第X話 其ハ暗黒ノ写シ身【ベーゼ】
「………痛くしないでね☆」
「それは、こっちの台詞だって……」
現在、この城の外れにある訓練所みたいな場所で俺とデミックスは向かい合っている。
デミックスの手には全体的に丸っこい弦楽器(シタールというらしい)が握られている。
………ねぇ、俺の武器ってどこさ?
「……………(じー)」
「あ?何で武器を渡さないかって?そんなもん、自分で出せってハナシ」
視線だけで伝わったのは嬉しいが……自分で出す………か
「フッ!………………………………助けて、眼帯さーん」
「誰が、眼帯さんだ!俺にはシグバールって名前があるってハナシ!後、助けは出さねぇから」
眼帯男【シグバール】の薄情な言葉に肩を落とし、何となくファイティングポーズを取ってみる俺。
デミックスの生優しい目が染みるぜ……
「と、とにかく、行くからな!舞い踊れ、水達ー!!」
シタールが掻き鳴らされ、数本の水柱が俺を襲う。
地面を削りながら進むそれを横っ飛びで辛うじて躱し、俺はデミックスに突撃する。
今度は水球が彼の周りに浮かび、デミックスを守るかのように動きまわる。
「むむむ……近づけねぇ」
「フフーン、どうだ!まだまだ、俺のライヴは始まったばかりだぜー!」
再び水柱が昇り、俺を叩き潰そうとする。今度も体を捻ることにより避けて、一ヶ所に留まらないように移動しながら隙を探す。
「(あー……入れそうな隙間がねぇ……………しゃあねえやいっちょ、博打でも打ちますか!)」
デミックスの周りを浮遊する水球に構わず間合いを詰める俺。
上手いこと、拳の届きそうな範囲にまで近づき、腕を振り上げ……
「ざーんねん、それはダメなんだよねー」
水球が一瞬にして俺の体を覆い尽くし、炸裂する。
「っつ!?ゴボッ………」
水自体は未だに俺の体を取り込んでいて、炸裂した時の水の刃によって身体中に裂傷が出来て血が流れる。
「ヘッヘーン、どうだ!参ったか!」
無邪気に俺に負けを認めるように促すデミックス。
答えたくても、水中じゃ、声が出ねーんだよ。息が続かなくて、点滅しだした視界の中でうっすらと何かの影が見えて、手を差し伸べる。
『ザマァないな、 』
落ち着いた女性の声が聞こえる。
『力を求めるか?』
力?………俺は見返してやりたい、俺を弱そうだと言ったあの赤針ネズミに。
『……動機が微妙だが、まあいいか。手を伸ばせ』
途切れそうな意識を繋いで左手を伸ばし、
『これは元々お前のモノだ、 。返すぞ、お前の力を』
女性の右手と重なった。
始めに感じたのは暖かさと確かな重さ。
目を見開き、左手に掴んだ力を振るう。
「オオオオオオォォォォォ!!!!」
水球を切り裂いたのは黒い刃。
あの白い空間で振るっていた剣によく似ているが剣の峰に持ち手は無く、湾曲した刀身が二つに裂けてある。
「うっわ、でっかい剣。何、覚醒したって奴?」
「ハァハァ………これが、俺の力……ベーゼ」
黒の大剣【ベーゼ】、俺の得た力だ。
そして、俺は何かに突き動かされるように右手を突きだし、紡ぐ。
「ファイア!」
手の平大の大きさの火球が産み出され、デミックスに向かう。
「魔法もかよ!?っ、うりゃ!!」
同じ位の大きさの水球が彼の奏でるシタールによって産み出され、俺のファイアとぶつかり蒸発した。
ファイアもちろちろと火力が落ちて自然に消滅する。
「さーてっと、仕切り直しといこうや」
「OK、何か、俺も燃えてきたからね!舞い踊れ、水達ー!」
水柱だけではなく、今度は水球も俺に向かって襲い掛かる。
それを回避し、時には刀身で受けながら俺は攻撃を捌いていく。
圧力はかなりあるが受けきれないほどでもないからな。
ふと気づけばデミックスの姿が見えなくなっている。
「楽しんでるかーい?」
「っ!?」
水柱に乗り、シタールをハンマーのように降り下ろすデミックス。その下にいるのは勿論、俺だ。
「なっめんなぁ!!!」
ベーゼを両手で持ち、降り下ろされるシタールに向かってフルスイング!
ガキィィィン!!
金属同士のぶつかる耳を塞ぎたくなるような音が響き渡り、そのまま鍔迫り合いに移行された。
均衡は直ぐに崩され、デミックスの体ごと俺はシタールを弾き飛ばす。
「うわぁ!?」
「オラァ!こいつで終わりだ!!」
態勢の崩れた隙に俺はデミックスに走り寄り、そして大剣を振りかぶり………
「そこまでだ」
受け止められた。
色黒男の着ているコートの袖から赤く光るビームソードが伸び、俺のベーゼを軽く受け止めている。
「君の力、確かに見極めた。君の力ならば大丈夫だろう」
え?大丈夫って何が??
「君を我が機関に迎え入れよう」
えっ?何でさ!?
「異論は認めん」
そう告げた色黒男は、うっすらと笑っていました………
12/07/09 20:43 イクサリオン改め、ポスケ ▲