やりたい事
「うっわー!」
「ひろーい!」
住宅地にあった1つの屋敷の中に入った途端に、ソラとツバサが感嘆の声を上げる。
まず目についたのは広いリビング。そこから二階は吹き抜けの構造になっているようで、奥の方に階段が接地されていて上った先には幾つか部屋の扉が見える。
ビフロンスの城に比べたら圧倒的に狭いが、普通の家に比べたら広さは十分にある。オパールの意外な一面に、カイリは思わず疑問を口にした。
「オパールって、もしかしてお金持ちなの?」
「そんなんじゃないわよ。親の仕事の都合上、うちは優遇されてただけ。それにほら…しばらく帰ってもいなかったから、汚くて悪いけど…」
オパールの言う通り、テーブルやソファなどの最低限の家具はあるようだが見事に埃が被っている。換気もしていないから埃臭いし、人の出入りは殆どなかった事が伺える。
場所があっても、このままでは家の中で生活しずらい。テラとアクアは顔を見合わせる。
「そうだな…しばらくお城暮らしだったから、贅沢が体に染みついてしまったしな」
「だったら、みんなでお掃除するわよ!」
「え〜!」
「え〜じゃないよ、ソラ。泊まらせて貰うんだから、それぐらいしなきゃ」
アクアの提案に早速ソラが嫌そうな声を出すと、すかさずカイリが注意する。
こうして、オパールの家の大掃除を開催する事となる。すると、ルキルが周りを見ながら指示を出してきた。
「荷物はそんなにないから、拭き掃除と掃き掃除。あと布団乾しだけで十分だろ。オパール、雑巾と箒とハタキは何処にある?」
「やけに掃除に手慣れてるな?」
意外と言わんばかりにリクが呟くと、ルキルは振り返る。その目は、どこか虚ろ気味だ。
「どっかの誰かさんと一緒に住んでみろ…嫌でも家事を覚えられる」
「ルキルぅ?」
キンと冷たい音が全員の耳に届く。見ると、ウィドが黒い笑みで指で唾を弾く形で刀身を僅かに浮かせている。
慌ててウィドに弁明するルキルだが、残りは無視を決め込んだ。下手に関わったら火の粉が飛びかねない。
「クウさんは、無理しないでくださいね?」
「無理って、掃除ぐらいどって事――」
右腕が動かない事を心配してレイアが声をかけるが、クウは気にせず家の中を歩く。
だが、動かない右腕が近くの棚にぶつかり、結果バランスを崩して仕舞ってあった小物や本がドサドサと床に落としてしまった。
『『『あ』』』
「…クウは、外で待機。仕事増やさないで頂戴?」
「お、おう…」
アクアが凄みのある笑顔で迫ってくるものだから、クウは後退りしながら頷くしかなかった。
「とにかく、お前は外で布団とマット叩いてろ。それぐらいなら出来るだろ」
「そうなるよな〜…」
宥めに成功したのかルキルが他の方法…もとい、仕事を与えて来てクウも甘んじてそれを受け入れる。と、ここでタイミングよくオパールが複数の掃除道具を持ってやってきた。それらを全員がすぐに持てるよう、テーブルの上に置く。
「はい、雑巾と箒とハタキ。あるだけ持ってきたけど、足りないならエアリス達の所から貰ってくるわよ」
「なあ、布団叩きはあるか? 俺、それを担当するんだが」
「あー、それはなかった。エアリスから貰ってこようか?」
「必要ない。キーブレードで十分代用出来る」
「お前キーブレードを何だと思ってるんだ!?」
涼しい顔でとんでもない事を言ってきたルキルに、すかさずクウがツッコミを入れる。
「それじゃ、さっさと役割分担決めて始めましょう!」
「はい、姉さん!」
――ビシリ…!
やる気満々で分担を始めようとするスピカとウィド。その二人に、クウとルキルの表情が一瞬で凍り付いた。
「せ、先生は道具の調達を頼む! 寧ろそれをしてくれ!!」
「スピカお前は荷物整理だけでいい! それが一番得意だろ、なぁ!?」
「何ですか、いきなり?」
「確かに荷物整理は出来るけど…これだけ広いんですもの、掃除には人手が必要でしょ?」
遠回しに掃除から遠ざけられ、不満げな表情を見せる二人。
しかし、その顔に騙されるルキルとクウではなかった。
(マズイ、先生が掃除するとなると大惨事は免れない…!)
(スピカに掃除させたら、終わるどころか余計に手間がかかって夜まで終わらない…!)
((何とかそれだけは阻止しなければっ!!!))
どうやらウィドだけでなく、スピカも基本的な家事は苦手のようだ。考えてる被害者は気づいてないが、二人の心は確かに一つとなっている。
何が何でも二人を掃除から引き離そうと言い訳を放とうとした所で、ツバサが勢いよく手を挙げた。
「ボ、ボク! ウィドさんと一緒に掃除用品取りに行きたいなー!」
「え? 私と、ですか?」
「あと師匠一人だと左腕しか使えなくて大変だし、スピカさんとレイアさんで布団とマット叩き! こんな感じでいいでしょ、アクアさん!」
そう言ってアクアに同意を得ようとするツバサ。副声音で『お願いだから言う通りにして!』と目が懇願しているようにも思えるのは何故だろう。
「え、ええ…認めるわ」
「「ずるーい!!」」
「お前らは俺と一緒に床掃除だ、異議は認めないぞ?」
ソラとヴェンが反論の声を上げた後ろで、ルキルが『これ以上話を停滞させるならこの雑巾のようになるか?』と全力で握って捻じ曲がった雑巾を見せつけながら圧力をかけた。
「「ハ、ハイ…!」」
(助かった…!)
(布団叩きなら…まだ被害は抑えられる、よな?)
馬鹿二人の所為で危うかったが、ツバサのアシストのおかげで最悪の事態を間逃れる事には成功する。
ようやく掃除を始めよう――となった所で、玄関のドアが勝手に開く。入ってきたのは、なんとレオンとエアリスとユフィの三人だった。
「その必要はないぞ」
「みんな、何でここに?」
オパールが訊くと、エアリスとユフィが笑って答える。
「みんな疲れてるんでしょ? 私達が掃除しておくから、今日はゆっくりしてて」
「人手も呼んでるからすぐに終わらせるよ! ソラ達は街で自由にしてていいから!」
「ありがと、みんな…」
再建委員会の助力に、オパールはお礼を言う。
こうして、レオン達が掃除を変わってくれて全員は邪魔にならないよう一度外に出る事にした。
「これから、どうしましょうか?」
「自由行動か?」
レイアとテラが意見を求めると、スピカから提案が上がった。
「それなんだけど、オパール。この辺りで人目につかない広い場所とかない?」
「あるにはあるけど…何で?」
「身の内話くらいはしたいし…やっておきたい事もあるから、ね」
意味ありげに呟き、スピカは人差し指を軽く口に付けて含み笑いを作る。
その笑みは、どう言う訳かリクに向けられていた。
その後場所を移し、前にソラ達とテラ達が合流してガードアーマーと戦った城の通路口へとスピカを案内した。
「ここでいい?」
「ええ。ありがとう」
住宅地から離れているし、人も簡単に寄ってはこない。条件は十分満たしている。
スピカが1人満足していると、クウが呆れながら話を戻した。
「んで、何するんだ?」
「まずは――あなたを元に戻してあげる。話はそれからでもいいでしょう?」
リクに微笑みながら、思ってもみなかった救いの言葉をスピカは放つ。
一瞬誰もが言葉の意味を認識出来なかったが、すぐにソラとカイリが驚きの声を上げた。
「ええっ!?」
「出来るの!?」
今のリクは、リリスの呪いよってアンセムの姿へと変わってしまっている。とは言え、外見が変化しているだけで、行動には支障はないし戦闘だって普通に出来る。しかし、元は全ての世界を闇で消そうとした恐るべき存在だ。その所為で、あちこちでトラブルを起こしてきた。
だから、この世界に帰ってからは極力人の居る所は避けてフードを被ってで回避してきた。その心配がなくなり、尚且つ元の姿に戻るのならば万々歳だ。
「ええ。これとクウの力を使えばね」
自信ありげにスピカが取り出したのは、一本の白いナイフ。ビフロンスでの強襲で、クウを救う為に手の甲に突き刺した奴だ。かなりの高所から落としたにも関わらず、無事に見つけて回収したらしい。
しかし、急に協力を求められてクウは戸惑いを見せる。
シルビアの刻印が消えた今、融合の能力で繋がっていた精神は再び切れた状態に戻ってしまった。闇の力を満足に使う事は出来ない。それは魔法も同類だ。
「スピカ、今の俺は…」
「使えなくもないでしょ? 魔力は使えないけど、それはあなたの力だけ。外部からの干渉系統なら、やり方を知っていれば使えるはずよ」
「干渉系統…使うのは《アレ》…か?」
「ええ。《アレ》お願いね」
尚も笑いながら頷くスピカ。二人しか伝わらない会話を続けるものだから、ウィドが訝し気に割り込んだ。
「アレ?」
「やれば分かるわ。さ、そこに立って」
「ああ…」
言われるままに、リクが少し離れた所に歩く。
指定された部分で立ち止まると、スピカはクウにナイフを差し出す。
「はい、クウ」
「おう」
左手でナイフを受け取ると、軽く手の中で回して指の間に挟みこむ。
そしてリクを見て、彼の足元へと素早くナイフを投げて突き刺す。
すると、ナイフを媒介にリクの足音が光で包まれた。
「この力は…!」
「光の力!?」
ナイフから放たれた光に、それぞれクウとリクが驚く。
だが、すぐに気を取り直してクウは光で包まれた地面へと左手を付ける。そして、魔方陣をイメージする。
「ダークサークル改め…ライトサークル!!」
ダークサークルと同じ方陣を光で作り上げ、リクを包み込む。
やり方は一緒。ただ、媒介に光の力を使うだけ。リクの中の光に干渉して操り、闇を取り払う。スピカがやりたかったのはそう言う事なのだろう。
やがて光はリクの全身を包み込む。そうして光が収まると――リクの姿はアンセムから元の少年の姿に戻っていた。服装も黒コートから黄色のジャケットと青のズボンとなっている。
「元に、戻った…!」
「やったぁ!!」
「リク、良か」
「良かった!!」
喜ぶソラとカイリを押しのけて、真っ先にオパールがリクへと抱き着いた。
「オ、オパール!?」
「本当に、良かった…リク」
「…姿なんか関係ないんじゃなかったのか?」
「バカ…それとこれとは別よ…っ!」
「悪かった…心配かけて」
強がりを言いつつも今まで心配させていたのが伝わったのか、自然とリクもオパールの背に手を添えて軽く抱きしめる。
本当の姿で抱きしめられ、オパールの涙腺が脆くなる。しかし、下唇を噛んで零れようとする涙を必死に堪えながらリクの温もりを感じた。
「――で、何時まで抱き合っているんですかー? お二人さーん?」
人目も気にせず、目の前で抱き合っていたからだろう。どこかニヤニヤとした表情でクウが水を差してきた。
瞬間、我に返ったオパールの顔が一気に真っ赤に染まった。
「んなっ!? バ、バカァ!!!」
「ぐはぉ!!?」
邪魔をしたクウに罵声を浴びせつつ、リクの顔面を力の限りぶん殴った。
「ああああああ、あたしは、その…目の前で心配かけさせたから、つい…!! そ、そもそも敵にこんな事されるぐらい腑抜けてる奴に、こうして抱きついたのよ!? むむむ寧ろ感謝して欲しいくらいだわぁ!!?」
「言ってる事とやってる事、矛盾してないか?」
「テラ〜? ダイナマイト喰らいたい?」
天然発言でテラは思った事を言っただけだろう。しかし、鋭く目を光らせるなりオパールはどこからか両手一杯に爆弾を取り出す。
もはや一発即発な二人、肝心のリクは地面に倒れ伏している。感動はどっかに吹き飛んでしまい、残された人は溜息を零すばかりだった。
「ひろーい!」
住宅地にあった1つの屋敷の中に入った途端に、ソラとツバサが感嘆の声を上げる。
まず目についたのは広いリビング。そこから二階は吹き抜けの構造になっているようで、奥の方に階段が接地されていて上った先には幾つか部屋の扉が見える。
ビフロンスの城に比べたら圧倒的に狭いが、普通の家に比べたら広さは十分にある。オパールの意外な一面に、カイリは思わず疑問を口にした。
「オパールって、もしかしてお金持ちなの?」
「そんなんじゃないわよ。親の仕事の都合上、うちは優遇されてただけ。それにほら…しばらく帰ってもいなかったから、汚くて悪いけど…」
オパールの言う通り、テーブルやソファなどの最低限の家具はあるようだが見事に埃が被っている。換気もしていないから埃臭いし、人の出入りは殆どなかった事が伺える。
場所があっても、このままでは家の中で生活しずらい。テラとアクアは顔を見合わせる。
「そうだな…しばらくお城暮らしだったから、贅沢が体に染みついてしまったしな」
「だったら、みんなでお掃除するわよ!」
「え〜!」
「え〜じゃないよ、ソラ。泊まらせて貰うんだから、それぐらいしなきゃ」
アクアの提案に早速ソラが嫌そうな声を出すと、すかさずカイリが注意する。
こうして、オパールの家の大掃除を開催する事となる。すると、ルキルが周りを見ながら指示を出してきた。
「荷物はそんなにないから、拭き掃除と掃き掃除。あと布団乾しだけで十分だろ。オパール、雑巾と箒とハタキは何処にある?」
「やけに掃除に手慣れてるな?」
意外と言わんばかりにリクが呟くと、ルキルは振り返る。その目は、どこか虚ろ気味だ。
「どっかの誰かさんと一緒に住んでみろ…嫌でも家事を覚えられる」
「ルキルぅ?」
キンと冷たい音が全員の耳に届く。見ると、ウィドが黒い笑みで指で唾を弾く形で刀身を僅かに浮かせている。
慌ててウィドに弁明するルキルだが、残りは無視を決め込んだ。下手に関わったら火の粉が飛びかねない。
「クウさんは、無理しないでくださいね?」
「無理って、掃除ぐらいどって事――」
右腕が動かない事を心配してレイアが声をかけるが、クウは気にせず家の中を歩く。
だが、動かない右腕が近くの棚にぶつかり、結果バランスを崩して仕舞ってあった小物や本がドサドサと床に落としてしまった。
『『『あ』』』
「…クウは、外で待機。仕事増やさないで頂戴?」
「お、おう…」
アクアが凄みのある笑顔で迫ってくるものだから、クウは後退りしながら頷くしかなかった。
「とにかく、お前は外で布団とマット叩いてろ。それぐらいなら出来るだろ」
「そうなるよな〜…」
宥めに成功したのかルキルが他の方法…もとい、仕事を与えて来てクウも甘んじてそれを受け入れる。と、ここでタイミングよくオパールが複数の掃除道具を持ってやってきた。それらを全員がすぐに持てるよう、テーブルの上に置く。
「はい、雑巾と箒とハタキ。あるだけ持ってきたけど、足りないならエアリス達の所から貰ってくるわよ」
「なあ、布団叩きはあるか? 俺、それを担当するんだが」
「あー、それはなかった。エアリスから貰ってこようか?」
「必要ない。キーブレードで十分代用出来る」
「お前キーブレードを何だと思ってるんだ!?」
涼しい顔でとんでもない事を言ってきたルキルに、すかさずクウがツッコミを入れる。
「それじゃ、さっさと役割分担決めて始めましょう!」
「はい、姉さん!」
――ビシリ…!
やる気満々で分担を始めようとするスピカとウィド。その二人に、クウとルキルの表情が一瞬で凍り付いた。
「せ、先生は道具の調達を頼む! 寧ろそれをしてくれ!!」
「スピカお前は荷物整理だけでいい! それが一番得意だろ、なぁ!?」
「何ですか、いきなり?」
「確かに荷物整理は出来るけど…これだけ広いんですもの、掃除には人手が必要でしょ?」
遠回しに掃除から遠ざけられ、不満げな表情を見せる二人。
しかし、その顔に騙されるルキルとクウではなかった。
(マズイ、先生が掃除するとなると大惨事は免れない…!)
(スピカに掃除させたら、終わるどころか余計に手間がかかって夜まで終わらない…!)
((何とかそれだけは阻止しなければっ!!!))
どうやらウィドだけでなく、スピカも基本的な家事は苦手のようだ。考えてる被害者は気づいてないが、二人の心は確かに一つとなっている。
何が何でも二人を掃除から引き離そうと言い訳を放とうとした所で、ツバサが勢いよく手を挙げた。
「ボ、ボク! ウィドさんと一緒に掃除用品取りに行きたいなー!」
「え? 私と、ですか?」
「あと師匠一人だと左腕しか使えなくて大変だし、スピカさんとレイアさんで布団とマット叩き! こんな感じでいいでしょ、アクアさん!」
そう言ってアクアに同意を得ようとするツバサ。副声音で『お願いだから言う通りにして!』と目が懇願しているようにも思えるのは何故だろう。
「え、ええ…認めるわ」
「「ずるーい!!」」
「お前らは俺と一緒に床掃除だ、異議は認めないぞ?」
ソラとヴェンが反論の声を上げた後ろで、ルキルが『これ以上話を停滞させるならこの雑巾のようになるか?』と全力で握って捻じ曲がった雑巾を見せつけながら圧力をかけた。
「「ハ、ハイ…!」」
(助かった…!)
(布団叩きなら…まだ被害は抑えられる、よな?)
馬鹿二人の所為で危うかったが、ツバサのアシストのおかげで最悪の事態を間逃れる事には成功する。
ようやく掃除を始めよう――となった所で、玄関のドアが勝手に開く。入ってきたのは、なんとレオンとエアリスとユフィの三人だった。
「その必要はないぞ」
「みんな、何でここに?」
オパールが訊くと、エアリスとユフィが笑って答える。
「みんな疲れてるんでしょ? 私達が掃除しておくから、今日はゆっくりしてて」
「人手も呼んでるからすぐに終わらせるよ! ソラ達は街で自由にしてていいから!」
「ありがと、みんな…」
再建委員会の助力に、オパールはお礼を言う。
こうして、レオン達が掃除を変わってくれて全員は邪魔にならないよう一度外に出る事にした。
「これから、どうしましょうか?」
「自由行動か?」
レイアとテラが意見を求めると、スピカから提案が上がった。
「それなんだけど、オパール。この辺りで人目につかない広い場所とかない?」
「あるにはあるけど…何で?」
「身の内話くらいはしたいし…やっておきたい事もあるから、ね」
意味ありげに呟き、スピカは人差し指を軽く口に付けて含み笑いを作る。
その笑みは、どう言う訳かリクに向けられていた。
その後場所を移し、前にソラ達とテラ達が合流してガードアーマーと戦った城の通路口へとスピカを案内した。
「ここでいい?」
「ええ。ありがとう」
住宅地から離れているし、人も簡単に寄ってはこない。条件は十分満たしている。
スピカが1人満足していると、クウが呆れながら話を戻した。
「んで、何するんだ?」
「まずは――あなたを元に戻してあげる。話はそれからでもいいでしょう?」
リクに微笑みながら、思ってもみなかった救いの言葉をスピカは放つ。
一瞬誰もが言葉の意味を認識出来なかったが、すぐにソラとカイリが驚きの声を上げた。
「ええっ!?」
「出来るの!?」
今のリクは、リリスの呪いよってアンセムの姿へと変わってしまっている。とは言え、外見が変化しているだけで、行動には支障はないし戦闘だって普通に出来る。しかし、元は全ての世界を闇で消そうとした恐るべき存在だ。その所為で、あちこちでトラブルを起こしてきた。
だから、この世界に帰ってからは極力人の居る所は避けてフードを被ってで回避してきた。その心配がなくなり、尚且つ元の姿に戻るのならば万々歳だ。
「ええ。これとクウの力を使えばね」
自信ありげにスピカが取り出したのは、一本の白いナイフ。ビフロンスでの強襲で、クウを救う為に手の甲に突き刺した奴だ。かなりの高所から落としたにも関わらず、無事に見つけて回収したらしい。
しかし、急に協力を求められてクウは戸惑いを見せる。
シルビアの刻印が消えた今、融合の能力で繋がっていた精神は再び切れた状態に戻ってしまった。闇の力を満足に使う事は出来ない。それは魔法も同類だ。
「スピカ、今の俺は…」
「使えなくもないでしょ? 魔力は使えないけど、それはあなたの力だけ。外部からの干渉系統なら、やり方を知っていれば使えるはずよ」
「干渉系統…使うのは《アレ》…か?」
「ええ。《アレ》お願いね」
尚も笑いながら頷くスピカ。二人しか伝わらない会話を続けるものだから、ウィドが訝し気に割り込んだ。
「アレ?」
「やれば分かるわ。さ、そこに立って」
「ああ…」
言われるままに、リクが少し離れた所に歩く。
指定された部分で立ち止まると、スピカはクウにナイフを差し出す。
「はい、クウ」
「おう」
左手でナイフを受け取ると、軽く手の中で回して指の間に挟みこむ。
そしてリクを見て、彼の足元へと素早くナイフを投げて突き刺す。
すると、ナイフを媒介にリクの足音が光で包まれた。
「この力は…!」
「光の力!?」
ナイフから放たれた光に、それぞれクウとリクが驚く。
だが、すぐに気を取り直してクウは光で包まれた地面へと左手を付ける。そして、魔方陣をイメージする。
「ダークサークル改め…ライトサークル!!」
ダークサークルと同じ方陣を光で作り上げ、リクを包み込む。
やり方は一緒。ただ、媒介に光の力を使うだけ。リクの中の光に干渉して操り、闇を取り払う。スピカがやりたかったのはそう言う事なのだろう。
やがて光はリクの全身を包み込む。そうして光が収まると――リクの姿はアンセムから元の少年の姿に戻っていた。服装も黒コートから黄色のジャケットと青のズボンとなっている。
「元に、戻った…!」
「やったぁ!!」
「リク、良か」
「良かった!!」
喜ぶソラとカイリを押しのけて、真っ先にオパールがリクへと抱き着いた。
「オ、オパール!?」
「本当に、良かった…リク」
「…姿なんか関係ないんじゃなかったのか?」
「バカ…それとこれとは別よ…っ!」
「悪かった…心配かけて」
強がりを言いつつも今まで心配させていたのが伝わったのか、自然とリクもオパールの背に手を添えて軽く抱きしめる。
本当の姿で抱きしめられ、オパールの涙腺が脆くなる。しかし、下唇を噛んで零れようとする涙を必死に堪えながらリクの温もりを感じた。
「――で、何時まで抱き合っているんですかー? お二人さーん?」
人目も気にせず、目の前で抱き合っていたからだろう。どこかニヤニヤとした表情でクウが水を差してきた。
瞬間、我に返ったオパールの顔が一気に真っ赤に染まった。
「んなっ!? バ、バカァ!!!」
「ぐはぉ!!?」
邪魔をしたクウに罵声を浴びせつつ、リクの顔面を力の限りぶん殴った。
「ああああああ、あたしは、その…目の前で心配かけさせたから、つい…!! そ、そもそも敵にこんな事されるぐらい腑抜けてる奴に、こうして抱きついたのよ!? むむむ寧ろ感謝して欲しいくらいだわぁ!!?」
「言ってる事とやってる事、矛盾してないか?」
「テラ〜? ダイナマイト喰らいたい?」
天然発言でテラは思った事を言っただけだろう。しかし、鋭く目を光らせるなりオパールはどこからか両手一杯に爆弾を取り出す。
もはや一発即発な二人、肝心のリクは地面に倒れ伏している。感動はどっかに吹き飛んでしまい、残された人は溜息を零すばかりだった。
■作者メッセージ
オマケコーナー
クウ『リズ達の伝手で、お前が好きそうなゲーム買った。やって見ろ』(笑顔)
ウィド『ええ。きっと楽しめるでしょう』(笑顔)
オパール「……ったく。何なのよあの二人? 『ファイ○ーエ○ブレムif 暗夜物語』ってのが、あたしが好きそうなゲームって…コマゲーはやれなくもないけど、操作面倒なんだよね―−勧められたものはしょうがないし、とりあえずスタートっと。名前はデフォでいいわよね? 女で「カムイ」っと…」
数十分後。
レ○ン【悪運強いね、カムイ姉さんは】(CV宮野)
レ○ン【ええ!? わわ……もう…】(CV宮野)
レ○ン【姉さんは…】(CV宮野)
オパール「………」
【ブチン!】(電源切った、セーブデータも消した)
オパール「………」
【ピ、ピ、ピ…】(名前を「オパール」にして、再プレイ)
のちに、彼女はこの時の心境をこう語る。
(また時間かかるからなに? 別にいいわ、あたしはこの選択に一片の悔いもない!)
クウ『リズ達の伝手で、お前が好きそうなゲーム買った。やって見ろ』(笑顔)
ウィド『ええ。きっと楽しめるでしょう』(笑顔)
オパール「……ったく。何なのよあの二人? 『ファイ○ーエ○ブレムif 暗夜物語』ってのが、あたしが好きそうなゲームって…コマゲーはやれなくもないけど、操作面倒なんだよね―−勧められたものはしょうがないし、とりあえずスタートっと。名前はデフォでいいわよね? 女で「カムイ」っと…」
数十分後。
レ○ン【悪運強いね、カムイ姉さんは】(CV宮野)
レ○ン【ええ!? わわ……もう…】(CV宮野)
レ○ン【姉さんは…】(CV宮野)
オパール「………」
【ブチン!】(電源切った、セーブデータも消した)
オパール「………」
【ピ、ピ、ピ…】(名前を「オパール」にして、再プレイ)
のちに、彼女はこの時の心境をこう語る。
(また時間かかるからなに? 別にいいわ、あたしはこの選択に一片の悔いもない!)