第3章『土煙の小人』 8
激戦の末、六神将の一人ルージェニアを退けた一行。
しかしその戦いで、仲間の一人クノンが重傷を負ってしまった。
さらに、何故か治癒術をかけてもクノンの傷は癒えることなく、むしろ悪化してしまったのだ。
一行はすぐさま街に戻るため、ザオ遺跡から出た。
しかしそこで、とある問題が浮上した。
「アルビオール…どうしましょう」
ここまで来るのに使用した飛行音機関、アルビオール。
その操縦士であるクノンがダウンしている今、これを操縦できるものがいない。
「ここに置いてくしかないのか…」
クノンがいなければ、アルビオールは動かせない。
置いていくというレイノスの判断はもっともではあるのだが、
「でも!ここからじゃ街まで遠いよ!クノン、こんなにボロボロなのに…」
シノンが反論する。
確かにここから歩いていくとなるとそれなりの距離があり、途中のオアシスでさえ結構時間がかかる。
決して歩いていけない距離ではないとはいえ、クノンの容体を考えれば少しでも早く街に着きたいところだ。
「…俺が操縦する」
そう進言したのは、セネリオだった。
「セネリオさん!操縦できるんですか!?」
「クノンのように上手くはいかないだろうがな…なんとかケセドニアまで動かすくらいならやってみせよう」
スクルドが驚きの声で、運転できるのかとセネリオに訊ねる。
セネリオは、クノンのように上手くは出来ないものの、なんとか動かして見せると答えた。
「アルビオールの中なら外気の暑さも凌げるし、クノンを休ませるにも都合がいいだろうしな。ここはセネリオに頼ろうぜ」
ミステリアスも、アルビオールでの移動の方が利点が大きいとして、セネリオの申し出に賛成する。
「分かった、頼んだぜセネリオ」
レイノスの言葉に、セネリオは無言で頷いた。
そうして、セネリオの操縦によりアルビオールは動き出すこととなった。
低空飛行で速度もクノンの操縦に比べて遅いものの、なんとか暗くなる前にケセドニアに辿り着くことができた。
「私がお医者様を呼んできますから、皆さんは宿屋へ!」
ケセドニアに着くと、アルセリアが医者を探すため一端別れ、他の面々は宿へ向かいベッドにクノンを休ませた。
「クノン…」
シノンは、クノンの手をギュッと握りしめた。
彼がこんな風にボロボロになったことに、責任を感じているのだ。
「大丈夫よ、シノン…」
「うん…」
辛そうな表情でクノンを見つめるシノンを、リンが励ます。
もっと気の利いた事を言えればよかったのだが、なんて声をかけていいか思いつかず、結局こんな気休めにもならないようなことしか言えなかった。
(それにしても、なんで治癒術が…ううん、それ以上に)
(クノンさん…なんで私達に話してくれなかったの?)
おそらくクノンは、治癒術が効かない自分の身体のことを知っていた。
それなのに、それを黙っていたのだ。
そのことが、リンにはとてももどかしく、悲しかった。
やがて、アルセリアが医者を連れて戻ってきた。
医者は、すぐさまクノンの身体を診察する。
「むう、これは酷い怪我を…」
「あの、クノンは大丈夫なんですか!?」
シノンが医者に詰め寄って聞く。
医者は、ふっと笑みを浮かべていった。
「大丈夫だよお嬢ちゃん。確かに酷い怪我だが、見た所命に別条はない。きちんと休んで治療すれば、動けるようになる」
その話を聞いて、シノンや他のメンバーの顔が明るくなった。
セネリオは表情を変えず、ミステリアスはそもそも表情が見えないが。
その後、クノンは医者に預け、すっかり暗くなってしまった為一行は改めて宿を取ることとなった。
そして、クノンほどではないにしろルージェニアとの戦いでダメージを受け、疲れていた彼らは、ぐっすりと眠りについた。
―翌日―
「う、うん…?」
朝日の光を受けて、クノンは目を覚ました。
「クノン!」
「みゅう!」
目を覚ました彼の目に飛び込んできたのは、涙目の少女とチーグル。
シノンとハノンだ。
「おチビちゃん、ハノン…」
「うわあああん!良かったよおおお!」
「い、いたたたたたた!」
感極まって、シノンがクノンに飛びつく。
するとクノンは、昨日の戦闘の傷がうずいたのか、痛みを訴えた。
「こらこらお嬢ちゃん、まだ怪我は治っていないんだからおとなしくね」
「は、は〜い」
痛みを訴えたクノンを見て、シノンは慌てて離れる
そしてそばにいた医者に注意され、素直に返事をするのであった。
「クノン、昨日はほんとに、ゴメンね」
「なんでおチビちゃんが謝るのさ」
「だって…」
シノンは昨日クノンが気絶した後の事を話す。
秘奥義でルージェニアを止めようとしたものの間に合わず、クノンがやられてしまったこと。
セネリオのアルビオールの操縦で急いでケセドニアに戻ったこと。
医者に診てもらい、そのまま医者の家に運ばれて今まで眠っていたことを。
「ニャハハハハ、それでボクが倒れたのが自分のせいだっていうノ?」
「うん…」
「ンなことナイナイ、ボクがやられたのはあのルージェニアとかいうヤツのせいだよ」
「でも…」
シノンのせいではないというクノンに対し、それでも納得いかない様子で口を開きかけたシノン。
そんな彼女の唇にクノンは自分の人差し指を当てた。
「ハイ、それ以上はネガティブ禁止♪それ以上言ったら絶交だからネ」
「ぜ、絶交!?そんなのヤダよ!」
「じゃあ、もう自分のことを責めるのはやめるコト。OK?」
「うん!うん!分かった!」
うんうんと、何度も首を縦に振るシノン。
そんな彼女の様子を、クノンとハノンはおかしそうに眺めるのであった。
「あ、そうだ!みんなも呼んでくるね!」
そういってシノンは一度外へ出た。
医者も一度席を外し、寝室にはクノンとハノンが残された。
「全く、お前のパートナーは騒々しいネ」
「みゅう!」
「まあ、らしいけどネ」
「みゅうみゅう!」
クノンとハノンは、楽しそうに話している。
しかし、しばらくしてクノンの様子が変わった。
なにか、覚悟を決めたような真顔であった。
「…ところでさ、ハノン」
「みゅう?」
「お前に、聞いてほしいことがある。多分、俺はもうすぐ死ぬ人間だろうからさ」
「みゅみゅ!?」
ルージェニアが残した『兎』という言葉。
あれで、クノンは奴が自分の引き渡しを要求してきた理由に察しがついていた。
今まで逃げてきたが、それも潮時という事なのだろう。
だったら、人間の言葉を喋らない、そしてかつて生活を共にしていたチーグル、『スター』を思い起こさせるこのチーグルに、今のうちに話しておこう。
自らの、消せない仮面の素顔を…
「ボクは…いや、俺は……」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「連れてきたよ〜」
シノンが連れてきたのは、セネリオとリンだった。
全員で押しかけるのは迷惑だという事で、二人が代表としてやってきたそうだ。
セネリオ曰く、昨日の戦闘の疲れを取るため今日一日は休養日とし、明日またザオ遺跡に向かうそうだ。
「ザオ遺跡まではお前抜きで徒歩で向かう、その間にしっかり怪我を治しておけ」
「へ〜い」
セネリオの忠告を、クノンは気のない返事で返す。
置いて行かれることが不服そうな顔だ。
「…クノンさん、昨日あなたに治癒術をかけたら、傷が悪化しました。どういうことですか?」
「さあネえ、自分の身体のことだけど、ボク自身もよく分かんないんだヨね」
見まいに訪れたというのに、リンの表情は厳しい。
クノンはそんなリンの表情を気にしている様子は見えない。
「治癒術で傷が悪化するその身体のこと…クノンさんは自分で知ってたんですよね?だから私達の治癒を、今まで拒否してきたんでしょ!?」
「まあねえ」
「どうして…どうして話してくれなかったんです!?」
「いやあ、あんまこの身体のこと知られたくなかったんだよね」
「だからって…!」
なおも追求しようとするリン。
しかし、クノンの言葉に遮られた。
「お嬢様、弱点を知られるっていうのはネ、隙を見せるってことなんだヨ。そして隙を見せるって事は死ぬコト。だから話さなかったんだヨ。漆黒ならそういうの、分かるでしょ?」
クノンはリンに、治癒術で傷が悪化する身体のことを離さなかった理由を説明する。
そしてその説明に関し、セネリオに同意を求めた。
「分かる…と言いたい所だが、それも時と場合によりけりだ。治癒術でダメージを受けるなどという重要な話を味方に伝えないのは、連携に支障をきたし、害にしかならん」
「アッハハー。それもそっかー」
セネリオの言葉を聞いても、やはりクノンはあっけらかんとしていた。
「…私、悲しかったんですよ。クノンさんが、私達の事信頼してないんじゃないかって」
「そんなことないッテ」
「本当ですか?」
「ウン、神様に誓って」
「…分かりました、じゃあもうこのことについては何も言いませんから」
クノンの言葉を聞いて、どうにかリンも納得したようだった。
その後、三人と一匹はしばらくの会話の後医者の家を後にし、宿へと戻った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
―その日の夜―
明日の出発に向けて準備をしていた一行の所へ、クノンを預かっている医者が現れた。
リビングに集まったメンバーは、医者の話を聞く。
「今うちで預かっているクノンさん…27歳だと聞いたのですが、確かなのでしょうか?」
「え?」
医者の言葉に、レイノスはキョトンとした表情となった。
クノンの年齢については彼の自己申告ではあるが、15年もギンジ&ノエルの所に住んでいるというし、10年ほど前にリンの父親ガイが出会った時も今と同じ姿だったというし、別にウソではないだろう。
「10年以上も身体が…やはりそうなのか」
「あの、クノンさんの身体になにかあったのですか?」
リンからガイとの出会いの話を聞いた医者は、納得がいったような様子を見せる。
そんな医者に、アルセリアが不安そうな様子でクノンの身体のことについて訊ねる。
「…クノンさんの身体なのですが、彼の身体は12歳のままなのです」
「?…つまり童顔ってことだろ?」
医者の言葉の意味を理解できず、レイノスは童顔だからじゃないのかと不思議そうな様子を見せる。
「そういう意味ではありません。クノンさんの身体は、12歳のまま…彼の話す実年齢に当てはめれば15年間もの間、身体が成長せず、歳をとっていないのですよ」
「な、なんだって!?」
医者の詳しい説明を聞いて、ようやく意味を理解したレイノスは驚きの声を上げた。
他のみんなも程度の差こそあれ今の話に驚きを感じているようだった。
今までクノンの外見が幼いのは、単に彼が童顔だからだと思っていた。
しかしそうではなかったのだ。
彼の身体は、子供の頃に成長を、歳をとるのをやめたというのだ。
「…原因は分かっているのか?」
「はっきりとは…ですがおそらく、何らかのトラウマが彼の成長を妨げているのではと思われます」
「トラウマ…」
クノンのトラウマ。
あの底抜けに明るいクノンに、どんなトラウマがあるというのだろう。
そのトラウマの正体を、彼らは分からなかった。
「みゅうう…」
一匹の、チーグルを除いては。
スキット「クノンのトラウマ」
アルセリア「クノンさんの身体が、15年も成長していないなんて…」
レイノス「童顔だと思ってたけど、まさかガキの頃から身体が歳とってないなんてな」
リン「それほどのトラウマ…あのクノンさんに一体何が」
シノン(…クノン、たまに口調が真面目でシリアスになることがあった。あのクノンと、なにか関係あるのかな)
ハノン「みゅみゅみゅ…(クノン…)」
ミステリアス(クノンを捕らえようとしたルージェニア、奴の言っていた『兎』という言葉、そして15年前に止まった身体の成長…)
ミステリアス(…偶然にしては出来過ぎている。クノン、お前はまさか…!)
しかしその戦いで、仲間の一人クノンが重傷を負ってしまった。
さらに、何故か治癒術をかけてもクノンの傷は癒えることなく、むしろ悪化してしまったのだ。
一行はすぐさま街に戻るため、ザオ遺跡から出た。
しかしそこで、とある問題が浮上した。
「アルビオール…どうしましょう」
ここまで来るのに使用した飛行音機関、アルビオール。
その操縦士であるクノンがダウンしている今、これを操縦できるものがいない。
「ここに置いてくしかないのか…」
クノンがいなければ、アルビオールは動かせない。
置いていくというレイノスの判断はもっともではあるのだが、
「でも!ここからじゃ街まで遠いよ!クノン、こんなにボロボロなのに…」
シノンが反論する。
確かにここから歩いていくとなるとそれなりの距離があり、途中のオアシスでさえ結構時間がかかる。
決して歩いていけない距離ではないとはいえ、クノンの容体を考えれば少しでも早く街に着きたいところだ。
「…俺が操縦する」
そう進言したのは、セネリオだった。
「セネリオさん!操縦できるんですか!?」
「クノンのように上手くはいかないだろうがな…なんとかケセドニアまで動かすくらいならやってみせよう」
スクルドが驚きの声で、運転できるのかとセネリオに訊ねる。
セネリオは、クノンのように上手くは出来ないものの、なんとか動かして見せると答えた。
「アルビオールの中なら外気の暑さも凌げるし、クノンを休ませるにも都合がいいだろうしな。ここはセネリオに頼ろうぜ」
ミステリアスも、アルビオールでの移動の方が利点が大きいとして、セネリオの申し出に賛成する。
「分かった、頼んだぜセネリオ」
レイノスの言葉に、セネリオは無言で頷いた。
そうして、セネリオの操縦によりアルビオールは動き出すこととなった。
低空飛行で速度もクノンの操縦に比べて遅いものの、なんとか暗くなる前にケセドニアに辿り着くことができた。
「私がお医者様を呼んできますから、皆さんは宿屋へ!」
ケセドニアに着くと、アルセリアが医者を探すため一端別れ、他の面々は宿へ向かいベッドにクノンを休ませた。
「クノン…」
シノンは、クノンの手をギュッと握りしめた。
彼がこんな風にボロボロになったことに、責任を感じているのだ。
「大丈夫よ、シノン…」
「うん…」
辛そうな表情でクノンを見つめるシノンを、リンが励ます。
もっと気の利いた事を言えればよかったのだが、なんて声をかけていいか思いつかず、結局こんな気休めにもならないようなことしか言えなかった。
(それにしても、なんで治癒術が…ううん、それ以上に)
(クノンさん…なんで私達に話してくれなかったの?)
おそらくクノンは、治癒術が効かない自分の身体のことを知っていた。
それなのに、それを黙っていたのだ。
そのことが、リンにはとてももどかしく、悲しかった。
やがて、アルセリアが医者を連れて戻ってきた。
医者は、すぐさまクノンの身体を診察する。
「むう、これは酷い怪我を…」
「あの、クノンは大丈夫なんですか!?」
シノンが医者に詰め寄って聞く。
医者は、ふっと笑みを浮かべていった。
「大丈夫だよお嬢ちゃん。確かに酷い怪我だが、見た所命に別条はない。きちんと休んで治療すれば、動けるようになる」
その話を聞いて、シノンや他のメンバーの顔が明るくなった。
セネリオは表情を変えず、ミステリアスはそもそも表情が見えないが。
その後、クノンは医者に預け、すっかり暗くなってしまった為一行は改めて宿を取ることとなった。
そして、クノンほどではないにしろルージェニアとの戦いでダメージを受け、疲れていた彼らは、ぐっすりと眠りについた。
―翌日―
「う、うん…?」
朝日の光を受けて、クノンは目を覚ました。
「クノン!」
「みゅう!」
目を覚ました彼の目に飛び込んできたのは、涙目の少女とチーグル。
シノンとハノンだ。
「おチビちゃん、ハノン…」
「うわあああん!良かったよおおお!」
「い、いたたたたたた!」
感極まって、シノンがクノンに飛びつく。
するとクノンは、昨日の戦闘の傷がうずいたのか、痛みを訴えた。
「こらこらお嬢ちゃん、まだ怪我は治っていないんだからおとなしくね」
「は、は〜い」
痛みを訴えたクノンを見て、シノンは慌てて離れる
そしてそばにいた医者に注意され、素直に返事をするのであった。
「クノン、昨日はほんとに、ゴメンね」
「なんでおチビちゃんが謝るのさ」
「だって…」
シノンは昨日クノンが気絶した後の事を話す。
秘奥義でルージェニアを止めようとしたものの間に合わず、クノンがやられてしまったこと。
セネリオのアルビオールの操縦で急いでケセドニアに戻ったこと。
医者に診てもらい、そのまま医者の家に運ばれて今まで眠っていたことを。
「ニャハハハハ、それでボクが倒れたのが自分のせいだっていうノ?」
「うん…」
「ンなことナイナイ、ボクがやられたのはあのルージェニアとかいうヤツのせいだよ」
「でも…」
シノンのせいではないというクノンに対し、それでも納得いかない様子で口を開きかけたシノン。
そんな彼女の唇にクノンは自分の人差し指を当てた。
「ハイ、それ以上はネガティブ禁止♪それ以上言ったら絶交だからネ」
「ぜ、絶交!?そんなのヤダよ!」
「じゃあ、もう自分のことを責めるのはやめるコト。OK?」
「うん!うん!分かった!」
うんうんと、何度も首を縦に振るシノン。
そんな彼女の様子を、クノンとハノンはおかしそうに眺めるのであった。
「あ、そうだ!みんなも呼んでくるね!」
そういってシノンは一度外へ出た。
医者も一度席を外し、寝室にはクノンとハノンが残された。
「全く、お前のパートナーは騒々しいネ」
「みゅう!」
「まあ、らしいけどネ」
「みゅうみゅう!」
クノンとハノンは、楽しそうに話している。
しかし、しばらくしてクノンの様子が変わった。
なにか、覚悟を決めたような真顔であった。
「…ところでさ、ハノン」
「みゅう?」
「お前に、聞いてほしいことがある。多分、俺はもうすぐ死ぬ人間だろうからさ」
「みゅみゅ!?」
ルージェニアが残した『兎』という言葉。
あれで、クノンは奴が自分の引き渡しを要求してきた理由に察しがついていた。
今まで逃げてきたが、それも潮時という事なのだろう。
だったら、人間の言葉を喋らない、そしてかつて生活を共にしていたチーグル、『スター』を思い起こさせるこのチーグルに、今のうちに話しておこう。
自らの、消せない仮面の素顔を…
「ボクは…いや、俺は……」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「連れてきたよ〜」
シノンが連れてきたのは、セネリオとリンだった。
全員で押しかけるのは迷惑だという事で、二人が代表としてやってきたそうだ。
セネリオ曰く、昨日の戦闘の疲れを取るため今日一日は休養日とし、明日またザオ遺跡に向かうそうだ。
「ザオ遺跡まではお前抜きで徒歩で向かう、その間にしっかり怪我を治しておけ」
「へ〜い」
セネリオの忠告を、クノンは気のない返事で返す。
置いて行かれることが不服そうな顔だ。
「…クノンさん、昨日あなたに治癒術をかけたら、傷が悪化しました。どういうことですか?」
「さあネえ、自分の身体のことだけど、ボク自身もよく分かんないんだヨね」
見まいに訪れたというのに、リンの表情は厳しい。
クノンはそんなリンの表情を気にしている様子は見えない。
「治癒術で傷が悪化するその身体のこと…クノンさんは自分で知ってたんですよね?だから私達の治癒を、今まで拒否してきたんでしょ!?」
「まあねえ」
「どうして…どうして話してくれなかったんです!?」
「いやあ、あんまこの身体のこと知られたくなかったんだよね」
「だからって…!」
なおも追求しようとするリン。
しかし、クノンの言葉に遮られた。
「お嬢様、弱点を知られるっていうのはネ、隙を見せるってことなんだヨ。そして隙を見せるって事は死ぬコト。だから話さなかったんだヨ。漆黒ならそういうの、分かるでしょ?」
クノンはリンに、治癒術で傷が悪化する身体のことを離さなかった理由を説明する。
そしてその説明に関し、セネリオに同意を求めた。
「分かる…と言いたい所だが、それも時と場合によりけりだ。治癒術でダメージを受けるなどという重要な話を味方に伝えないのは、連携に支障をきたし、害にしかならん」
「アッハハー。それもそっかー」
セネリオの言葉を聞いても、やはりクノンはあっけらかんとしていた。
「…私、悲しかったんですよ。クノンさんが、私達の事信頼してないんじゃないかって」
「そんなことないッテ」
「本当ですか?」
「ウン、神様に誓って」
「…分かりました、じゃあもうこのことについては何も言いませんから」
クノンの言葉を聞いて、どうにかリンも納得したようだった。
その後、三人と一匹はしばらくの会話の後医者の家を後にし、宿へと戻った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
―その日の夜―
明日の出発に向けて準備をしていた一行の所へ、クノンを預かっている医者が現れた。
リビングに集まったメンバーは、医者の話を聞く。
「今うちで預かっているクノンさん…27歳だと聞いたのですが、確かなのでしょうか?」
「え?」
医者の言葉に、レイノスはキョトンとした表情となった。
クノンの年齢については彼の自己申告ではあるが、15年もギンジ&ノエルの所に住んでいるというし、10年ほど前にリンの父親ガイが出会った時も今と同じ姿だったというし、別にウソではないだろう。
「10年以上も身体が…やはりそうなのか」
「あの、クノンさんの身体になにかあったのですか?」
リンからガイとの出会いの話を聞いた医者は、納得がいったような様子を見せる。
そんな医者に、アルセリアが不安そうな様子でクノンの身体のことについて訊ねる。
「…クノンさんの身体なのですが、彼の身体は12歳のままなのです」
「?…つまり童顔ってことだろ?」
医者の言葉の意味を理解できず、レイノスは童顔だからじゃないのかと不思議そうな様子を見せる。
「そういう意味ではありません。クノンさんの身体は、12歳のまま…彼の話す実年齢に当てはめれば15年間もの間、身体が成長せず、歳をとっていないのですよ」
「な、なんだって!?」
医者の詳しい説明を聞いて、ようやく意味を理解したレイノスは驚きの声を上げた。
他のみんなも程度の差こそあれ今の話に驚きを感じているようだった。
今までクノンの外見が幼いのは、単に彼が童顔だからだと思っていた。
しかしそうではなかったのだ。
彼の身体は、子供の頃に成長を、歳をとるのをやめたというのだ。
「…原因は分かっているのか?」
「はっきりとは…ですがおそらく、何らかのトラウマが彼の成長を妨げているのではと思われます」
「トラウマ…」
クノンのトラウマ。
あの底抜けに明るいクノンに、どんなトラウマがあるというのだろう。
そのトラウマの正体を、彼らは分からなかった。
「みゅうう…」
一匹の、チーグルを除いては。
スキット「クノンのトラウマ」
アルセリア「クノンさんの身体が、15年も成長していないなんて…」
レイノス「童顔だと思ってたけど、まさかガキの頃から身体が歳とってないなんてな」
リン「それほどのトラウマ…あのクノンさんに一体何が」
シノン(…クノン、たまに口調が真面目でシリアスになることがあった。あのクノンと、なにか関係あるのかな)
ハノン「みゅみゅみゅ…(クノン…)」
ミステリアス(クノンを捕らえようとしたルージェニア、奴の言っていた『兎』という言葉、そして15年前に止まった身体の成長…)
ミステリアス(…偶然にしては出来過ぎている。クノン、お前はまさか…!)
■作者メッセージ
追記
土煙の小人2で既にクノンがハノンに過去打ち明けやってたことに気付いた…
やむなく2の方でそのくだりを削除した…
あかん…グダグダすぎる
土煙の小人2で既にクノンがハノンに過去打ち明けやってたことに気付いた…
やむなく2の方でそのくだりを削除した…
あかん…グダグダすぎる