かれたまま追撃を駆けようとするが、
「…兎、お前だけは!」
ルージェニアのその言葉を聞いた瞬間、ピタリと動きが止まる。
そうして、ルージェニアは…オーバーリミッツを発動させる。
「ディバインセイバー!」
先ほど以上に素早い詠唱による譜術が、クノンを襲う。
オーバーリミッツを発動させたことにより、詠唱のスピードも術の威力も飛躍的に上がったのだ。
「クノン、大丈夫!?」
「みゅみゅ!」
「が…ぐ……」
シノンとハノンが、クノンのもとへと駆けつける。
しかしクノンはかなりの重傷で、苦しそうな声を上げていた。
彼は元々譜術に対する耐性がほとんどないのだ。
オーバーリミッツを発動したルージェニアの上級譜術は、相当のダメージのはずだ。
「…ガルディオスのお嬢様が本気を見せてくれたことだしね。こっちも、君たちに見せてあげるよ、ボクの本気を」
ルージェニアはそう言って、詠唱を開始する。
その詠唱は、今までよりもずっと長い。
そして、その目は…激しい怒りの表情で、クノンを睨んでいた。
「みんな、俺から離れろ!奴は俺を狙ってる!」
ルージェニアの意図を察したクノンは、全員に指示を飛ばす。
彼は、自分を狙っているのだ。
(クノン、また口調が変わってる…)
シノンは、真剣な表情で指示を飛ばすクノンを見つめる。
いつものふざけたクノンと、最近たまに見せる真面目なクノン…
いったい、どちらが本当の彼なのだろう?
「シノン、ハノン、お前達も逃げろ!」
「そんなことできないよ!クノンを置いていくなんて」
「みゅうみゅう!」
どちらが彼の本当なのか…そんなことは今は分からない。
ただ一つはっきりしているのは、クノンは大切な仲間だという事。
そして彼は、フォルクスに操られたハノンを助けるのに協力してくれた恩人だ。
そんな彼を、見捨てることなんて出来るはずがない。
「私が、あの人を止める!」
走り出すシノン。
その身体はオーバーリミッツの光に包まれている。
行き先は、ルージェニア・デスファクト。
「全てを蹂躙せし暴虐の嵐よ、彼の者を滅せよ!」
「数多の刃よ、切り刻め!」
―秘奥義発動―
「テンペスト!!」
「百花繚乱!!」
二人の秘奥義が、同時に放たれた。
ルージェニアの譜術は、巨大な嵐を生みだし。
シノンによって、無数のナイフが放たれた。
その結果は…
「「があああああああああああああああああああああああああ!」」
悲鳴は二つ。
一つは、テンペストの譜術を食らったクノンのもの。
シノンの攻撃は、わずかにルージェニアの譜術発動を止めるには至らなかった。
そして、もう一つは…
「はあ、はあ…さすがに、ダメージが大きすぎるか」
シノンの百花繚乱により、大量のナイフをその身に受けたルージェニアのものだ。
彼女の攻撃は、彼の詠唱を止めることは出来なかったものの、確かに届いていたのだ。
そして、さすがの六神将も、リンとシノン、二人分の秘奥義を受けて無事とはいかなかった。
「任務の一つ、兎の確保が果たせないのは癪だけど…今回はこれで退いてやるよ」
そういうと、ルージェニアは小瓶を一つ取り出し、地面に投げつけた。
すると、小瓶から煙が出てきたかと思うと、彼の姿はその煙に紛れて消えてしまった。
「おい、クノン!クノン!しっかりしろよおい!!」
レイノスが、クノンの身体を揺する。
しかしクノンは目を閉じたままで、ピクリとも動かない。
「クノン…間に合わなくてごめん」
シノンが泣きそうな顔でクノンに詫びる。
彼を助けようと頑張ったのに、結局間に合わなかった。
そのことが、とても悔しい。
「ともかく、治療しないと!ハートレスサークル!」
「レイズデッド!」
「ヒールオブアース!」
リン、スクルド、ミステリアスがそれぞれクノンに治癒術をかける。
しかし、
「な、なんだこれ!?」
「傷が開いてる!?」
レイノスとアルセリアが驚きの声を上げる。
治癒術をかけられたクノンの身体は、傷が癒えるどころか、むしろ傷を増やしてしまっていた。
「も、もう一回!」
「やめとけ、多分逆効果だ」
スクルドがもう一度治癒を試みようとするが、ミステリアスに止められる。
彼の言うように、おそらく何度治癒術をかけようがクノンの傷は増えるだけだろう。
「…ともかく、一度引き返してケセドニアまで戻るぞ。クノンがこの状態で、先に進むわけにはいかない」
セネリオの言葉に従い、ミステリアスがクノンの身体を背負う。
そうして彼らは、大急ぎでもと来た道を引き返して行った。
「あなたを、倒す」
リンが発動させたオーバーリミッツを見ても、余裕の態度を崩さないルージェニア。
対するリンは、一言宣言すると詠唱を始めた。
「…面白い、やってみなよ」
リンの詠唱を、ルージェニアは妨害する様子もなかった。
リンを守るように立ち塞がるシノン、スクルド、ミステリアスに攻撃を仕掛ける様子もなく、何もしてこない。
(この戦闘の目的はこいつらの戦力の把握がメインだ…ガルディオスのお嬢様が本気を見せるっていうなら、見極めてやろうじゃないか…!)
(私はあの時、彼に助けられた)
それは、シュレーの丘での戦いの時。
賊の頭であるゼウスに捕らえられたあの時、彼は助けてくれた。
その身体をボロボロにしても、立ち上がって…私を守ってくれた。
(私は、助けられるだけのお姫様なんて嫌だ)
ゼウスによって仲間が全滅の危機にあった時、自分に出来たことはわが身と引き換えに見逃してもらうことだけだった。
だけど、今の自分はあの時とは違う。
強くなろうと、この5か月精一杯特訓した。
(今度は私が彼を…レイノスを守るんだ!)
「旋律の戒めよ…」
詠唱の一字一字に、力を込める。
「リンディス・ガラン・ガルディオスの名のもとに…」
もっとだ、もっと集中して、想いを込めて…そして詠唱に込めた力のすべてを、一気に…
「具現せよ!」
解放する!
―秘奥義発動―
「ミスティック・ゲージィ!!」
リンの叫びと共に、ルージェニアの周囲に光が集束し、一気に爆発する。
それは、今までの【ミスティック・ゲージ】とは比べ物にならない、凄まじい大爆発であった。
「や、やった…?」
肩で息をしているリンが、爆発のあった方を見ながら呟いた。
「すごいです、リンさん!」
「すごかったね、ハノン!」
「みゅう!」
「まさに、【秘奥義】の名にふさわしい威力だったな」
スクルド、シノン、ハノン、ミステリアスがリンの放った術を称賛する。
「やった…やったんだ。ジェイドさんの譜術を、私は…!」
譜術の成功を確信したリンの表情は、自然とほころんでいた。
「リン!」
レイノス達前衛メンバーが、こちらに向かってくる。
どうやら、グラビティによる身体の鈍重さは、解除されたらしい。
「レイノス…!」
リンは、満面の笑みで彼らのもとへ向かおうとするが、
「!レイノス、避けろ!」
ミステリアスが、レイノスに向けて叫ぶ。
槍が、彼めがけて放たれていた。
その槍を手にしているのは、勿論ルージェニア。
彼は、リンの秘奥義を受けてなお、無事だったのだ。
「させるか!」
クノンが、レイノスを突き飛ばし…
グサリ
「クノン!!」
シノンが悲痛な叫びをあげる。
クノンの小さな体を、槍が貫いたのだ。
「があああぁぁぁ…!」
槍に貫かれたクノンは、苦悶の声を上げる。
しかし、苦しみながらもその目に闘志は消えない。
「でりゃああああああ!」
槍に貫かれたままの状態で、カウンターの拳を決める。
「ぐううっ!」
槍から手が離れ、吹き飛ばされるルージェニア。
クノンは槍に貫かれたまま追撃を駆けようとするが、
「…兎、お前だけは!」
ルージェニアのその言葉を聞いた瞬間、ピタリと動きが止まる。
そうして、ルージェニアは…オーバーリミッツを発動させる。
「ディバインセイバー!」
先ほど以上に素早い詠唱による譜術が、クノンを襲う。
オーバーリミッツを発動させたことにより、詠唱のスピードも術の威力も飛躍的に上がったのだ。
「クノン、大丈夫!?」
「みゅみゅ!」
「が…ぐ……」
シノンとハノンが、クノンのもとへと駆けつける。
しかしクノンはかなりの重傷で、苦しそうな声を上げていた。
彼は元々譜術に対する耐性がほとんどないのだ。
オーバーリミッツを発動したルージェニアの上級譜術は、相当のダメージのはずだ。
「…ガルディオスのお嬢様が本気を見せてくれたことだしね。こっちも、君たちに見せてあげるよ、ボクの本気を」
ルージェニアはそう言って、詠唱を開始する。
その詠唱は、今までよりもずっと長い。
そして、その目は…激しい怒りの表情で、クノンを睨んでいた。
「みんな、俺から離れろ!奴は俺を狙ってる!」
ルージェニアの意図を察したクノンは、全員に指示を飛ばす。
彼は、自分を狙っているのだ。
(クノン、また口調が変わってる…)
シノンは、真剣な表情で指示を飛ばすクノンを見つめる。
いつものふざけたクノンと、最近たまに見せる真面目なクノン…
いったい、どちらが本当の彼なのだろう?
「シノン、ハノン、お前達も逃げろ!」
「そんなことできないよ!クノンを置いていくなんて」
「みゅうみゅう!」
どちらが彼の本当なのか…そんなことは今は分からない。
ただ一つはっきりしているのは、クノンは大切な仲間だという事。
そして彼は、フォルクスに操られたハノンを助けるのに協力してくれた恩人だ。
そんな彼を、見捨てることなんて出来るはずがない。
「私が、あの人を止める!」
走り出すシノン。
その身体はオーバーリミッツの光に包まれている。
行き先は、ルージェニア・デスファクト。
「全てを蹂躙せし暴虐の嵐よ、彼の者を滅せよ!」
「数多の刃よ、切り刻め!」
―秘奥義発動―
「テンペスト!!」
「百花繚乱!!」
二人の秘奥義が、同時に放たれた。
ルージェニアの譜術は、巨大な嵐を生みだし。
シノンによって、無数のナイフが放たれた。
その結果は…
「「があああああああああああああああああああああああああ!」」
悲鳴は二つ。
一つは、テンペストの譜術を食らったクノンのもの。
シノンの攻撃は、わずかにルージェニアの譜術発動を止めるには至らなかった。
そして、もう一つは…
「はあ、はあ…さすがに、ダメージが大きすぎるか」
シノンの百花繚乱により、大量のナイフをその身に受けたルージェニアのものだ。
彼女の攻撃は、彼の詠唱を止めることは出来なかったものの、確かに届いていたのだ。
そして、さすがの六神将も、リンとシノン、二人分の秘奥義を受けて無事とはいかなかった。
「任務の一つ、兎の確保が果たせないのは癪だけど…今回はこれで退いてやるよ」
そういうと、ルージェニアは小瓶を一つ取り出し、地面に投げつけた。
すると、小瓶から煙が出てきたかと思うと、彼の姿はその煙に紛れて消えてしまった。
「おい、クノン!クノン!しっかりしろよおい!!」
レイノスが、クノンの身体を揺する。
しかしクノンは目を閉じたままで、ピクリとも動かない。
「クノン…間に合わなくてごめん」
シノンが泣きそうな顔でクノンに詫びる。
彼を助けようと頑張ったのに、結局間に合わなかった。
そのことが、とても悔しい。
「ともかく、治療しないと!ハートレスサークル!」
「レイズデッド!」
「ヒールオブアース!」
リン、スクルド、ミステリアスがそれぞれクノンに治癒術をかける。
しかし、
「な、なんだこれ!?」
「傷が開いてる!?」
レイノスとアルセリアが驚きの声を上げる。
治癒術をかけられたクノンの身体は、傷が癒えるどころか、むしろ傷を増やしてしまっていた。
「も、もう一回!」
「やめとけ、多分逆効果だ」
スクルドがもう一度治癒を試みようとするが、ミステリアスに止められる。
彼の言うように、おそらく何度治癒術をかけようがクノンの傷は増えるだけだろう。
「…ともかく、一度引き返してケセドニアまで戻るぞ。クノンがこの状態で、先に進むわけにはいかない」
セネリオの言葉に従い、ミステリアスがクノンの身体を背負う。
そうして彼らは、大急ぎでもと来た道を引き返して行った。
■作者メッセージ
ルージェニア戦、終了
クノンが重傷を負い、いったん引き返すこととなりました
クノンが重傷を負い、いったん引き返すこととなりました