メモリアル1
光の都、レイディアントガーデン。
住宅街から離れた崩れた外壁。滅多に人が近づかないその一角が、突如光り輝く。
そこから現れたのは、複数の男女――13人の団体だった。
「また、戻ってきちゃったな」
「うん」
その内の少年と少女――ソラとカイリが目の前に広がる景色を眺める。
こちらに戻ってから初めて見る光景。皆思う所があり、それぞれ胸の内を見つめ直す。
逸早く気を取り直したのはウィドで、隣にいたスピカに今後の方針を問う。
「で、ここからどうするんですか?」
「すぐに行ける訳じゃないから、今日一日はここに滞在する事になるわ。連絡は私からしておくから」
「なら、これからどこに行きます?」
2人の会話にアクアも加わりだし、更に話し合いが進められる。
これにより大人の会話について行けない人達は聞くのを止めて勝手に離れたり、上の空で聞いたりと様々な反応を取る。
彼女も、その一人だった。
「オパール、どうした?」
「リク。うん…色々とね、思い出してたの」
全員から少し離れた場所に移動して空を眺めるオパール。リクの問いに答えると、再び視線を遠くに彷徨わせる。
そうして、これまでの自分の記憶を思い出していた。
あたし達の旅の始まりは、この世界で重要なデータが盗まれた事からだった。
かつてこの世界を中心に闇の勢力が活動していた。その大元となってしまったデータがコンピューターには大量に入っている。ほおって置けば悪用されるのは間違いない。
それに対抗するために、二度も世界を救ったソラを呼ぶ事になった。成り行きでヴェン、カイリ、リクまで一緒について行く事になったけど、今ではそれで良かったと思ってる。
敵は出てきたが、何が目的までは分からない。そこで世界を巡ってみる事にした。
そのおかげでヴェンの知り合いであるテラだけでなく、同じように過去から連れてこられたアクアとも合流しては事情を伝えては別れて。敵の情報を探って、情報を共有して――ようやく知る事が出来た。
彼らの目的は、シルビアと呼ばれる存在を手に入れる事だった。
彼女は大昔にキーブレードを元に作り上げられた剣で、純粋な光を持つ心の持ち主の意思が実体化した存在だ。だが、この世界には“存在しない筈”の代物だ。
ではなぜ今になって現れたのか? それは彼女が壊されない未来――平行世界と呼ばれる、異世界・パラレルワールドの住人だからだ。そこで悪用されかけた所で味方によって逃がされ、彼らに対抗するために過去から三人のキーブレード使いを呼び出し、あたし達に助けを求めた。
だけど、それは同時に本来無関係であるあたし達の世界を争いに巻き込む事を意味していた。
全ての原因はシルビアの所為。それでも、あたし達は敵の大将と戦った。本当に苦しくて、悲しくて、辛くて……敵わなくて敗北した。
最後の最後で逃がしてくれたおかげで命は助かったけど、負けた代償は大きかった。数名の仲間を失い、全員再び戦えるかどうか分からない程の心の傷痕を残したまま、別の平行世界――自分達より20年ほど時間が進んでいる異世界へと飛ばされた。
みんなの傷を必死で癒して、方針を決めて。そこで、自分達の敵がそちらの世界の敵と手を結んでいると知り、こちらも手を結ぶ事にした。
一度負けたが、希望はない訳じゃない。必死で手がかりを探して、強くなるために鍛練して、意識を失った仲間を目覚めさせて…。
この世界を旅立って異世界から戻る期間は、おそらくひと月も経っていない。だけど、長い間戦いを続けていた感覚がある。
まだ全部が終わった訳ではないが、本当に色々あった。
何よりも、あたしの中で起こった一番の変化は…。
「どうした? 急に顔が赤くなったぞ?」
「っ、何でもない!」
彼に――リクに恋をしてしまった事だろう。
キッカケなんて分からない。でも、いつの間にか彼の事が好きになった。
彼が自分の世界を闇に陥れた奴を宿していたって事、ルキルがレプリカだって判明した事、この世界で親しくしてくれたリアの親友二人を消滅に陥れた事。それでもやっぱりこの想いは消えなかった。だって、それ以上にリクの良い所を知っているから。
一緒に戦った。何かする時は協力もした。落ち込んだ時は立ち上がらせた。でも――この恋は叶わない。
あたし達の対峙する敵の一人…リリス。彼女は海を司る化身で、唯一心を癒せる世界――ディスティニーアイランドを崩壊させたリクを深く憎んでいる。その感情に目を付けた黒幕が、あたし達に対抗する為に彼女を目覚めさせた…リリィと言う少女を依代にする事で。
リリスは自由に動ける肉体を手に入れた。敵になって何度か襲い掛かったが、重傷を負った事で一度は消えた筈のリリィの意思が目覚めた。それを知らず、あたしとリクは仲良くなった…仲良くなってしまった。
リリィ。彼女は世界を巡る中で出会ったあたしの友達であり――リクが恋した少女。そしてリリィもまたどう言う訳かリクに惹かれている。つまりは両想い。
「ねえ、リク…」
「なんだ?」
「リクも…クウのようにさ、リリィの事助けたいって思う…よね?」
「当たり前だ」
迷いなく答えたリクの目を、見る事が出来なかった。
今の彼の身体は、リリスによってアンセムと呼ばれた研究者…ゼアノートの姿となっている。忌み嫌ってる姿にされても、あんな憎しみぶつけられても、取り戻す事だけを考えている。
救えるなら救いたい。それは本当。でも、このままでいたいのも本当で。
だけど、リリィを救っても救えなくても、この旅が終わったらきっと…。
――それでも、あたし達は進むしかないんだ。
――救いを求めているのは、リリィだけじゃないのだから。
■作者メッセージ
と言う訳で、前回からだいぶ間が空きましたが新章開始いたしました。まず最初は回想シーンとして今までのおさらいを中心にしています。この後も続きます。
これを作るにあたって、本当に長い期間こちらで活動している事を実感しました…。
今までは夢さんと一緒に創作活動をしていましたが、ここからは1人で行う事になります。一応、夢キャラの出番は必要なときは出す方針にしていますが…。
これを作るにあたって、本当に長い期間こちらで活動している事を実感しました…。
今までは夢さんと一緒に創作活動をしていましたが、ここからは1人で行う事になります。一応、夢キャラの出番は必要なときは出す方針にしていますが…。