第4章『魔獣使いとパートナー その絆』 11
襲ってくる魔物の大群をどうにか退けた一行。
捜索対象であるシノンとクノンも見つかり、ひとまずは一安心といったところだ。
「たく、心配したぜ、シノン」
「レイ兄…」
戦いが終わり、レイノスがシノンに声をかける。
対するシノンは、少し申し訳なさそうに俯いた。
「その、みんな、ごめんね。勝手な行動しちゃって…」
「まったくだ、二人でこんな危険な場所まで出向くなど、死ににいくようなものだ。勝手な行動をするな」
「うう、セネセネ…ごめんなさい」
セネリオに責められ、しゅんとして縮こまるシノン。
セネリオは、顔を横にそらしながら続けて言った。
「…だがまあ、無事でなによりだ」
「ニャッハハー♪素直じゃないニャア♪心配してるなら最初からそう言えばイイノニ」
「…黙れ」
「セネセネ、心配してくれてありがと」
それから一行は、森の入り口まで戻った。
目当てのルグニカ紅テングダケも手に入っていることだしすぐにでもケセドニアに戻りたいところだが、時刻は深夜であったし、全員ヘトヘトであったので今日はそのまま野宿することとなった。
「それじゃあ一晩、お世話になるわね」
シンシアが礼儀正しくお辞儀をする。
今日は同行してきた彼女とも一緒なのだ。
こうして、敵である六神将との奇妙な一夜が始まった。
「ちょっといいかしら」
声をかけられて、シノンは振り向く。
声の主は、シンシアであった。
「どうしたの?」
「あなた、魔獣使いなのよね?同業者として、ちょっと気になっちゃって」
なるほど確かにシンシアはフィーニアというドラゴンを扱う、魔獣使いだ。
自分の先輩ということになるのだろうか。
「今回あなたはルグニカ紅テングダケを手に入れるために危険をおかしてまでここへやってきた…その理由を、教えてもらえないかしら?」
「それ、は…」
「まあ、言いたくないなら無理に聞く気はないけれど」
「うーん…」
しばらく逡巡していたシノンだったが、
「まあ、いっか。分かった、話すよ」
そうしてシノンは、クノンに話したことを伝えた。
ハノンが身体の不調にもかかわらず無理をしたこと。
パートナーとして力を認めてもらうため、ここへやってきたことを。
「なるほどね…あなた達、似たもの同士なのね」
「そう…かな?」
「お互いがお互いを想いあっていて、それゆえに強くなろうとしている…互いを高めあう、いいコンビだと思うわ」
「えへへ…」
褒められて、嬉しそうに照れるシノン。
一応は敵とはいえ、先輩の魔獣使いから褒められるのは嬉しかった。
「グオオ…」
その時、彼女のそばにいたフィーニアが鳴いた。
シンシアはドラゴンの頭を撫でながら言った。
「…そう、分かったわ。今日は疲れただろうし、おやすみなさい」
「グオオン…」
シンシアの言葉に応じて、フィーニアは眠りについた。
「今のって…シンシアはあのドラゴンの言ってることが分かるの!?」
シンシアとフィーニアのやりとりを見ていたシノンは、尋ねる。
以前セネリオが言っていたように、彼女は本当にパートナーの魔物と話すことができるのだろうか。
「ええ、今のフィーニアは『先に寝るぞ』って言ったの」
「いいなあ…魔物としゃべれるなんて」
羨ましそうにシンシアを見つめるシノン。
しかし、シンシアの表情は暗い。
「別にいいものじゃないわよ…この能力のせいで窮屈な思いをすることにもなったし…」
「でもでも!私もハノンともっとおしゃべりできるようになりたいよ!」
「あなた達は言葉なんて通じなくても充分通じ合ってると思うけど…」
「でも……」
今度は、シノンの表情が暗くなる。
ハノンは、自分に負い目を感じ、それゆえに無茶をした。
自分はハノンのそんな悩みにちっとも気づいてあげられなかった。
そのことが、とても悔しかった。
「私は…私は……ハノンのパートナー失格だよ!」
そういって、泣き出してしまった。
そんなシノンを眺めながら、シンシアは彼女の頭を優しくなでてやるのであった。
「部外者の私が下手に口出しするべきじゃないかもしれないけど…あなた達は、もう少し相手に対して頼ることを覚えた方がいいと思うわ」
「え…?」
「さっきも言ったように、あなた達はお互いのことを想いあってて、それゆえに強くなろうとしている。だけど…きっと相手のことを大切に想いすぎてて、いざという時、お互いに自分一人でなんとかしようとしてしまっているのね。だから、相手に頼るという気持ちが欠けている」
シンシアの言葉に、シノンはハッとする
数日前アルセリアに言われた言葉を思い出したのだ。
『私たちをもう少し頼ってください。私たちは、お互いに助け合う仲間なんですから』
あの時自分は、一人でハノンの看病をしようとしていた。
そしてハノンも、一人で悩みを抱えて一人で強くなろうとしていた。
私とハノンは二人で一つのパートナー。
どちらが欠けても成り立たない。
それなのにどちらも一人でなんとかしようとして空回りしていた。
「そっか…そうだったんだ」
私達魔獣使いは互いを支え合う存在。
しかしそれは、単に相手を助けることを意味するのではない。
時には相手の力を借り、頼る…そうすることで初めて、バランスが取れるんだ。
「ありがとうシンシア!私…分かった気がする!」
「そう…それは何よりだわ」
「私、明日に備えてもう寝るね!」
「あ…ちょっと待って」
スッキリした気分で就寝の準備を行おうとしていたシノンを、シンシアは呼び止める。
「あなたの両親について、教えてほしいの」
「へ?パパとママ?」
「ええ…名前は、なんて言うの?」
「えっと…パパはモル・キャンドって言って、ママは…」
「セリス・エルメス」
「っ!そ、そうなんだ…」
母親の名前を聞いてシンシアは一瞬驚いた顔をした。
シンシアの反応を少し不思議に思いつつも、その後しばらくシノンの両親語りは続き、夜は更けていった。
捜索対象であるシノンとクノンも見つかり、ひとまずは一安心といったところだ。
「たく、心配したぜ、シノン」
「レイ兄…」
戦いが終わり、レイノスがシノンに声をかける。
対するシノンは、少し申し訳なさそうに俯いた。
「その、みんな、ごめんね。勝手な行動しちゃって…」
「まったくだ、二人でこんな危険な場所まで出向くなど、死ににいくようなものだ。勝手な行動をするな」
「うう、セネセネ…ごめんなさい」
セネリオに責められ、しゅんとして縮こまるシノン。
セネリオは、顔を横にそらしながら続けて言った。
「…だがまあ、無事でなによりだ」
「ニャッハハー♪素直じゃないニャア♪心配してるなら最初からそう言えばイイノニ」
「…黙れ」
「セネセネ、心配してくれてありがと」
それから一行は、森の入り口まで戻った。
目当てのルグニカ紅テングダケも手に入っていることだしすぐにでもケセドニアに戻りたいところだが、時刻は深夜であったし、全員ヘトヘトであったので今日はそのまま野宿することとなった。
「それじゃあ一晩、お世話になるわね」
シンシアが礼儀正しくお辞儀をする。
今日は同行してきた彼女とも一緒なのだ。
こうして、敵である六神将との奇妙な一夜が始まった。
「ちょっといいかしら」
声をかけられて、シノンは振り向く。
声の主は、シンシアであった。
「どうしたの?」
「あなた、魔獣使いなのよね?同業者として、ちょっと気になっちゃって」
なるほど確かにシンシアはフィーニアというドラゴンを扱う、魔獣使いだ。
自分の先輩ということになるのだろうか。
「今回あなたはルグニカ紅テングダケを手に入れるために危険をおかしてまでここへやってきた…その理由を、教えてもらえないかしら?」
「それ、は…」
「まあ、言いたくないなら無理に聞く気はないけれど」
「うーん…」
しばらく逡巡していたシノンだったが、
「まあ、いっか。分かった、話すよ」
そうしてシノンは、クノンに話したことを伝えた。
ハノンが身体の不調にもかかわらず無理をしたこと。
パートナーとして力を認めてもらうため、ここへやってきたことを。
「なるほどね…あなた達、似たもの同士なのね」
「そう…かな?」
「お互いがお互いを想いあっていて、それゆえに強くなろうとしている…互いを高めあう、いいコンビだと思うわ」
「えへへ…」
褒められて、嬉しそうに照れるシノン。
一応は敵とはいえ、先輩の魔獣使いから褒められるのは嬉しかった。
「グオオ…」
その時、彼女のそばにいたフィーニアが鳴いた。
シンシアはドラゴンの頭を撫でながら言った。
「…そう、分かったわ。今日は疲れただろうし、おやすみなさい」
「グオオン…」
シンシアの言葉に応じて、フィーニアは眠りについた。
「今のって…シンシアはあのドラゴンの言ってることが分かるの!?」
シンシアとフィーニアのやりとりを見ていたシノンは、尋ねる。
以前セネリオが言っていたように、彼女は本当にパートナーの魔物と話すことができるのだろうか。
「ええ、今のフィーニアは『先に寝るぞ』って言ったの」
「いいなあ…魔物としゃべれるなんて」
羨ましそうにシンシアを見つめるシノン。
しかし、シンシアの表情は暗い。
「別にいいものじゃないわよ…この能力のせいで窮屈な思いをすることにもなったし…」
「でもでも!私もハノンともっとおしゃべりできるようになりたいよ!」
「あなた達は言葉なんて通じなくても充分通じ合ってると思うけど…」
「でも……」
今度は、シノンの表情が暗くなる。
ハノンは、自分に負い目を感じ、それゆえに無茶をした。
自分はハノンのそんな悩みにちっとも気づいてあげられなかった。
そのことが、とても悔しかった。
「私は…私は……ハノンのパートナー失格だよ!」
そういって、泣き出してしまった。
そんなシノンを眺めながら、シンシアは彼女の頭を優しくなでてやるのであった。
「部外者の私が下手に口出しするべきじゃないかもしれないけど…あなた達は、もう少し相手に対して頼ることを覚えた方がいいと思うわ」
「え…?」
「さっきも言ったように、あなた達はお互いのことを想いあってて、それゆえに強くなろうとしている。だけど…きっと相手のことを大切に想いすぎてて、いざという時、お互いに自分一人でなんとかしようとしてしまっているのね。だから、相手に頼るという気持ちが欠けている」
シンシアの言葉に、シノンはハッとする
数日前アルセリアに言われた言葉を思い出したのだ。
『私たちをもう少し頼ってください。私たちは、お互いに助け合う仲間なんですから』
あの時自分は、一人でハノンの看病をしようとしていた。
そしてハノンも、一人で悩みを抱えて一人で強くなろうとしていた。
私とハノンは二人で一つのパートナー。
どちらが欠けても成り立たない。
それなのにどちらも一人でなんとかしようとして空回りしていた。
「そっか…そうだったんだ」
私達魔獣使いは互いを支え合う存在。
しかしそれは、単に相手を助けることを意味するのではない。
時には相手の力を借り、頼る…そうすることで初めて、バランスが取れるんだ。
「ありがとうシンシア!私…分かった気がする!」
「そう…それは何よりだわ」
「私、明日に備えてもう寝るね!」
「あ…ちょっと待って」
スッキリした気分で就寝の準備を行おうとしていたシノンを、シンシアは呼び止める。
「あなたの両親について、教えてほしいの」
「へ?パパとママ?」
「ええ…名前は、なんて言うの?」
「えっと…パパはモル・キャンドって言って、ママは…」
「セリス・エルメス」
「っ!そ、そうなんだ…」
母親の名前を聞いてシンシアは一瞬驚いた顔をした。
シンシアの反応を少し不思議に思いつつも、その後しばらくシノンの両親語りは続き、夜は更けていった。