第5章『夕闇の断罪者』 5
「なんだか騒がしいわね」
ダアトへとやってきた一行。
街の様子を見たリンは、ダアトの街がなんだか慌ただしいことに気がついて不思議そうに首をかしげる。
「誰かに話を聞いてみようぜ」
そういってレイノスが近くにいた男性に声をかける。
「なあ、一体なにがあったんだ?」
「ん?あんたたち知らないのか?殺人鬼だよ殺人鬼!一昨日、殺人鬼が捕まったんだよ!」
「さ、殺人鬼!?」
物騒な話だと思いながらレイノスは話の続きを促す。
「なんでも十年以上前に世間を騒がせた大強盗みたいでよお。このダアトでも何人も被害にあってる」
「そんな奴が…」
「そうだ、昨日の新聞に詳しいことが書いてある。あげるから読んでみるといい」
そういうと男性は自分の家に戻っていった。
しばらくすると戻ってきて、新聞をくれた。
レイノスは仲間達と共に、記事を読んだ。
記事の見出しにはこう書いてあった。
『怪物強盗【兎】逮捕!』
昨日、ダアトの神託の盾騎士団主席総長クラノス・グラディウスが、とある殺人鬼を捕らえることに成功した。
殺人鬼の名はクレア・ラスティーヌ。
20〜15年ほど前、怪物強盗として世間から恐れられてきた強盗殺人鬼だ。
当時、世間では彼のように歳若いものが窃盗や殺人などの事件が多発していたが、その中でも彼の残忍さは群を抜いていた。
かつて捕らえた数人の若年犯罪者には、あの人身売買組織『スレイブ』との関連がある者が多く、彼もその一味だったのではということで聞き取りが今も…
記事はまだ続くが、概ね内容はこんなところだった。
そして、記事の中には顔写真も載せられていて…
「え…これって」
シノンが、顔写真を見て驚く。
そこに写っていたのは…
「クノン…!?」
どうみても、自分達の仲間クノンだった。
そして…
「クレア…ラスティー……ヌ?」
アルセリアは、記事の中にある名前に反応を示していた。
(なん…でしょう。なにかを思い出しそうな…ううっ!)
頭が割れるように痛い。
アルセリアは頭を抑えてその場にうずくまる。
「おいセリア!大丈夫か!?」
ミステリアスの声も届かず、アルセリアの脳裏にはいくつかの言葉が流れ込んでくる。
―『セリア、逃げて!せめて、あなただけでも…』
―『いやあああああああ!お母さん!』
(だめ…思い出しちゃ、だめ!)
何故だか分からないが、嫌な予感がする。
思い出したら、後悔するような気がする。
しかし、頭の中に流れてくる言葉は、止まらない。
―『くそう!くそう!よくも妻を!許さないぞ!クレア・ラスティーヌ!!』
今度は声だけでなく映像も鮮明に思い出す。
怒りの声で上げる父。
その父と対峙するのは…
「いやああああああああああああああ!!」
レイノス達は、宿屋に来ていた。
突然叫び声を上げて倒れたアルセリアを、休ませるためだ。
今は男性陣は部屋で待機して、女性陣が看病しているところだ。
といっても、シノンはそんな余裕がなく、リンとスクルドの二人で行っているのだが。
(クノン…クノン…クノン……クノン)
シノンの心はぐちゃぐちゃだった。
クノンがいなくなったと思ったら、彼は犯罪者として逮捕されたというのだ。
あの写真だけでは本当にクノンなのか半信半疑だったが、ミステリアスがアニスに話を聞きにいったところ、どうやら間違いないようだ。
クノンは、怪物強盗兎として、逮捕された。
(そんなの…信じたくないよぅ)
「………なあ」
男性陣の部屋は、重苦しい空気だった。
そんな中、レイノスが口を開いた。
「この記事にある『スレイブ』との関連って、なんなんだ?スレイブって、前にセネリオが教えてくれた人身売買を生業にしている組織だよな」
「…すまないが、俺も当時のことはよく知らない」
セネリオにしては珍しく、歯切れが悪い。
まあ、15年前というと彼もまだ幼少だ。
知らないというのも無理はないだろう。
「『スレイブ』は、知っての通り子供を誘拐、または子供を売買することを目的にした組織だ」
代わりに答えたのが、ミステリアスだった。
その声のトーンは、いつもと違い暗く重い。
「奴らのもとに集まった子供は、子供を欲しがる金持ちに売られるわけだが…何人かは奴らの兵士として育てられた」
「じゃあ、クノンもその一人かもしれねえってことなのか…」
話を聞いて、レイノスは戦慄する。
子供を売買するだけでなく、兵士として育て上げる。
しかもその目的が自分達の手を汚さずに犯罪行為をさせるためだなんて、なんという組織なんだ。
10年前に壊滅し散り散りになったらしいが、つくづく恐ろしい組織だ。
(まあ、今はそんなことよりも…クノンの事か)
クノン。
その正体は怪物強盗クレア・ラスティーヌ。
クラノスは、それを知っていたからこそ自分達に捕らえることを堂々と伝え、堂々と捕らえることができたのだ。
犯罪者を捕らえるという行為に、なんの非も後ろめたさもあるわけはないのだから。
それでも目的をはっきり告げてこなかったのは、レイノス達を気遣ったからなのか、真実を知ってもなお匿おうとすると考えたからか。
(ちくしょう…どうしたらいいんだよ)
仲間の衝撃の真実に、レイノスは進むべき道を迷っていた。
どうするべきなのか。
どう向かい合うべきなのか。
それが、さっぱり分からなかった。
ダアトへとやってきた一行。
街の様子を見たリンは、ダアトの街がなんだか慌ただしいことに気がついて不思議そうに首をかしげる。
「誰かに話を聞いてみようぜ」
そういってレイノスが近くにいた男性に声をかける。
「なあ、一体なにがあったんだ?」
「ん?あんたたち知らないのか?殺人鬼だよ殺人鬼!一昨日、殺人鬼が捕まったんだよ!」
「さ、殺人鬼!?」
物騒な話だと思いながらレイノスは話の続きを促す。
「なんでも十年以上前に世間を騒がせた大強盗みたいでよお。このダアトでも何人も被害にあってる」
「そんな奴が…」
「そうだ、昨日の新聞に詳しいことが書いてある。あげるから読んでみるといい」
そういうと男性は自分の家に戻っていった。
しばらくすると戻ってきて、新聞をくれた。
レイノスは仲間達と共に、記事を読んだ。
記事の見出しにはこう書いてあった。
『怪物強盗【兎】逮捕!』
昨日、ダアトの神託の盾騎士団主席総長クラノス・グラディウスが、とある殺人鬼を捕らえることに成功した。
殺人鬼の名はクレア・ラスティーヌ。
20〜15年ほど前、怪物強盗として世間から恐れられてきた強盗殺人鬼だ。
当時、世間では彼のように歳若いものが窃盗や殺人などの事件が多発していたが、その中でも彼の残忍さは群を抜いていた。
かつて捕らえた数人の若年犯罪者には、あの人身売買組織『スレイブ』との関連がある者が多く、彼もその一味だったのではということで聞き取りが今も…
記事はまだ続くが、概ね内容はこんなところだった。
そして、記事の中には顔写真も載せられていて…
「え…これって」
シノンが、顔写真を見て驚く。
そこに写っていたのは…
「クノン…!?」
どうみても、自分達の仲間クノンだった。
そして…
「クレア…ラスティー……ヌ?」
アルセリアは、記事の中にある名前に反応を示していた。
(なん…でしょう。なにかを思い出しそうな…ううっ!)
頭が割れるように痛い。
アルセリアは頭を抑えてその場にうずくまる。
「おいセリア!大丈夫か!?」
ミステリアスの声も届かず、アルセリアの脳裏にはいくつかの言葉が流れ込んでくる。
―『セリア、逃げて!せめて、あなただけでも…』
―『いやあああああああ!お母さん!』
(だめ…思い出しちゃ、だめ!)
何故だか分からないが、嫌な予感がする。
思い出したら、後悔するような気がする。
しかし、頭の中に流れてくる言葉は、止まらない。
―『くそう!くそう!よくも妻を!許さないぞ!クレア・ラスティーヌ!!』
今度は声だけでなく映像も鮮明に思い出す。
怒りの声で上げる父。
その父と対峙するのは…
「いやああああああああああああああ!!」
レイノス達は、宿屋に来ていた。
突然叫び声を上げて倒れたアルセリアを、休ませるためだ。
今は男性陣は部屋で待機して、女性陣が看病しているところだ。
といっても、シノンはそんな余裕がなく、リンとスクルドの二人で行っているのだが。
(クノン…クノン…クノン……クノン)
シノンの心はぐちゃぐちゃだった。
クノンがいなくなったと思ったら、彼は犯罪者として逮捕されたというのだ。
あの写真だけでは本当にクノンなのか半信半疑だったが、ミステリアスがアニスに話を聞きにいったところ、どうやら間違いないようだ。
クノンは、怪物強盗兎として、逮捕された。
(そんなの…信じたくないよぅ)
「………なあ」
男性陣の部屋は、重苦しい空気だった。
そんな中、レイノスが口を開いた。
「この記事にある『スレイブ』との関連って、なんなんだ?スレイブって、前にセネリオが教えてくれた人身売買を生業にしている組織だよな」
「…すまないが、俺も当時のことはよく知らない」
セネリオにしては珍しく、歯切れが悪い。
まあ、15年前というと彼もまだ幼少だ。
知らないというのも無理はないだろう。
「『スレイブ』は、知っての通り子供を誘拐、または子供を売買することを目的にした組織だ」
代わりに答えたのが、ミステリアスだった。
その声のトーンは、いつもと違い暗く重い。
「奴らのもとに集まった子供は、子供を欲しがる金持ちに売られるわけだが…何人かは奴らの兵士として育てられた」
「じゃあ、クノンもその一人かもしれねえってことなのか…」
話を聞いて、レイノスは戦慄する。
子供を売買するだけでなく、兵士として育て上げる。
しかもその目的が自分達の手を汚さずに犯罪行為をさせるためだなんて、なんという組織なんだ。
10年前に壊滅し散り散りになったらしいが、つくづく恐ろしい組織だ。
(まあ、今はそんなことよりも…クノンの事か)
クノン。
その正体は怪物強盗クレア・ラスティーヌ。
クラノスは、それを知っていたからこそ自分達に捕らえることを堂々と伝え、堂々と捕らえることができたのだ。
犯罪者を捕らえるという行為に、なんの非も後ろめたさもあるわけはないのだから。
それでも目的をはっきり告げてこなかったのは、レイノス達を気遣ったからなのか、真実を知ってもなお匿おうとすると考えたからか。
(ちくしょう…どうしたらいいんだよ)
仲間の衝撃の真実に、レイノスは進むべき道を迷っていた。
どうするべきなのか。
どう向かい合うべきなのか。
それが、さっぱり分からなかった。